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アンソロジー

しつけ Side:美海×恵玲奈 立成20年11月

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「あの~美海さん。私、なにかやらかしました?」

 立成20年の11月中頃、私――西恵玲奈――は恋人の須川美海との同棲生活を送っていた。私が大学三年で美海は二年生。同棲生活もかれこれ一年半以上続いている。……のだが。

「なんで?」
「だって……今日の夕飯、ご飯にお麩の味噌汁にきんぴらごぼうだったじゃん?」

 思い起こせば同棲してからというものの、料理は美海にばかり頼ってしまっていた。正直、私は料理が苦手な方で、寮生活の頃は寮母さんや恵に頼りっぱなしだった。とはいえ、大学入って一年目の頃は多少やっていた……けれど、まぁ簡単なものばかりだ。

「一昨日食べたほうれん草のごま和えも、その前の切り干し大根も美味しかったし……もやし炒め一つとっても美味しいんだけど……」
「けど、何?」

 ほんと、何をやらかせば美海の機嫌をここまで損なってしまうのだろう……。

「しばらく、お肉とか食べて無くない?」
「タンパク質なら豆腐や煮豆で摂れているじゃない? まぁ、大豆の力は何も出て無さそうだし……この年までくれば無理もないわね。お互いに」
「それはまあ、いいとして……いや、お肉とか魚とか、最後に食べたのいつって感じなんだけど」

 朝ご飯はトーストとかグラノーラがメインで、お昼も美海がお弁当を持たせてくれるけれど、メニューは前日の夕ご飯と大差無い。玉子焼きとかが入ってくるくらいだ。タコさんウインナーがたまに入る。あ、肉あったわ。

「どっちこっち、こんな粗食じゃ夜の体力が保たないよ……それにそっちもご無沙汰だし。なんか500日記念でエンプレス行って以来だから……何週間になる? しようよ? ね? ね? ……飽きたの?」

 言ってて辛くなる。

「そんなわけないわよ。ここしばらく自動車教習所で疲れてるのと……単純にお金無い」
「え……お金、無いの?」
「そりゃそうよ。エンプレスは高級ホテルなのよ? それにアンタがカラオケボックスでシたいって言うから、エンプレスのカラオケルームで普通に歌ったりもしたけど、あの部屋はカラオケルームを模したプレイルームだからカラオケは別料金だったし、ちょくちょく食べてるルームサービスもあの美味しさにしては割安かもだけど、普通の食事としては結構するのよ? それを夏休みは連泊までしちゃって……。やりくりが間に合わないのよ……」

 お互いの仕送りと、私がローカルテレビ局でバイトしたお金の一部をプールして、共用の財布に入れている。……最近は美海に諸々任せっぱなしだけど。

「じゃ、じゃあここでしようよ! 寮の頃みたいにベッドにラップとかビニールシート敷いて養生すれば大丈夫でしょう? ていうか、春先はここでもしてたじゃん!」

 美海と一緒に住むことを念頭においてお部屋選びをしたし、何なら美海にアドバイスを受けて、ちゃんと鉄筋コンクリート造のマンションを借りているのだ。軽量鉄骨の寮とは流石に遮音性が違う……はずだ。

「恵玲奈の声は大きいから……。恵玲奈、気絶してて覚えてないだろうけど、隣の部屋からドンドン壁たたかれてるのよ……」

 うそ……隣の住人けっこう優しい感じのお姉さんだったのに……。私の声、そんなに響くのかな……。

「じゃ、じゃあ……タオル噛む。猿ぐつわみたいに」
「それじゃ嫌。恵玲奈のイキ声聞きたいし。あと、首絞めの時とか、声出してくれないと力加減わからないし」

 嬉し恥ずかしなことを言う。美海、私の声で興奮してくれてるんだ……。目隠しだったり体勢だったりで、行為の最中、美海がどんな表情なのかってあんまり見えない。けど、こうして美海が自分の要望を言ってくれると、私が勝手によがってるだけじゃないって伝わって嬉しい。

「とりあえず、恵玲奈が欲求不満なのは分かったわ」

 そう言って美海がベッドにビニールシートを敷き始めた。なんだかんだ言いつつ美海もやっと乗り気になってくれたのだろうか。二人で悩みながら買ったセミダブルのベッドは私たちにちょうどいいサイズで、ゆったりと過ごせる。

「おいで」

 ベッドに仰向けになった美海に覆いかぶさるように、私もベッドに乗る。アイマスクで視界を奪われ、腰に足を回されて動きも封じられる。

「恵玲奈、大好きよ」
「んぁ……」

 美海の囁きが耳朶をうち、全身を電気のように奔る。

「クリスマスはホテルを用意するわ。だからそれまで……今日はこれで我慢してなさい。愛してるわ、恵玲奈。これまでも、これからもずっと、私だけの、恵玲奈」

 愛の囁きと同時に、美海の指が私の敏感な箇所を一度だけはじく。たったそれだけで、私は声も出せないほど深く、深く絶頂した。

「本当に素直ね……しつけた甲斐があるわ」

 意識を手放す直前、優しい声色が聞こえた……ような気がした。
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