サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

文字の大きさ
35 / 100
「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー

新しい風

しおりを挟む
9月が来て、ジュニア・ハイの2年生になった。

新学年と言っても、うちの学校は卒業するまでクラス替えがないので生徒はずっと同じメンバーだ。
担任の先生が変わるぐらいである。

私達の担任教諭は、国語のミズ・ナタリー・スマイスになった。

この先生は読書をこよなく愛する先生で、よく宿題で読書感想文を出す。
エミリーとしては大歓迎の先生だ。
去年は男の数学の先生だったので、親しく話をすることもなかった。

しかし、読書の苦手なマリカはがっくりきていた。

「やばいなぁ。クラス担任だったら作文も念を入れて読まれるかしら…。」

マリカときたら、エミリーに本のあらすじをしゃべらせて、それを基に感想文を書いたりするのだ。
それでいて国語のテストの成績はいいのだから、器用なものだ。


それと、珍しいことに1人の転校生がやって来た。

これが新たなる問題だった。

ミズ・スマイスに言われてみんなの前に立った男の子は、ライオネル・カドガンと名乗った。

教室中が一瞬シーンとして、その後一気に大騒ぎになった。


無理もない。その男の子は、俳優のクロード・ベネットだったのだ!

ミズ・スマイスが鞭で机の角を叩いて、「静かに! 静かにしなさいっ!」と大声を張り上げてやっと皆も静かになった。
しかし、空気の中にまだ興奮の陽炎が立っている。


「エミリー・サマー、立って。」と先生に言われて立ち上がると、「ライオネル、エミリーの隣に座って。エミリー、ライオネルに学校の事を教えてあげてね。」と申しつけられてしまった。

先生が思っていることはわかる。
ストランド伯爵の孫に任せてしまえば、他の生徒はうるさく言えないだろうと考えたのだろう。

なんともめんどくさいお守り係を申しつけられたものだ…頭が痛くなってくる。

ライオネルはサッと椅子に腰かけると、エミリーの方を向いて映画の中と同じ笑顔で「よろしく。」と言った。

その声を聴いていた周りの女の子は、ほぅーと溜息をつく。

…スターも大変だね。
これでは日常生活を送るのもさぞや疲れることだろう。

先生からの連絡事項は、写真やメール、インターネットへの情報等々おかしな行動をしたものは退学と処すといったライオネル対策の為の注意事項が中心だった。
とにかく彼をクロード・ベネットではなくクラスメイトのライオネル・カドガンとして扱うようにとのことである。

また無理なことを…。

みんなが彼のいる日常に慣れるまでは、台風が襲来したような毎日だろう。
斜め後ろに座っていたマリカと顔を見合わせて、私たちは違う溜息をついた。



◇◇◇



 昼休みに、ライオネルを誘って食堂に行った。

彼はスターの割に目立とうとする様子はない。
私達が誘っても「ありがとう。」とぼそりと言って、大人しく後をついてくる。

ランチも私達と同じ日替わりプレートを頼んだ。
これなら大騒ぎにはならないかしら…一瞬そう思ったが、甘かった。

3人でご飯を食べていると、普段話したこともない子が「ハーイ、エミリー。」と言って側を通っていくのだ。
いちいち返事をしていると、落ち着いてご飯も喉を通らない。


「これは、しばらく食堂はダメだね。明日からランチボックスにする?」

マリカがそう言うが、ランチボックスにしてもどこで食べるかという問題がある。

「おじい様に頼んでみるよ。あの家で食べさせてもらおう。」

近くに住んでいる子は、家に帰って食べてくることも多い。
私達もしばらくの間はそうしよう。


「ごめんね。僕のせいで。でもおじい様って、誰?」

「そうか、知らないよね。私のおじい様はストランド伯爵って言って、ここのストランド伯爵領のいわゆる領主になるの。私は、エミリー・サマー。その人の孫でサマー子爵家の末娘。こちらは、親友のマリカ・モロー、モロー商会の会頭の長女よ。」

自分たちの詳しい自己紹介をすると、ライオネルはびっくりしたようだった。


「もしかして、一時期有名だったあのゴールデンガール?」

有名人に、有名だって言われたよ…。

「女の子って変わるねー。あれは半年ぐらい前の事だっただろ? でも雰囲気が全然違う。」

「エムは、最近婚約もしたしね。」

またマリカ、余計な情報を…。


「婚約? まさかあの公爵の息子とっ?!」

「そうだけど…声が大きいわよ。ライオネル。」

エミリーがたしなめると、ライオネルは首をすくめた。

またそういう所作もテレビドラマで見た時と同じである。

「ごめん。でも僕より名が知れた人がいて安心したな。…えっと僕のことは、ライって呼んでくれる? ライオネルっていわれると母さんに叱られてるみたいだ。」

「…そうか、あなたにも母親はいるよね。なんか変な感じ。」

そうだね。
いくら自分たちと同じ学生だと言われても、マリカが言うように目の前の男の子にはなんか現実感がない。


「映画やテレビに出てても、実際は普通の生活をしてるんだよ。この学校に転校して来たんだって、親父がここに最近できた医局に転勤になったからなんだ。」

「ああ、中央病院ね。何科なの?」

「外科医なんだ。消化器外科。」

「へぇー。うちのお母さんが一度大腸検査に行った事ある。」

そう言えば、マリカのお母さんは去年体調を崩したことがあったね。

こんな話をしているとライオネルはただの医者の息子に思えなくもない。


だがそんな私たちの話を息をひそめて聞いているっぽい周りの視線の事を考えると…。

やっぱり明日から伯爵邸だねと思ったエミリーだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...