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後編
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勇者の星が輝きを喪って以来、人心は荒廃し魔物は跳梁跋扈していた。
村や町は静まりかえり、魔物の襲撃におびえきっていた。僕は行く先々で魔物をある程度減らしては金品なり食料なりをもらいながら、ひとまずは実家のある小さな村を目指した。魔物より、夜盗に襲われることの方が多かった。そういう時はなるべく殺さないように撃退していた。かつて勇者様たちもそうしていたらしい。
もうじき日も暮れるといった頃、僕は数か月ぶりに故郷へとたどり着いた。久々の帰郷だが、時間帯もあってか外で出歩く人は少なく、そのわずかな村人も黒い喪服を着て過ごす人が多かった。うつむきがちなせいか、僕に気付きもしない。
久々に帰ってきた実家は、心なしか小さく見えた。ウェルスミス鍛冶店、十数年育った我が家だ。
「らっしゃい。客なんてひさび――――お前、ロットンか! ロットンじゃないか!!」
親父のくしゃっとした笑顔を見て、ようやく帰ってきたんだという実感が沸いて、僕は思わず泣いてしまった。泣いて、泣いて、すべてをさらけ出した。険しい旅のこと、強かった魔族のこと、そして四天王の一人に苦戦し、勇者様たちと別れたこと。
「お前が生きてくれてよかった。俺は……それだけで、嬉しい。」
「ありがとう、親父。でも……一晩したらまた発つよ。帝都を目指さなきゃ……託されたものがあるから」
親父のその安堵した声に、もうこのままここで立ち止まってしまおうかと思った。けれど、背中に背負ったそのひと振りが迷いを断ち切る。……その聖剣を父に差し出す。
「こ、これはあの勇者様の剣じゃないか!」
「勇者様が左腕を負傷して、剣を一本しか持たないって言って……それで残したのは親父が打った剣だったよ。だから、これを僕に託したんだ」
女神に選ばれた勇者に授けられる聖剣。余人には抜くことすらかなわない永劫不変の剣。
「職人冥利に尽きるが、にしてもこれを託すかよ勇者様……。ロットン、やはり帝都へ行ってはならん。万が一、お前が勇者を見捨てた大罪人になんてされたら、すぐさま処刑ものだぞ」
その不安は僕自身、道中で考えていた。けれど、それ以上に託された手紙を届けなければならないっていう思いの方が強い。
「それでも行くよ。今日はもう休むよ。……明日、母さんの墓参りをして、そのまま発つから」
「……分かった。男が一度決めたことだ。これ以上引き止めないさ。……朝食と昼食は用意しておく」
「ありがとう……」
「ここが……帝都か」
実家を出発し帝都に着いたのは、魔王城を去ってから二月が経った頃だった。勇者様たちならさておき、僕のような村人が皇帝陛下に会えるだろうかと不安に思いながら、居城の衛兵に自分が勇者たちと旅した剣士であることを告げた。
「ま、まさか……貴公、ロットン・ウェルスミス殿か! しばし待たれよ、すぐに繋ぐ!!」
不思議なことに衛兵は僕のことを知っていた。そして言葉通り、僕はそう待たされることもなく皇帝陛下の御前へと通されたのだった。
「……勇者一行の生き残りが、聖剣を背負って魔物を討伐しながら旅をしていると各地で噂になっていたが、本当だったのか。して、用向きは?」
まさかこの国の皇帝陛下と言葉を交わす日がくるなんて、去年の自分に言っても信じられないだろう。それ以上に驚いたのは、僕が勇者一行の生き残りとして語られていることだ。聖剣を見たことが一度でもあれば、僕を見てそれに気づくこともあっただろう。たしかにこの二月、帝都を目指しながら道中の村や町で魔物の討伐も行ってきた。それが、認められたんだと少しだけ嬉しかった。
僕はここまで背負ってきた荷から手紙を取り出した。
「……姫様から陛下や、妹姫殿下に。賢者様からはお母さまへの手紙を預かっております」
近づいてきた若い女性騎士に手紙を渡す。彼女はそれを受け取りながら、
「私には、無いの?」
そう言った。どうやら彼女がお師匠様の娘らしい。確かに勝気そうな目をしている。
頷くと彼女は、そう……と一言だけ口にして背を向けた。手紙を陛下に渡した彼女に、僕はこう言った。
「お師匠様からは君のことを頼まれているよ。自分より強い男でないと結婚しないと言っているから、負かして嫁にもらってくれ、とね」
「はぁ!? 父上は最期まで私のことを認めてくれないのね。ならば……私はエリス、エリス・レイダー。騎士団長ザムエル・レイダーの娘にして近衛騎士である! ロットン・ウェルスミス……貴殿に決闘を申し込む!!」
既に細剣を抜き僕に突きつけるエリスさん。他の騎士がざわつく中、皇帝陛下は姫様からの手紙に目を通していたが、溜息をついてから口を開いた。
「フェリシアからの手紙には、もしロットンが帝都に辿り着き、この手紙を儂が読んでいるなら、ロットンをレティシアの皇配として迎えてほしい、と。勇者殿も認めたその剣の腕前、見せてもらおう」
陛下の側には第二皇女のレティシア様もいる。エリスさんもレティシア様も美しい女性だ。お嫁さんにできたら分不相応な幸せだろう。けれど、僕には心に決めた人がいる。もうこの世にいないかもしれないけれど……。
ならば、僕は師匠たちから託された願いを遂げる。僕は一呼吸おいてから、背中に背負った聖剣を鞘ごとエリスさんに向ける。
「どういうつもり?」
「……真剣だと、傷つけてしまいそうだから。僕が負けたらエリスさんの好きにすればいい。首を刎ねたってかまわない。だから、僕が勝ったらお嫁さんになってもらいます」
僕の言葉に、いよいよ堪忍袋の緒が切れたのか鬼気迫る顔で真っすぐ飛び込んでくるエリスさん。初撃を弾き、相対す。エリスさんの剣は鋭く、正確で、そして早い。眼球や心臓を狙うその一撃はあまりの殺意に思わず笑ってしまいそうだった。だが、その剣はあまりに正確でお手本のようなそれは、実戦で通用するものではない。幾合かの打ち合いの末に、エリスさんの細剣は弾き落とされ、真っ赤な絨毯の上を転がる。僕はこれまで師匠にされてきたのと同じように、手首の運動だけでエリスさんの頭に聖剣の鞘を落とす。
「く、屈辱……初めて負ける相手が、こんな軟弱な顔をした年下だなんて……」
エリスさんとの決闘を終えると、陛下が再び僕に声をかける。
「してロットン殿、これからどうするつもりだ? 彼女を娶りこの城で暮らすなら、それはそれで歓迎するが……」
「いえ、ぼ……私は魔王を倒します。必ず」
僕の言葉にすぐに反応したのはエリスさんだった。
「ならば私も同行しよう。父の娘として、一人の騎士として……そして、不本意ながら貴殿の妻として」
「それは心強い」
ここからが僕の再出発、そして――――
思えばこの五年という月日はあっという間だった。旅をしながら剣の腕を磨き、かつて倒したアダマンドラゴンより上質な金属をその身に宿すというマナダイトータスを倒し、父とともに剣を打った。
再び訪れた魔王城は、五年前に感じた恐怖を否応がなく思い出させる。四天王が復活するほどの時間を与えずに戻ってこられたことが救い、か。
「ここが……魔王城」
エリスさんがぽつりとこぼす。ここまでやってきたのは僕とエリスさん以外に十人の戦士や魔法使い。腕に覚えがある者、故郷を失った者、大切な人を亡くした者、名声を求める者、僕は彼らを束ね討伐隊を結成してここまでやってきた。
五年前の勇者様たちに比べれば練度も士気も低いかもしれない。けれど、この世界を平和にしたいという思いは負けない。ここにいるのは女神に選ばれた勇者じゃない。この世界に生きて、この世界に責任を負わねばならない人たちだ。救われるのを待つのは終わりだ。
「自分たちの手で、魔物におびえずに迎える未来を取り返そう!!」
玉座の間へと繋がる扉を開けると……そこには、
「よう、ロットン。待ってたぜ」
「ゆ、勇者さま……?」
五年の月日は感じさせるが、そこにいたのは間違いなく勇者様だった。僕と父が打った剣を肩に担ぎ、五年前と変わらない人懐っこい笑顔を浮かべる。呆然とする僕に近づいて、剣を振りかぶった。
「隊長!!」
隊員が一人、背中を深々と斬られて絶命した。その血しぶきに遅すぎるが正気に返った。
「魔王!! なぜだ! なぜ勇者様の姿をしている!!」
「……我は虚ろなる魔王。異世界の勇者の姿を奪い、若返ることで君臨し続ける者なり!」
魔王の剣技は確かに勇者様のそれだった。記憶まで奪ったのか、僕が渡したはずの盾はなく、闇で作った刃を左手で振るう。仲間が一人、また一人と斃れていく。
「その姿で、その剣で……これ以上、人を傷つけるなぁ!!!」
渾身の振り下ろしで、魔王と鍔迫合う。この五年で、背はかつての勇者様を追い越した。裂帛の気合とともに上から剣を押し込むと、僕の剣と魔王の剣、ともに僕と親父が打った剣が同時に粉々になる。それでもまだ、僕の剣の方が刀身が残っている。残った刀身を全力で魔王に突き立てる。
「ぬぅああ!!!」
魔王が胸から紫色の血を流す。だが、まだ倒れない。それどころか、闇で作った刃で僕に肉薄する。
「ロットン!!」
エリスさんが魔王の側面から突撃するも、黒い衝撃波に吹き飛ばされる。僕は咄嗟に背中に背負った聖剣で身を護る。
「む? 女神の聖剣……ふ、勇者の形見か。だが、貴様には抜けまい!!」
「それでも、負けてたまるかよ!!」
鞘に収まったままの聖剣と、闇の刃で幾合も打ち合う。振り下ろされた刃を、打ち上げるように弾く。鞘がきしむような嫌な音を立てる。その刹那、聖剣全体が光りだし、瞬く間に僕を包み込む。まるで祝詞のように、口が勝手に言葉を紡ぐ。
――汝は女神に賜りし聖剣にあらず、希望を束ねる救世の聖剣なり――
――真なる使い手は選ばれし勇者にあらず、願い集いし英雄なり――
「ば、馬鹿な!」
「ロットンが……聖剣を、抜いた」
迸る剣気が瞬く光となって収斂する。
「勇者と魔王の因縁をここで断つ。……終わりだ!!」
光の奔流がおさまると、そこにもう魔王の姿はなかった。勝鬨の雄たけびが挙がる。あぁ、終わったんだな。その声を聴きながらようやく実感が沸いてきた。
光の一撃を放った時、勇者を超えたな、英雄……そう勇者様の声が聞こえたきがした。あれが勇者様の姿をした魔王の声だったのか、本当にあの勇者様のお声だったのか、分からない。けれど、どちらでも構わないと思った。
「英雄、か」
後にレティシア姫を正室に、エリス姫を側室に迎え、英雄帝と称されるがそれはまだ未来の話。
村や町は静まりかえり、魔物の襲撃におびえきっていた。僕は行く先々で魔物をある程度減らしては金品なり食料なりをもらいながら、ひとまずは実家のある小さな村を目指した。魔物より、夜盗に襲われることの方が多かった。そういう時はなるべく殺さないように撃退していた。かつて勇者様たちもそうしていたらしい。
もうじき日も暮れるといった頃、僕は数か月ぶりに故郷へとたどり着いた。久々の帰郷だが、時間帯もあってか外で出歩く人は少なく、そのわずかな村人も黒い喪服を着て過ごす人が多かった。うつむきがちなせいか、僕に気付きもしない。
久々に帰ってきた実家は、心なしか小さく見えた。ウェルスミス鍛冶店、十数年育った我が家だ。
「らっしゃい。客なんてひさび――――お前、ロットンか! ロットンじゃないか!!」
親父のくしゃっとした笑顔を見て、ようやく帰ってきたんだという実感が沸いて、僕は思わず泣いてしまった。泣いて、泣いて、すべてをさらけ出した。険しい旅のこと、強かった魔族のこと、そして四天王の一人に苦戦し、勇者様たちと別れたこと。
「お前が生きてくれてよかった。俺は……それだけで、嬉しい。」
「ありがとう、親父。でも……一晩したらまた発つよ。帝都を目指さなきゃ……託されたものがあるから」
親父のその安堵した声に、もうこのままここで立ち止まってしまおうかと思った。けれど、背中に背負ったそのひと振りが迷いを断ち切る。……その聖剣を父に差し出す。
「こ、これはあの勇者様の剣じゃないか!」
「勇者様が左腕を負傷して、剣を一本しか持たないって言って……それで残したのは親父が打った剣だったよ。だから、これを僕に託したんだ」
女神に選ばれた勇者に授けられる聖剣。余人には抜くことすらかなわない永劫不変の剣。
「職人冥利に尽きるが、にしてもこれを託すかよ勇者様……。ロットン、やはり帝都へ行ってはならん。万が一、お前が勇者を見捨てた大罪人になんてされたら、すぐさま処刑ものだぞ」
その不安は僕自身、道中で考えていた。けれど、それ以上に託された手紙を届けなければならないっていう思いの方が強い。
「それでも行くよ。今日はもう休むよ。……明日、母さんの墓参りをして、そのまま発つから」
「……分かった。男が一度決めたことだ。これ以上引き止めないさ。……朝食と昼食は用意しておく」
「ありがとう……」
「ここが……帝都か」
実家を出発し帝都に着いたのは、魔王城を去ってから二月が経った頃だった。勇者様たちならさておき、僕のような村人が皇帝陛下に会えるだろうかと不安に思いながら、居城の衛兵に自分が勇者たちと旅した剣士であることを告げた。
「ま、まさか……貴公、ロットン・ウェルスミス殿か! しばし待たれよ、すぐに繋ぐ!!」
不思議なことに衛兵は僕のことを知っていた。そして言葉通り、僕はそう待たされることもなく皇帝陛下の御前へと通されたのだった。
「……勇者一行の生き残りが、聖剣を背負って魔物を討伐しながら旅をしていると各地で噂になっていたが、本当だったのか。して、用向きは?」
まさかこの国の皇帝陛下と言葉を交わす日がくるなんて、去年の自分に言っても信じられないだろう。それ以上に驚いたのは、僕が勇者一行の生き残りとして語られていることだ。聖剣を見たことが一度でもあれば、僕を見てそれに気づくこともあっただろう。たしかにこの二月、帝都を目指しながら道中の村や町で魔物の討伐も行ってきた。それが、認められたんだと少しだけ嬉しかった。
僕はここまで背負ってきた荷から手紙を取り出した。
「……姫様から陛下や、妹姫殿下に。賢者様からはお母さまへの手紙を預かっております」
近づいてきた若い女性騎士に手紙を渡す。彼女はそれを受け取りながら、
「私には、無いの?」
そう言った。どうやら彼女がお師匠様の娘らしい。確かに勝気そうな目をしている。
頷くと彼女は、そう……と一言だけ口にして背を向けた。手紙を陛下に渡した彼女に、僕はこう言った。
「お師匠様からは君のことを頼まれているよ。自分より強い男でないと結婚しないと言っているから、負かして嫁にもらってくれ、とね」
「はぁ!? 父上は最期まで私のことを認めてくれないのね。ならば……私はエリス、エリス・レイダー。騎士団長ザムエル・レイダーの娘にして近衛騎士である! ロットン・ウェルスミス……貴殿に決闘を申し込む!!」
既に細剣を抜き僕に突きつけるエリスさん。他の騎士がざわつく中、皇帝陛下は姫様からの手紙に目を通していたが、溜息をついてから口を開いた。
「フェリシアからの手紙には、もしロットンが帝都に辿り着き、この手紙を儂が読んでいるなら、ロットンをレティシアの皇配として迎えてほしい、と。勇者殿も認めたその剣の腕前、見せてもらおう」
陛下の側には第二皇女のレティシア様もいる。エリスさんもレティシア様も美しい女性だ。お嫁さんにできたら分不相応な幸せだろう。けれど、僕には心に決めた人がいる。もうこの世にいないかもしれないけれど……。
ならば、僕は師匠たちから託された願いを遂げる。僕は一呼吸おいてから、背中に背負った聖剣を鞘ごとエリスさんに向ける。
「どういうつもり?」
「……真剣だと、傷つけてしまいそうだから。僕が負けたらエリスさんの好きにすればいい。首を刎ねたってかまわない。だから、僕が勝ったらお嫁さんになってもらいます」
僕の言葉に、いよいよ堪忍袋の緒が切れたのか鬼気迫る顔で真っすぐ飛び込んでくるエリスさん。初撃を弾き、相対す。エリスさんの剣は鋭く、正確で、そして早い。眼球や心臓を狙うその一撃はあまりの殺意に思わず笑ってしまいそうだった。だが、その剣はあまりに正確でお手本のようなそれは、実戦で通用するものではない。幾合かの打ち合いの末に、エリスさんの細剣は弾き落とされ、真っ赤な絨毯の上を転がる。僕はこれまで師匠にされてきたのと同じように、手首の運動だけでエリスさんの頭に聖剣の鞘を落とす。
「く、屈辱……初めて負ける相手が、こんな軟弱な顔をした年下だなんて……」
エリスさんとの決闘を終えると、陛下が再び僕に声をかける。
「してロットン殿、これからどうするつもりだ? 彼女を娶りこの城で暮らすなら、それはそれで歓迎するが……」
「いえ、ぼ……私は魔王を倒します。必ず」
僕の言葉にすぐに反応したのはエリスさんだった。
「ならば私も同行しよう。父の娘として、一人の騎士として……そして、不本意ながら貴殿の妻として」
「それは心強い」
ここからが僕の再出発、そして――――
思えばこの五年という月日はあっという間だった。旅をしながら剣の腕を磨き、かつて倒したアダマンドラゴンより上質な金属をその身に宿すというマナダイトータスを倒し、父とともに剣を打った。
再び訪れた魔王城は、五年前に感じた恐怖を否応がなく思い出させる。四天王が復活するほどの時間を与えずに戻ってこられたことが救い、か。
「ここが……魔王城」
エリスさんがぽつりとこぼす。ここまでやってきたのは僕とエリスさん以外に十人の戦士や魔法使い。腕に覚えがある者、故郷を失った者、大切な人を亡くした者、名声を求める者、僕は彼らを束ね討伐隊を結成してここまでやってきた。
五年前の勇者様たちに比べれば練度も士気も低いかもしれない。けれど、この世界を平和にしたいという思いは負けない。ここにいるのは女神に選ばれた勇者じゃない。この世界に生きて、この世界に責任を負わねばならない人たちだ。救われるのを待つのは終わりだ。
「自分たちの手で、魔物におびえずに迎える未来を取り返そう!!」
玉座の間へと繋がる扉を開けると……そこには、
「よう、ロットン。待ってたぜ」
「ゆ、勇者さま……?」
五年の月日は感じさせるが、そこにいたのは間違いなく勇者様だった。僕と父が打った剣を肩に担ぎ、五年前と変わらない人懐っこい笑顔を浮かべる。呆然とする僕に近づいて、剣を振りかぶった。
「隊長!!」
隊員が一人、背中を深々と斬られて絶命した。その血しぶきに遅すぎるが正気に返った。
「魔王!! なぜだ! なぜ勇者様の姿をしている!!」
「……我は虚ろなる魔王。異世界の勇者の姿を奪い、若返ることで君臨し続ける者なり!」
魔王の剣技は確かに勇者様のそれだった。記憶まで奪ったのか、僕が渡したはずの盾はなく、闇で作った刃を左手で振るう。仲間が一人、また一人と斃れていく。
「その姿で、その剣で……これ以上、人を傷つけるなぁ!!!」
渾身の振り下ろしで、魔王と鍔迫合う。この五年で、背はかつての勇者様を追い越した。裂帛の気合とともに上から剣を押し込むと、僕の剣と魔王の剣、ともに僕と親父が打った剣が同時に粉々になる。それでもまだ、僕の剣の方が刀身が残っている。残った刀身を全力で魔王に突き立てる。
「ぬぅああ!!!」
魔王が胸から紫色の血を流す。だが、まだ倒れない。それどころか、闇で作った刃で僕に肉薄する。
「ロットン!!」
エリスさんが魔王の側面から突撃するも、黒い衝撃波に吹き飛ばされる。僕は咄嗟に背中に背負った聖剣で身を護る。
「む? 女神の聖剣……ふ、勇者の形見か。だが、貴様には抜けまい!!」
「それでも、負けてたまるかよ!!」
鞘に収まったままの聖剣と、闇の刃で幾合も打ち合う。振り下ろされた刃を、打ち上げるように弾く。鞘がきしむような嫌な音を立てる。その刹那、聖剣全体が光りだし、瞬く間に僕を包み込む。まるで祝詞のように、口が勝手に言葉を紡ぐ。
――汝は女神に賜りし聖剣にあらず、希望を束ねる救世の聖剣なり――
――真なる使い手は選ばれし勇者にあらず、願い集いし英雄なり――
「ば、馬鹿な!」
「ロットンが……聖剣を、抜いた」
迸る剣気が瞬く光となって収斂する。
「勇者と魔王の因縁をここで断つ。……終わりだ!!」
光の奔流がおさまると、そこにもう魔王の姿はなかった。勝鬨の雄たけびが挙がる。あぁ、終わったんだな。その声を聴きながらようやく実感が沸いてきた。
光の一撃を放った時、勇者を超えたな、英雄……そう勇者様の声が聞こえたきがした。あれが勇者様の姿をした魔王の声だったのか、本当にあの勇者様のお声だったのか、分からない。けれど、どちらでも構わないと思った。
「英雄、か」
後にレティシア姫を正室に、エリス姫を側室に迎え、英雄帝と称されるがそれはまだ未来の話。
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