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番外編
side 詩音
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あぁ、イライラする。
朝から溜まったフラストレーションはとっくに限界を突破して。脚を組んだ体勢のままトントンと指で机をノックし続ける。周りのクラスメートがビクビクと俺を窺うが、そんなことはどーでもいい。
おい野郎ども。高校最後の文化祭だからって調子のるんじゃねぇよ。誰に許可とって『そいつ』に話しかけてんだ。
『お前』も、そんな下心しか無いような男達になんて笑って応えなくて良いんだよ。クラスの出し物の喫茶店なんざテキトーにサボっとけよ。
いつもはこの胸をときめかせる無邪気な笑顔が、今は憎らしくてしょうがない。
学校生活は唯一『あいつら』からお前を独占できるチャンスなんだから、そんな可愛く笑わないでくれ。
せめて教室の中だけでは、俺一人のお前でいて欲しいんだ。
(つーかうちの学園、普段無駄に金かけてやがるくせに、なんで文化祭の出し物はこんな庶民的なんだよ!)
答えは単純。
関東の金持ち連中がほぼ集まって来ているうちの学園では、逆に庶民的なイベントの方が物珍しくて人気が有るからだ。
(コスプレ喫茶はなんとか阻止したけど制服にエプロンつけただけの姿も充分危ねーじゃねぇか……! てか、スカートいつもより短くねぇ?!)
今すぐにキッチンなんて裏方の仕事放り出して。
誰もいない教室で腕の中に閉じ込めたい。
『幼馴染』の距離感とやらを、そろそろ本気でぶっ壊させてくれよ。
休憩時間に入るまで後10分。
今日は。今日こそは。
二人きりで校舎をまわって俺達だけの思い出を作らせてくれ。
9分。8分。
デレデレとあいつに話しかけ続けて居座る客を威嚇しながら、じりじりと時計の針が進むのを待ち望む。
6分。5分。4分。
休憩までついに5分を切ったその時。
不意に教室の外が騒がしくなった。
「うそ! 見られるなんて!」
「しかも二人揃ってるよぉっ」
「写真、誰かっ写真っ!」
主に女子の悲鳴とも言える声で構成されたざわめきは、廊下を広がりどんどんこの教室に近づいてくる。
(……来ねぇわけ、ないよなー!)
ガックリと肩を落としてウンザリしながらドアの方に視線を移す。
残り3分。
予想通りの『あいつら』の姿が教室に現れた瞬間。
教室中の女子が確かに絶叫した。空気が黄色とピンクに染まるかと思った。
いや、女子の中でまったくの平常心な存在がただ一人。
その存在だけを視界に入れて、あいつら──中等部の制服姿の司と私服の鷹嗣は微笑みかける。
「鷹ちゃん! 司くん!」
「やあ、来たよなつみちゃん。もうすぐ休憩だよね? 俺達と詩音と、四人で校内をまわろうか」
「なっちゃん、今日はちょっと涼しいから僕のカーディガン腰に巻いて? 女の子が冷やしたら大変だよ?」
「えっ涼しい? そうかな?」
「そうだよ。鷹嗣兄さんもそう思うよね?」
「うん。廊下は意外に冷えるから。司に借りると良いと思うよ」
「そっかぁ」
そうヘニャリと笑って疑うことをせずになつみはいそいそと司のカーディガンを腰に巻く。
(クソ……ッ! 俺が先に貸しとけば良かった……!)
気になっていたスカートから伸びる足が半分隠れたのは喜ばしいが、どうせなら俺のを巻かせたかった。
いつもそうだ。俺はあの二人と違ってストレートにしか物事を運べない。
「詩音ー! 鷹ちゃんと司くんが来てくれたから休憩しよー!」
あぁだけど。やっぱり兄弟の絆って有るんだろうか。
他の男にお前をとられるくらいなら。
あの二人相手の方がマシだと思うんだ。
朝から溜まったフラストレーションはとっくに限界を突破して。脚を組んだ体勢のままトントンと指で机をノックし続ける。周りのクラスメートがビクビクと俺を窺うが、そんなことはどーでもいい。
おい野郎ども。高校最後の文化祭だからって調子のるんじゃねぇよ。誰に許可とって『そいつ』に話しかけてんだ。
『お前』も、そんな下心しか無いような男達になんて笑って応えなくて良いんだよ。クラスの出し物の喫茶店なんざテキトーにサボっとけよ。
いつもはこの胸をときめかせる無邪気な笑顔が、今は憎らしくてしょうがない。
学校生活は唯一『あいつら』からお前を独占できるチャンスなんだから、そんな可愛く笑わないでくれ。
せめて教室の中だけでは、俺一人のお前でいて欲しいんだ。
(つーかうちの学園、普段無駄に金かけてやがるくせに、なんで文化祭の出し物はこんな庶民的なんだよ!)
答えは単純。
関東の金持ち連中がほぼ集まって来ているうちの学園では、逆に庶民的なイベントの方が物珍しくて人気が有るからだ。
(コスプレ喫茶はなんとか阻止したけど制服にエプロンつけただけの姿も充分危ねーじゃねぇか……! てか、スカートいつもより短くねぇ?!)
今すぐにキッチンなんて裏方の仕事放り出して。
誰もいない教室で腕の中に閉じ込めたい。
『幼馴染』の距離感とやらを、そろそろ本気でぶっ壊させてくれよ。
休憩時間に入るまで後10分。
今日は。今日こそは。
二人きりで校舎をまわって俺達だけの思い出を作らせてくれ。
9分。8分。
デレデレとあいつに話しかけ続けて居座る客を威嚇しながら、じりじりと時計の針が進むのを待ち望む。
6分。5分。4分。
休憩までついに5分を切ったその時。
不意に教室の外が騒がしくなった。
「うそ! 見られるなんて!」
「しかも二人揃ってるよぉっ」
「写真、誰かっ写真っ!」
主に女子の悲鳴とも言える声で構成されたざわめきは、廊下を広がりどんどんこの教室に近づいてくる。
(……来ねぇわけ、ないよなー!)
ガックリと肩を落としてウンザリしながらドアの方に視線を移す。
残り3分。
予想通りの『あいつら』の姿が教室に現れた瞬間。
教室中の女子が確かに絶叫した。空気が黄色とピンクに染まるかと思った。
いや、女子の中でまったくの平常心な存在がただ一人。
その存在だけを視界に入れて、あいつら──中等部の制服姿の司と私服の鷹嗣は微笑みかける。
「鷹ちゃん! 司くん!」
「やあ、来たよなつみちゃん。もうすぐ休憩だよね? 俺達と詩音と、四人で校内をまわろうか」
「なっちゃん、今日はちょっと涼しいから僕のカーディガン腰に巻いて? 女の子が冷やしたら大変だよ?」
「えっ涼しい? そうかな?」
「そうだよ。鷹嗣兄さんもそう思うよね?」
「うん。廊下は意外に冷えるから。司に借りると良いと思うよ」
「そっかぁ」
そうヘニャリと笑って疑うことをせずになつみはいそいそと司のカーディガンを腰に巻く。
(クソ……ッ! 俺が先に貸しとけば良かった……!)
気になっていたスカートから伸びる足が半分隠れたのは喜ばしいが、どうせなら俺のを巻かせたかった。
いつもそうだ。俺はあの二人と違ってストレートにしか物事を運べない。
「詩音ー! 鷹ちゃんと司くんが来てくれたから休憩しよー!」
あぁだけど。やっぱり兄弟の絆って有るんだろうか。
他の男にお前をとられるくらいなら。
あの二人相手の方がマシだと思うんだ。
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