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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
サマー家のサマー
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潮の匂いを嗅ぐと夏が来たなと感じるのは、夏休みの初めにいつも来ている別荘の影響が大きいだろう。
サマー家の家族全員でここに来ることは毎年の恒例になっている。
別荘と言っても大きな建物ではなくてサマーハウスと呼ばれる木造のロッジのようなものだ。
サマー家のサマーハウス。
語呂がいいでしょ。
ここクラフの町は海辺の漁師町なのだが、風光明媚であることから昔から多くの貴族がこの地に別荘を構えて来た。
温泉で有名なバースの海辺バージョンといったところだ。
今年の夏もエミリーたちは、ここクラフに来ている。
このクラフという名前も蟹という意味のクラブが訛ってつけられたのではないかと思うのだが、蟹で有名なところだ。
夏は蟹の季節ではないので、今は冷凍しかないけどね。
今年も一緒に来たマリカ、いつものロブ、両親にキャス、デビ兄の総勢7人で今日からひと月程の別荘暮らしだ。
今年はアル兄がイタリアへ旅行に行くので前半は参加しない。
それにブリーがアイルランドのスクル村に宿の手伝いに行ってしまったので、少し寂しいスタートだ。
まずは、食糧を調達しなければならない。
コックのジボアが夏季休暇でフランスに帰っているので、自分たちで食べるものを用意しなくてはならないのだ。
先発隊でエミリーとマリカが買い物に行くことになった。
ロブとデビ兄はここに着いた途端に海に飛び込んで戻ってこない。
両親とキャスは将来の事で話があるというので、私たち2人が買い物係を仰せつかった。
まっ、いいけどね。
ここの町は変わったお店がたくさんあるから、ショッピングは楽しいのだ。
「ねえマリカ、まだお昼までに間があるから、お店をひやかして歩こうか。」
「そうね。私、去年見たウィンドウチャイムが欲しいと思って今年はおこずかいを持ってきてるの。」
「ああ、あれね。あのガラスで出来てるいい音がするやつね。」
「エムのお気に入りの雑貨屋さんだと言って、去年連れて行ってくれたでしょう?」
「行った行った。いいよ、行こう。私も欲しいものがあるんだ。」
私達はまず町の裏通りにあるカトリーヌの店に行くことにした。
ここはカトリーヌ・チェールという外国人が経営する異国情緒溢れる店だ。
店の入り口には豚の置物が置かれている。
この豚が愛嬌のある顔をしているので、いつも店に入りながら頭を撫でてしまう。
「こんにちはー。」
ドアを開けて中に入るとふんわりと香木を炊く匂いがした。
クーラーがよく効いているので、暑い中を歩いてきた身体が喜んでいる。
店内は少し薄暗く、並べられてあるアジア系の雑貨のせいか、魔法使いの家のような不思議な雰囲気が漂っている。
「はーい。ちょっと待ってください。すぐ出ます。」
店の奥から声が聞こえきたので、私達は、ゆっくりと商品を眺めさせてもらうことにした。
マリカは直ぐにいくつかのウィンドウチャイムがぶら下がっているコーナーに行き、どれにしようかと選んでいる。
エミリーはレターセットとハンコが欲しかったので、奥の棚の文具コーナーに向かった。
「ごめんなさいね~。お待たせしました。」
カトリーヌさんが赤ちゃんを連れて店に出て来た。
あれっ?
下の女の子はもう大きくなって保育園に行ってるって聞いてたけど。
「お姉さん、赤ちゃんが出来たの?」
「あら、エミリーちゃん。久しぶりね。そうかもう7月だものね。この子はこの4月の終わりに生まれたのよ。女の子でーす、よろしくね。サマー家の皆さんはお元気?」
「うん、みんな元気だよ。アル兄さまは今年は後から来る。でもブリーを除いて他はみんな来てるよ。」
「あら、ブリジットさんはどうしたの?」
「今年は婚約者のところ。」
「ああーー、もしかしてあの有名なB&Bの?」
「…やっぱり知ってるのねあの騒動。」
「そりゃあそうよ。クラフの町ではサマー家は有名だもの。それにロベルト君も小さい頃からのお馴染みだし。でもみんなあなた達の味方だから心配しなくてもうるさくは言わないわよ。」
「それを聞いて安心した。もう騒動はごめんだもん。」
「ふふっ、一時期ずうっとテレビに出てたもんね。」
マリカの選んだウィンドウチャイムとエミリーの買った文具は、食料品を買ってから帰りにまたここに寄って受け取ることにして、一旦店を出る。
◇◇◇
「さて、昼ご飯なににしようかなぁ。マリカ何が食べたい?」
「うーん。暑いから何かさっぱりしたものを食べたいけど…エム、なつみさんを呼び出してみたら? どっちにしろ料理を作らなきゃいけないでしょ。おばさまとキャスがまだ話をしてたら、私達で作ることになるんだから、材料を買うところから相談すれば早いじゃない。」
「そうだね。じゃあ、なつみさんに聞いてみよう。【アラバ グアイユ チキ チキュウ】」
ピーーンポーーン
『はぁーい。お久しぶりのなつみさんでーす。』
「こんにちは。今日は夏のお昼ごはんに何を食べようかと思ってるんだけど、何かお勧めある?」
『ふんふん。冷蔵庫には何があるの?』
「別荘に来たばかりだから何にもない。今買い出しに来てるところなの。」
『別荘? すごぉーい!リッチねぇ。うーん…夏のお昼ごはんと言えばソーメンなんだけど。ここはイギリスだもんねぇ。冷製パスタなんてどうかしら?』
「いいかもっ。それとロブとデビ兄が海で泳いでるから、何か腹ペコの男の人たちにがっつり系のおかずを買っていけばいいか。」
海沿いの大通りにあるスーパーマーケットにやってきた。
エミリーは目立つと困るので、なつみさんには買う物を頭の中で指示してもらうことにする。
「まず何から買う?」
(そうねぇ。夏だからさっぱりとトマト味にしましょうか。まずトマトの缶詰を買って。ピューレ状のやつね。それから、ブイヨン。バジル。細めの乾燥パスタ麺。塩はあるんでしょ?)
「うん。基本の調味料は持ってきてる。」
(じゃあ後は出汁に何を使うかよね、ミートボールにするか…でも海の近くなら白身魚とかのお魚系もいいわね。魚介コーナーに行ってみて。)
魚介売り場に来ると、小さな氷の上にたくさんの魚が並べてあった。
新鮮でどれもおいしそうだ。
(あらっ、あの冷凍の蟹が安いじゃない。小さく切ってあるからあれなら料理しやすいわ。)
「えっ、わざわざ冷凍を使うの? せっかく新鮮なお魚があるのに…。」
(使い方よ。今回はパスタの味付けだからね。それに蟹はいい出汁が出るし、御馳走感もあるでしょ。またメイン料理の時にお魚を買えばいいじゃない。冷凍の蟹なら臭み消しに白ワインも買って帰りましょう。)
そして帰りにファーストフード店でフィッシュアンドチップスの特大パックとサラダを買って、カトリーヌさんの店にも寄ってから別荘に帰った。
暑い中、大荷物を持って歩き回ったのでくたくただったが、昼ご飯を食べたみんなが感激して喜んでくれたので、マリカと2人でVサインをした。
なつみさんが言ったように蟹の出汁は最高だった。
バジルと白ワインもうまく味を引き立ている。
そしてトマトの酸味で全体がさっぱりとしているのに、海の香りとコクがしっかりついていて、いくらでも食べられた。
夕方、少し風の出て来たテラスのベンチで海を見ながら、マリカやロブ、デビ兄と話をした。
明日はボートで海に出ることになりそうだ。
湾の中なら大丈夫だろう、ということで父様たちの許可も出た。
ここで本でも読もうよー、というエミリーの主張は却下された。
しょうがない、つき合いますか。
しかし、この判断を後からみんなで悔やむことになった。
サマー家の家族全員でここに来ることは毎年の恒例になっている。
別荘と言っても大きな建物ではなくてサマーハウスと呼ばれる木造のロッジのようなものだ。
サマー家のサマーハウス。
語呂がいいでしょ。
ここクラフの町は海辺の漁師町なのだが、風光明媚であることから昔から多くの貴族がこの地に別荘を構えて来た。
温泉で有名なバースの海辺バージョンといったところだ。
今年の夏もエミリーたちは、ここクラフに来ている。
このクラフという名前も蟹という意味のクラブが訛ってつけられたのではないかと思うのだが、蟹で有名なところだ。
夏は蟹の季節ではないので、今は冷凍しかないけどね。
今年も一緒に来たマリカ、いつものロブ、両親にキャス、デビ兄の総勢7人で今日からひと月程の別荘暮らしだ。
今年はアル兄がイタリアへ旅行に行くので前半は参加しない。
それにブリーがアイルランドのスクル村に宿の手伝いに行ってしまったので、少し寂しいスタートだ。
まずは、食糧を調達しなければならない。
コックのジボアが夏季休暇でフランスに帰っているので、自分たちで食べるものを用意しなくてはならないのだ。
先発隊でエミリーとマリカが買い物に行くことになった。
ロブとデビ兄はここに着いた途端に海に飛び込んで戻ってこない。
両親とキャスは将来の事で話があるというので、私たち2人が買い物係を仰せつかった。
まっ、いいけどね。
ここの町は変わったお店がたくさんあるから、ショッピングは楽しいのだ。
「ねえマリカ、まだお昼までに間があるから、お店をひやかして歩こうか。」
「そうね。私、去年見たウィンドウチャイムが欲しいと思って今年はおこずかいを持ってきてるの。」
「ああ、あれね。あのガラスで出来てるいい音がするやつね。」
「エムのお気に入りの雑貨屋さんだと言って、去年連れて行ってくれたでしょう?」
「行った行った。いいよ、行こう。私も欲しいものがあるんだ。」
私達はまず町の裏通りにあるカトリーヌの店に行くことにした。
ここはカトリーヌ・チェールという外国人が経営する異国情緒溢れる店だ。
店の入り口には豚の置物が置かれている。
この豚が愛嬌のある顔をしているので、いつも店に入りながら頭を撫でてしまう。
「こんにちはー。」
ドアを開けて中に入るとふんわりと香木を炊く匂いがした。
クーラーがよく効いているので、暑い中を歩いてきた身体が喜んでいる。
店内は少し薄暗く、並べられてあるアジア系の雑貨のせいか、魔法使いの家のような不思議な雰囲気が漂っている。
「はーい。ちょっと待ってください。すぐ出ます。」
店の奥から声が聞こえきたので、私達は、ゆっくりと商品を眺めさせてもらうことにした。
マリカは直ぐにいくつかのウィンドウチャイムがぶら下がっているコーナーに行き、どれにしようかと選んでいる。
エミリーはレターセットとハンコが欲しかったので、奥の棚の文具コーナーに向かった。
「ごめんなさいね~。お待たせしました。」
カトリーヌさんが赤ちゃんを連れて店に出て来た。
あれっ?
下の女の子はもう大きくなって保育園に行ってるって聞いてたけど。
「お姉さん、赤ちゃんが出来たの?」
「あら、エミリーちゃん。久しぶりね。そうかもう7月だものね。この子はこの4月の終わりに生まれたのよ。女の子でーす、よろしくね。サマー家の皆さんはお元気?」
「うん、みんな元気だよ。アル兄さまは今年は後から来る。でもブリーを除いて他はみんな来てるよ。」
「あら、ブリジットさんはどうしたの?」
「今年は婚約者のところ。」
「ああーー、もしかしてあの有名なB&Bの?」
「…やっぱり知ってるのねあの騒動。」
「そりゃあそうよ。クラフの町ではサマー家は有名だもの。それにロベルト君も小さい頃からのお馴染みだし。でもみんなあなた達の味方だから心配しなくてもうるさくは言わないわよ。」
「それを聞いて安心した。もう騒動はごめんだもん。」
「ふふっ、一時期ずうっとテレビに出てたもんね。」
マリカの選んだウィンドウチャイムとエミリーの買った文具は、食料品を買ってから帰りにまたここに寄って受け取ることにして、一旦店を出る。
◇◇◇
「さて、昼ご飯なににしようかなぁ。マリカ何が食べたい?」
「うーん。暑いから何かさっぱりしたものを食べたいけど…エム、なつみさんを呼び出してみたら? どっちにしろ料理を作らなきゃいけないでしょ。おばさまとキャスがまだ話をしてたら、私達で作ることになるんだから、材料を買うところから相談すれば早いじゃない。」
「そうだね。じゃあ、なつみさんに聞いてみよう。【アラバ グアイユ チキ チキュウ】」
ピーーンポーーン
『はぁーい。お久しぶりのなつみさんでーす。』
「こんにちは。今日は夏のお昼ごはんに何を食べようかと思ってるんだけど、何かお勧めある?」
『ふんふん。冷蔵庫には何があるの?』
「別荘に来たばかりだから何にもない。今買い出しに来てるところなの。」
『別荘? すごぉーい!リッチねぇ。うーん…夏のお昼ごはんと言えばソーメンなんだけど。ここはイギリスだもんねぇ。冷製パスタなんてどうかしら?』
「いいかもっ。それとロブとデビ兄が海で泳いでるから、何か腹ペコの男の人たちにがっつり系のおかずを買っていけばいいか。」
海沿いの大通りにあるスーパーマーケットにやってきた。
エミリーは目立つと困るので、なつみさんには買う物を頭の中で指示してもらうことにする。
「まず何から買う?」
(そうねぇ。夏だからさっぱりとトマト味にしましょうか。まずトマトの缶詰を買って。ピューレ状のやつね。それから、ブイヨン。バジル。細めの乾燥パスタ麺。塩はあるんでしょ?)
「うん。基本の調味料は持ってきてる。」
(じゃあ後は出汁に何を使うかよね、ミートボールにするか…でも海の近くなら白身魚とかのお魚系もいいわね。魚介コーナーに行ってみて。)
魚介売り場に来ると、小さな氷の上にたくさんの魚が並べてあった。
新鮮でどれもおいしそうだ。
(あらっ、あの冷凍の蟹が安いじゃない。小さく切ってあるからあれなら料理しやすいわ。)
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(使い方よ。今回はパスタの味付けだからね。それに蟹はいい出汁が出るし、御馳走感もあるでしょ。またメイン料理の時にお魚を買えばいいじゃない。冷凍の蟹なら臭み消しに白ワインも買って帰りましょう。)
そして帰りにファーストフード店でフィッシュアンドチップスの特大パックとサラダを買って、カトリーヌさんの店にも寄ってから別荘に帰った。
暑い中、大荷物を持って歩き回ったのでくたくただったが、昼ご飯を食べたみんなが感激して喜んでくれたので、マリカと2人でVサインをした。
なつみさんが言ったように蟹の出汁は最高だった。
バジルと白ワインもうまく味を引き立ている。
そしてトマトの酸味で全体がさっぱりとしているのに、海の香りとコクがしっかりついていて、いくらでも食べられた。
夕方、少し風の出て来たテラスのベンチで海を見ながら、マリカやロブ、デビ兄と話をした。
明日はボートで海に出ることになりそうだ。
湾の中なら大丈夫だろう、ということで父様たちの許可も出た。
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