剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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夏の終わりは物語の始まり

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 朝から強い真夏の日差しがカーテンを越えて朝の到来を告げる。

「祐也、起こしにきたよ……って、きゃー!!」

 起こされた少年の名前は吉崎祐也。私立の風城学園高校に通う二年生。日に焼け少し茶色がかった髪は寝癖だらけで、眠い目を擦りながら自分の姿を確認する。

「あっ!! 俺、パンイチじゃん!! そして朝だ……。うわぁぁあああああああ!!」

 女の子に起こされる少年が最も見せてはいけない生理現象……それを見せてしまった彼は、朝から重い気分で制服に着替えるのだった。私立風城学園の制服はいたってシンプルで、白のワイシャツにグレーのズボン。男女共にネクタイだが、夏服期間はノーネクタイが認められている。校章は右上を向いた風を纏う矢。城攻めをイメージしているらしい。

「待っているんだろうな……。仕方ない、行くか」

 着替えを済ませた祐也が階段を降りリビングへ向かうと、先ほどの起こしにきた少女――本条千夏――は朝食の支度をしていた。
 昔から愛用しているエプロンを制服の上から着ている彼女は、幼馴染みの祐也から見ても美少女だ。少し茶色い髪を大きめな水色のリボンでポニーテールに結っていて、明るくて話しやすい彼女の性格をよく現している。彼女の溌剌とした笑顔は、一緒に笑顔になれる上に、元気がもらえる。さらに、家庭的な一面もある。家事も難なくこなすため、出張の多い祐也のシングルファザーの代わりに千夏が吉崎家の家事を行う。
住み込みではないが、吉崎家の合鍵を千夏は預かっている。今日は始業式で、半日で帰ってくるためお弁当は必要ない。だから朝食が少しだけ豪華になっている。

「何でさっきはパンイチだったのよ!?」

 そんな朝食に箸をつける前にぶつけられる不満。

「そりゃ寝るときに暑いからだし……。そもそも、ノックなしに入ってくる方が悪い……」
「なんだって? 朝ごはんを没収されたいのかな?」

 千夏の剣幕に祐也もたじろぐ。

「俺が悪かった。いつも起こしてもらって、美味い朝飯も作ってくれて、感謝している。だから……ごめん」

 大人しく謝る祐也に笑みを浮かべる千夏、日頃の感謝と朝食の褒め言葉を聴けたのだ。乙女の顔をする幼馴染みに、鈍感少年は気付けない。


そんな平和な日々が終わりかけていた事実を二人はまだ知らなかった。
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