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 家に帰ると、見慣れないバッシュがあった。
 きっと美也子が付き合いだした男の物だろう。
 確か美也子と同い年だと言っていたか。なるほど、この類の派手な色使いを好む男らしい。
 
 午後十時二十分。
 未成年が誰かの家にいる時間としては少し遅くないだろうか。
 数年前の自分のことは棚に上げ充也は靴を脱いだ。

 薄暗い廊下を進み階段に足をかける。
 ギシギシと、何かが軋む音がした。

 階段を上るごとに近づく甘い声。
 この声は――美也子だ。
 今、この扉の向こうで妹が嬌声を上げている。
 男に、抱かれている。

 ドロリとした情動を飼い慣らしながら、充也は昏い笑みを唇に乗せた。

 自分の部屋の扉を閉め、妹の部屋に繋がる壁にもたれかかる。

 可愛い可愛い美也子。
 美也子以外の人間になんて興味など無い。言葉を交わすことすら煩わしい。
 充也が抱くのは美也子に共通点の有る女だけだ。

 この感情は愛だなんて言葉くらいじゃ済まない。
 妹が許せば、自分は躊躇無く彼女を抱くだろう。
 そうすれば、他の女なんて誰も要らない。

 だけど美也子は勘違いをしている。
 自分が彼女を抱いたら、いつか終わりが来てしまうと思っている。
 自分が美也子を手離すことなど有るはずが無いのに。

 血の繋がりも、世間の目も、倫理観も。そんなものはどうでも良い。
 自分達の邪魔をするのなら、世界も常識も壊してしまえ。

 美也子を傷つける全てから彼女を守ろう。
 罪も、罪悪感も何もかも、自分が引き受ける。
 充也が恐れているのは、美也子を失うことだけだ。

 でも良い。
 妹が自分の本気を知るまで時間はいくらでも有る。
 今はまだ、彼女の遊戯に付き合おう。


 いつか。いつか必ず美也子の全てを手に入れる。


 妹の嬌声を聞きながら、充也は熱を持ち始めた自身へと手を伸ばした。


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