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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
祭りの後
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アイルランドのスクル村で行われたブリーの結婚式は、テレビクルーまでやって来るという賑やかな式だった。
ロブは、ロベルトさんに請われてハンニガム候の御旗となっていたデザインの勲章を胸に付け、ハンニガム家のタータンチェックを肩にかけて、アイルランドとイギリスを融合したような正装で式に出た。
これが、スクル村の人たちに物凄く歓迎された。
ロブは、先日ビギンガム侯爵領から帰って眼鏡を新しくしたので、顔つきが大人びて見える。
背も高くなったので、デボン公爵であるジャックおじさまの隣に立っていても、もう子どもっぽくは見えなくなった。
今日はブリーが、ここぞとばかりに輝いていた。
スタイルの良さを生かしたマーメイド型のウェディングドレスで登場したブリーは、楚々とした気品があり女王様のように見えた。
ブリーのドレス姿を見たキャンベルさんの驚いた顔は、今日一番の見物だった。
私達サマー家にとっては、初めての兄弟の結婚式である。
みんな喜ばしい気持ちと共に緊張感のある中での饗宴だった。
いつもはおちゃらけているデビ兄も、見たことのない厳粛な顔をしていた。
教会で牧師様がブリーとキャンベルさんに祝福を授けた時などは、エミリーとキャスも手を握り合って涙してしまった。
アル兄さまは父様の隣で、真剣な顔をして式の動向を見守っているし、うちの両親ときたら…。
いつもこういう公の場では、うちの両親は堂々とした貴族らしい振る舞いをしている、と注釈をつけて回りたいぐらい酷く取り乱していた。
キャンベルさんご一家に会った時は全員をハグしてまわって、ブリーのことをよろしくと頼みこんでいた。
式の間中、夫婦そろってボロボロと涙を流していたので、直ぐ近くにいたデボンのおばさまも、もらい泣きをするぐらいだった。
披露宴は、ハンニガムのお城の舞踏室を借りて催された。
「会場など借りなくても広い場所があるんだから使えばいいじゃないか。」とデボンのおじさまが言ってくれて、お城で祝宴をすることになったらしい。
出席者が多かったのでデボンのおじさまがそう言ってくれて助かったとブリーが言っていた。
祝電で、イギリス王マックラムの御名が呼ばれた時には、一瞬会場中が静まり返って、その後、怒涛の歓声が湧いた。
小さな田舎の村ではめったにない僥倖だったのだろう。
特に村長さんが感激していた。
披露宴に、ブリーは紫のレースに銀色の星屑を散りばめたような派手なドレスを着た。
そのドレスはブリーご自慢の菫色の瞳をより綺麗に見せており、「流石ブリー、結婚式にかける意気込みが半端じゃないね。」とブリーを知る人たちをうならせた。
申し訳ないが、ブリーのドレスのフリルとレースに目を奪われて、キャンベルさんがどこに立っていたのかあまりよく覚えていない。
それ程、ブリーの演出が際立った披露宴だった。
式がすべて終わりブリーとキャンベルさんが無事に新婚旅行に旅立った後、キャスとデビ兄とアル兄さまが電車でロンドンに向かった。
キャスとデビ兄はロンドンの学校へ帰るのだが、アル兄さまはなんと日本に1年間の研修へ出かけて行った。
先日のなつみさんの数多き提案が、アル兄さまの会社に衝撃を与えたらしい。
一般人がこれほどの提案をする日本の観光事業はどうなっているのか調べてこい、との命令がすぐに下されたらしい。
しかしアル兄さまはブリーの結婚式の後にしてくれと上司に頼み込んで、日本への出発を延ばしてもらったそうだ。
なつみさんから『「日帰りの東京からのバスツアー」はテレビ番組になるくらいだから、必ず押さえておくように。それから日本は四季に合わせていろいろなイベントがあるからそれもできるだけ見たほうがいいわよ。』などというアドバイスを貰っていた。
◇◇◇
エミリーは両親と一緒に、アイルランドからサマー邸に帰って来た。
キャンベルさんのご両親が、宿に泊まって行かれたらどうかと勧めてくれたのだが、父様も母様もエミリーも朝からの大騒動ですっかり疲れていたので、無理をして帰って来たのだ。
家族用の居間で3人でお茶を飲んで、やっと一息ついた。
「ブリジットらしい、いいお式だったわね。」
「そうだね。なんだか私は疲れたよ。娘を嫁にやるっていうのは感情的にひどく疲れるものだね。」
「もう2回あるわよ、父様。」
「エミリー、心臓に悪いことを言わないでくれよ。もうちょっと間をおいて結婚して欲しいね。幸いキャサリンは、これから大学だからまだまだ先の話だな。お前だってたぶんロブは大学に行くからまだ8年以上先の話だしな。」
「それなんだけど父様、私、15歳になったらロブと結婚しようかと思ってるの。」
「何だって! いつそんな話になったんだい?」
「今日、デボン家の方々にはお会いしたけれど何もおっしゃってなかったわよ。」
「父様も母様もちょっと落ち着いて、私がこの間ロブと一緒にビギンガムに行って、帰って来てから考えてるだけで、まだ誰にも言ってないよ。」
エミリーがそう言ったことで、父様たちも安心したようだ。
「それで、なんで急に結婚に前向きになったんだ? ブリジットとは違ってエミリーは結婚なんてどうでもいいって言ってただろう。」
エミリーはカーステンの街でロブと一緒に図書館に行ったことを話した。
そこが可愛らしくて素敵な図書館だったこと。
そこで働いていたマーサ・スカイラー館長をはじめ3人の職員の皆さんが素敵な人たちだったこと。
そんなことを両親に熱く語った。
そして、どうせ就職を考えるならそこの図書館に早めに関わりたいから、結婚してしまった方が話が早いと思っていることなども話した。
エミリーの話を聞いて、父様と母様は納得と共に戸惑いも見せた。
「エミリーの気持ちはよくわかったし、お前がそう考えるのもわかる。でもなぁ…。」
「そうよ。結婚ってそれだけじゃないのよ、エミリー…。」
他に何があるのだろう。首をひねるエミリーに父様は優しく言った。
「この話は、お前がハイスクールに上がってからまた話し合おう。それからでも充分間に合うからね。」
ハイスクールに入ると、どう違うのだろうか?
まあ、いっか。
まだ先の話だし、ロブとも相談してないからね。
「今日は疲れたから、もう休もう。」と父様が言うので、3人で3階の家族階に向かった。
階段の所で母様たちにおやすみなさいを言って、子供部屋があるほうに歩き始めて、エミリーは始めて気がついた。
「…誰もいない。」
私しかいない。
あんなに大勢いた兄弟がここに誰もいなくなっている。
うるさくて面倒くさかったブリーがいない。
しっかりしていて頼りになったキャスもいない。
私を揶揄ってばかりいたデビ兄もいない。
そして、アル兄さまもこれから1年間いないんだ…。
「私達の」子供部屋じゃなくて、「私の」子供部屋になっちゃったんだね。
アル兄さまも日本から帰ったら、もう子供部屋には住まないだろう。
今、離れの建物を改装しているからどうせ完成したらそこに住む予定でいたんだもの。
女の子部屋の扉を開けて、私達…私の居間の向こうに、ブリーの部屋のドアがあるのを見た途端に、目から涙がぽたぽた溢れて来た。
ブリーは、めんどくさいから早く結婚しちゃえって思ってたんじゃなかったの?
思ってたけど…それが実現したら独りになっちゃうなんて思ってもみなかった。
「寂しい…寂しいよう…。」
涙が後から後から溢れて来て止まらなかった。
とうとう寝る前になつみさんを呼び出して、「私が寝るまで記憶の場にいてね。」と頼んだことは、ジュニア・ハイの友達には恥ずかしくて言えないな。
ロブは、ロベルトさんに請われてハンニガム候の御旗となっていたデザインの勲章を胸に付け、ハンニガム家のタータンチェックを肩にかけて、アイルランドとイギリスを融合したような正装で式に出た。
これが、スクル村の人たちに物凄く歓迎された。
ロブは、先日ビギンガム侯爵領から帰って眼鏡を新しくしたので、顔つきが大人びて見える。
背も高くなったので、デボン公爵であるジャックおじさまの隣に立っていても、もう子どもっぽくは見えなくなった。
今日はブリーが、ここぞとばかりに輝いていた。
スタイルの良さを生かしたマーメイド型のウェディングドレスで登場したブリーは、楚々とした気品があり女王様のように見えた。
ブリーのドレス姿を見たキャンベルさんの驚いた顔は、今日一番の見物だった。
私達サマー家にとっては、初めての兄弟の結婚式である。
みんな喜ばしい気持ちと共に緊張感のある中での饗宴だった。
いつもはおちゃらけているデビ兄も、見たことのない厳粛な顔をしていた。
教会で牧師様がブリーとキャンベルさんに祝福を授けた時などは、エミリーとキャスも手を握り合って涙してしまった。
アル兄さまは父様の隣で、真剣な顔をして式の動向を見守っているし、うちの両親ときたら…。
いつもこういう公の場では、うちの両親は堂々とした貴族らしい振る舞いをしている、と注釈をつけて回りたいぐらい酷く取り乱していた。
キャンベルさんご一家に会った時は全員をハグしてまわって、ブリーのことをよろしくと頼みこんでいた。
式の間中、夫婦そろってボロボロと涙を流していたので、直ぐ近くにいたデボンのおばさまも、もらい泣きをするぐらいだった。
披露宴は、ハンニガムのお城の舞踏室を借りて催された。
「会場など借りなくても広い場所があるんだから使えばいいじゃないか。」とデボンのおじさまが言ってくれて、お城で祝宴をすることになったらしい。
出席者が多かったのでデボンのおじさまがそう言ってくれて助かったとブリーが言っていた。
祝電で、イギリス王マックラムの御名が呼ばれた時には、一瞬会場中が静まり返って、その後、怒涛の歓声が湧いた。
小さな田舎の村ではめったにない僥倖だったのだろう。
特に村長さんが感激していた。
披露宴に、ブリーは紫のレースに銀色の星屑を散りばめたような派手なドレスを着た。
そのドレスはブリーご自慢の菫色の瞳をより綺麗に見せており、「流石ブリー、結婚式にかける意気込みが半端じゃないね。」とブリーを知る人たちをうならせた。
申し訳ないが、ブリーのドレスのフリルとレースに目を奪われて、キャンベルさんがどこに立っていたのかあまりよく覚えていない。
それ程、ブリーの演出が際立った披露宴だった。
式がすべて終わりブリーとキャンベルさんが無事に新婚旅行に旅立った後、キャスとデビ兄とアル兄さまが電車でロンドンに向かった。
キャスとデビ兄はロンドンの学校へ帰るのだが、アル兄さまはなんと日本に1年間の研修へ出かけて行った。
先日のなつみさんの数多き提案が、アル兄さまの会社に衝撃を与えたらしい。
一般人がこれほどの提案をする日本の観光事業はどうなっているのか調べてこい、との命令がすぐに下されたらしい。
しかしアル兄さまはブリーの結婚式の後にしてくれと上司に頼み込んで、日本への出発を延ばしてもらったそうだ。
なつみさんから『「日帰りの東京からのバスツアー」はテレビ番組になるくらいだから、必ず押さえておくように。それから日本は四季に合わせていろいろなイベントがあるからそれもできるだけ見たほうがいいわよ。』などというアドバイスを貰っていた。
◇◇◇
エミリーは両親と一緒に、アイルランドからサマー邸に帰って来た。
キャンベルさんのご両親が、宿に泊まって行かれたらどうかと勧めてくれたのだが、父様も母様もエミリーも朝からの大騒動ですっかり疲れていたので、無理をして帰って来たのだ。
家族用の居間で3人でお茶を飲んで、やっと一息ついた。
「ブリジットらしい、いいお式だったわね。」
「そうだね。なんだか私は疲れたよ。娘を嫁にやるっていうのは感情的にひどく疲れるものだね。」
「もう2回あるわよ、父様。」
「エミリー、心臓に悪いことを言わないでくれよ。もうちょっと間をおいて結婚して欲しいね。幸いキャサリンは、これから大学だからまだまだ先の話だな。お前だってたぶんロブは大学に行くからまだ8年以上先の話だしな。」
「それなんだけど父様、私、15歳になったらロブと結婚しようかと思ってるの。」
「何だって! いつそんな話になったんだい?」
「今日、デボン家の方々にはお会いしたけれど何もおっしゃってなかったわよ。」
「父様も母様もちょっと落ち着いて、私がこの間ロブと一緒にビギンガムに行って、帰って来てから考えてるだけで、まだ誰にも言ってないよ。」
エミリーがそう言ったことで、父様たちも安心したようだ。
「それで、なんで急に結婚に前向きになったんだ? ブリジットとは違ってエミリーは結婚なんてどうでもいいって言ってただろう。」
エミリーはカーステンの街でロブと一緒に図書館に行ったことを話した。
そこが可愛らしくて素敵な図書館だったこと。
そこで働いていたマーサ・スカイラー館長をはじめ3人の職員の皆さんが素敵な人たちだったこと。
そんなことを両親に熱く語った。
そして、どうせ就職を考えるならそこの図書館に早めに関わりたいから、結婚してしまった方が話が早いと思っていることなども話した。
エミリーの話を聞いて、父様と母様は納得と共に戸惑いも見せた。
「エミリーの気持ちはよくわかったし、お前がそう考えるのもわかる。でもなぁ…。」
「そうよ。結婚ってそれだけじゃないのよ、エミリー…。」
他に何があるのだろう。首をひねるエミリーに父様は優しく言った。
「この話は、お前がハイスクールに上がってからまた話し合おう。それからでも充分間に合うからね。」
ハイスクールに入ると、どう違うのだろうか?
まあ、いっか。
まだ先の話だし、ロブとも相談してないからね。
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あんなに大勢いた兄弟がここに誰もいなくなっている。
うるさくて面倒くさかったブリーがいない。
しっかりしていて頼りになったキャスもいない。
私を揶揄ってばかりいたデビ兄もいない。
そして、アル兄さまもこれから1年間いないんだ…。
「私達の」子供部屋じゃなくて、「私の」子供部屋になっちゃったんだね。
アル兄さまも日本から帰ったら、もう子供部屋には住まないだろう。
今、離れの建物を改装しているからどうせ完成したらそこに住む予定でいたんだもの。
女の子部屋の扉を開けて、私達…私の居間の向こうに、ブリーの部屋のドアがあるのを見た途端に、目から涙がぽたぽた溢れて来た。
ブリーは、めんどくさいから早く結婚しちゃえって思ってたんじゃなかったの?
思ってたけど…それが実現したら独りになっちゃうなんて思ってもみなかった。
「寂しい…寂しいよう…。」
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