12 / 84
012 お風呂での攻防
しおりを挟む
「じゃあ、一緒にお風呂へ行きましょう?」
「……え?」
思わず聞き返す俺に、マリーは笑顔を浮かべたまま再度言った。
「お風呂、行きましょう?」
俺は、混乱している! 落ち着け、これはきっと何かの間違いだ。だってほら、まだ出会って一日しか経っていないし普通は嫌がるだろ。たとえ命の恩人だからみたいな補正があったとしても、流石に出会って一日で肌は晒さないだろう。風呂に行くってことは裸のお付き合いってことだし、つまり、あれだよな? うん、まずは確認しよう。
「あのー、マリーさんや?」
「はい?」
「もしかして、混浴……ですか?」
「一つの木桶に一人で入るので、厳密には混浴ではないですよ?」
そういう問題なのか。いやでも脱衣所とかどうなってるんだ? もし木桶が並んでいるとしたら普通に裸見ちゃうよな。どうするよ、どうしたらいいんだよ。
「木桶がいくつか並んでて、そこに一人ずつ入るのはなんとなくわかったけど、服を脱ぐところって男女別々か?」
「いいえ。レックスさん、気にし過ぎじゃありません?」
え? 俺が気にし過ぎ? これもまたこっちの世界なら当たり前なのか? まじまじとマリーを見て、裸を想像してしまう。十六歳のみずみずしい柔肌、無垢で真っ白か、はたまた冒険での傷跡があったとしてもそれはそれで……。
「いやいや、ダメだろ。マリーは女の子なんだからさ、男と一緒に風呂に入るのはまずいだろ」
「レックスさんは私の事、女として見てくれているんですね」
くっ、しまった。墓穴を掘ってしまったか。いや待てマリーは十六だぞ、このくらいの年齢の子にそういう感情を抱くわけがない。だがそういう感情を抱かないのなら裸を見ても問題ない。問題があると思っているということはつまり……。
「大丈夫ですよ。むしろレックスさんが私のこと、女と思ってくれているなら嬉しいですもん」
流石にこのシチュエーションで何でだよと聞けるほどメンタルが固くない俺はおとなしく白旗を上げてマリーとともに脱衣所に向かった。
マリーが服を脱いでいる間、俺は必死になって目を逸らす。幸いなことに、木桶がいくつも置いてあったので、俺はかけ湯をしてそそくささと桶の中に入った。桶というか樽に近い気がするけど、日本酒とか醤油を作る時に使うあれは桶だったはずだから、いいのか。大人は一人、子供だったら二人は入れそうなサイズだ。
ほどなくして、マリーが俺の横にある桶に入る。
「ふぅ~、気持ち良いですね」
マリーの声が聞こえてくる。俺の視界にはマリーの姿はない。ただ声だけが聞こえる状態だ。
「あ、あぁ。そうだな」
マリーの方を見ないようにしながら返事をする。変に意識しないようにしなければ……。
「私、レックスさんに助けてもらって本当に良かったです。こうして生きて、ご飯を食べられて、お風呂にも入れるなんて、夢みたいです」
「大げさだな。まぁ、今日はゆっくり休んで明日から頑張ろう」
そう言って励ましてみたのだが、マリーからの返答はなかった。
「マリー?」
不思議に思って横を見ると、そこにはマリーがいた。正確にはマリーが全裸で立っていた。ふっくらとした乳房も、水をはじく腹部も、そしてその下も……。
「……」
言葉を失っていると、マリーは少し頬を赤らめて言った。
「あの、恥ずかしいんであんまりじろじろ見られると困ります」
「ごめん!」
慌てて顔を背けると、背後から笑い声が聞こえてきた。
「ふふ、びっくりしましたか?」
振り返ると、いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべるマリーがいた。もう木桶の風呂に入っていて肩から上しか見えない。
「心臓に悪いわ!」
「すみません。どんな反応をするんだろうって思っちゃって。そういえばレックスさんって何歳なんですか? お兄さんなんだろうなとは思っているんですけど、何歳離れているんだろうって」
「……25歳だけど?」
「その、言いにくいですけど25歳なら女性の一人や二人、抱いていてもおかしくないのでは?」
言われてぐっと押し黙る。こっちの世界で人間の寿命って何年くらいなんだろう。もし、五十年くらいだとしたら? 二十五歳は人生の折り返し地点、日本で考えたら三十代後半くらい……その年で、未経験ってわりと危ういのでは? 何がって聞かれると困るが、人間性とか社会性とか……?
「私、本当に初めてがレックスさんなら嬉しいですし、レックスさんも初めてなら……その……」
「ストップ! それ以上はいけない」
これ以上は聞いてはならないと思い、話を遮った。こちらの本気を表すために恥ずかしいけどマリーに体を向けて言い放った。しかし、マリーは止まらなかった。
「だから、私は構いませんよ。レックスさんさえ良ければいつでもどうぞ?」
「えっと、マリー?」
「はい?」
「俺が言うのもあれだが、もう少し自分を大事にな? マリーなら初めてを急ぐ必要もないだろ。もっといい人を見つけてくれよ」
「むぅ、またそれですか。でもレックスさんは私を女として見てますよね」
「いや、だって……。うーん、ほら、マリーはまだ若いんだしこれからいくらでも出会いがあるだろ? 俺なんかよりもずっといい男が見つかるって。第一、もしマリーが妊娠して子供を育てるってなったら、マリーの両親を買い戻すための稼ぎはどうするんだよ」
さすがに両親の件を言えばマリーだって納得せざるを得ないだろう。
「……確かに、それもそうですけど。でも、私は両親のことも自分の幸せも諦めたくない。レックスさんは私のこと嫌いですか?」
「そ、その聞き方は困る……。なぁ……いい、先に出る」
俺は木桶にかけていた布で股間を隠しながら風呂を出た。……この猛りを見られたら説得力を全て失うからな。
「……え?」
思わず聞き返す俺に、マリーは笑顔を浮かべたまま再度言った。
「お風呂、行きましょう?」
俺は、混乱している! 落ち着け、これはきっと何かの間違いだ。だってほら、まだ出会って一日しか経っていないし普通は嫌がるだろ。たとえ命の恩人だからみたいな補正があったとしても、流石に出会って一日で肌は晒さないだろう。風呂に行くってことは裸のお付き合いってことだし、つまり、あれだよな? うん、まずは確認しよう。
「あのー、マリーさんや?」
「はい?」
「もしかして、混浴……ですか?」
「一つの木桶に一人で入るので、厳密には混浴ではないですよ?」
そういう問題なのか。いやでも脱衣所とかどうなってるんだ? もし木桶が並んでいるとしたら普通に裸見ちゃうよな。どうするよ、どうしたらいいんだよ。
「木桶がいくつか並んでて、そこに一人ずつ入るのはなんとなくわかったけど、服を脱ぐところって男女別々か?」
「いいえ。レックスさん、気にし過ぎじゃありません?」
え? 俺が気にし過ぎ? これもまたこっちの世界なら当たり前なのか? まじまじとマリーを見て、裸を想像してしまう。十六歳のみずみずしい柔肌、無垢で真っ白か、はたまた冒険での傷跡があったとしてもそれはそれで……。
「いやいや、ダメだろ。マリーは女の子なんだからさ、男と一緒に風呂に入るのはまずいだろ」
「レックスさんは私の事、女として見てくれているんですね」
くっ、しまった。墓穴を掘ってしまったか。いや待てマリーは十六だぞ、このくらいの年齢の子にそういう感情を抱くわけがない。だがそういう感情を抱かないのなら裸を見ても問題ない。問題があると思っているということはつまり……。
「大丈夫ですよ。むしろレックスさんが私のこと、女と思ってくれているなら嬉しいですもん」
流石にこのシチュエーションで何でだよと聞けるほどメンタルが固くない俺はおとなしく白旗を上げてマリーとともに脱衣所に向かった。
マリーが服を脱いでいる間、俺は必死になって目を逸らす。幸いなことに、木桶がいくつも置いてあったので、俺はかけ湯をしてそそくささと桶の中に入った。桶というか樽に近い気がするけど、日本酒とか醤油を作る時に使うあれは桶だったはずだから、いいのか。大人は一人、子供だったら二人は入れそうなサイズだ。
ほどなくして、マリーが俺の横にある桶に入る。
「ふぅ~、気持ち良いですね」
マリーの声が聞こえてくる。俺の視界にはマリーの姿はない。ただ声だけが聞こえる状態だ。
「あ、あぁ。そうだな」
マリーの方を見ないようにしながら返事をする。変に意識しないようにしなければ……。
「私、レックスさんに助けてもらって本当に良かったです。こうして生きて、ご飯を食べられて、お風呂にも入れるなんて、夢みたいです」
「大げさだな。まぁ、今日はゆっくり休んで明日から頑張ろう」
そう言って励ましてみたのだが、マリーからの返答はなかった。
「マリー?」
不思議に思って横を見ると、そこにはマリーがいた。正確にはマリーが全裸で立っていた。ふっくらとした乳房も、水をはじく腹部も、そしてその下も……。
「……」
言葉を失っていると、マリーは少し頬を赤らめて言った。
「あの、恥ずかしいんであんまりじろじろ見られると困ります」
「ごめん!」
慌てて顔を背けると、背後から笑い声が聞こえてきた。
「ふふ、びっくりしましたか?」
振り返ると、いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべるマリーがいた。もう木桶の風呂に入っていて肩から上しか見えない。
「心臓に悪いわ!」
「すみません。どんな反応をするんだろうって思っちゃって。そういえばレックスさんって何歳なんですか? お兄さんなんだろうなとは思っているんですけど、何歳離れているんだろうって」
「……25歳だけど?」
「その、言いにくいですけど25歳なら女性の一人や二人、抱いていてもおかしくないのでは?」
言われてぐっと押し黙る。こっちの世界で人間の寿命って何年くらいなんだろう。もし、五十年くらいだとしたら? 二十五歳は人生の折り返し地点、日本で考えたら三十代後半くらい……その年で、未経験ってわりと危ういのでは? 何がって聞かれると困るが、人間性とか社会性とか……?
「私、本当に初めてがレックスさんなら嬉しいですし、レックスさんも初めてなら……その……」
「ストップ! それ以上はいけない」
これ以上は聞いてはならないと思い、話を遮った。こちらの本気を表すために恥ずかしいけどマリーに体を向けて言い放った。しかし、マリーは止まらなかった。
「だから、私は構いませんよ。レックスさんさえ良ければいつでもどうぞ?」
「えっと、マリー?」
「はい?」
「俺が言うのもあれだが、もう少し自分を大事にな? マリーなら初めてを急ぐ必要もないだろ。もっといい人を見つけてくれよ」
「むぅ、またそれですか。でもレックスさんは私を女として見てますよね」
「いや、だって……。うーん、ほら、マリーはまだ若いんだしこれからいくらでも出会いがあるだろ? 俺なんかよりもずっといい男が見つかるって。第一、もしマリーが妊娠して子供を育てるってなったら、マリーの両親を買い戻すための稼ぎはどうするんだよ」
さすがに両親の件を言えばマリーだって納得せざるを得ないだろう。
「……確かに、それもそうですけど。でも、私は両親のことも自分の幸せも諦めたくない。レックスさんは私のこと嫌いですか?」
「そ、その聞き方は困る……。なぁ……いい、先に出る」
俺は木桶にかけていた布で股間を隠しながら風呂を出た。……この猛りを見られたら説得力を全て失うからな。
227
あなたにおすすめの小説
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる