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創作60分一本勝負
スパイス Side:八乙女香央×射手矢つつじ 立成17年7月
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まさかお姉さまが激辛好きとは思わなかった。あの日、私――八乙女香央――は憧れのお姉さまである火蔵宮子先輩と学園にほど近い定食屋さん月見屋食堂で夕食を共にした。お姉さまは私が通う私立星花女子学園の高等部一年で私より二学年先輩だ。
お姉さまは校内でもよく話題になる美貌の持ち主で、そして頼み込めば一夜だけ夜伽の相手をしてくれるのだ。お姉さまはその怜悧な容姿に反して生粋のネコだった。校内では噂話として伝説のタチを探しているだとか、99人の女性と夜を明かした夜の武蔵坊弁慶だとか言われているが、一夜を共にした感想としては何だか寂しそうな人というのが思ったところだ。だからこそ、私がお姉さまの寂しさを満たしてあげたかったのに……。
「香央ちゃん、おかえり」
お姉さまは寮の一人部屋で暮らしていて、私はそこで一晩を明かした。備え付けのシャワーで汗やもろもろの液体を流し、私が暮らす中等部の桜花寮へと帰ってきた。桜花寮はお姉さまの暮らす菊花寮とは異なり二人部屋、つまりルームメイトがいるわけだ。私のルームメイトは射手矢つつじ。髪をハーフアップに結ったふんわりとした雰囲気の美少女だ。
私と同じように中等部から星花女子に通い始めずっとルームメイトとして過ごしている。つつじも昨日は外泊をしていたから、もう少し遅くに帰ってくるかと思っていたのだが。
「そっちはどうだった?」
「咲瑠お姉さま……激しいお方でした」
私もつつじも、それぞれ年上の女性への憧れがあり彼女は御所園咲瑠という宮子お姉さまと同じく高等部一年の先輩に懸想していて、そのハーレムに加わったのだ。タチの咲瑠にネコの宮子、星花女子66期生の双璧なんて言われるほど生粋の女性愛者だ。さぞかし濃密な夜を過ごしてきたのだろう。昨日の日中会った時よりなんだか大人びて見えるほどだもの。
「咲瑠お姉さまの指捌き……鮮烈でしたわ。なんだか、大人の階段を駆け上がった気分。香央ちゃんは?」
「宮子お姉さまのお眼鏡に適うような伝説のタチではなかったみたい。宮子お姉さまは一晩しか付き合ってはくださらないから……」
「じゃあ昨日の夜は香央ちゃんイってないの?」
「あ、えっと……そうでもないよ? 最後の方にちょっと、こう……ぐいっとね」
「あぁ、分かるよ。こう、ぐいっとだよね」
二人してぎこちなく腰を振って、その不格好さに笑い合う。
「わたしと香央ちゃんがカップルになればいっぱいえっちできるのにね」
「え、なにそれ本気?」
一年とちょっと、つつじとルームメイトやっているが、常日頃からふわっとした彼女のその言葉が本気なのかそうでないのか、ちょっと分かりかねる。
「うーん、嫌だった? えっとね、咲瑠さまのハーレムって誰も咲瑠さまとは付き合ってないけど、ハーレムの中でカップルな二人も居るんだって」
あぁ、なるほど。それぞれ憧れている人が心にいるのはいいとして、それでも友達の延長で付き合うってこと……なのかな。
まぁ、つつじは可愛い方だと思うし、発育も私よりよっぽどいい。オタク趣味も合う部分が少しはある。ただちょっと日頃からふわっとしているくせに掃除のことになると少し口うるさいところがあるからなぁ。
「恋愛は人生のスパイス! 貴重なんだから楽しまないと!」
スパイスが貴重とか大海賊時代かよ。……大航海時代か。間違えちゃった。
つつじはスパイスに喩えるならシナモンかな。甘そうだし。……宮子お姉さまはチリペッパーとかかな。
「つつじは私とえっち、したいの?」
「うん。もっと知りたいんだぁ。あのふわっとしてぱーってなるあの感じを」
なーんか、そんな考えはないんだろうけど、誰だっていいや感が透けて見えるっていうか。まぁ、誰でもいいなら私でもいいのかな。
「いいよ。何度も何度も練習して、つつじを満足させられるようなタチになってあげる」
「えへへぇ。わたし香央ちゃんに調教されちゃうぅ」
私、八乙女香央はこうしてルームメイトの射手矢つつじと付き合うようになった。立成17年の夏のことだった。
中学二年生、性というものへの欲求が一番高い時期に付き合い始めた私たちは、爛れた日常を送り……そして翌年の年末に破局する。
果実は甘酸っぱいミカンでも、その皮は乾燥してしまえば陳皮という苦味のスパイスになる。その帰結を知るのはまだ先のこと……。
お姉さまは校内でもよく話題になる美貌の持ち主で、そして頼み込めば一夜だけ夜伽の相手をしてくれるのだ。お姉さまはその怜悧な容姿に反して生粋のネコだった。校内では噂話として伝説のタチを探しているだとか、99人の女性と夜を明かした夜の武蔵坊弁慶だとか言われているが、一夜を共にした感想としては何だか寂しそうな人というのが思ったところだ。だからこそ、私がお姉さまの寂しさを満たしてあげたかったのに……。
「香央ちゃん、おかえり」
お姉さまは寮の一人部屋で暮らしていて、私はそこで一晩を明かした。備え付けのシャワーで汗やもろもろの液体を流し、私が暮らす中等部の桜花寮へと帰ってきた。桜花寮はお姉さまの暮らす菊花寮とは異なり二人部屋、つまりルームメイトがいるわけだ。私のルームメイトは射手矢つつじ。髪をハーフアップに結ったふんわりとした雰囲気の美少女だ。
私と同じように中等部から星花女子に通い始めずっとルームメイトとして過ごしている。つつじも昨日は外泊をしていたから、もう少し遅くに帰ってくるかと思っていたのだが。
「そっちはどうだった?」
「咲瑠お姉さま……激しいお方でした」
私もつつじも、それぞれ年上の女性への憧れがあり彼女は御所園咲瑠という宮子お姉さまと同じく高等部一年の先輩に懸想していて、そのハーレムに加わったのだ。タチの咲瑠にネコの宮子、星花女子66期生の双璧なんて言われるほど生粋の女性愛者だ。さぞかし濃密な夜を過ごしてきたのだろう。昨日の日中会った時よりなんだか大人びて見えるほどだもの。
「咲瑠お姉さまの指捌き……鮮烈でしたわ。なんだか、大人の階段を駆け上がった気分。香央ちゃんは?」
「宮子お姉さまのお眼鏡に適うような伝説のタチではなかったみたい。宮子お姉さまは一晩しか付き合ってはくださらないから……」
「じゃあ昨日の夜は香央ちゃんイってないの?」
「あ、えっと……そうでもないよ? 最後の方にちょっと、こう……ぐいっとね」
「あぁ、分かるよ。こう、ぐいっとだよね」
二人してぎこちなく腰を振って、その不格好さに笑い合う。
「わたしと香央ちゃんがカップルになればいっぱいえっちできるのにね」
「え、なにそれ本気?」
一年とちょっと、つつじとルームメイトやっているが、常日頃からふわっとした彼女のその言葉が本気なのかそうでないのか、ちょっと分かりかねる。
「うーん、嫌だった? えっとね、咲瑠さまのハーレムって誰も咲瑠さまとは付き合ってないけど、ハーレムの中でカップルな二人も居るんだって」
あぁ、なるほど。それぞれ憧れている人が心にいるのはいいとして、それでも友達の延長で付き合うってこと……なのかな。
まぁ、つつじは可愛い方だと思うし、発育も私よりよっぽどいい。オタク趣味も合う部分が少しはある。ただちょっと日頃からふわっとしているくせに掃除のことになると少し口うるさいところがあるからなぁ。
「恋愛は人生のスパイス! 貴重なんだから楽しまないと!」
スパイスが貴重とか大海賊時代かよ。……大航海時代か。間違えちゃった。
つつじはスパイスに喩えるならシナモンかな。甘そうだし。……宮子お姉さまはチリペッパーとかかな。
「つつじは私とえっち、したいの?」
「うん。もっと知りたいんだぁ。あのふわっとしてぱーってなるあの感じを」
なーんか、そんな考えはないんだろうけど、誰だっていいや感が透けて見えるっていうか。まぁ、誰でもいいなら私でもいいのかな。
「いいよ。何度も何度も練習して、つつじを満足させられるようなタチになってあげる」
「えへへぇ。わたし香央ちゃんに調教されちゃうぅ」
私、八乙女香央はこうしてルームメイトの射手矢つつじと付き合うようになった。立成17年の夏のことだった。
中学二年生、性というものへの欲求が一番高い時期に付き合い始めた私たちは、爛れた日常を送り……そして翌年の年末に破局する。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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