妹と幼馴染みとカンケイを持った私の淫らな日常

楠富 つかさ

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逃げ場のない愛

 金曜日――夜の帳が落ちるころ、私はこそこそと玄関に駆け込んだ。手が震えてうまく鍵が開けられない。焦る気持ちばかりが先走る。

「……お姉ちゃん?」

 背後から聞こえた声に、心臓が跳ねた。振り向かなくてもわかる。夕菜だ。

「どこ行くの?」

 私は答えずに、ようやく開いたドアの隙間に身を滑り込ませた。

「お姉ちゃん!」

 夕菜の手が私の腕を掴む。でも振りほどいた。勢いのままに外へ飛び出し、夜の街を走る。喉が焼けるように痛むけれど、足を止めたらいけない気がした。

 ――凛ちゃんのところへ行かなきゃ。

 そこに行けば、何かが変わる気がした。夕菜の重すぎる愛情に押し潰されそうで、もう耐えられなかった。

 ◇◇◇

「……柚葉?」

 玄関のチャイムを何度も押した。ようやく出てきた凛ちゃんは、私の顔を見た瞬間に驚いたような表情をした。

「柚葉……どうしたの?」
「……お願い、ここに置いて」

 涙が込み上げてきた。今にも崩れ落ちそうな私を、凛ちゃんは抱きしめた。

「……うん。大丈夫。もう大丈夫だから」

 その腕の温かさに、ほっとしてしまった。夕菜から逃げられた。そう思ったのに――

「柚葉は……私のものになって」

 ベッドの上で、凛ちゃんが囁いた。
 柔らかく、でも強く、私の手を握る。夕菜とは違う。けれど、その目に宿る感情は、夕菜と同じものだった。

「ねえ、逃げてきたんでしょ? だったら、私だけを見て」
「凛……ちゃん?」
「私、ずっと柚葉のこと好きだったよ。だから、もう大丈夫。怖い思いなんてしなくていい。全部、私が守るから」

 そっと唇を塞がれる。
 私はここに来て、ようやく理解した。
 ――私は、どこにも逃げられない。
 夕菜の愛が苦しくて逃げてきたのに、凛ちゃんの愛もまた、私を縛りつける。
 どこへ行っても、誰かに愛されて、誰かのものになってしまう。
 それが幸せなのか、不幸なのか――
 もう、考える余裕なんてなかった。

「凛……ちゃん、待って……」

 震える声でそう言ったけれど、凛ちゃんの動きは止まらなかった。

「待たないよ。柚葉が来てくれたんだから」

 静かに微笑む凛の顔は優しくて、だけど目の奥が熱を孕んでいるのがわかる。その視線が怖かった。夕菜と同じ――私を絶対に逃がさないっていう目。

「ねえ、柚葉。私のこと好き?」

 唐突な問いに息が詰まる。

「……す、き……だよ」

 嘘じゃない。ずっと一緒にいたし、嫌いなはずがない。

「じゃあ、私のものになって」

 そう言って、凛ちゃんは私の服に手をかけた。躊躇いなく肌を撫でる指先が、熱を持っていて、私は思わず身を引いた。だけど、もう逃げられない。

「大丈夫、怖くないよ」
「……怖い……よ」
「どうして?」
「……夕菜の時と……同じだから……」

 凛ちゃんの手が止まる。
 私の言葉に、凛ちゃんは一瞬だけ戸惑ったような顔をした。でも、すぐにまた穏やかに微笑んで――

「そっか。……なら、ちゃんと違いを教えてあげるね」

 優しく、けれど確実に力を込めて、私はベッドに押し倒される。

◇◇◇

 どれくらいの時間が経ったのかわからない。
 ただ、息が苦しい。凛ちゃんの腕の中に閉じ込められて、どこにも行けない。

「柚葉、可愛い……ずっと、こうしたかった。なんどでも、こうしたい……」

 満足そうに呟く凛ちゃんの顔を見ながら、私はまた泣きそうになった。
 ――これじゃ、夕菜と一緒だ。
 結局、私はどこに行っても、誰かに愛されて、縛られる。
 逃げたつもりが、また別の鎖に絡め取られて――

「ねえ、柚葉。明日からは、もう夕菜のところに帰らないでね?」

 凛ちゃんが優しく言う。
 私は何も言えなかった。

◇◇◇

 翌朝、私は凛ちゃんの部屋を出た。帰る場所なんてないのに、どこへ行けばいいのかもわからないのに、ただ歩いた。

 でも――

「お姉ちゃん」

 家の前に、夕菜が立っていた。
 まるで、私がここに戻ってくるのを知っていたみたいに。

「……おかえり」

 その声を聞いた瞬間、私は膝から崩れ落ちた。

「もう、どこにも行かせないからね?」

 そっと抱きしめられた腕は、凛ちゃんのものよりも、もっと強くて――
 私にはもう、抗う力なんて残っていなかった。
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