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 八つ当たりだとわかってはいても、あの日ついてきて転んだ弟を恨みすらした。

 そんな時にルミティアの心を救ってくれたのが、騎士団の訓練中にした怪我を治療しに来たアルバだ。
 当時、少年騎士団の治療は同じ年頃の神殿の神子たちの担当だった。

『君はすごく頑張っているよ。俺も訓練が嫌になる日がある。でもね、人はそれでも生きていかねばならないから。ルミティア、もし辛くなったら俺の胸で泣いていいから、二人で頑張ろう』

 そう言って13歳のアルバは10歳のルミティアの頭を撫でてくれた。
 以来、ルミティアにとってアルバは想い人であり、心の支えだ。

(国に増え過ぎた魔族討伐の旅にアルバ様がリーダーとして選ばれた時には心配だったけれど、私もご一緒できて本当に良かった……! アルバ様、ルミティアはどんなことがあっても貴方をサポートしますからね……!)

 国王により魔族討伐のために集められた各分野のエキスパート。
 聖騎士団長のアルバ、聖女ルミティア。更に他に三人、魔術師と武道家と魔物使いが旅のメンバーだ。

 けれど今日、他の三人はルミティアたちと共に来ていない。

 半年間の旅で魔族との戦闘を繰り返し、いよいよ残すは魔族の本拠地を壊滅させるだけ。今日は久しぶりに大きな街の宿に泊まり、英気を養う日だ。

 その街の酒場で店主から聞かされた噂話。

『この街には四百年前に世界の危機を救ったとされる勇者様と聖女様ご夫婦の別荘があってね。お二人は引退後はこの街で過ごされたんだ』

 四百年前にこの世界に訪れた危機。それを救ったとされる勇者一行は、後に勇者と聖女が結婚し夫婦になっている。
 終生仲睦まじい夫婦だったという勇者と聖女は密かにルミティアの憧れだ。

『別荘には今はもう誰も住んでいないけれど、どうやら聖女様の愛用したローブが残されているらしい。あんたたちなら、町長も屋敷の鍵とそのローブを持っていくことを許可してくれるんじゃないかな』

 憧れの聖女が愛用したローブ。
 それは素晴らしい加護がありそうではないか。

『アルバ様、私そのローブをぜひ手に入れたいです……!』

 そうルミティアが頼むと、アルバは即座に屋敷の鍵とローブの譲渡を町長に交渉してくれた。
 アルバの手腕により、酒場で話を聞いた一時間後にはルミティアとアルバは勇者夫婦の別荘だった屋敷の前に立っていた。

『――え、アルバ様と私以外のみんなは屋敷には行かないの?』
『あぁ。せっかくの休息日だから酒をもっと飲みたいしな』
『ルミティアとアルバは幼なじみでもあるんだし、久しぶりにゆっくり街でも歩いて来いよ』
『そうそう。俺たちはいない方が良いだろう』

 そう言って、ルミティアとアルバ以外の三人は自分たちを送り出してくれた。何故かチラチラとアルバの方を気にしながら焦っていたのが気にかかる。

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