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#005 出立

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 翌朝、心がけを貫通する勢いで酒を飲まされ俺は結局、二日酔いに悩まされることになった。エリックさんもほぼ同じ量を飲んでいたような気がするのだが、相変わらずしゃんとした背筋で直立不動だ。背に大剣と大盾を背負っているにも関わらず、だ。
 アリーシャはドレスというよりワンピースのような服装で、動きやすそうだが相変わらず真っ白な装いだった。両手で持つ杖の上部には仰々しいまでに大きな金剛石が嵌められていた。
 ナナリーの方は紫がかった黒の服装で、アリーシャと異なり金属で出来た胸甲や革の防具を身に着けていた。アリーシャの防御は魔法で出来るが、ナナリーはそうもいかないからだろう。腰にやや長いナイフも佩いている。
 タバサさんは鎖帷子を身に着けていた。腰と胸の下に革ベルトが巻かれており、背中に長槍を背負っていることから、ベルトに金具で取り付けてあるのだろう。鎖帷子は重みが肩に集中すると聞いたことあるけれど、重くはないのだろうか。

「人がいっぱいいるね。どうして俺たちの出発を国民が知っているんだ? 昨日は偉い人ばかりのパーティだったのに」

 俺の質問に、アリーシャは城門に掲げられた藍色の旗を指差した。

「あの旗が掲げられている時は、大きな式典があるんです。なので、民たちはここへ集まるならわしになっているのですよ」
「なるほど。出発を見送ってもらえるとは嬉しいな」

 いよいよ冒険に出発する。国民たちが総出で見送ってくれる。惜しまれているのは俺ではなくアリーシャ姫だが、そんなことは気にならない。かなりの大人数がこの国で暮らしているようだ。その多くの人命を救うべく、魔王を討つ。青臭い正義感がむくむくと沸き立つのを感じていた。知らず知らず握っていた手が歓喜に震える。そんな俺を、国王が手招きする。彼もまた、昨晩の乱痴気騒ぎを微塵も感じさせないしゃきっとした姿である。

「この者が、我らが世界を救う勇者であるぞ! さぁ、出陣の前に一言もらおうか」
「俺が、魔王を討伐するために呼ばれた勇者だ! 必ず、俺の全力を以て魔王を討ち滅ぼし、この世界を平和にしてみせる!」

 言葉は不思議と溢れてきた。声もやけに響く。民衆の熱気に煽られて、本物の勇者になった気分だった。酔いはすっかり醒めていた。俺は勇者だ。俺が、勇者だ。魔王を討伐して、この国に還ってきたらどれだけの活気で出迎えてくれるのだろうか。鬨と万歳の声が響く中、アリーシャ、ナナリー、エリックさん、そしてタバサさんと共に、俺の冒険が始まった。
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