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私を呼んで
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死にたい。
あぁ違う。
私には自分で死を選ぶなんて大それたことはできない。
何故なら私はちっぽけでウジウジしていて鬱陶しくて。
生まれてから26年間、恋人どころか友達すらまともにいなかった。
女にしては高めの167センチある身長を気にして姿勢は常に猫背。
ド近眼のせいで今時ギャグマンガでもこんな眼鏡してるヤツいねぇよなグルグル瓶底眼鏡。
もはや今の若い子(この言い方が既にバry)に通じるかわからない、某テレビから出てくる某ホラー映画主演女優(?)ばりの黒髪(バサバサ仕様)。
七難隠すという色白な肌も私にかかれば陰気な雰囲気を醸し出すアイテムの一つに早変わり。
Eカップの胸の肉だってこんなブスについていたらただの脂肪の塊だろう。
私の人生の唯一の救いは、家がそこそこの小金持ちだったために幼等部から入れた『お坊っちゃまお嬢ちゃま専用学校』でいじめにあわずに生きてこられたことぐらいじゃないだろうか。
(金持ち喧嘩せずの精神でいじめられなかったのか、暗すぎて存在気づかれてなかったのか微妙なところだけどな!)
死にたいけど死ねない。
生きていて良かった! と思いたいとまで願わないから、あの時に死ななくて良かった程度には思える日がきて欲しい。
でも現実はスッキリ爽やか大逆転! なんてことは起きなくて。
いつものようにぬるぬると仕事をやり過ごした金曜日の夜。
一人暮らしの1DKのマンションで、一人寂しく五缶めのビールを開ける。
「あぁぁぁっ! 今週も! 一週間! お疲れ様でした私! ありがとう私っ!」
つまみの乾きものを口に放り込み、一気にゴクゴクと流し込む。酔いが回ってきたせいで独り言が大きいが、ここはカド部屋。しかもオーナーであるうちの両親が防音には力を入れて造った建物だから、喪女が多少はしゃいでもご近所迷惑にはならないだろう。
自分の部屋で一人の時はどもらず喋ることができるのに。
「寂しい、なぁ……」
就職して四年。一人暮らしを始めて四年。
この部屋に家族以外が来たことは一度もない。
私はこのまま、この先ずっと、誰かと温かな心を交わすことも肌を合わせることもなく年をとっていくのだろうか。
「やっぱり猫でも飼おうかなぁ……。今日借りてきた『猫の飼い方』真剣に読んでみようかな……」
缶ビールを片手に職場帰りに寄った図書館の本をゴソゴソと鞄の中で探す。
「──ん? 私、こんな本借りたっけ?」
それは真っ黒い、タイトルもイラストも何も書いてない、本当にただの黒いだけの本だった。
「うわ。中まで黒い……てか中も黒いだけで何も書いてないじゃん。誰かが墨汁でもぶちまけたのかな?」
と、窓も開いていないのにバラバラと本が勝手にめくれだし、開かれたページに白い文字が浮かび上がる。ぼんやりと、文字自体が淡い光を放っているようにすら見える。
「…………やっぱ週末はダメだなぁ。五缶くらいでもう酔った。なになに? 『願いを叶える悪魔の呼び出し方』? わー。レトロー。ベタすぎるー」
アルコールが見せる深層心理。私はそこまで追い詰められていたのだろうか。
誰か。誰か私の話を聞いて。誰か、悪魔でも良いから側にきて。
そんな風に、思っていたの?
「えーと? まずこの魔法陣みたいなやつを地面に描いて? ……地面? フローリングでも良いのかな……」
弁明しよう。この時私は酔っていた。いつもならビール五缶程度じゃ酔わないが酔っていた。酔ってると、正直夢オチだと思っていた。
だから描いた。マジックで。
冷蔵庫に貼っつけてあったホワイトボード用のマジックでフローリングの床に直で描いた。
ごめんなさいお父さんお母さん。後でシンナーでこするから許して。
丸と線とよくわからないアルファベットを崩したような文字と。
それらを組み合わせた直径一メートル以上の模様をキュッキュッと音をたてながら描いていく。
(なんか楽しいかも……)
子供の頃、壁に模造紙を貼ってもらって夢中でクレヨンを滑らせたことを思い出す。
最近は仕事のこととお先真っ暗な人生のことしか頭になかったけれど、私は絵を描くことが好きだった。
「描けた……」
うん。我ながら上手く描けたんじゃない? いつもは自画自賛なんかしない私が、何故か今は自分を褒めてあげても良い気分だ。ふわふわと酩酊する思考が気持ちいい。
「さぁ見本通りに描いたわよ悪魔さん? 願いを叶えてくれるというのは本当かしら? 何をお願いしようか、な……」
おどけて芝居がかった口調でマジックの跡に話しかける私の目の前で、そのマジックの跡から黒い煙が上がり始める。
「え?」
ニュースで見たことのある火事現場の映像のように、イベント会場でたまに見かける煙体験ハウスのように。
私が描いた悪魔を呼び出すための模様の中心から。部屋中に黒い煙が充満する。
煙が出ているということはそれはたぶん火が燃えているということで。なのに、全然炎は見えなくて、熱くもなくて。
熱いどころか、むしろ──
「さ、寒い……っ」
つけてもいないエアコンが突然MAXで部屋の温度を下げ始めたのかと思うほど、急激に空気が冷たくなっていく。
部屋着代わりのTシャツと短パンからのぞく手足が面白いくらいに鳥肌になる。
『──対価を払えば、私を呼び出した君の願いを叶えよう』
ダイニングキッチンに広がる黒い煙の中。その煙よりも更にもっともっと黒い影。
影は、ひび割れるような声で私にそう告げると、赤い目を光らせた。
あぁ違う。
私には自分で死を選ぶなんて大それたことはできない。
何故なら私はちっぽけでウジウジしていて鬱陶しくて。
生まれてから26年間、恋人どころか友達すらまともにいなかった。
女にしては高めの167センチある身長を気にして姿勢は常に猫背。
ド近眼のせいで今時ギャグマンガでもこんな眼鏡してるヤツいねぇよなグルグル瓶底眼鏡。
もはや今の若い子(この言い方が既にバry)に通じるかわからない、某テレビから出てくる某ホラー映画主演女優(?)ばりの黒髪(バサバサ仕様)。
七難隠すという色白な肌も私にかかれば陰気な雰囲気を醸し出すアイテムの一つに早変わり。
Eカップの胸の肉だってこんなブスについていたらただの脂肪の塊だろう。
私の人生の唯一の救いは、家がそこそこの小金持ちだったために幼等部から入れた『お坊っちゃまお嬢ちゃま専用学校』でいじめにあわずに生きてこられたことぐらいじゃないだろうか。
(金持ち喧嘩せずの精神でいじめられなかったのか、暗すぎて存在気づかれてなかったのか微妙なところだけどな!)
死にたいけど死ねない。
生きていて良かった! と思いたいとまで願わないから、あの時に死ななくて良かった程度には思える日がきて欲しい。
でも現実はスッキリ爽やか大逆転! なんてことは起きなくて。
いつものようにぬるぬると仕事をやり過ごした金曜日の夜。
一人暮らしの1DKのマンションで、一人寂しく五缶めのビールを開ける。
「あぁぁぁっ! 今週も! 一週間! お疲れ様でした私! ありがとう私っ!」
つまみの乾きものを口に放り込み、一気にゴクゴクと流し込む。酔いが回ってきたせいで独り言が大きいが、ここはカド部屋。しかもオーナーであるうちの両親が防音には力を入れて造った建物だから、喪女が多少はしゃいでもご近所迷惑にはならないだろう。
自分の部屋で一人の時はどもらず喋ることができるのに。
「寂しい、なぁ……」
就職して四年。一人暮らしを始めて四年。
この部屋に家族以外が来たことは一度もない。
私はこのまま、この先ずっと、誰かと温かな心を交わすことも肌を合わせることもなく年をとっていくのだろうか。
「やっぱり猫でも飼おうかなぁ……。今日借りてきた『猫の飼い方』真剣に読んでみようかな……」
缶ビールを片手に職場帰りに寄った図書館の本をゴソゴソと鞄の中で探す。
「──ん? 私、こんな本借りたっけ?」
それは真っ黒い、タイトルもイラストも何も書いてない、本当にただの黒いだけの本だった。
「うわ。中まで黒い……てか中も黒いだけで何も書いてないじゃん。誰かが墨汁でもぶちまけたのかな?」
と、窓も開いていないのにバラバラと本が勝手にめくれだし、開かれたページに白い文字が浮かび上がる。ぼんやりと、文字自体が淡い光を放っているようにすら見える。
「…………やっぱ週末はダメだなぁ。五缶くらいでもう酔った。なになに? 『願いを叶える悪魔の呼び出し方』? わー。レトロー。ベタすぎるー」
アルコールが見せる深層心理。私はそこまで追い詰められていたのだろうか。
誰か。誰か私の話を聞いて。誰か、悪魔でも良いから側にきて。
そんな風に、思っていたの?
「えーと? まずこの魔法陣みたいなやつを地面に描いて? ……地面? フローリングでも良いのかな……」
弁明しよう。この時私は酔っていた。いつもならビール五缶程度じゃ酔わないが酔っていた。酔ってると、正直夢オチだと思っていた。
だから描いた。マジックで。
冷蔵庫に貼っつけてあったホワイトボード用のマジックでフローリングの床に直で描いた。
ごめんなさいお父さんお母さん。後でシンナーでこするから許して。
丸と線とよくわからないアルファベットを崩したような文字と。
それらを組み合わせた直径一メートル以上の模様をキュッキュッと音をたてながら描いていく。
(なんか楽しいかも……)
子供の頃、壁に模造紙を貼ってもらって夢中でクレヨンを滑らせたことを思い出す。
最近は仕事のこととお先真っ暗な人生のことしか頭になかったけれど、私は絵を描くことが好きだった。
「描けた……」
うん。我ながら上手く描けたんじゃない? いつもは自画自賛なんかしない私が、何故か今は自分を褒めてあげても良い気分だ。ふわふわと酩酊する思考が気持ちいい。
「さぁ見本通りに描いたわよ悪魔さん? 願いを叶えてくれるというのは本当かしら? 何をお願いしようか、な……」
おどけて芝居がかった口調でマジックの跡に話しかける私の目の前で、そのマジックの跡から黒い煙が上がり始める。
「え?」
ニュースで見たことのある火事現場の映像のように、イベント会場でたまに見かける煙体験ハウスのように。
私が描いた悪魔を呼び出すための模様の中心から。部屋中に黒い煙が充満する。
煙が出ているということはそれはたぶん火が燃えているということで。なのに、全然炎は見えなくて、熱くもなくて。
熱いどころか、むしろ──
「さ、寒い……っ」
つけてもいないエアコンが突然MAXで部屋の温度を下げ始めたのかと思うほど、急激に空気が冷たくなっていく。
部屋着代わりのTシャツと短パンからのぞく手足が面白いくらいに鳥肌になる。
『──対価を払えば、私を呼び出した君の願いを叶えよう』
ダイニングキッチンに広がる黒い煙の中。その煙よりも更にもっともっと黒い影。
影は、ひび割れるような声で私にそう告げると、赤い目を光らせた。
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