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翌日、帰りの会が終わるとすぐに佳子は、佑奈と二人で帰宅の途に就いた。
佳子の家は学校から少し離れた高台にあった。門をくぐった瞬間、佑奈は目を見開いた。白い外壁に大きな窓、広々とした庭に続く立派な玄関。
「す、すごい……本当にここに住んでるの?」
「まあね。広いだけで、大して面白くないけど」
佳子は軽い口調で言ったが、その広さに圧倒された佑奈は、思わず玄関前で足を止めてしまった。
家に入ると、さらに驚きが増した。天井が高く、玄関ホールにはシャンデリアが輝いている。床はピカピカに磨かれた大理石で、奥にはリビングが広がっているのが見えた。
「靴、ここに置いていいよ」
佳子が指差したシューズクロークは、佑奈の家の玄関よりも広い。
「なんか……お城みたい」
佑奈が思わず漏らすと、佳子はくすっと笑った。
「そんな大したものじゃないよ。さ、私の部屋に行こ」
階段を上がり、廊下を進むと、佳子の部屋にたどり着いた。ドアを開けた瞬間、佑奈は再び驚いた。
「広い……!」
十帖の子供部屋には、勉強机に本棚、ローテーブルまで揃っている。壁にはお気に入りのアートポスターが貼られ、窓からは庭が見渡せた。家事の手伝いに来てくれている親戚にも入らせない、佳子にとっての絶対的なテリトリー。そこに人を招くのは、佳子にとって特別な意味を持つ行為だった。
「ここ、全部佳子の部屋なの?」
「うん。お茶を出すからゆっくりしてて」
ゆっくりしててと言われたものの、佑奈は落ち着かない様子でクッションに座った。ついキョロキョロと周囲を見渡して広さを改めて実感してしまう。佳子の部屋だけで、佑奈と母が暮らしているアパートの居住空間とほぼ同じ広さなのだから、それも仕方ないのだが。
「広くても寂しいだけなのよ。だから、佑奈が来てくれて本当に嬉しい」
キッチンから戻ってきた佳子がお盆にケーキの箱と紅茶のセットを持ってきた。
一日、猶予が出来たことは佳子にとってもいい結果をもたらした。手伝いに来ている遠い親戚宛てに朝、書置きを残していったのだ。今日は大切な人が来るからケーキと茶葉を用意して、と。
「こ、これって……すごく高級なケーキだよね。二つも? い、いいの?」
箱にはカットケーキが四種類、色とりどりに輝いていた。佳子は佑奈に先に選ばせ、佑奈はガトーフレーズとモンブランを選んだ。佳子はオペラとスフレフロマージュを見ながら、
「食べたいなら、もう一つ選んでもいいけど」
そう告げると佑奈は慌てて首を横に振った。
「そ、そんなに食べられないよ。むしろ、このイチゴのショートケーキだって持ち帰りたいくらいだもん。ねぇ、お母さんへのお土産にしてもいい?」
佑奈の問いかけに佳子は戸惑った。佑奈のために用意したのに、と。断るのは変だと客観的には理解しているものの、うまく言葉にできなかった。
「えっと……保冷剤、冷凍庫に戻しておくね」
消極的肯定でその場を後にした佳子。佑奈はオペラとスフレフロマージュをお皿に移し、ガトーフレーズを箱に戻す。モンブランを抑えていた丸い厚紙をストッパーにし、お店のロゴと消費期限の書かれたシールをそれぞれ使って固定する。
「お皿ありがとう。じゃあ、これも冷蔵庫に戻しておくから、帰りに言ってね」
ケーキの箱も冷蔵庫に戻してきた佳子は、ケトルに挿していたサーモメータを確認し、それから紅茶を淹れ始めた。ようやく二人はゆったりとした時間を過ごし始める。
「紅茶って初めて飲むけど美味しいね」
「集中力も上がるから勉強する時にはいいんだよ」
自分の部屋に佑奈がいる。佳子はそわそわする気持ちを鎮めるように、紅茶に口を付けるのだった。
佳子の家は学校から少し離れた高台にあった。門をくぐった瞬間、佑奈は目を見開いた。白い外壁に大きな窓、広々とした庭に続く立派な玄関。
「す、すごい……本当にここに住んでるの?」
「まあね。広いだけで、大して面白くないけど」
佳子は軽い口調で言ったが、その広さに圧倒された佑奈は、思わず玄関前で足を止めてしまった。
家に入ると、さらに驚きが増した。天井が高く、玄関ホールにはシャンデリアが輝いている。床はピカピカに磨かれた大理石で、奥にはリビングが広がっているのが見えた。
「靴、ここに置いていいよ」
佳子が指差したシューズクロークは、佑奈の家の玄関よりも広い。
「なんか……お城みたい」
佑奈が思わず漏らすと、佳子はくすっと笑った。
「そんな大したものじゃないよ。さ、私の部屋に行こ」
階段を上がり、廊下を進むと、佳子の部屋にたどり着いた。ドアを開けた瞬間、佑奈は再び驚いた。
「広い……!」
十帖の子供部屋には、勉強机に本棚、ローテーブルまで揃っている。壁にはお気に入りのアートポスターが貼られ、窓からは庭が見渡せた。家事の手伝いに来てくれている親戚にも入らせない、佳子にとっての絶対的なテリトリー。そこに人を招くのは、佳子にとって特別な意味を持つ行為だった。
「ここ、全部佳子の部屋なの?」
「うん。お茶を出すからゆっくりしてて」
ゆっくりしててと言われたものの、佑奈は落ち着かない様子でクッションに座った。ついキョロキョロと周囲を見渡して広さを改めて実感してしまう。佳子の部屋だけで、佑奈と母が暮らしているアパートの居住空間とほぼ同じ広さなのだから、それも仕方ないのだが。
「広くても寂しいだけなのよ。だから、佑奈が来てくれて本当に嬉しい」
キッチンから戻ってきた佳子がお盆にケーキの箱と紅茶のセットを持ってきた。
一日、猶予が出来たことは佳子にとってもいい結果をもたらした。手伝いに来ている遠い親戚宛てに朝、書置きを残していったのだ。今日は大切な人が来るからケーキと茶葉を用意して、と。
「こ、これって……すごく高級なケーキだよね。二つも? い、いいの?」
箱にはカットケーキが四種類、色とりどりに輝いていた。佳子は佑奈に先に選ばせ、佑奈はガトーフレーズとモンブランを選んだ。佳子はオペラとスフレフロマージュを見ながら、
「食べたいなら、もう一つ選んでもいいけど」
そう告げると佑奈は慌てて首を横に振った。
「そ、そんなに食べられないよ。むしろ、このイチゴのショートケーキだって持ち帰りたいくらいだもん。ねぇ、お母さんへのお土産にしてもいい?」
佑奈の問いかけに佳子は戸惑った。佑奈のために用意したのに、と。断るのは変だと客観的には理解しているものの、うまく言葉にできなかった。
「えっと……保冷剤、冷凍庫に戻しておくね」
消極的肯定でその場を後にした佳子。佑奈はオペラとスフレフロマージュをお皿に移し、ガトーフレーズを箱に戻す。モンブランを抑えていた丸い厚紙をストッパーにし、お店のロゴと消費期限の書かれたシールをそれぞれ使って固定する。
「お皿ありがとう。じゃあ、これも冷蔵庫に戻しておくから、帰りに言ってね」
ケーキの箱も冷蔵庫に戻してきた佳子は、ケトルに挿していたサーモメータを確認し、それから紅茶を淹れ始めた。ようやく二人はゆったりとした時間を過ごし始める。
「紅茶って初めて飲むけど美味しいね」
「集中力も上がるから勉強する時にはいいんだよ」
自分の部屋に佑奈がいる。佳子はそわそわする気持ちを鎮めるように、紅茶に口を付けるのだった。
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