異世界でも姉妹の仲は揺るぎません~包丁片手に英雄譚~

楠富 つかさ

文字の大きさ
9 / 20

#8

しおりを挟む
 ドラゴンは目が見えないこともあって大暴れ。爪や尻尾を振り回しブレスも短めに放ってくるが、どれも見当違いな咆哮に放っていることもあり全て回避。たださすがに洞窟の崩落が危険だ。岩肌が削れ、大きな落石をかわすのに注意を削がれる。その上、ドラゴンが地団太を踏むように地面をドンドンするものだから、揺れに足を取られそうになる。

「うわっ!?」
「晴日、危ない!」

 たたらを踏む私の頭上に大きな岩、慌てて回避したせいで転びかけた私を雨月が支えてくれる。

「ありがとう」
「気にしないで。それより、弱点はやっぱり首だね……」
「でも、包丁じゃ届かないか。ドラゴンキラーが元の姿に戻れれば……」

 かつて折れてしまったドラゴンキラーを打ち直したのがこの包丁、打ち直しでそのくらいサイズが変わったかまでは分からないけれど、剣だった頃ならドラゴンの首を落とすこともできたのだろう。

「グルルルルゥウウウッ!!」

 ドラゴンは喉の奥底から絞り出すような声で吠える。手負いの獣は危険だって言うけれど、ドラゴンも当てはまるのだろうか。これがゲームなら残りHPとか見られるんだけど、こっちにはそんなチートはない。

「エレノア、時間操作とかできないの?」
「そんな高度な魔法は無理ですよ!!」

 戦闘開始直後は頼れるお姉さん感マシマシだったエレノアも、支援魔法をかけ終わった後はひたすら自分の身を守るのに精一杯って感じで、なんだか可愛くも思えてくる。まぁ、こんな化け物相手によく一緒に来てくれたとは思うし、感謝もしてるけど。
 とはいえ時間を巻き戻せないのならこの包丁をドラゴンキラー本来の姿にするというのは無理っぽい。となれば……。私は頼りになる半身にこの状況を打開する策がないか尋ねる。

「この状況、雨月ならどうする!?」
「こういうのは、どう!!」

 そう言って雨月は包丁から光り輝く刃を打ち出した。

「え……!? なんか出たんだけど!!」

 どうやら近接攻撃ばかりの私と違って雨月はマジカルな技を体得したらしい。私も包丁にぐっと力を籠めるが……

「ちょっと伸びた……だと?」

 三徳包丁サイズだったものが、光をまとった牛刀のような形になった。振り下ろしても光は包丁にまとわりついたままで、雨月と違ってこれを放出するのではなく斬りつけて使うタイプらしい。暴れるドラゴンの尻尾をかいくぐって脚を斬りつけると、これまでより深々と切り裂けたように思えた。

「それだよ晴日!! もっと大きくして首を落とすんだ!!」

 光の刃を飛ばしながら雨月が珍しく大きな声を出す。言われて私は包丁にもっともっと力を籠めるが、うまく包丁の形を維持できない。頑張っても中華包丁みたいな刃の厚みが増していくだけで、刺身包丁のような刃渡りが伸びていかないのだ。

「ハルヒ、危ないです!」

 包丁に意識をもっていかれすぎて、ドラゴンの尻尾に気付くのが遅れた。幅広になった包丁の刃でなんとか受け止める。剣としてより盾として活躍させてしまった形だ。

「エレノア、晴日の魔力操作を手伝いたい! どうしたらいい!?」
「私だってなんでも知ってるわけじゃないんですけど!! ……えっと、あ! 粘膜接触です!!」
「もっと分かりやすく!!」

 ドラゴンが地面をズシンズシンするせいで大声じゃないと会話が成立しない。

「もう!! キースー!!」
「「キスゥ!?」」

 私と雨月のハモリが洞窟内にこだました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...