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アンソロジー
クリスマスお宅訪問 Side:雪絵×咲桜 立成17年12月
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恋人ができて初めてのクリスマス、そわそわとする私、佐伯雪絵は寮の私室で制服に着替え待機していた。学校の授業は22日の金曜日で終わりだったのだけれど、今日は恋人の家に行くのだ。キャリーケースに二泊分のお泊りセットも用意できている。
咲桜との関係もかなり深まってきた。同級生たちに恋人できて辿った変化を私自身も味わっている。毎日が楽しくて、心が温かくなっていく感覚……。
――ピンポーン――
インターホンの音が鳴り、私は扉を開ける。
「なんで制服なのよ、もう」
開口一番、咲桜は制服姿の私に首をかしげた。でもこれでいいと思う。初めてお会いする彼女の親なのだから、フォーマルな恰好で会った方がいい。学生にとって一番のフォーマルはやはり制服だろう。
「じゃあ、お母さんが学校の外に車を止めているから、行くわよ」
「うん……ちょっと緊張してる」
寮を出て学校の敷地を出る。恋人持ちの親友たちは今年も寮で年を越すらしい。……受験生として節度ある日々を送ってもらいたいものだ。親友たちに念を送ると同時に、自分自身にも言い聞かせる。
寮の外には白い高級外車が止まっていた。
「初めまして、咲桜の母です」
「は、初めまして! 佐伯雪絵です。えっと、よろしくお願いします」
「真面目そうないい子ね、さぁ、荷物はトランクに入れて乗って」
咲桜のお母さんは若々しいキャリアウーマンのような方で、聞くところによると咲桜の絵を売る際のマネジメントをしているという。
車に乗った私たちだが、行先については特に聞かされていない。白雪家のお宅は国内とフランスにそれぞれあるらしいが、今回は取り敢えず国内の方に向かうそうだ。
「ふふ、咲桜ったら内弁慶なところがあるから大変でしょう?」
「ちょっとお母さん!」
母子のたわいもない会話を聞きながら車は東へと向かう。
「高速道路を使うからシートベルト、きちんとしてね」
「はい」
ルノーのタリスマンという車らしいが、日本の郊外には似合わぬ流麗なシルエットも高速道路に乗れば不思議と馴染む。国道一号線から東名高速に乗り、海老名で昼食休憩を挟んで関東某所の高級住宅街へとたどり着いた。休憩込みで三時間半ほどのドライブだった。
「さぁ、ここよ」
車をガレージに入れ玄関へとまわる。白い石造りのような壁面におしゃれな赤い玄関ドア、レンガ調のアプローチ……まるでドラマに出てくるかのような洋風の一軒家に思わず圧倒あれてしまう。浜松にあるうちだってオシャレな一軒家だが……かないそうにない。
「なにぼーっとしてんのよ。ほら、行くわよ」
咲桜に促されて荷物を抱え家へと上がる。屋内もおしゃれであちこちに絵が飾られている。
咲桜の作品も何点かあるが、海外の有名画家の作品もいくつかあるようだ。リビングもまるで美術館に併設されたカフェのように上品で明るい空間だった。
「紅茶でいいかしら?」
「は、はい」
緊張の連続だが、ほどなくして出された紅茶に少し落ち着く。
「そうだ雪絵さん、貴女が文化祭で展示した絵を見せてもらったわ。すごく想いの込められたいい絵だったわ。そうね……三年前の絵にも引けを取らないくらい」
「も、もしかして……!」
「えぇ、三年前……雪絵さんが中学三年生だった年に県のコンクールで審査員をしていたのよ」
中学三年生、私が一番……叶美への想いをこじらせていた時期に描いた絵がコンクールで入賞したのだ。そしてそれを咲桜も見ている。私を意識するきっかけになった一枚……まさか、恋人のお母さんが審査していたなんて。
「あぁそうだ、二人とも悪いんだけど……私、今夜はお仕事のパーティがあるから二人で過ごしてね。お夕飯は出前か何か取っていいから」
「忙しい中すみません」
「いいのよ、娘に彼女が出来たっていうんだから……会ってみたいじゃない」
そういって優しく微笑んだときの表情は確かに咲桜とよく似ていた。
そんなやり取りの後、咲桜のアトリエやこれまでに描いたスケッチなんかを見せてもらっているうちにあっという間に日は沈み、お母さんが出かける時間になっていた。
「そうだ咲桜、貴女たちがどこまで進んでいるかも、どっちがこれを必要とするかも、お母さん分からないけれど……これ、あげるね」
パリッとしたスーツに身を包んだお母さんが出がけに何かを咲桜に渡した。玄関が閉じたのを見てから、何を受け取ったのかと尋ねると……。
「こ、これ……使うなら、いい、よ?」
ほんの少し頬を紅潮させた咲桜に渡されたのは……指用のコンドームの箱だった。
咲桜とはまだキスとか、触りあいしかしていない。今夜、もっとつながるんだね……。
「じゃ、じゃあ……先にお風呂、済ませよっか」
クリスマスの夜はまだ始まったばかりだから……。
咲桜との関係もかなり深まってきた。同級生たちに恋人できて辿った変化を私自身も味わっている。毎日が楽しくて、心が温かくなっていく感覚……。
――ピンポーン――
インターホンの音が鳴り、私は扉を開ける。
「なんで制服なのよ、もう」
開口一番、咲桜は制服姿の私に首をかしげた。でもこれでいいと思う。初めてお会いする彼女の親なのだから、フォーマルな恰好で会った方がいい。学生にとって一番のフォーマルはやはり制服だろう。
「じゃあ、お母さんが学校の外に車を止めているから、行くわよ」
「うん……ちょっと緊張してる」
寮を出て学校の敷地を出る。恋人持ちの親友たちは今年も寮で年を越すらしい。……受験生として節度ある日々を送ってもらいたいものだ。親友たちに念を送ると同時に、自分自身にも言い聞かせる。
寮の外には白い高級外車が止まっていた。
「初めまして、咲桜の母です」
「は、初めまして! 佐伯雪絵です。えっと、よろしくお願いします」
「真面目そうないい子ね、さぁ、荷物はトランクに入れて乗って」
咲桜のお母さんは若々しいキャリアウーマンのような方で、聞くところによると咲桜の絵を売る際のマネジメントをしているという。
車に乗った私たちだが、行先については特に聞かされていない。白雪家のお宅は国内とフランスにそれぞれあるらしいが、今回は取り敢えず国内の方に向かうそうだ。
「ふふ、咲桜ったら内弁慶なところがあるから大変でしょう?」
「ちょっとお母さん!」
母子のたわいもない会話を聞きながら車は東へと向かう。
「高速道路を使うからシートベルト、きちんとしてね」
「はい」
ルノーのタリスマンという車らしいが、日本の郊外には似合わぬ流麗なシルエットも高速道路に乗れば不思議と馴染む。国道一号線から東名高速に乗り、海老名で昼食休憩を挟んで関東某所の高級住宅街へとたどり着いた。休憩込みで三時間半ほどのドライブだった。
「さぁ、ここよ」
車をガレージに入れ玄関へとまわる。白い石造りのような壁面におしゃれな赤い玄関ドア、レンガ調のアプローチ……まるでドラマに出てくるかのような洋風の一軒家に思わず圧倒あれてしまう。浜松にあるうちだってオシャレな一軒家だが……かないそうにない。
「なにぼーっとしてんのよ。ほら、行くわよ」
咲桜に促されて荷物を抱え家へと上がる。屋内もおしゃれであちこちに絵が飾られている。
咲桜の作品も何点かあるが、海外の有名画家の作品もいくつかあるようだ。リビングもまるで美術館に併設されたカフェのように上品で明るい空間だった。
「紅茶でいいかしら?」
「は、はい」
緊張の連続だが、ほどなくして出された紅茶に少し落ち着く。
「そうだ雪絵さん、貴女が文化祭で展示した絵を見せてもらったわ。すごく想いの込められたいい絵だったわ。そうね……三年前の絵にも引けを取らないくらい」
「も、もしかして……!」
「えぇ、三年前……雪絵さんが中学三年生だった年に県のコンクールで審査員をしていたのよ」
中学三年生、私が一番……叶美への想いをこじらせていた時期に描いた絵がコンクールで入賞したのだ。そしてそれを咲桜も見ている。私を意識するきっかけになった一枚……まさか、恋人のお母さんが審査していたなんて。
「あぁそうだ、二人とも悪いんだけど……私、今夜はお仕事のパーティがあるから二人で過ごしてね。お夕飯は出前か何か取っていいから」
「忙しい中すみません」
「いいのよ、娘に彼女が出来たっていうんだから……会ってみたいじゃない」
そういって優しく微笑んだときの表情は確かに咲桜とよく似ていた。
そんなやり取りの後、咲桜のアトリエやこれまでに描いたスケッチなんかを見せてもらっているうちにあっという間に日は沈み、お母さんが出かける時間になっていた。
「そうだ咲桜、貴女たちがどこまで進んでいるかも、どっちがこれを必要とするかも、お母さん分からないけれど……これ、あげるね」
パリッとしたスーツに身を包んだお母さんが出がけに何かを咲桜に渡した。玄関が閉じたのを見てから、何を受け取ったのかと尋ねると……。
「こ、これ……使うなら、いい、よ?」
ほんの少し頬を紅潮させた咲桜に渡されたのは……指用のコンドームの箱だった。
咲桜とはまだキスとか、触りあいしかしていない。今夜、もっとつながるんだね……。
「じゃ、じゃあ……先にお風呂、済ませよっか」
クリスマスの夜はまだ始まったばかりだから……。
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作者ツイッター: twitter/minori_sui
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