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アンソロジー

熱 Side:美海×恵玲奈 立成21年1月

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「美海~? 美海? 聞いてる?」

 大学の講義と講義の中休み、スマホを見ながら大学内のカフェでコーヒーを飲む。
 一月の空の宮はそれなりに寒いが、そんなことも気にならなくなってしまっている。

「おーい、美海ってば!」
「なによ!?」
「どーどー。怖い顔してどうしたのさ?」
「そうそう。クールな美海さんらしくないよ」

 私の顔を覗き込む二人。人懐っこい笑みを浮かべるクルクルした茶髪の女が、塩原柚子香。滋賀の高校から星花女子大にやってきたらしい。もう一人の大人しそうな黒髪巨乳が大宮りえ。こっちは高校も星花女子だがまともに口を利くようになったのは大学に入ってからだ。

「今朝から恵玲奈の調子が悪いみたいで……」
「え、西先輩ご病気なんですか?」

 りえは高校時代、新聞部だったらしく恵玲奈とも面識がある。私と付き合っていることはまでは知らなかったらしいが。

「脈が……速いのよ」

 そう言って二人にスマホの画面を見せる。そこには恵玲奈の脈拍や血圧といったバイタルデータが、リアルタイムで表示されている。

「ちょ、おい……美海、なんだこれ?」
「美海さん……え?」
「な、なによ。恵玲奈がつけてるスマートウォッチのデータをこの端末でも見られるようにしているだけよ」

 恵玲奈は大学入学のタイミングからスマートウォッチを使い始めた。何かあったらすぐに連絡するよう言い聞かせてあるけれど……。心配だ。

「うーん。熱にうなされてんのかね」
「柚子香さん。正しくは熱に浮かされる、です」

 恵玲奈の熱が上がってる。インフルエンザではなく普通に風邪らしいが、やはり心配だ。

「私、帰るわ」
「ちょ、美海。まだ講義あるぞ」
「りえ、今度ノート見せて」
「おい! あたしは戦力外かよ!?」

 二人を残して大学を出て最寄り駅を目指す。
 徒歩で三分ほどの距離にある駅に着くと、いいタイミングで下り電車がやってきた。恵玲奈が私と同棲するために選んだマンションは大学の最寄り駅から二駅離れている。


 大学生ばかりが住んでいるマンションというわけではないが、大学から少し距離がある分家賃はそこまで高くない。セキュリティや防音のちゃんとした鉄筋コンクリート造のマンション。私と恵玲奈の部屋は305号室。
 隣の部屋のお姉さんは基本優しい人だけれど、耳がいいらしくて恵玲奈の喘ぎ声では厳重な注意を受けたっけ。

「恵玲奈、大丈夫?」

 あらかじめゼリー飲料やスポーツドリンクなんかは用意しておいたが、きちんと水分をとっているだろうか。
 2LDKの主寝室に入ると、恵玲奈と悩みながらかったセミダブルのベッドに恵玲奈は寝ていた。……ボトムだけ脱いだ状態で。そしてその右手はあきらかに秘所をまさぐっていた濡れ方をしている。そんな恵玲奈に、

「人が心配して帰ってきたのになにやってんのよ!!!!」

 大激怒である。

「なんか……熱で朦朧としながら触ると、よかった、から……」
「あんたねぇ、私でしか満足できないんじゃなかったの?」
「だから……その、シて?」
「いやよ。風邪がうつるじゃない」

 取り敢えず汗を拭きとってあげようと温かいタオルを用意する。
 背中を拭いてやると、恵玲奈は不満そうな声を出す。

「こういう時は盛り上がっていちゃこらする流れでしょうが」
「ばーか。治ったら考えてあげるからさっさと寝なさい」

 まぁ、心配させた罰として春休みまでおあずけくらわすつもりだけど。
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