41 / 61
アンソロジー
美肌の秘訣は? Side:宮子&咲瑠 立成19年11月
しおりを挟む
その日は静流が風紀委員の引継ぎ関連の用事で委員会室へ行っていた。そのあとは金曜ということもあり、わたくしの部屋でお泊りの予定。それまでカフェテリアで時間をつぶす。静流から歴史小説を渡されて読み始めたものの、なんとなく読み進めるのが億劫で、なんとなく窓の外ばかり見ていた。
「あら、貴女がこんなところで一人なんて珍しいじゃない。恋人さんはどうしたのかしら?」
去年の文化祭以降、なんやかんや人から話しかけられることは増えたが、ここまであけすけと声をかけてくる人はそう多くはない。
「咲瑠、貴女は相変わらず取り巻きを連れているのね。静流なら風紀委員の引継ぎよ。流石にわたくしが風紀委員室に行くのは差し支えるでしょう?」
「そうね。私と貴女は双璧なんて称される問題児だもの」
「あら、今のわたくしはすっかり優等生よ。で、そちらはどういった用向きで?」
咲瑠はわたくしの正面に座ると艶っぽい笑みを浮かべる。顔立ちの似た二人の取り巻きは座ることなく後ろに控える。こうして人を従えていても何ら違和感を抱かせないのは彼女の天性の高貴さによるものなのだろう。
「ふふ、卒業までそう長くないというのにハーレムに入りたいという女の子がいるから、面談しようと思って」
「貴女のハーレムって入会試験があったのね。知らなかったわ」
多くの女の子に抱かせてきたわたくしと違って咲流は抱く専門。常に複数人の女の子を侍らせて、そのハーレムの規模は学内最大と言っても過言ではない。てっきり咲瑠がひっかけて加えているのかと思っていたけれど、なるほど抱かれる女の子から入りたがって形成されていたのか。
「まぁ、貴女と違って実家に迎える以上は身元を調べるのは当然でしょう? 窃盗なんてあったら悲しいもの」
「対立する家の子女が近づいてきて刺されてしまうかもしれないものね。ふふふ、貴女の振る舞いを考えれば家と関係なく刺されてもおかしくないかしら」
「あら、わたくしのハーレム仲はいたって良好よ? ハーレム内での恋愛も自由だし、基本的には来るもの拒まず去るもの追わずだし」
そう言うと咲瑠は後ろの二人に目配せする。片方が学生カバンからティーセットを出すともう一人はこの場を離れていった。
「面談はあの子に任せて、今は宮子を独占しようかしらね」
「取り巻きは撤回するわ。メイドさんなのね。髪をまとめているモノクロのシュシュはヘッドドレスの代わりかしら」
サーブされた紅茶は魔法瓶から注がれたとは思えないほど美味だった。わざわざウォーターサーバーのお湯でカップを温めたのが良かったのかしら。
正面からでは分からなかったが、咲瑠の後ろにいた二人(今は一人)は揃いのシュシュをしていた。彼女なら日頃からメイドを連れていても違和感はないが。
「そうよ。面接を任せたのは森侑奈で、こっちは森加奈。侑奈が同級生で加奈は二学年下で二人は実姉妹よ。ハーレムの中でも古株の二人でね、学内外で重宝しているわ。他にも卒業生含めてうちでメイドをしている子は多いのよ。いいお時給出しているからかしらね」
「ハーレム全員メイドにしているの?」
「まさか。そういうのが苦手な子もいるし、シンプルに気持ちいことだけしたいっていう子もいるから、適正のある子だけよ」
わたくしも咲瑠も家に縛られている。けれど縛られているなりに自由にわがままに振る舞って、欲しいものはかっさらっていく彼女は本当に強い。まぶしいと言っても相違ない。静流と結ばれるまで家から逃げていたわたくしとは大違いだ。
あまりこの話を続けるのは得策ではなさそうだ。なにか差しさわりのない話題……。
「にしても咲瑠はいつ見ても肌は綺麗よね」
「肌”は”って、わたくし隅々まで美しいわよ?」
「あーはいはい、そうね。今のはわたくしの言い方が悪かったわ」
ちょっとしたジョークを軽く聞き流しながら紅茶に口をつける。話のそらし方が流石に苦し紛れすぎた。とはいえ、実際、乾燥し始めた11月の空気を感じさせないほど彼女の肌はうるおいに満ちている。多少、唇や指先に乾燥を感じるわたくしと一体どこに差異があるというのだろうか。
「宮子はお風呂で体を洗う時、何を使っているかしら?」
「え、ボディタオルよ。ナイロンの柔らかめのものを。ボディソープは天寿のまあまあいいものを選んでいるわ」
「ボディソープは関係ないのよ。知っているかしら、ボディタオルって身体を擦るためのものではなく、ボディソープを効率的に泡立てるためのものなのよ。わたくし、洗顔料もいろいろ試して結局は固形石鹸をネットに入れて使うように立ち返ったのよね」
つまるところ、ボディタオルで洗わず泡で洗え、ということだろうか。なるほど、洗顔せっけんのCMでは聞きそうなフレーズだ。
「わたくしの場合、入念に立てた泡をメイドたちが、うふふ。後は分かるわよね?」
「あぁ、まったく貴女らしいわ。肌艶がいいのも納得よ」
泡だらけになった少女たちが咲瑠に群がる姿は想像に容易だ。そのまま彼女は全員残さず平らげるのだろう。
「あら、宮子だって恋人にしてもらったらいいじゃない。それとも、してあげようとか考えているかしら?」
「そうねぇ……静流にはしてあげた方がいいリアクションをしてくれそうね。ふふ、噂をすれば。悪いわね、時間取らせてしまって。このお礼は――」
そこまで言うと咲瑠は首を横に振った。
「これくらい大したことないけれど、強いて言えばいずれ今夜のことを聞かせてちょうだい」
「ふふ、よくってよ」
紅茶を飲み干して席を立つ。駆け寄ってくる静流に腕を絡めると、
「ちょっと、御所園咲瑠とどんな不埒な話をしていたのよ」
ちょっとご機嫌斜めな声色だ。妬いているのかしら。可愛い。
「なんで不埒前提なのよ。スキンケアについてとかちょっとした世間話をした程度よ。さぁ、今夜は寝かさないわよ」
「ちょ、やっぱり不埒な話してましたよね? してましたよね!?」
あぁ……きっと、静流が可愛すぎて夜更かししてしまうから肌が少し乾くのかしら。でも、昔に比べれば心はずっと潤ってる。そう確信できる。
翌朝見つけてしまったニキビの初期症状については、いったん目を背けることとする。
「あら、貴女がこんなところで一人なんて珍しいじゃない。恋人さんはどうしたのかしら?」
去年の文化祭以降、なんやかんや人から話しかけられることは増えたが、ここまであけすけと声をかけてくる人はそう多くはない。
「咲瑠、貴女は相変わらず取り巻きを連れているのね。静流なら風紀委員の引継ぎよ。流石にわたくしが風紀委員室に行くのは差し支えるでしょう?」
「そうね。私と貴女は双璧なんて称される問題児だもの」
「あら、今のわたくしはすっかり優等生よ。で、そちらはどういった用向きで?」
咲瑠はわたくしの正面に座ると艶っぽい笑みを浮かべる。顔立ちの似た二人の取り巻きは座ることなく後ろに控える。こうして人を従えていても何ら違和感を抱かせないのは彼女の天性の高貴さによるものなのだろう。
「ふふ、卒業までそう長くないというのにハーレムに入りたいという女の子がいるから、面談しようと思って」
「貴女のハーレムって入会試験があったのね。知らなかったわ」
多くの女の子に抱かせてきたわたくしと違って咲流は抱く専門。常に複数人の女の子を侍らせて、そのハーレムの規模は学内最大と言っても過言ではない。てっきり咲瑠がひっかけて加えているのかと思っていたけれど、なるほど抱かれる女の子から入りたがって形成されていたのか。
「まぁ、貴女と違って実家に迎える以上は身元を調べるのは当然でしょう? 窃盗なんてあったら悲しいもの」
「対立する家の子女が近づいてきて刺されてしまうかもしれないものね。ふふふ、貴女の振る舞いを考えれば家と関係なく刺されてもおかしくないかしら」
「あら、わたくしのハーレム仲はいたって良好よ? ハーレム内での恋愛も自由だし、基本的には来るもの拒まず去るもの追わずだし」
そう言うと咲瑠は後ろの二人に目配せする。片方が学生カバンからティーセットを出すともう一人はこの場を離れていった。
「面談はあの子に任せて、今は宮子を独占しようかしらね」
「取り巻きは撤回するわ。メイドさんなのね。髪をまとめているモノクロのシュシュはヘッドドレスの代わりかしら」
サーブされた紅茶は魔法瓶から注がれたとは思えないほど美味だった。わざわざウォーターサーバーのお湯でカップを温めたのが良かったのかしら。
正面からでは分からなかったが、咲瑠の後ろにいた二人(今は一人)は揃いのシュシュをしていた。彼女なら日頃からメイドを連れていても違和感はないが。
「そうよ。面接を任せたのは森侑奈で、こっちは森加奈。侑奈が同級生で加奈は二学年下で二人は実姉妹よ。ハーレムの中でも古株の二人でね、学内外で重宝しているわ。他にも卒業生含めてうちでメイドをしている子は多いのよ。いいお時給出しているからかしらね」
「ハーレム全員メイドにしているの?」
「まさか。そういうのが苦手な子もいるし、シンプルに気持ちいことだけしたいっていう子もいるから、適正のある子だけよ」
わたくしも咲瑠も家に縛られている。けれど縛られているなりに自由にわがままに振る舞って、欲しいものはかっさらっていく彼女は本当に強い。まぶしいと言っても相違ない。静流と結ばれるまで家から逃げていたわたくしとは大違いだ。
あまりこの話を続けるのは得策ではなさそうだ。なにか差しさわりのない話題……。
「にしても咲瑠はいつ見ても肌は綺麗よね」
「肌”は”って、わたくし隅々まで美しいわよ?」
「あーはいはい、そうね。今のはわたくしの言い方が悪かったわ」
ちょっとしたジョークを軽く聞き流しながら紅茶に口をつける。話のそらし方が流石に苦し紛れすぎた。とはいえ、実際、乾燥し始めた11月の空気を感じさせないほど彼女の肌はうるおいに満ちている。多少、唇や指先に乾燥を感じるわたくしと一体どこに差異があるというのだろうか。
「宮子はお風呂で体を洗う時、何を使っているかしら?」
「え、ボディタオルよ。ナイロンの柔らかめのものを。ボディソープは天寿のまあまあいいものを選んでいるわ」
「ボディソープは関係ないのよ。知っているかしら、ボディタオルって身体を擦るためのものではなく、ボディソープを効率的に泡立てるためのものなのよ。わたくし、洗顔料もいろいろ試して結局は固形石鹸をネットに入れて使うように立ち返ったのよね」
つまるところ、ボディタオルで洗わず泡で洗え、ということだろうか。なるほど、洗顔せっけんのCMでは聞きそうなフレーズだ。
「わたくしの場合、入念に立てた泡をメイドたちが、うふふ。後は分かるわよね?」
「あぁ、まったく貴女らしいわ。肌艶がいいのも納得よ」
泡だらけになった少女たちが咲瑠に群がる姿は想像に容易だ。そのまま彼女は全員残さず平らげるのだろう。
「あら、宮子だって恋人にしてもらったらいいじゃない。それとも、してあげようとか考えているかしら?」
「そうねぇ……静流にはしてあげた方がいいリアクションをしてくれそうね。ふふ、噂をすれば。悪いわね、時間取らせてしまって。このお礼は――」
そこまで言うと咲瑠は首を横に振った。
「これくらい大したことないけれど、強いて言えばいずれ今夜のことを聞かせてちょうだい」
「ふふ、よくってよ」
紅茶を飲み干して席を立つ。駆け寄ってくる静流に腕を絡めると、
「ちょっと、御所園咲瑠とどんな不埒な話をしていたのよ」
ちょっとご機嫌斜めな声色だ。妬いているのかしら。可愛い。
「なんで不埒前提なのよ。スキンケアについてとかちょっとした世間話をした程度よ。さぁ、今夜は寝かさないわよ」
「ちょ、やっぱり不埒な話してましたよね? してましたよね!?」
あぁ……きっと、静流が可愛すぎて夜更かししてしまうから肌が少し乾くのかしら。でも、昔に比べれば心はずっと潤ってる。そう確信できる。
翌朝見つけてしまったニキビの初期症状については、いったん目を背けることとする。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる