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アンソロジー

ガールズトーク Side:紅葉&美海 立成18年1月

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 冬休み中に借りていた本を返そうと須川先輩の部屋を訪ねた私、城咲紅葉はまずドアに耳を立て中の様子をうかがう。今日は土曜日、お取り込み中という可能性もある。うっすら聞こえるのは打鍵音……となると執筆中だろうか。それはそれで入りづらいけれど、取り敢えずノックをする。寮のドアにはポストのような機構が備わっていて、風邪などで休んだ人にプリントを渡すことが出来るし、寮に届いた手紙や宅配物を投函することも出来る。文庫本の入る幅はあるが、流石に投函で返すのはどうかと思いいつも直接手渡しで返している。

「はい、どうぞ」

 返事までそれなりに間があった。おそらく切りの良いところまで書き切ってからの返事だろう。私もそういうことをした経験があるので何となく分かる。どうぞということは鍵が開いているのだろう。ドアを開けて室内に入る。先輩の部屋はいたってシンプルだ。私の部屋もあまり物を置いてはいないのだけれど。

「あら、城咲さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう。この前借りた本を返しに。いい本でした」

 それからしばらく本の感想を交換していると、不意に須川先輩に問われた。

「時に城咲さん。夜の営みはどれほどの頻度で?」
「……はい?」

 普段と何も変わらぬ冷静な面持ちで問われ、私の方が崩れてしまいそうだ。

「えっと、そうですね……。三人では月に三回、多くて四回。かおりとは流石に相部屋の頃よりは減って週に一回あるかないか、お姉さまとはそうですね……月に一回くらいですけれど」
「なるほど。回数を減らした方が恵玲奈のためかと思って。参考になったわ」
「先輩たち、もうすぐ卒業ですからね」
「今の頻度では恵玲奈はもう私なしじゃ生きられなくなりそうだから」

 なんという……パワーワード。これがウワサに聞くドS川先輩か……。ちらりと視界の端に淡いピンク色の長いぐねっとした棒状の何かがちらつく。何か分からず、先輩に聞くと……。

「あら、貴女たちそういうのを使わないのね。あれはそうね……恵玲奈と楽しむ時に使う道具よ」
「取り敢えず私にはまだ早そうということは分かりました。あの、そんな年齢制限しっかりかかってそうなものをどこで……」
「橋立にあるディスカウントストアよ。恵玲奈に買いに行かせるの。もの自体は恵玲奈のチョイスなのよ。これで私に弄られたいの。健気よね」

 苦笑いしか出ない。お姉さまにこういうのは似合わないかな。

「お暇しますね……」

 肉食獣から逃げる草食動物のような心地で私は須川先輩の部屋を後にした。
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