2 / 13
2.
しおりを挟む◆
「お帰り美也子。今日の夕飯はどうしようか? 俺が作る?」
午後五時。辟易するほど声を響かせた女が帰るのを待って一階へ降りると、兄が普段と変わらない態度で話しかけてくる。その表情には焦りも照れも誤魔化す様子もない。
「ううん。私が作る。短大の帰りに材料買って来たから」
だから美也子も、ごく自然に普段通りに答えた。
何故なら、兄と女の情事を目撃することなど、美也子にとってはもう珍しいことでもなんでもないのだから。
妹が気が付いていることを承知で兄が家で女を抱き始めたのは、今から4年前――兄が17才、美也子が15才の時だ。
小学生の時に両親が離婚し、引き取った父親が滅多に帰って来ない家は発情した男と女には都合が良かったらしい。週に数回、兄の女たちが出入りするようになった。
――いや、色欲に理性を忘れていたのは常に女の方だけだったけれど。
兄はいつも醒めた目で女を抱いていた。
「今日は兄さんの好きな大根と油揚げのお味噌汁と、焼き魚と肉じゃがにしようと思うの。油揚げはちゃんとお豆腐屋さんで買って来たのよ」
「わざわざ回り道して来てくれたんだ? じゃあサラダは俺が作るよ」
「台所に入れなかったから冷蔵庫に入れられなかったけどね」
そう言外に当て擦るが兄の表情は変わらない。美也子はここ数年、彼が動揺するところを見たことがなかった。
だからだろうか。普段は無関心を装っている兄の女たちについて、無性に貶めてやりたい衝動にかられる。
「今日の女の人、歩き方が変なんじゃない? 踵の擦り減り方が汚かった」
しかし、兄はじゃが芋の皮を剥く美也子の背後で笑うだけだ。
「そうだね。バレエを習ってた美也子に比べたら姿勢は悪いね。だけど――」
「だけど?」
「長いストレートの黒髪が、美也子と同じだと思ったんだ」
そう言って髪の一房にキスをされた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―
甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」
酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。
「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。
ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。
「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」
これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる