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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
ボート競争
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今日はとてもいい天気だ。
日差しが強そうなので、海辺に行く前に日焼け止めをしっかり塗る。
エミリーは日に焼けても皮膚が黒くなる代わりに、真っ赤になってヒリヒリしてくるタイプだ。
そのため日差しを遮るためにつばの広い帽子をかぶって、暑いのに長袖のTシャツを着こんだ。
マリカも帽子を被っているのに日傘まで持ってきている。
でもボート遊びの後は、泳ぐつもりなので、二人とも服の下には水着を着ている。
デビ兄とロブは、私たちの重装備に信じられないと頭を振っているが、後で後悔するよりも備えあれば患いなしだ。
2組に分かれてボート競走をすることになった。
デビ兄とマリカチーム、エミリーとロブチームである。
家のボート小屋に行って、中からボートを2艘引っ張り出す。
小屋がある所から海まで水路があるので、一旦水の上に浮かべると綱を引っ張っていくだけでいいから簡単だ。
ボートに乗る前に、暑いけれどライフジャケットは着用する。
こればかりはちゃんとしとかないと。
父様たちとも約束してるからね。
一年ぶりにボートを漕ぐので、最初は腕均しに試し漕ぎをすることにした。
「ロブ、先に漕いで。私は去年漕いだから。」
「僕だって去年漕いだよ。エムはめんどくさいだけだろ。」
「そうとも言う。だって、今満ち潮だから帰りの方が楽でしょ。男の人が力の必要な方を受け持ってよ。ほら~、あっちもデビ兄が漕いでる。」
「もう、都合のいい時だけ男扱いするんだから…。」
ロブはぶつぶつ言っているが、波に逆らって漕ぐのはなかなか大変なのだ。
ぜひとも男の力を発揮してもらいたい。
私達のボート競走は、浜の近くから小さな灯台を目指して漕ぐのが決まりだ。
海から湾へ入る入り口の近くに灯台があるので、昔からちょうどいい目印になっている。
2人で漕ぐときは、往路と復路で漕ぐ人を変える。
ロブが漕ぎだしたが、意外と力強く波を分けてボートが進んでいる。
「上手いじゃない、ロブ。結構スピード出てるよ。」
「はぁ、はぁ。今日は山風が吹いてるみたいだ。」
それはロブにはラッキーだけど、帰りを漕ぐエミリーにはアンラッキーな情報だ。
山から海に向かって風が吹くと、帰りに海から浜に向かって漕ぐときに向かい風になる。
あーあ。
まぁ、しょうがないか。
「エム、そろそろ灯台じゃない?」
「んーー、もうちょっと。…いいよ。ここで交代しよう。」
ロブと座る場所を変えるためにエミリーが腰を上げた時、突風が吹いてきて被っていた帽子が飛んで行った。
「きゃっ、やだ飛んで行っちゃった。ロブ、拾ってー。」
「もー、どっちぃ?」
「えーと、もうちょっと左に寄って。…違う違う逆逆。」
「進行方向に対してどっちか言ってよ。」
「えーーと、右だった。んーーもうちょっと。私もマリカみたいに日傘を持ってくればよかったな。と、れ、な、いーーー。」
すぐそこにあるのに手が届かない。あまり乗り出すとボートから落ちそうになるのだ。
「変わるよ。エムがこっちに座って。」
今度は私がボートを操って、ロブが船尾側に座って帽子に手を伸ばしてくれる。
「よしっ、手に触ったぞっ。もう少しぃーーーっ、取れた!」
「やったぁー。ありがとうっ。さすが私より背が高くなっただけあるね。よかったー。これがないとこんがりトーストに日焼けしちゃう。」
「やれやれ、今度は紐で縛っとけよ。んじゃ、帰るか。」
「はいはい。」
今度は私が漕ぐ、…漕ぐ、……??
「ねぇ、ロブ。全然進まないんだけど。」
「もーまたそんなこと言って、僕に漕がさせようとするー。」
「いや、マジ。嘘だと思うんならやってみてよ。」
ロブは懐疑的だったが、しぶしぶまたエミリーと場所を変わって漕いでくれる。
「……!! やばいよ、エム。引き潮になってる。それに灯台があっちに見える! これ、外海に出ちゃってるじゃないかっ!」
エミリーとロブは真っ青になった。
外海には強い潮流があるから絶対に湾から出てはいけないと小さい頃から言われ続けていたので、頭の芯が痺れて、膝がガクガクと震え出した。
これはとんでもない事態だ。
ロブが力任せに漕ぐが、全然湾の入り口の方に近付かない。
目印の灯台が、どんどん遠くになる。
「…まて、落ち着け。考えろ考えろ。」
エミリーはずっと震えているが、ロブはなんとか打開策を探そうとしている。
「僕たちが最悪戻れなくても、デビッドが捜索隊を頼んでくれる。だから、落ち着いて対処することが大事だ。…エムっ、聞いてる?」
「……うっ、うん。」
「潮の流れをよんで、なんとか岸の方向にボートを向けたいんだけど、エム、わかる?」
「わかるわけないじゃん!」
「僕も、さすがにわからない。……エム、記憶チートが使えないかな。誰か呼び出してみてよっ。」
「えーーー、えーーーーっ?」
エミリーはパニックを起こしてしまって、ロブが何を言い出したのか、頭の中にすんなりと言葉が入ってこない。
「落ち着いて! じゃないと呪文が浮かばないだろっ。」
ロブは無茶を言う。
こんな状態で落ち着けってぇ?!
…でもパニクッてても事態が悪くなるばかりだ。
なんとかしないといけない。
エミリーは目を瞑って深呼吸を始めた。
誰か、誰か助けて。
……その時一つの呪文が頭に浮かんできた。
以前見たことのある言葉だ。
「【オウセン カコウ セト テクラ】」
ピーーンポーーン
『どうしたんじゃ。何かあったのか?』
「あーー、ムハラさんっ。助けてっ。船がっ、ボートがっ。」
『落ち着け。状況を見るに、ボートで海に出たのか…。手漕ぎボートでこの潮流は無理じゃろう。』
「ムハラさん。学者のムハラさんですね。僕はロベルトと言います。何とか潮目をよんでくれませんか? タイミングと方向を言ってくれれば僕が漕ぎます。」
『ロベルトはまだ落ち着いとるようじゃの。わかった。わしは学者になったが、元はギリシャの漁師の息子じゃ。ここは初めての海だが何とかやってみよう。ロベルト、岸の方向を見失うな。そっちの方向を基本軸にするんじゃ。エミリー、周りの海を見てくれ。わしが潮の流れやぶつかり具合を見るからな。よーしっ、もう少ししたら船がちょっと浮き上がる感じがするそのタイミングで、岸の基本軸から斜め三十度の角度で漕ぐつもりで左手に多めに力を入れて漕いでみろっ。…よぉっし今じゃ!』
ロブは漕いだ。
満身に力を入れている。
顔は真っ赤になって額から汗がだらだら流れている。
エミリーはロブの方を向いて神に祈った。
どうかどうか潮流から抜け出させてください。
お願いっ、お願いお願いします!
ロブの荒い息と、オールがこすれるギーッギーッという音だけが響いている。
夏の太陽はぎらぎらと照り付けていて、エミリーの背中は救命胴衣を着ているのにもかかわらず、直火焼きにされているかのように熱くなっていた。
『よしっ。いいぞロベルト。潮の流れが変わった。ちょっと休め。』
ロブはハーハーいって、手で額の汗をぬぐった。
エミリーはハッとして、足元のカバンからタオルを出してロブに渡す。
「サンキュー、エム。はぁー、きっつい。こんなに漕いだの初めてだよ。…腰が痛い。どうですか? ムハラさん。元いた場所に帰れるでしょうか。」
「今度は、私が漕ぐよっ。」
『まて、エム。ちょっと周りの海を見てくれ。』
ムハラさんが判断できるように、エミリーはぐるっと周りを眺めた。
だいぶ沖に流されてきたようだ。
周り中、海で岸がどこにあるのかわからない。
途端に不安になる。
広い広い海の中にこの小さなボートがぽつんと一つ浮かんでいる。
『あっちに鳥がいるな。ロベルト、お前から見て正面に海鳥が見えるだろ。』
「えっ、あの小さい点のように見えるやつですか?」
『だいたい鳥は飛び疲れたら降りて休める場所の近くにいるもんだ。向こうになにかあるな。』
「でも、あっちは来た所とは反対方向に思えるけど…。」
『潮目がさっきの所から二方向に分かれて見えた。お前たちが最初乗っていた強い潮流は、沖へぐんぐん出ていく本流だ。今いるこの潮はさっきのより緩やかにあの鳥のいる方へ向かっている。こういう潮は島の周りをぐるっと回って沖へ出ることが多い。勘だがな。なにかそんな気がするんだ。ほれ、今漕いでないのにボートは反対方向に流されてるだろ。』
確かに。
なんとなく私の座っている方に進んでいる気がする。
『元の岸の方向に戻るよりも、あの鳥がいるところへ行った方がいいと思う。どこでまた強い潮流に捕まるかわからんからな。それにこういう捜索は潮流の流れに沿って行われるものだ。島があれば、そこに行って捜索隊が来るのを待った方がいい。』
「…わかりました。そうしてみます。」
『よし。じゃあ船をターンさせろ。できるか?』
ロブはオールを操作しながらぐるりとボートを回す。
『上手いじゃないか。お前は漁師の息子か?』
エミリーは、こんな時だが吹き出しそうになった。
将来の公爵をつかまえて、漁師の息子とは…。
「エム、なに笑ってんだよ。」
「ごめんごめん。」
『エミリー、今度はおまえが漕ぐんだ。もし島があったら、潮流を抜け出して漕ぐのにロベルトの力がいるからな。』
「はいっ。」
エミリーは気を引き締めて、ロブと席を変わりオールを握った。
日差しが強そうなので、海辺に行く前に日焼け止めをしっかり塗る。
エミリーは日に焼けても皮膚が黒くなる代わりに、真っ赤になってヒリヒリしてくるタイプだ。
そのため日差しを遮るためにつばの広い帽子をかぶって、暑いのに長袖のTシャツを着こんだ。
マリカも帽子を被っているのに日傘まで持ってきている。
でもボート遊びの後は、泳ぐつもりなので、二人とも服の下には水着を着ている。
デビ兄とロブは、私たちの重装備に信じられないと頭を振っているが、後で後悔するよりも備えあれば患いなしだ。
2組に分かれてボート競走をすることになった。
デビ兄とマリカチーム、エミリーとロブチームである。
家のボート小屋に行って、中からボートを2艘引っ張り出す。
小屋がある所から海まで水路があるので、一旦水の上に浮かべると綱を引っ張っていくだけでいいから簡単だ。
ボートに乗る前に、暑いけれどライフジャケットは着用する。
こればかりはちゃんとしとかないと。
父様たちとも約束してるからね。
一年ぶりにボートを漕ぐので、最初は腕均しに試し漕ぎをすることにした。
「ロブ、先に漕いで。私は去年漕いだから。」
「僕だって去年漕いだよ。エムはめんどくさいだけだろ。」
「そうとも言う。だって、今満ち潮だから帰りの方が楽でしょ。男の人が力の必要な方を受け持ってよ。ほら~、あっちもデビ兄が漕いでる。」
「もう、都合のいい時だけ男扱いするんだから…。」
ロブはぶつぶつ言っているが、波に逆らって漕ぐのはなかなか大変なのだ。
ぜひとも男の力を発揮してもらいたい。
私達のボート競走は、浜の近くから小さな灯台を目指して漕ぐのが決まりだ。
海から湾へ入る入り口の近くに灯台があるので、昔からちょうどいい目印になっている。
2人で漕ぐときは、往路と復路で漕ぐ人を変える。
ロブが漕ぎだしたが、意外と力強く波を分けてボートが進んでいる。
「上手いじゃない、ロブ。結構スピード出てるよ。」
「はぁ、はぁ。今日は山風が吹いてるみたいだ。」
それはロブにはラッキーだけど、帰りを漕ぐエミリーにはアンラッキーな情報だ。
山から海に向かって風が吹くと、帰りに海から浜に向かって漕ぐときに向かい風になる。
あーあ。
まぁ、しょうがないか。
「エム、そろそろ灯台じゃない?」
「んーー、もうちょっと。…いいよ。ここで交代しよう。」
ロブと座る場所を変えるためにエミリーが腰を上げた時、突風が吹いてきて被っていた帽子が飛んで行った。
「きゃっ、やだ飛んで行っちゃった。ロブ、拾ってー。」
「もー、どっちぃ?」
「えーと、もうちょっと左に寄って。…違う違う逆逆。」
「進行方向に対してどっちか言ってよ。」
「えーーと、右だった。んーーもうちょっと。私もマリカみたいに日傘を持ってくればよかったな。と、れ、な、いーーー。」
すぐそこにあるのに手が届かない。あまり乗り出すとボートから落ちそうになるのだ。
「変わるよ。エムがこっちに座って。」
今度は私がボートを操って、ロブが船尾側に座って帽子に手を伸ばしてくれる。
「よしっ、手に触ったぞっ。もう少しぃーーーっ、取れた!」
「やったぁー。ありがとうっ。さすが私より背が高くなっただけあるね。よかったー。これがないとこんがりトーストに日焼けしちゃう。」
「やれやれ、今度は紐で縛っとけよ。んじゃ、帰るか。」
「はいはい。」
今度は私が漕ぐ、…漕ぐ、……??
「ねぇ、ロブ。全然進まないんだけど。」
「もーまたそんなこと言って、僕に漕がさせようとするー。」
「いや、マジ。嘘だと思うんならやってみてよ。」
ロブは懐疑的だったが、しぶしぶまたエミリーと場所を変わって漕いでくれる。
「……!! やばいよ、エム。引き潮になってる。それに灯台があっちに見える! これ、外海に出ちゃってるじゃないかっ!」
エミリーとロブは真っ青になった。
外海には強い潮流があるから絶対に湾から出てはいけないと小さい頃から言われ続けていたので、頭の芯が痺れて、膝がガクガクと震え出した。
これはとんでもない事態だ。
ロブが力任せに漕ぐが、全然湾の入り口の方に近付かない。
目印の灯台が、どんどん遠くになる。
「…まて、落ち着け。考えろ考えろ。」
エミリーはずっと震えているが、ロブはなんとか打開策を探そうとしている。
「僕たちが最悪戻れなくても、デビッドが捜索隊を頼んでくれる。だから、落ち着いて対処することが大事だ。…エムっ、聞いてる?」
「……うっ、うん。」
「潮の流れをよんで、なんとか岸の方向にボートを向けたいんだけど、エム、わかる?」
「わかるわけないじゃん!」
「僕も、さすがにわからない。……エム、記憶チートが使えないかな。誰か呼び出してみてよっ。」
「えーーー、えーーーーっ?」
エミリーはパニックを起こしてしまって、ロブが何を言い出したのか、頭の中にすんなりと言葉が入ってこない。
「落ち着いて! じゃないと呪文が浮かばないだろっ。」
ロブは無茶を言う。
こんな状態で落ち着けってぇ?!
…でもパニクッてても事態が悪くなるばかりだ。
なんとかしないといけない。
エミリーは目を瞑って深呼吸を始めた。
誰か、誰か助けて。
……その時一つの呪文が頭に浮かんできた。
以前見たことのある言葉だ。
「【オウセン カコウ セト テクラ】」
ピーーンポーーン
『どうしたんじゃ。何かあったのか?』
「あーー、ムハラさんっ。助けてっ。船がっ、ボートがっ。」
『落ち着け。状況を見るに、ボートで海に出たのか…。手漕ぎボートでこの潮流は無理じゃろう。』
「ムハラさん。学者のムハラさんですね。僕はロベルトと言います。何とか潮目をよんでくれませんか? タイミングと方向を言ってくれれば僕が漕ぎます。」
『ロベルトはまだ落ち着いとるようじゃの。わかった。わしは学者になったが、元はギリシャの漁師の息子じゃ。ここは初めての海だが何とかやってみよう。ロベルト、岸の方向を見失うな。そっちの方向を基本軸にするんじゃ。エミリー、周りの海を見てくれ。わしが潮の流れやぶつかり具合を見るからな。よーしっ、もう少ししたら船がちょっと浮き上がる感じがするそのタイミングで、岸の基本軸から斜め三十度の角度で漕ぐつもりで左手に多めに力を入れて漕いでみろっ。…よぉっし今じゃ!』
ロブは漕いだ。
満身に力を入れている。
顔は真っ赤になって額から汗がだらだら流れている。
エミリーはロブの方を向いて神に祈った。
どうかどうか潮流から抜け出させてください。
お願いっ、お願いお願いします!
ロブの荒い息と、オールがこすれるギーッギーッという音だけが響いている。
夏の太陽はぎらぎらと照り付けていて、エミリーの背中は救命胴衣を着ているのにもかかわらず、直火焼きにされているかのように熱くなっていた。
『よしっ。いいぞロベルト。潮の流れが変わった。ちょっと休め。』
ロブはハーハーいって、手で額の汗をぬぐった。
エミリーはハッとして、足元のカバンからタオルを出してロブに渡す。
「サンキュー、エム。はぁー、きっつい。こんなに漕いだの初めてだよ。…腰が痛い。どうですか? ムハラさん。元いた場所に帰れるでしょうか。」
「今度は、私が漕ぐよっ。」
『まて、エム。ちょっと周りの海を見てくれ。』
ムハラさんが判断できるように、エミリーはぐるっと周りを眺めた。
だいぶ沖に流されてきたようだ。
周り中、海で岸がどこにあるのかわからない。
途端に不安になる。
広い広い海の中にこの小さなボートがぽつんと一つ浮かんでいる。
『あっちに鳥がいるな。ロベルト、お前から見て正面に海鳥が見えるだろ。』
「えっ、あの小さい点のように見えるやつですか?」
『だいたい鳥は飛び疲れたら降りて休める場所の近くにいるもんだ。向こうになにかあるな。』
「でも、あっちは来た所とは反対方向に思えるけど…。」
『潮目がさっきの所から二方向に分かれて見えた。お前たちが最初乗っていた強い潮流は、沖へぐんぐん出ていく本流だ。今いるこの潮はさっきのより緩やかにあの鳥のいる方へ向かっている。こういう潮は島の周りをぐるっと回って沖へ出ることが多い。勘だがな。なにかそんな気がするんだ。ほれ、今漕いでないのにボートは反対方向に流されてるだろ。』
確かに。
なんとなく私の座っている方に進んでいる気がする。
『元の岸の方向に戻るよりも、あの鳥がいるところへ行った方がいいと思う。どこでまた強い潮流に捕まるかわからんからな。それにこういう捜索は潮流の流れに沿って行われるものだ。島があれば、そこに行って捜索隊が来るのを待った方がいい。』
「…わかりました。そうしてみます。」
『よし。じゃあ船をターンさせろ。できるか?』
ロブはオールを操作しながらぐるりとボートを回す。
『上手いじゃないか。お前は漁師の息子か?』
エミリーは、こんな時だが吹き出しそうになった。
将来の公爵をつかまえて、漁師の息子とは…。
「エム、なに笑ってんだよ。」
「ごめんごめん。」
『エミリー、今度はおまえが漕ぐんだ。もし島があったら、潮流を抜け出して漕ぐのにロベルトの力がいるからな。』
「はいっ。」
エミリーは気を引き締めて、ロブと席を変わりオールを握った。
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