星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

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アンソロジー

美肌の秘訣は? Side:宮子&咲瑠 立成19年11月

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 その日は静流が風紀委員の引継ぎ関連の用事で委員会室へ行っていた。そのあとは金曜ということもあり、わたくしの部屋でお泊りの予定。それまでカフェテリアで時間をつぶす。静流から歴史小説を渡されて読み始めたものの、なんとなく読み進めるのが億劫で、なんとなく窓の外ばかり見ていた。

「あら、貴女がこんなところで一人なんて珍しいじゃない。恋人さんはどうしたのかしら?」

 去年の文化祭以降、なんやかんや人から話しかけられることは増えたが、ここまであけすけと声をかけてくる人はそう多くはない。

「咲瑠、貴女は相変わらず取り巻きを連れているのね。静流なら風紀委員の引継ぎよ。流石にわたくしが風紀委員室に行くのは差し支えるでしょう?」
「そうね。私と貴女は双璧なんて称される問題児だもの」
「あら、今のわたくしはすっかり優等生よ。で、そちらはどういった用向きで?」

 咲瑠はわたくしの正面に座ると艶っぽい笑みを浮かべる。顔立ちの似た二人の取り巻きは座ることなく後ろに控える。こうして人を従えていても何ら違和感を抱かせないのは彼女の天性の高貴さによるものなのだろう。

「ふふ、卒業までそう長くないというのにハーレムに入りたいという女の子がいるから、面談しようと思って」
「貴女のハーレムって入会試験があったのね。知らなかったわ」

 多くの女の子に抱かせてきたわたくしと違って咲流は抱く専門。常に複数人の女の子を侍らせて、そのハーレムの規模は学内最大と言っても過言ではない。てっきり咲瑠がひっかけて加えているのかと思っていたけれど、なるほど抱かれる女の子から入りたがって形成されていたのか。

「まぁ、貴女と違って実家に迎える以上は身元を調べるのは当然でしょう? 窃盗なんてあったら悲しいもの」
「対立する家の子女が近づいてきて刺されてしまうかもしれないものね。ふふふ、貴女の振る舞いを考えれば家と関係なく刺されてもおかしくないかしら」
「あら、わたくしのハーレム仲はいたって良好よ? ハーレム内での恋愛も自由だし、基本的には来るもの拒まず去るもの追わずだし」

 そう言うと咲瑠は後ろの二人に目配せする。片方が学生カバンからティーセットを出すともう一人はこの場を離れていった。

「面談はあの子に任せて、今は宮子を独占しようかしらね」
「取り巻きは撤回するわ。メイドさんなのね。髪をまとめているモノクロのシュシュはヘッドドレスの代わりかしら」

 サーブされた紅茶は魔法瓶から注がれたとは思えないほど美味だった。わざわざウォーターサーバーのお湯でカップを温めたのが良かったのかしら。
 正面からでは分からなかったが、咲瑠の後ろにいた二人(今は一人)は揃いのシュシュをしていた。彼女なら日頃からメイドを連れていても違和感はないが。

「そうよ。面接を任せたのは森侑奈で、こっちは森加奈。侑奈が同級生で加奈は二学年下で二人は実姉妹よ。ハーレムの中でも古株の二人でね、学内外で重宝しているわ。他にも卒業生含めてうちでメイドをしている子は多いのよ。いいお時給出しているからかしらね」
「ハーレム全員メイドにしているの?」
「まさか。そういうのが苦手な子もいるし、シンプルに気持ちいことだけしたいっていう子もいるから、適正のある子だけよ」

 わたくしも咲瑠も家に縛られている。けれど縛られているなりに自由にわがままに振る舞って、欲しいものはかっさらっていく彼女は本当に強い。まぶしいと言っても相違ない。静流と結ばれるまで家から逃げていたわたくしとは大違いだ。
 あまりこの話を続けるのは得策ではなさそうだ。なにか差しさわりのない話題……。

「にしても咲瑠はいつ見ても肌は綺麗よね」
「肌”は”って、わたくし隅々まで美しいわよ?」
「あーはいはい、そうね。今のはわたくしの言い方が悪かったわ」

 ちょっとしたジョークを軽く聞き流しながら紅茶に口をつける。話のそらし方が流石に苦し紛れすぎた。とはいえ、実際、乾燥し始めた11月の空気を感じさせないほど彼女の肌はうるおいに満ちている。多少、唇や指先に乾燥を感じるわたくしと一体どこに差異があるというのだろうか。

「宮子はお風呂で体を洗う時、何を使っているかしら?」
「え、ボディタオルよ。ナイロンの柔らかめのものを。ボディソープは天寿のまあまあいいものを選んでいるわ」
「ボディソープは関係ないのよ。知っているかしら、ボディタオルって身体を擦るためのものではなく、ボディソープを効率的に泡立てるためのものなのよ。わたくし、洗顔料もいろいろ試して結局は固形石鹸をネットに入れて使うように立ち返ったのよね」

 つまるところ、ボディタオルで洗わず泡で洗え、ということだろうか。なるほど、洗顔せっけんのCMでは聞きそうなフレーズだ。

「わたくしの場合、入念に立てた泡をメイドたちが、うふふ。後は分かるわよね?」
「あぁ、まったく貴女らしいわ。肌艶がいいのも納得よ」

 泡だらけになった少女たちが咲瑠に群がる姿は想像に容易だ。そのまま彼女は全員残さず平らげるのだろう。

「あら、宮子だって恋人にしてもらったらいいじゃない。それとも、してあげようとか考えているかしら?」
「そうねぇ……静流にはしてあげた方がいいリアクションをしてくれそうね。ふふ、噂をすれば。悪いわね、時間取らせてしまって。このお礼は――」

 そこまで言うと咲瑠は首を横に振った。

「これくらい大したことないけれど、強いて言えばいずれ今夜のことを聞かせてちょうだい」
「ふふ、よくってよ」

 紅茶を飲み干して席を立つ。駆け寄ってくる静流に腕を絡めると、

「ちょっと、御所園咲瑠とどんな不埒な話をしていたのよ」

 ちょっとご機嫌斜めな声色だ。妬いているのかしら。可愛い。

「なんで不埒前提なのよ。スキンケアについてとかちょっとした世間話をした程度よ。さぁ、今夜は寝かさないわよ」
「ちょ、やっぱり不埒な話してましたよね? してましたよね!?」

 あぁ……きっと、静流が可愛すぎて夜更かししてしまうから肌が少し乾くのかしら。でも、昔に比べれば心はずっと潤ってる。そう確信できる。








 翌朝見つけてしまったニキビの初期症状については、いったん目を背けることとする。
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