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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
新しい風
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9月が来て、ジュニア・ハイの2年生になった。
新学年と言っても、うちの学校は卒業するまでクラス替えがないので生徒はずっと同じメンバーだ。
担任の先生が変わるぐらいである。
私達の担任教諭は、国語のミズ・ナタリー・スマイスになった。
この先生は読書をこよなく愛する先生で、よく宿題で読書感想文を出す。
エミリーとしては大歓迎の先生だ。
去年は男の数学の先生だったので、親しく話をすることもなかった。
しかし、読書の苦手なマリカはがっくりきていた。
「やばいなぁ。クラス担任だったら作文も念を入れて読まれるかしら…。」
マリカときたら、エミリーに本のあらすじをしゃべらせて、それを基に感想文を書いたりするのだ。
それでいて国語のテストの成績はいいのだから、器用なものだ。
それと、珍しいことに1人の転校生がやって来た。
これが新たなる問題だった。
ミズ・スマイスに言われてみんなの前に立った男の子は、ライオネル・カドガンと名乗った。
教室中が一瞬シーンとして、その後一気に大騒ぎになった。
無理もない。その男の子は、俳優のクロード・ベネットだったのだ!
ミズ・スマイスが鞭で机の角を叩いて、「静かに! 静かにしなさいっ!」と大声を張り上げてやっと皆も静かになった。
しかし、空気の中にまだ興奮の陽炎が立っている。
「エミリー・サマー、立って。」と先生に言われて立ち上がると、「ライオネル、エミリーの隣に座って。エミリー、ライオネルに学校の事を教えてあげてね。」と申しつけられてしまった。
先生が思っていることはわかる。
ストランド伯爵の孫に任せてしまえば、他の生徒はうるさく言えないだろうと考えたのだろう。
なんともめんどくさいお守り係を申しつけられたものだ…頭が痛くなってくる。
ライオネルはサッと椅子に腰かけると、エミリーの方を向いて映画の中と同じ笑顔で「よろしく。」と言った。
その声を聴いていた周りの女の子は、ほぅーと溜息をつく。
…スターも大変だね。
これでは日常生活を送るのもさぞや疲れることだろう。
先生からの連絡事項は、写真やメール、インターネットへの情報等々おかしな行動をしたものは退学と処すといったライオネル対策の為の注意事項が中心だった。
とにかく彼をクロード・ベネットではなくクラスメイトのライオネル・カドガンとして扱うようにとのことである。
また無理なことを…。
みんなが彼のいる日常に慣れるまでは、台風が襲来したような毎日だろう。
斜め後ろに座っていたマリカと顔を見合わせて、私たちは違う溜息をついた。
◇◇◇
昼休みに、ライオネルを誘って食堂に行った。
彼はスターの割に目立とうとする様子はない。
私達が誘っても「ありがとう。」とぼそりと言って、大人しく後をついてくる。
ランチも私達と同じ日替わりプレートを頼んだ。
これなら大騒ぎにはならないかしら…一瞬そう思ったが、甘かった。
3人でご飯を食べていると、普段話したこともない子が「ハーイ、エミリー。」と言って側を通っていくのだ。
いちいち返事をしていると、落ち着いてご飯も喉を通らない。
「これは、しばらく食堂はダメだね。明日からランチボックスにする?」
マリカがそう言うが、ランチボックスにしてもどこで食べるかという問題がある。
「おじい様に頼んでみるよ。あの家で食べさせてもらおう。」
近くに住んでいる子は、家に帰って食べてくることも多い。
私達もしばらくの間はそうしよう。
「ごめんね。僕のせいで。でもおじい様って、誰?」
「そうか、知らないよね。私のおじい様はストランド伯爵って言って、ここのストランド伯爵領のいわゆる領主になるの。私は、エミリー・サマー。その人の孫でサマー子爵家の末娘。こちらは、親友のマリカ・モロー、モロー商会の会頭の長女よ。」
自分たちの詳しい自己紹介をすると、ライオネルはびっくりしたようだった。
「もしかして、一時期有名だったあのゴールデンガール?」
有名人に、有名だって言われたよ…。
「女の子って変わるねー。あれは半年ぐらい前の事だっただろ? でも雰囲気が全然違う。」
「エムは、最近婚約もしたしね。」
またマリカ、余計な情報を…。
「婚約? まさかあの公爵の息子とっ?!」
「そうだけど…声が大きいわよ。ライオネル。」
エミリーが窘めると、ライオネルは首をすくめた。
またそういう所作もテレビドラマで見た時と同じである。
「ごめん。でも僕より名が知れた人がいて安心したな。…えっと僕のことは、ライって呼んでくれる? ライオネルっていわれると母さんに叱られてるみたいだ。」
「…そうか、あなたにも母親はいるよね。なんか変な感じ。」
そうだね。
いくら自分たちと同じ学生だと言われても、マリカが言うように目の前の男の子にはなんか現実感がない。
「映画やテレビに出てても、実際は普通の生活をしてるんだよ。この学校に転校して来たんだって、親父がここに最近できた医局に転勤になったからなんだ。」
「ああ、中央病院ね。何科なの?」
「外科医なんだ。消化器外科。」
「へぇー。うちのお母さんが一度大腸検査に行った事ある。」
そう言えば、マリカのお母さんは去年体調を崩したことがあったね。
こんな話をしているとライオネルはただの医者の息子に思えなくもない。
だがそんな私たちの話を息をひそめて聞いているっぽい周りの視線の事を考えると…。
やっぱり明日から伯爵邸だねと思ったエミリーだった。
新学年と言っても、うちの学校は卒業するまでクラス替えがないので生徒はずっと同じメンバーだ。
担任の先生が変わるぐらいである。
私達の担任教諭は、国語のミズ・ナタリー・スマイスになった。
この先生は読書をこよなく愛する先生で、よく宿題で読書感想文を出す。
エミリーとしては大歓迎の先生だ。
去年は男の数学の先生だったので、親しく話をすることもなかった。
しかし、読書の苦手なマリカはがっくりきていた。
「やばいなぁ。クラス担任だったら作文も念を入れて読まれるかしら…。」
マリカときたら、エミリーに本のあらすじをしゃべらせて、それを基に感想文を書いたりするのだ。
それでいて国語のテストの成績はいいのだから、器用なものだ。
それと、珍しいことに1人の転校生がやって来た。
これが新たなる問題だった。
ミズ・スマイスに言われてみんなの前に立った男の子は、ライオネル・カドガンと名乗った。
教室中が一瞬シーンとして、その後一気に大騒ぎになった。
無理もない。その男の子は、俳優のクロード・ベネットだったのだ!
ミズ・スマイスが鞭で机の角を叩いて、「静かに! 静かにしなさいっ!」と大声を張り上げてやっと皆も静かになった。
しかし、空気の中にまだ興奮の陽炎が立っている。
「エミリー・サマー、立って。」と先生に言われて立ち上がると、「ライオネル、エミリーの隣に座って。エミリー、ライオネルに学校の事を教えてあげてね。」と申しつけられてしまった。
先生が思っていることはわかる。
ストランド伯爵の孫に任せてしまえば、他の生徒はうるさく言えないだろうと考えたのだろう。
なんともめんどくさいお守り係を申しつけられたものだ…頭が痛くなってくる。
ライオネルはサッと椅子に腰かけると、エミリーの方を向いて映画の中と同じ笑顔で「よろしく。」と言った。
その声を聴いていた周りの女の子は、ほぅーと溜息をつく。
…スターも大変だね。
これでは日常生活を送るのもさぞや疲れることだろう。
先生からの連絡事項は、写真やメール、インターネットへの情報等々おかしな行動をしたものは退学と処すといったライオネル対策の為の注意事項が中心だった。
とにかく彼をクロード・ベネットではなくクラスメイトのライオネル・カドガンとして扱うようにとのことである。
また無理なことを…。
みんなが彼のいる日常に慣れるまでは、台風が襲来したような毎日だろう。
斜め後ろに座っていたマリカと顔を見合わせて、私たちは違う溜息をついた。
◇◇◇
昼休みに、ライオネルを誘って食堂に行った。
彼はスターの割に目立とうとする様子はない。
私達が誘っても「ありがとう。」とぼそりと言って、大人しく後をついてくる。
ランチも私達と同じ日替わりプレートを頼んだ。
これなら大騒ぎにはならないかしら…一瞬そう思ったが、甘かった。
3人でご飯を食べていると、普段話したこともない子が「ハーイ、エミリー。」と言って側を通っていくのだ。
いちいち返事をしていると、落ち着いてご飯も喉を通らない。
「これは、しばらく食堂はダメだね。明日からランチボックスにする?」
マリカがそう言うが、ランチボックスにしてもどこで食べるかという問題がある。
「おじい様に頼んでみるよ。あの家で食べさせてもらおう。」
近くに住んでいる子は、家に帰って食べてくることも多い。
私達もしばらくの間はそうしよう。
「ごめんね。僕のせいで。でもおじい様って、誰?」
「そうか、知らないよね。私のおじい様はストランド伯爵って言って、ここのストランド伯爵領のいわゆる領主になるの。私は、エミリー・サマー。その人の孫でサマー子爵家の末娘。こちらは、親友のマリカ・モロー、モロー商会の会頭の長女よ。」
自分たちの詳しい自己紹介をすると、ライオネルはびっくりしたようだった。
「もしかして、一時期有名だったあのゴールデンガール?」
有名人に、有名だって言われたよ…。
「女の子って変わるねー。あれは半年ぐらい前の事だっただろ? でも雰囲気が全然違う。」
「エムは、最近婚約もしたしね。」
またマリカ、余計な情報を…。
「婚約? まさかあの公爵の息子とっ?!」
「そうだけど…声が大きいわよ。ライオネル。」
エミリーが窘めると、ライオネルは首をすくめた。
またそういう所作もテレビドラマで見た時と同じである。
「ごめん。でも僕より名が知れた人がいて安心したな。…えっと僕のことは、ライって呼んでくれる? ライオネルっていわれると母さんに叱られてるみたいだ。」
「…そうか、あなたにも母親はいるよね。なんか変な感じ。」
そうだね。
いくら自分たちと同じ学生だと言われても、マリカが言うように目の前の男の子にはなんか現実感がない。
「映画やテレビに出てても、実際は普通の生活をしてるんだよ。この学校に転校して来たんだって、親父がここに最近できた医局に転勤になったからなんだ。」
「ああ、中央病院ね。何科なの?」
「外科医なんだ。消化器外科。」
「へぇー。うちのお母さんが一度大腸検査に行った事ある。」
そう言えば、マリカのお母さんは去年体調を崩したことがあったね。
こんな話をしているとライオネルはただの医者の息子に思えなくもない。
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