星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

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連作ss叶美の受難

連作ss叶美の受難 (1) 立成18年1月

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  年末年始を実家に帰らず寮に残っていたわたしは流石に両親に会うため、成人の日が絡む三連休で実家へ帰ったのだけれど……。

「実はだな、この家を手放すことになった」

  夕食の時間、父にそう告げられた。もう、確定したことらしい。わたしは中学の頃から寮で暮らしていて、この家で過ごした記憶はそう多くはない。
  高祖父が建てたという家は築年数もかなり経っていて、電化製品こそ新しいが床は軋むし壁に罅も走っている。キッチン回りの老朽化も著しくて、母と肩を並べて料理するつもりが、狭くてそれが出来なかった。

「父さんな、春から海外の支社で働くことになった」
「私も着いていきたかったんだけど、お母さんの体調が悪くて。実家で暮らすの」
「おばあちゃん……そっか」

  銀行員の父とルポライターの母を両親に持つわたしは、両親の忙しそうな背中を見て育ってきた。寮生活を望んだのも両親に迷惑をかけたくなかったからというのもある。でも、大学生になったら実家ここから通うつもりだったのに。もっと両親と一緒にいられると思ったのに。

「わたしが、ここに住んじゃだめなの……?」
「この家は若い娘が住むにはおんぼろが過ぎる。セキュリティもなってない」

  土地や建物の維持にも費用がかかる、そう父は続けた。

「急に話でごめんなさい。明日、卒業後に暮らすアパートを見ましょう? 大学に近い場所は今のうちに押さえないと」

  ……独り暮らし、か。これまでずっと一人部屋の菊花寮に暮らしてきたけど、側に友達がいたし、去年からは紅葉ちゃんとかおりちゃんがいた。

「……うん。広いお部屋がいいかな」
「そうね。ここの私物も寮の私物も運びこまなきゃだもの」

  そっか……最近こっちに来ても自分の部屋で物を広げてなかったや。服とかけっこうあるから、かおりちゃんの着られそうな物も探してみようかな。

「実はな、炊飯器や電子レンジはお前に持たせようと思って新調したんだ。最近は家具家電付きの賃貸も多いと聞くが、念のためな」

  あぁ、本当に一人で暮らすんだ。大学生になるんだから、独り暮らしを始める人もいるよね。恵玲奈や雪絵はどうすんだろう……。

「ありがと、お父さんお母さん」






  この時わたしはまだ知らなかった。高校卒業から大学入学にかけての数ヵ月がわたしにとって受難の季節になることを。
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