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本編
032 時給アップ
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十月といえば最低賃金の改定がされる時期でもある。これまで県内の最低賃金は749円、今年は765円になったようだが、そもそもシルキストの時給は900円。最初の50時間こそ研修中として850円だったが、それでもかなり好待遇だ。
そもそもシルキストの場合は時給以上に毎月ブラを一着くれたりチップをもらえたり賄いも食べられたり、待遇がめちゃめちゃいいというのもあるんだけれど。
「ラン、ちょっといいか」
店で着替えた(脱いだ)私を呼ぶのはオーナーのハナエさんだけだ。私は未だにハナエさんが苗字なのか名前なのかすら知らないが。どうやらハナエさんはこのランジェリーショップ併設カフェであるシルキストのオーナーだけでなく、この店が入っているビルそのもののオーナーでもあり、最上階に居住しているそうだ。とんだ金持ちだな。
4Mのプロデューサー的なこともこなし、ドラムも叩けるそうだが、それ以上のことはほとんど知らない。
「どうしましたか、オーナー?」
普段はマカさんがいることが多い事務室で対面して座る。
「おめでとう、時給アップだ。今月から920円で換算する。あのシンディが連れてきただけある。これからも頼りにしているぞ」
「ありがとうございます!!」
頭を下げた私が顔を上げると、オーナーの目の下にクマがあるのを見つけた。
「オーナー、お疲れですか?」
「あぁ、とってもな」
……こういう時にちょっとな、ではなく、ともってと言う人がいるんだ。どんだけ疲れてるんだこの人。
「おっぱい揉みます?」
「いや、見てるだけでいい。これはまだ水面下の話なんだが――」
オーナーはそこでいったん言葉を切ると、一つ質問を投げてきた。
「天寿って会社、知ってるよな?」
「そりゃまぁ、うちの母校の経営権を買った会社ですから」
天寿は化粧品やアパレルなどで知られる県内の大企業、本社を市内に構えており、代表は最近赤字だった母校の法人を買収した。卒業式に理事長として現れた、私たちにとっては偉大な先輩だ。
「そうか、星花女子卒だったな。というか大学も系列だったな」
「まあ、大学の方はまだ経営がいいみたいで、もともとの法人ですけど、一応は提携っていう感じらしいです」
流石にその辺りの事情にはさほど明るくないが。
「これからでかくなる会社っていうのは、まったく新しいビジネスをやるか、既存のビジネスを売り買いしながらでかくなる。ブランドとしてのシルキストを天寿に売却するかもしれない」
「え? そんな話を私が聞いていいんですか」
「お前は熱心な4Mファンだからな。4Mのプロデュースに専念するために、まとまった金と時間が必要でな。それに天寿は近いうちに芸能プロダクションもやると踏んでいる。自社でアパレルのためのモデルを育成し始めたっつう噂をキャッチしたんだ。4Mの実績を作ってまた天寿に売るっていう寸法だ」
なんだか大きなビジネスの話を聞かされているような感じだ。経営学を学んでいるわけでもない大学一年生には難しい。ただ、4Mを金儲けに使おうとしているはずのハナエさんに、不思議と嫌な感じはしなかった。これまで4Mのみんなが言っていたハナエさんとのエピソードがあるからだろうか。
「シンディが抜けて、4Mのメンバーが動画配信とバンド活動に注力するとなると、この店の中心はキッチンがセリカ、ホールがお前、事務方にはサラってことになるだろう。まぁ、先の話ではあるが頼りにしているというのは本当だ。これからもよろしく頼むよ」
少しきつねにつままれたような気分ではあるが、いずれにせよ車校の費用も貯めたいところ。時給アップを素直に喜び、ホールに戻るのだった。
※本作は2010年代半ばを舞台としており、投稿日現在とは物価の価値観が異なります。また、本作はフィクションであり実在の人物団体法律とは関係ありません。
そもそもシルキストの場合は時給以上に毎月ブラを一着くれたりチップをもらえたり賄いも食べられたり、待遇がめちゃめちゃいいというのもあるんだけれど。
「ラン、ちょっといいか」
店で着替えた(脱いだ)私を呼ぶのはオーナーのハナエさんだけだ。私は未だにハナエさんが苗字なのか名前なのかすら知らないが。どうやらハナエさんはこのランジェリーショップ併設カフェであるシルキストのオーナーだけでなく、この店が入っているビルそのもののオーナーでもあり、最上階に居住しているそうだ。とんだ金持ちだな。
4Mのプロデューサー的なこともこなし、ドラムも叩けるそうだが、それ以上のことはほとんど知らない。
「どうしましたか、オーナー?」
普段はマカさんがいることが多い事務室で対面して座る。
「おめでとう、時給アップだ。今月から920円で換算する。あのシンディが連れてきただけある。これからも頼りにしているぞ」
「ありがとうございます!!」
頭を下げた私が顔を上げると、オーナーの目の下にクマがあるのを見つけた。
「オーナー、お疲れですか?」
「あぁ、とってもな」
……こういう時にちょっとな、ではなく、ともってと言う人がいるんだ。どんだけ疲れてるんだこの人。
「おっぱい揉みます?」
「いや、見てるだけでいい。これはまだ水面下の話なんだが――」
オーナーはそこでいったん言葉を切ると、一つ質問を投げてきた。
「天寿って会社、知ってるよな?」
「そりゃまぁ、うちの母校の経営権を買った会社ですから」
天寿は化粧品やアパレルなどで知られる県内の大企業、本社を市内に構えており、代表は最近赤字だった母校の法人を買収した。卒業式に理事長として現れた、私たちにとっては偉大な先輩だ。
「そうか、星花女子卒だったな。というか大学も系列だったな」
「まあ、大学の方はまだ経営がいいみたいで、もともとの法人ですけど、一応は提携っていう感じらしいです」
流石にその辺りの事情にはさほど明るくないが。
「これからでかくなる会社っていうのは、まったく新しいビジネスをやるか、既存のビジネスを売り買いしながらでかくなる。ブランドとしてのシルキストを天寿に売却するかもしれない」
「え? そんな話を私が聞いていいんですか」
「お前は熱心な4Mファンだからな。4Mのプロデュースに専念するために、まとまった金と時間が必要でな。それに天寿は近いうちに芸能プロダクションもやると踏んでいる。自社でアパレルのためのモデルを育成し始めたっつう噂をキャッチしたんだ。4Mの実績を作ってまた天寿に売るっていう寸法だ」
なんだか大きなビジネスの話を聞かされているような感じだ。経営学を学んでいるわけでもない大学一年生には難しい。ただ、4Mを金儲けに使おうとしているはずのハナエさんに、不思議と嫌な感じはしなかった。これまで4Mのみんなが言っていたハナエさんとのエピソードがあるからだろうか。
「シンディが抜けて、4Mのメンバーが動画配信とバンド活動に注力するとなると、この店の中心はキッチンがセリカ、ホールがお前、事務方にはサラってことになるだろう。まぁ、先の話ではあるが頼りにしているというのは本当だ。これからもよろしく頼むよ」
少しきつねにつままれたような気分ではあるが、いずれにせよ車校の費用も貯めたいところ。時給アップを素直に喜び、ホールに戻るのだった。
※本作は2010年代半ばを舞台としており、投稿日現在とは物価の価値観が異なります。また、本作はフィクションであり実在の人物団体法律とは関係ありません。
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