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きりたちのぼる
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金曜日、授業を終えるとわたしは寮に戻りバスセットを回収する。普段の入浴ではシャンプーやリンス、ボディーソープを大浴場には持ち込まないが、銭湯に行く際には持って行く必要がある。
寮に置かれている天寿の商品はあくまでテスターで、製品版はちゃんと購入して普通に持っている。タオルとかは貸し出しがあるので、置いて行く。
「じゃあ紗彩ちゃん。行ってくるね」
「えぇ。行ってらっしゃい」
紗彩ちゃんに見送られ寮を出る。行き先は市内の銭湯「そら」だ。
そらは手頃な料金ということで人気の銭湯だ。特別な何かがあるというわけではないが、近場だし建物そのものは綺麗ということで、星花のサウナ―の間ではそこそこ人気だ。
サウナそのものが趣味としては新興勢力ということもあり、流行に敏感な星花女子生の間には星川方面のサウナへ通っている人や、わざわざ汐見にある温泉地のサウナへ通っている人もいるという。流石にお嬢様学校なだけある。
もっとも、わたしみたいな庶民側としてはそらの存在はありがたいのだが。
そらへ向かっていると、遠目に小春先輩の姿が見えた。隣にはもちろん彼女さんの五百旗頭先輩がいた。
番台でお金を払った後、脱衣所で先輩たちと挨拶を交す。
「ほいほーい、紅凪ちゃんこんにちはー」
「小春先輩、五百旗頭先輩、こんにちは」
「やっぱ金曜のサウナはいいね」
サウナにはわたしたち学生と、大人の人が三人、それから高齢の女性が一人。合せて七人で、そこそこスペースが埋まっていた。
これが高い料金の温浴施設ならサウナ内にテレビがあることもあるのだろうが、そらにはそういった設備はない。サウナのお供はやはり世間話だ。
「そういえば小春先輩は今三年生ですけど、来年新設の国際科には興味ないんですか?」
星花女子は現在、中等部が四クラス、高等部が普通科四クラスに加えて商業科と服飾科が一クラスずつある。そして来年度からは七組として国際科が設置されるのだ。将来的には中等部のクラス数も増やす予定があるようで、実際のところ星花女子学園には空き教室がけっこうある。
建物を新たに建て直し、それにより経営も立て直そうとした先代の理事長による計画だったのだろうけれど、結局傾いた経営は今の伊ヶ崎理事長によって見直されたわけだ。アパレル系の事業もある天寿が経営に加わったこともあり、国際科を後回しにし服飾科が新設されたなんていうウワサもある。事実かどうかは知らないけれど。
「わたしはねぇ国際科には興味ないなぁ。高等部でも普通科の予定だよ~」
「五百旗頭先輩は将来の夢とかあるんですか?」
「紅凪ちゃんは真面目だねぇ。私かぁ。ブライダル系とかいいかもね。……あは、初めて言ったや」
「わたしはぁ、保育士さんとか憧れるなあ」
……二人ともちゃんと将来の夢があるんだ。小春先輩ですら、とは言ってはいけないが将来、かぁ。てんで考えてないや。サウナや読書は好きだけど、職業からは少し遠い。勉強も苦手ではないけれど、菊花寮に入れるような水準じゃない。それに勉強さえ出来ればいいというわけでもない。
「ねえ紅凪ちゃん。サウナ―歴はわたしの方が短いけどさ、難しいことを考えるより頭をからっぽにする方がサウナ向きだってことは分かるよ」
五百旗頭先輩の言葉にハッとする。確かにそれもそうだ。ならばと、わたしは一声かけてサウナを出て、さっと汗を流すと水風呂に身体を委ねた。
まだ脳内は霧がかかったような気分で、とてもととのいそうにはなかった。
流石に外気浴は出来ないので、風呂椅子に座りながらしばらく待っても、やはりあのふんわりとした心地よさは体感できなかった。先輩達はもう少しゆっくりしていくらしいが、わたしは先に帰ることにした。
銭湯そらを出るとすっかり夕暮れで、秋の深まりをわたしはまざまざと感じるのだった。
寮に置かれている天寿の商品はあくまでテスターで、製品版はちゃんと購入して普通に持っている。タオルとかは貸し出しがあるので、置いて行く。
「じゃあ紗彩ちゃん。行ってくるね」
「えぇ。行ってらっしゃい」
紗彩ちゃんに見送られ寮を出る。行き先は市内の銭湯「そら」だ。
そらは手頃な料金ということで人気の銭湯だ。特別な何かがあるというわけではないが、近場だし建物そのものは綺麗ということで、星花のサウナ―の間ではそこそこ人気だ。
サウナそのものが趣味としては新興勢力ということもあり、流行に敏感な星花女子生の間には星川方面のサウナへ通っている人や、わざわざ汐見にある温泉地のサウナへ通っている人もいるという。流石にお嬢様学校なだけある。
もっとも、わたしみたいな庶民側としてはそらの存在はありがたいのだが。
そらへ向かっていると、遠目に小春先輩の姿が見えた。隣にはもちろん彼女さんの五百旗頭先輩がいた。
番台でお金を払った後、脱衣所で先輩たちと挨拶を交す。
「ほいほーい、紅凪ちゃんこんにちはー」
「小春先輩、五百旗頭先輩、こんにちは」
「やっぱ金曜のサウナはいいね」
サウナにはわたしたち学生と、大人の人が三人、それから高齢の女性が一人。合せて七人で、そこそこスペースが埋まっていた。
これが高い料金の温浴施設ならサウナ内にテレビがあることもあるのだろうが、そらにはそういった設備はない。サウナのお供はやはり世間話だ。
「そういえば小春先輩は今三年生ですけど、来年新設の国際科には興味ないんですか?」
星花女子は現在、中等部が四クラス、高等部が普通科四クラスに加えて商業科と服飾科が一クラスずつある。そして来年度からは七組として国際科が設置されるのだ。将来的には中等部のクラス数も増やす予定があるようで、実際のところ星花女子学園には空き教室がけっこうある。
建物を新たに建て直し、それにより経営も立て直そうとした先代の理事長による計画だったのだろうけれど、結局傾いた経営は今の伊ヶ崎理事長によって見直されたわけだ。アパレル系の事業もある天寿が経営に加わったこともあり、国際科を後回しにし服飾科が新設されたなんていうウワサもある。事実かどうかは知らないけれど。
「わたしはねぇ国際科には興味ないなぁ。高等部でも普通科の予定だよ~」
「五百旗頭先輩は将来の夢とかあるんですか?」
「紅凪ちゃんは真面目だねぇ。私かぁ。ブライダル系とかいいかもね。……あは、初めて言ったや」
「わたしはぁ、保育士さんとか憧れるなあ」
……二人ともちゃんと将来の夢があるんだ。小春先輩ですら、とは言ってはいけないが将来、かぁ。てんで考えてないや。サウナや読書は好きだけど、職業からは少し遠い。勉強も苦手ではないけれど、菊花寮に入れるような水準じゃない。それに勉強さえ出来ればいいというわけでもない。
「ねえ紅凪ちゃん。サウナ―歴はわたしの方が短いけどさ、難しいことを考えるより頭をからっぽにする方がサウナ向きだってことは分かるよ」
五百旗頭先輩の言葉にハッとする。確かにそれもそうだ。ならばと、わたしは一声かけてサウナを出て、さっと汗を流すと水風呂に身体を委ねた。
まだ脳内は霧がかかったような気分で、とてもととのいそうにはなかった。
流石に外気浴は出来ないので、風呂椅子に座りながらしばらく待っても、やはりあのふんわりとした心地よさは体感できなかった。先輩達はもう少しゆっくりしていくらしいが、わたしは先に帰ることにした。
銭湯そらを出るとすっかり夕暮れで、秋の深まりをわたしはまざまざと感じるのだった。
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