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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
ジムとの別れ、そして新しい年へ
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「結婚式とお葬式は、何故か重なるものなのよ。」
母様はそう言うが、3日前にブリーの結婚式で賑やかな1日を過ごしたばかりだ。
2日ほどの間を置いただけでお葬式に出ると、同じ人々が集うことなのに明暗がはっきりと分かれてやりきれなくなる。
一昨日の夜、父様と母様と一緒に危篤状態のジムじいさんを見舞ったのだが、私達が帰ってすぐにジムじいさんは天に召されたそうだ。
それから、父様は村の人たちと一緒に葬儀の準備にかかり、母様は教会の婦人会の人たちと一緒に遺族の方々の世話をしながら、ジムじいさんの家で弔問客を受け入れられるように掃除をしたり料理を差し入れたりしていた。
エミリーは母様の手伝いをしながら、大人たちの段取りの仕方や遺族への言葉のかけ方などをじっと見て覚えていった。
今日はジムじいさんの葬儀の日だ。
朝早くから村の人たちが教会に集まって来ている。
ジムじいさんは90年近くこの村で生活してきたので、みんな何かしらジムじいさんに関する話題を持っているようだ。
あちらこちらで故人を偲ぶ会話が聞こえてくる。
エミリーもデビ兄やロブと一緒に小さい頃ジムじいさんの牧草地に入り込んで、しこたま怒られたことがある。
「お前らにとっては、転げまわりたくなる草に見えるのかもしれんが、この草はうちの牛たちの大事な冬の食料だ! 今度ここに入ってるのを見つけた時には、叩きだしてやるからなっ!」
そう大声で怒鳴られた。
今でもその時の叱られて縮み上がった心境を鮮明に覚えている。
あれから、気持ちよさそうに風にそよぐ牧草地を見ると、ジムじいさんの怒鳴り声を思い出す。
昨日、お棺の中に小さく収まってしまったジムじいさんからは、もう怒鳴り声は聞こえてこなかった。
顔には神様の国に旅立った見印が見え、もうこの世にはジムじいさんの魂が存在していないことがよくわかった。
これからは、あの怒鳴り声と共に、この物言わぬジムじいさんの顔も思い出すことになるのだろう。
葬儀が終わり、ジムじいさんの家に村の共同墓地から歩いて戻って来ると、父様がジムじいさんの娘婿さんに声を掛けられた。
「サマー子爵様、ここの家の事でお話があるんですけど…。」
「ここの借地のことかな? 3か月ほどの猶予を設けるから中の物はゆっくり片付けてくれていいよ。」
「ありがとうございます。そうして頂けると助かります。たぶん今年中には片付くとは思うんですが…。片づけが済み次第連絡させていただきます。」
そうか。
ジムじいさんとカビィばあさんには娘さんしかいなかった。
娘さんは2人とも嫁に行ったので、ここの土地を継ぐ人がいないんだ。
あんなにジムじいさんが大切にしていた土地だったのに…。
「ジムが大事に使ってくれてた土地だから、荒らしてしまわないように冬中には後継者を探さないといけないな。領民広告を12月の終わりまでには出しておくべきだな。」
そう言いながら父様が考えている。
領民か。
領地経営としては基本の話だけど、お葬式の後ですぐにこういうことも考えないといけないんだな。
なんだかもう暫くは新しく来る人の事など考えたくない気持ちがする。子供の感傷と言われれば言い返せないんだけど…。
◇◇◇
秋試験の為に試験勉強をしているうちに、それからの日々はまた日常の忙しさに包まれていった。
夏にロブに教わってイギリス王家の歴史をしっかりと覚えたせいか、歴史の点がなんと満点だった。
テストの採点をした歴史学の先生が喜んで、担任のミズ・スマイスにフライングで教えたらしく、試験結果が出る前にミズ・スマイスがこっそりと褒めてくれた。
このエミリーの今までにない快挙を家族中が喜んでくれたのはいいのだが、これには後日談がある。
誰かが言ったエミリーのその話がどこをどう巡ったのか王侯陛下の耳に届いたらしく、おじい様が王宮に伺候した折に、陛下から直々にお褒めの言葉を賜ったらしく、目を白黒させて戻って来た。
マックラム殿下も魔女のカンザス並みの情報網を持っているようだ。
エミリーは試験が終わるとロブを捕まえてはビギンガム侯爵領のことを尋ねるようになった。
「エムが変わった。」とロブに言われたけれど、そのエミリーの変わりようを概ねデボン家では歓迎してくれているようだった。
エミリーが子どもっぽいことを言わなくなったので、うちの母様はちょっと寂しく思っているらしいけれど。
デビ兄にも「からかい甲斐がなくなったじゃないか。」と怒られたが、妹の成長を前に可笑しな文句のつけ方である。
そうこうするうちに12月に入り、あっという間にクリスマス前の教会掃除の日になった。
父様は、クリスマスツリーを準備するのを手伝ってくれる男の子がいなくなったので、クリスマス休暇に入る前の庭師のピートを連れて、3日前には森でツリーを切って来た。
今日はジムじいさんの家の引き渡しに立ち会うために、領地管理人と一緒にジムの家に行っている。
今年も村の皆で、教会の大掃除をした。
最後にクライスト様の磨き上げをする時に、うちのピートが率先してその役目をかって出て、最後にジムじいさんと同じ口調で「これで神様も気持ちよーに新しい年を迎えられるの。」とみんなに向かって言った。
村の皆もうんうんと頷いて、笑いながら言い合った。
「ジムとカビィは天国でも掃除をしてるのかしら。」
「ぞうきんで神様の顔を拭いたら怒られるぞー。」
「それは、そうじゃ。」
今年はアル兄さまがクリスマスに帰ってこない。
キャスとデビ兄は3日後に帰って来る予定だ。
ブリーにクリスマスイブには会えるかと思っていたけれど、最近体調が悪いということで今年は会えそうにない。
こんなにブリーに会いたいと思う日が来るなんて思ってもみなかったよ。
でもそんなアル兄さまとブリーのお陰で、我が家にもう1台パソコンがやって来た。
みんなでテレビ電話機能を使えるように、持ち運びのできるノート型パソコンだ。
1週間前にその新しいパソコンを父様が買ってきたのだが、設定が上手くできなくてロブを呼び出して初期設定をしてもらった。
本当に便利な男である。
日本にいるアル兄さまの顔が鮮明にパソコン画面に映った時には、家族中で歓声を上げた。
我が家にもやっと未来が来た感じがする。
時差があるのでアル兄さまと話せる時間帯は限られるが、度々元気な顔を見ることが出来るようになったので、父様も母様も安心している。
今年のクリスマスイブはデボン家に集まる予定だ。
ポルト邸のほうではなく、本邸のほうに集まるらしい。
今までは、親戚のおじさんの家に行く感じだったが、婚約してから初めてのクリスマスだ。
出来たらイブはデボンの方に泊まって、クリスマスにデボン家の親戚に挨拶してからストランド伯爵邸に行って欲しいと頼まれている。
イブの夜に他所の家に泊まるのは初めてだ。
去年と比べると私の周りも随分変わったものだと思う。
こうしてみんな大人になっていくのかな。幾ばくかの寂しさとこれからの新しい生活への期待を胸にエミリーのこの1年は過ぎ去ろうとしていた。
母様はそう言うが、3日前にブリーの結婚式で賑やかな1日を過ごしたばかりだ。
2日ほどの間を置いただけでお葬式に出ると、同じ人々が集うことなのに明暗がはっきりと分かれてやりきれなくなる。
一昨日の夜、父様と母様と一緒に危篤状態のジムじいさんを見舞ったのだが、私達が帰ってすぐにジムじいさんは天に召されたそうだ。
それから、父様は村の人たちと一緒に葬儀の準備にかかり、母様は教会の婦人会の人たちと一緒に遺族の方々の世話をしながら、ジムじいさんの家で弔問客を受け入れられるように掃除をしたり料理を差し入れたりしていた。
エミリーは母様の手伝いをしながら、大人たちの段取りの仕方や遺族への言葉のかけ方などをじっと見て覚えていった。
今日はジムじいさんの葬儀の日だ。
朝早くから村の人たちが教会に集まって来ている。
ジムじいさんは90年近くこの村で生活してきたので、みんな何かしらジムじいさんに関する話題を持っているようだ。
あちらこちらで故人を偲ぶ会話が聞こえてくる。
エミリーもデビ兄やロブと一緒に小さい頃ジムじいさんの牧草地に入り込んで、しこたま怒られたことがある。
「お前らにとっては、転げまわりたくなる草に見えるのかもしれんが、この草はうちの牛たちの大事な冬の食料だ! 今度ここに入ってるのを見つけた時には、叩きだしてやるからなっ!」
そう大声で怒鳴られた。
今でもその時の叱られて縮み上がった心境を鮮明に覚えている。
あれから、気持ちよさそうに風にそよぐ牧草地を見ると、ジムじいさんの怒鳴り声を思い出す。
昨日、お棺の中に小さく収まってしまったジムじいさんからは、もう怒鳴り声は聞こえてこなかった。
顔には神様の国に旅立った見印が見え、もうこの世にはジムじいさんの魂が存在していないことがよくわかった。
これからは、あの怒鳴り声と共に、この物言わぬジムじいさんの顔も思い出すことになるのだろう。
葬儀が終わり、ジムじいさんの家に村の共同墓地から歩いて戻って来ると、父様がジムじいさんの娘婿さんに声を掛けられた。
「サマー子爵様、ここの家の事でお話があるんですけど…。」
「ここの借地のことかな? 3か月ほどの猶予を設けるから中の物はゆっくり片付けてくれていいよ。」
「ありがとうございます。そうして頂けると助かります。たぶん今年中には片付くとは思うんですが…。片づけが済み次第連絡させていただきます。」
そうか。
ジムじいさんとカビィばあさんには娘さんしかいなかった。
娘さんは2人とも嫁に行ったので、ここの土地を継ぐ人がいないんだ。
あんなにジムじいさんが大切にしていた土地だったのに…。
「ジムが大事に使ってくれてた土地だから、荒らしてしまわないように冬中には後継者を探さないといけないな。領民広告を12月の終わりまでには出しておくべきだな。」
そう言いながら父様が考えている。
領民か。
領地経営としては基本の話だけど、お葬式の後ですぐにこういうことも考えないといけないんだな。
なんだかもう暫くは新しく来る人の事など考えたくない気持ちがする。子供の感傷と言われれば言い返せないんだけど…。
◇◇◇
秋試験の為に試験勉強をしているうちに、それからの日々はまた日常の忙しさに包まれていった。
夏にロブに教わってイギリス王家の歴史をしっかりと覚えたせいか、歴史の点がなんと満点だった。
テストの採点をした歴史学の先生が喜んで、担任のミズ・スマイスにフライングで教えたらしく、試験結果が出る前にミズ・スマイスがこっそりと褒めてくれた。
このエミリーの今までにない快挙を家族中が喜んでくれたのはいいのだが、これには後日談がある。
誰かが言ったエミリーのその話がどこをどう巡ったのか王侯陛下の耳に届いたらしく、おじい様が王宮に伺候した折に、陛下から直々にお褒めの言葉を賜ったらしく、目を白黒させて戻って来た。
マックラム殿下も魔女のカンザス並みの情報網を持っているようだ。
エミリーは試験が終わるとロブを捕まえてはビギンガム侯爵領のことを尋ねるようになった。
「エムが変わった。」とロブに言われたけれど、そのエミリーの変わりようを概ねデボン家では歓迎してくれているようだった。
エミリーが子どもっぽいことを言わなくなったので、うちの母様はちょっと寂しく思っているらしいけれど。
デビ兄にも「からかい甲斐がなくなったじゃないか。」と怒られたが、妹の成長を前に可笑しな文句のつけ方である。
そうこうするうちに12月に入り、あっという間にクリスマス前の教会掃除の日になった。
父様は、クリスマスツリーを準備するのを手伝ってくれる男の子がいなくなったので、クリスマス休暇に入る前の庭師のピートを連れて、3日前には森でツリーを切って来た。
今日はジムじいさんの家の引き渡しに立ち会うために、領地管理人と一緒にジムの家に行っている。
今年も村の皆で、教会の大掃除をした。
最後にクライスト様の磨き上げをする時に、うちのピートが率先してその役目をかって出て、最後にジムじいさんと同じ口調で「これで神様も気持ちよーに新しい年を迎えられるの。」とみんなに向かって言った。
村の皆もうんうんと頷いて、笑いながら言い合った。
「ジムとカビィは天国でも掃除をしてるのかしら。」
「ぞうきんで神様の顔を拭いたら怒られるぞー。」
「それは、そうじゃ。」
今年はアル兄さまがクリスマスに帰ってこない。
キャスとデビ兄は3日後に帰って来る予定だ。
ブリーにクリスマスイブには会えるかと思っていたけれど、最近体調が悪いということで今年は会えそうにない。
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でもそんなアル兄さまとブリーのお陰で、我が家にもう1台パソコンがやって来た。
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1週間前にその新しいパソコンを父様が買ってきたのだが、設定が上手くできなくてロブを呼び出して初期設定をしてもらった。
本当に便利な男である。
日本にいるアル兄さまの顔が鮮明にパソコン画面に映った時には、家族中で歓声を上げた。
我が家にもやっと未来が来た感じがする。
時差があるのでアル兄さまと話せる時間帯は限られるが、度々元気な顔を見ることが出来るようになったので、父様も母様も安心している。
今年のクリスマスイブはデボン家に集まる予定だ。
ポルト邸のほうではなく、本邸のほうに集まるらしい。
今までは、親戚のおじさんの家に行く感じだったが、婚約してから初めてのクリスマスだ。
出来たらイブはデボンの方に泊まって、クリスマスにデボン家の親戚に挨拶してからストランド伯爵邸に行って欲しいと頼まれている。
イブの夜に他所の家に泊まるのは初めてだ。
去年と比べると私の周りも随分変わったものだと思う。
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