放課後の約束と秘密 ～温もり重ねる二人の時間～

＃２９

　澄んだ冬の朝だった。吐く息が白くかすむ中、星花女子学園の校門をくぐった佑奈と佳子は、緊張で硬くなった足を前へと進めた。
　校舎は白を基調とした美しい造りで、まるで高級ホテルのような洗練された雰囲気を醸し出している。廊下の窓から差し込む光は穏やかで、試験を受けに来た生徒たちの表情を優しく照らしていた。けれど、その穏やかさは試験を受ける者にとって、かえって不安を煽るものでもあった。

「……頑張ろうね」

　佑奈が隣を歩く佳子に声をかける。佳子は小さく頷いたが、どこかぎこちない。手を握ってやりたい衝動を抑えながら、佑奈はもう一度、心の中で自分に言い聞かせた。大丈夫、私はできる。佳子も、きっと大丈夫。

　二人の試験会場は別の部屋だった。
　それぞれの受験番号が記された席に向かいながら、佑奈はそっと深呼吸する。周囲の受験生たちの表情は真剣そのもので、鉛筆を握る指を落ち着かせるように机の端を撫でる者もいれば、ひたすらノートを見つめる者もいる。その中には、小声で参考書を読み上げる声や、落ち着かない様子で貧乏ゆすりをする足音も混じっていた。
　星花女子学園の人気は年々高まっており、それは高い倍率から見ても明らかだ。狭き門、そんな表現が佑奈の脳裏をよぎる。

　——みんな緊張してるんだ。私だけじゃない。

　そう思うと、少しだけ気が楽になった気がする。とはいえ、問題が配られる前の静けさはやはり息苦しかった。

　一方、佳子の試験会場では、彼女は小さく縮こまっていた。
　周囲の受験生たちは、どこか洗練された雰囲気のある子が多いように感じられた。芸能活動を経験あるいは現役で行っている生徒も少なからず在籍している。そんな星花女子学園の制服を着る自分を想像してみる。けれど、その姿はどうにもぼんやりしていて、まるで違和感しかなかった。
　私なんかが、ここに受かるんだろうか。
　心臓の鼓動が、指先まで響いてくるような気がした。

　前の方で試験官が答案用紙を配り始めた。途端に空気が張り詰める。佑奈は、配られた問題を手にすると、ひとつ息を吐き、すぐに一問目へと目を走らせた。

——いける。冷静に解けば大丈夫。

　鉛筆を滑らせる音が、静寂の中に一定のリズムで響く。佑奈は問題に集中しながらも、心の片隅で佳子のことを考えていた。別の部屋で、佳子もきっと同じように試験と向き合っている。緊張しているだろうか、不安になっていないだろうか。

　——いや、そんなことを考えている場合じゃない。

　佑奈は気を引き締め、目の前の試験に集中することにした。

　同じ頃、佳子もまた問題と向き合っていた。手のひらが汗ばんでいる。鉛筆を持つ指がわずかに震えているのがわかった。

　落ち着け、落ち着け、落ち着け……。

　何度もそう唱えながら、問題を解き始める。最初は手が止まりそうになったが、一問、また一問と進めるうちに、少しずつ集中できてきた。隣の席の鉛筆の音、紙をめくる音——そのすべてが遠のいていく。

　——私は独りじゃない。佑奈も、同じように戦ってる。

　そう思うと、ふと心の奥に灯るものがあった。佳子は小さく息を吸い、次の問題へと目を向けた。