剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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平穏を変える者

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「よぉご両人、千夏はお久しぶりだな。祐也は……二週間ぶりか?」
「そうだな、確かそれくらいだ」

 登校中、蝉の最期の頑張りを聞きながら千夏と話していた祐也に話しかけた男子生徒。彼の名前は加藤瑛太。祐也の友人で犬とゲームを愛するソフトモヒカンが特徴の男子だ。

「そうだ、夏休みにお前から借りたゲーム返すよ」

 瑛太が思い出したように祐也に言うと、

「じゃあ、帰りに寄ってくよ。ハヤテ号にも会っていきたいし」
「ハヤテ号って……うちのハヤテは盲導犬とか警察犬じゃないからな」
「分かっているって。千夏もくるか?」

 男子同士の会話に疎外感を感じていた千夏は、急に話を振られて目を丸くしたが、行くと返事をしたら再び男子同士の会話に戻ってしまい、常に低い瑛太への好感度がますます低下していくのだった。

「そういえば、今日提出の課題ってなんだっけ?」

 そうこうしている内に風城学園高校の門を抜け、昇降口に着いていた。

「読書感想文と進路関係の書類くらいね」

 祐也の問いに千夏が答え、彼らは教室へと向かう。

「おはよう、砦人と山田さん」
「あ、おはよ」
「うーす、委員長」
「おはよう、三人とも」
「おはようございます」

 教室に入ると、壇上に学級委員を務める小川(おがわ)砦人と、山田梓の二人がいるのが見えた。時刻は午前八時の六分前。決して朝のホームルームの時間ではない。

「なんか騒がしいな。どうした?」

 夏休みが終わった愚痴なのか、久々に会ったクラスメイトに積もる話があるのか、普段以上に教室は活気付いている。

「あぁ、このクラスに転入生がくるんだ」
「通りでこんなに喧しいのか」
「呆れていないで席に着け。取り敢えず、静かにさせないと……」

 懸命に自重を促しやっと静かになったが、転入生が来る以前に夏休み明けなんてそんなもんだろう。そんなことを思いつつ、祐也は最後列窓際―このクラスでのはみ出し席―にある自分の席に着き十分少々。

「お、みんな揃っているのか。どこから情報が漏れたか知らないが、お待ちかねの転入生だ」

 タイミングを見計らってかは不明だが、担任が転入生を教室に招いた。転入生は男子だった。男子達の嘆息が聞える。細い眉にかかるかといった長さの髪と鋭い眼差しは、意思の強さを感じさせる容貌だった。スポーツ系の人種とは違った引き締まり方が、武道の経験があることを匂わせる。そんな彼は、教壇に立つと黒板に名前を書き始めた。

「初めまして、倉科舞斗です。これか―――」

 その後の舞斗の自己紹介を裕也はあまり聞いていない。
 不思議と嫌な予感がしたのだ……。彼の存在自体にではなく、それに伴うなにかに……。我ながら考えすぎかと、首を振る祐也だったが、隣に座った舞斗と少しだけ会話を交わし、始業式で半日だったためそのまま解散となった。
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