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エピローグ

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 夜空とお付き合いをすると正式に覚悟を決めた翌朝(当然昨夜は別々のベッドで寝た。客室だというのに俺の寝室どころか我が家のリビングばりに広い部屋で落ち着かなかった。寝具が良かったから寝るには寝れたが)学校は普通にあるわけで、なんとか授業を終えて放課後。
 寿理はとうとう校門で待たずに俺たちがいる教室に殴り込むかのような勢いでやってきた。

「お兄ちゃん!! 一から十まで全部説明してもらうからね!!」
「わ、分かってるって。取り敢えず、場所を変えよう? な?」
「……行きますわよ、寿杜、寿理」
「なんであんたみないな泥棒猫に名前を呼ばれなきゃならないのよ!!!!!!」

 夜空の他人をフルネームで呼んでしまう癖は緊張からくるものらしい。今は頑張って名前だけで呼んでくれるよう努力してもらっている。

「うわぁ、寿理ちゃんの声大きくて廊下まで丸聞こえだよ」
「……暁海」

 暁海のクラスでもホームルームが終わったらしく、俺たちがいる教室にやってきた。俺たちは四人で校門まで向かった。校門前には相変わらず新郷家のデカい高級車が待機していて、

「三人ともどうぞ」
「は? なんであたしまで」
「寿理、行くぞ」
「……私も?」
「えぇ、ふた……暁海もどうぞ」

 初めて乗るリムジンに暁海と寿理は落ち着かない様子だ。寿理に至っては、

「ちょ、どこ行くつもり。このままあたしと暁海ちゃんをドラム缶に詰めてコンクリ流して海に捨てる気?」

 なんて言い出す始末だ。夜空はそれもありか……なんて言い出すし、実際そんなことはせずスムーズに新郷邸に到着した。
 応接室でみんなに紅茶を振る舞う夜空。その表情は緊張感に覆われていた。

「その、暁海には感謝している。いろんな意味で、貴女のおかげで寿杜と交際することになったから」
「んーそうだね。私が寿杜と付き合ったら違っただろうし、公園にいることを伝えなくても、こうはならなかったのよね。私から言うのも変かもしれないけど、寿杜とお幸せに」
「ありがとう。それから寿理、その……貴女とは仲良くしたい。本当よ?」
「寿理、俺からも頼む。夜空とあんまり喧嘩しないでくれ」
「うぅ……お兄ちゃんの幸せがあたしの幸せだから、今は納得してあげます。けど、お兄ちゃんが少しでも悲しむことをしたら許しません! あと、デートにはあたしも同行しますから!!」
「なんですって!? そんな横暴許されないわ!!」
「なにおぅ!! デートを許すだけかなり譲歩したのに!!」

 あはは……嫁小姑論争勃発ということで。夜空と寿理が口論を始めると、暁海が目配せで部屋の外に出るよう促してきた。

「どうした?」
「いや、まぁ……お幸せにってのと、私もちゃんと自立しなきゃなって。やたら距離感近かったのが寿杜に勘違いさせたっていうか、反省」
「そ、そういうんじゃないだろ……」

 確かに昔から俺と暁海の距離感って家族みたいに近くて、だから本当の家族になりたいと思ってしまった。でも、その気持ちを勘違いだったと言われれば、流石にそれは違うと否定せざるをえない。

「ま、ほんと……幸せになってね。ほら、そろそろ戻らないと二人から責められちゃうんじゃない?」
「おう、暁海は?」
「ちょっと探検」

 暁海の背中を見送りつつ、応接室に戻ると夜空と寿理はまだ口論中だった。どうやら俺と行くにふさわしいデートコースで論争しているようだ。……幸せは自分で手に入れるって決めたはいいが、難しそうだな。それでもやらなきゃダメだ。だって……俺は俺の物語の主人公なんだから。
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