サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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第二章 「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス

大人な対応をするべきですよね

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 両陛下の前で痴話げんかのようなものをお見せするわけにもいかず、アルの「お付き合い」発言は一時黙殺することとした。

崇人たかひと殿下は、アレックス、後でどういうお話になったのか連絡してくださいね、と仰っていた。
どういうお話も何も、アルと私の間にはこれまでにも何にもなかったし、これからも何かあろうはずもないですよ。

アレックスの持って来ていた写真を両陛下と一緒に見ることになって、ノッコは初めてアルの家族の顔を見た。
お父様はスポーツマンのような引き締まった身体つきをしている。
お母様は優しそうな笑顔をされているが、どちらかと言えば活動的なタイプのようだ。
妹さんも弟さんも、みんな顔立ちの整った個性的な方ばかりだった。
おじい様とおばあ様も、お歳を感じさせない生き生きした方だ。

そのご家族の皆さんと滝宮様がことごとく一緒に写っていらっしゃる。

アルと両陛下の会話の端々から、日本の皇室とサマー子爵家が家族ぐるみで親しくお付き合いをしているのがよくわかった。

その上、その写真の中にイギリス国王マックラム陛下や映画スターのクロード・ベネットを見つけた時には、ノッコも目が点になった。

クロード・ベネットはエミリーさん、アルの末の妹さんと同級生だそうだ。

…世界が違う。

今まで想像すらしたことのない世界のお話だ。
はた目から見たノッコの様子は、一見落ち着いていて何も気にしてはいないように見えるだろうが、頭の中は大混乱中だ。

まず、領主の息子とだけ思っていたアルが実は子爵の嫡子で、将来の伯爵様だとは思ってもみなかった。

エミリーさんが公爵の息子と婚約しているという話を聞いた時にも、遠い外国の知らない世界の話だと聞き流していたが、イギリス国王が出席している婚約式を実際に写真で見ると、その婚約自体がとんでもない出来事だということがよくわかる。

そんな生活をしているアルと私がお付き合い・・・・・? 
あり得ないお話だ。

うちは貴族どころか完璧なる一般ピープルである。お父さんは環境測定器のメンテナンスをする小さな会社に勤めている会社員で、お母さんは老人介護施設のヘルパーさんをパートでしている。
双子の兄の伸也は地元にある安達あだち国立大学の工学部の1回生だ。

日本のどこにでもいる平均的な4人家族である。
うちにはもちろんのこと国王の親戚もいないし、テレビや映画に出るような芸能人の知り合いもいない。

何度も言うようだが本当に世界が違いすぎる。



◇◇◇



 「ノッコ、口をきいてくれよ。」

京都新宮御所を出てから、ノッコが黙ったままだったのでアレックスは心配になったようだ。

別に、普通にしていればいいのよね。
お付き合いを申し込まれたことも無いわけだし、私は外国の旅行会社にアルバイトで雇われている通訳兼臨時の料理人なんだから…。

「なんでしょう、アレックスさま。何もご心配なさらなくてもなつみさんとおきぬさんの異世界バージョンの故郷にはご案内しますよ。詳しい所番地をイギリスに問い合わせてみると仰ってましたけれど、情報は手に入ったんですか?」

「ノッコ…黙って両陛下に会わせたのは悪かったよ。事前に言うと緊張してしり込みされると厄介だと思ったからなんだ。どうしてもノッコをお2人に会わせたかったからね。」

アレックスがおどおどと言い訳をする。

「それはかまいませんよ。(本当は構うけど…)私には関係のないことですから、上司の貴方の考えに従います。」

「そんな、そんな言い方をしないでよ。…いや、そう言われるのもしょうがないのか。…実は、ノッコがあまりにも僕に関心がないようだったから、衝撃というか周りからの圧力をかけて僕の事を男として意識してもらいたかったんだ。出来たらうやむやにして付き合っているということにしたかったんだけど、その雰囲気だと…ダメなんだね。ハァー。」

溜息を吐いても駄目ですよ。
そんな子犬のような悲しそうな目をされても私の気持ちは揺らぎません。

身分が違いすぎます。
それに人種も、考え方も、生活も、何もかも違うじゃありませんか。

とてもそんな人と恋愛が出来るスキルは私にはありません。
なにせ彼氏など今までいたことがないんだから…。

それに、カレンさん。
彼女はイギリスにいるじゃないですか!

日本では私とつき合うつもりなのかしら?
通訳も出来て料理も作ってもらえるから? 

そういう人だとは思わなかったけれど…私の男の人を見る目も信用できないしなぁ。
アレックスのことだって、いつの間にか懐の中に入られて世話を焼いたりご飯を食べさせたりしてたからなぁ。

まさかアレックスが男として意識してもらいたいなどと思っているなんていうことは、全く想像すらしていなかった。
純粋に仕事の付き合いだと安心してしまっていたのだ。


2人で新幹線に乗って大賀おおかに向かっている時に、ノッコは隣に座っているアレックスのことをそんな風にぼんやりと考えていた。

あ、ヤバいっ。
こんな風に気持ちを広げてぼんやりと隣の人間のことを考えると碌な事がない。
私の困った性質が動き出してしまうのだ。

案の定、目の前に次々と映像が現れ始めた。

あれは…アレックスと…まさか………?!
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