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第二章 「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス
こんなに悩んだことはありません
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ノッコは新幹線の中で息苦しくなっていた。
映像が次々と目の前に現れては消えていく。
こういう状況が一旦始まると、ある程度まとまった映像が繰り返されて収束していくまでは目の前の現実の景色を一方的に奪われることになる。
座っている時で良かったというべきか…。
アレックスは前世で船乗りだったようだ。
国を出たくてたまらなかったらしい。
国、国…オレンジを船に積み込んでいる。暖かい地中海沿岸地方のようだ。
背の高い肉感的な女性…と別れの抱擁をしている。
…いやに力強く抱きしめている。
そんなに別れたくないのなら船に乗らなければいいのに。
でも心が旅を求めているようだ。
この娘と離れたくないが行かなければならない。
そうアレックスの心が叫んでいる。
森の中が見える。
アレックスは馬に跨って頬に風を受けながら走っている。
鎖帷子を着ている。
腰には大きな剣を携えているが、兜は被っていない。
これはさっきの船乗りの前世とは違うようだ。
髪の色が違う。
船乗りの時は黒色だったが、この騎士のような格好をした男は金髪だ。
森の木立が途切れた所に小さな家がある。
赤ちゃんの泣き声がしている。
アレックスは顔をほころばせると、勢いよく馬から降りた。
奥さんの名前を呼ぶ。
「セ〇!」なにか「セ」で始まる名前のようだ。
奥さん…が赤ちゃんを抱いて家から飛び出してきた。
アレックスが帰って来るのを待っていたのだろう。
2人でしっかと抱き合っている。
赤ちゃんが2人に挟まれて泣きだしたので、アレックスは抱擁をときながら奥さんの髪を撫でて2人で笑い合っている。
老婆が庭の椅子に座っている。
なんと日本庭園のように見える。
ここではアレックスは女性のようだ。
着ている物の様子からすると明正時代の頃のようだ。
裾の長いドレスなので良家のご婦人なのだろう。
背の高い白髪の紳士…がやって来てアレックスのことを後ろから抱きしめる。
アレックスは嬉しそうに紳士の手を握って皺だらけの顔を歪ませたかと思うと、ほろほろと涙を流して泣き始めた。
その紳士にまた抱きしめられて嬉しいとアレックスが思っているのがわかる。
船乗りのアレックスが壮年になって国に帰って来た。
恋人を探しに行くが、恋人は何年も前に流行り病でなくなったと言われる。
嘆き悲しむアレックス。
しかし、その恋人が若い時に産んだ息子の存在を知る。
その息子はアレックスの若い時にそっくりだった。
衝撃を受けるアレックス。
着物姿に編み上げブーツを履いた女学生姿のアレックスが何冊かの本を抱きしめて、知り合いのお兄さんの家に急いでいる。
髪はゆるいおさげに編んであって、三つ編み髪が背中でポンポン跳ねている。
アレックスの心はそのお兄さんに会うことで嬉しさにはち切れそうに膨らんでいる。
幾つもの旗や幟がたなびく軍隊の行進の中に馬に跨ったアレックスもいた。
その軍隊の行く末を、丘の上から青白い顔をしている…少女が祈りを捧げるように手を握り締めて見ていた。
アレックスはその事に気付いているのに手を挙げることも大声で恋人の名前を呼ぶことも出来ない。
身を切られるような悲しみがアレックスから伝わってくる。
どうも今回見えるアレックスの前世はこの3人のものらしい。
同じ人物の映像が何回も繰り返し目の前を流れて行っていたかと思うと、段々とに間遠になってきて映像がぼやけて来て徐々に収束していった。
ノッコが息苦しく感じていたのには訳がある。
最初に映像が流れ始めてからすぐに気づいた。
背景や出て来る人物を小さい頃から見ていたからだ。
微妙に違うのは、船乗りの映像では女性の見た視点であり、また森の中で夫の帰りを待つ妻であり、幼馴染みの女性を愛おしく思う事業家であったのだ。
…まさか私の前世はアレックスと繋がっていたのだろうか?
「ねえノッコ、さっきからまた黙っているけど息が荒いよ。どうかした? 体調が悪いのかい?」
心配そうなアレックスの声がする。
「…だ、大丈夫です。すみません、疲れたので少し眠ります。」
まさか…まさか……アレックスと会ったのは運命だったの?
いや考えては駄目だ。
今は動揺している。
冷静になって判断しなくちゃ…。
ノッコは息を整え、無理矢理に目を閉じて、自分の疑問を締め出した。
◇◇◇
「ノッコ、大賀に着くよっ。」
アレックスに揺り起こされて、目を開けると新幹線が大賀の町に入ろうとしていた。
車内放送では乗り継ぎの案内が流れている。
中備に向かう列車の出発時刻とホームの案内を聞きそこねてしまった。
大賀駅の案内板で確認しないといけない。
ノッコが慌てて身の回りの物をまとめて手提げ鞄に入れていると、アレックスが自分のスーツケースとノッコのスポーツバッグを網棚から降ろしてくれていた。
「ありがとうございます。」
「ドウイタシマシテ。目が覚めた?」
「はい。すみません、本格的に寝てしまってました。」
2人は新幹線を降りて、人の波に続いてエスカレーターで下の階に降りた。
ノッコが在来線乗り場の電光掲示板を見ると、3番線の電車が一番乗り継ぎ時間が短いことがわかった。
アレックスを案内して3番線のエスカレーターに乗り、もう一つ下の階に降りる。
在来線の電車はもうホームに止まっていた。
慌てて乗り込んで空いている席を探したのだが、4両編成の為、もうほとんど席が埋まっていた。
仕方がないのでドア付近の学生が2人座っている辺りの吊革につかまることにする。
学生は岸蔵で降りる人が多いので、半分の距離は座れるだろう。
ノッコとアレックスの2人がすぐ前のつり革につかまると、座っていた学生はギョッとしたようだ。
大きな人間が2人並ぶと圧迫感があるのだろう。
ごめんね。
申し訳ないけれど小さく縮むわけにはいかないし我慢してもらうしかない。
「何分ぐらいかかるの? 乗り継ぎはある?」
「いいえ、乗り継ぎはありません。40分ぐらいかな。途中から多分座れると思います。」
私達が英語を喋りだしたことで、学生たちは小声で「英語じゃ。」「なにいよんかなー。」と大賀弁で喋りだした。
方言…懐かしい。
半年聞かなかっただけだが、すっと耳に馴染んで肩の力が抜けていくのがわかる。
やっぱり地元はいいなぁ。
予想通り、学生たちが岸蔵で「ソーリー。」と言って降りて行ったので、座ることが出来た。
「別に謝らなくてもいいのにねぇ。なんか悪いことをしたわけでもないのに…。」
アレックスは戸惑っていたが、学生たちは「エクスキューズミー。」と言ったつもりだったのだろう。
君達、英語頑張ってねっ。
ノッコは心の中で2人の学生にエールを送った。
中備の駅からうちの家は近い。
タクシーに乗ろうとしたアレックスを引っ張って、「歩いて行けますから。」と懐かしい道を歩いて行った。
この道をアレックスと歩いているのは不思議な感じがする。
「ここが、ノッコの家? 本当に近いね。振り向くと駅が見える。」
アレックスが感心している。
そう、高校の時は駅が近くて助かった。
ギリギリまで寝ていられたからね。
「ただいまー。帰ったよーっ。」
ノッコが玄関でアレックスにスリッパを用意していると奥の台所の方からバタバタと大勢の足音がしてきて、なんと狭い廊下に家族全員が出迎えに出て来てくれた。
「お帰りーっ。ハロー、ナイストゥミーチュー。アイム ノッコズマザー。ハウドゥユードゥ。」
…お母さん張り切ってる。
伸也にでもレクチャーされたのかしら?
お父さんは、後ろの方でハローハロー言ってるし…。
伸也はその横でニヤニヤ笑っている。
アレックスは、ワオッと言ったかと思うと「歓迎してくれて嬉しい。コンニチワ、あれっくすデス。」と言いながらお母さんに抱きつき。
お父さんをハグして肩を叩くと、伸也と固い握手をしていた。
…未来の伯爵さまじゃなくてタダのアルさんだね、これは。
どーするよこれ。
なんだか馴染んでるんですけど…。
京都にいた時とは違い、地元に帰るとなんだかノッコの気持ちものんびりしてきたようだ。
もうなるようにしかならないんじゃない?
…考えるのもめんどくさくなってきた。
映像が次々と目の前に現れては消えていく。
こういう状況が一旦始まると、ある程度まとまった映像が繰り返されて収束していくまでは目の前の現実の景色を一方的に奪われることになる。
座っている時で良かったというべきか…。
アレックスは前世で船乗りだったようだ。
国を出たくてたまらなかったらしい。
国、国…オレンジを船に積み込んでいる。暖かい地中海沿岸地方のようだ。
背の高い肉感的な女性…と別れの抱擁をしている。
…いやに力強く抱きしめている。
そんなに別れたくないのなら船に乗らなければいいのに。
でも心が旅を求めているようだ。
この娘と離れたくないが行かなければならない。
そうアレックスの心が叫んでいる。
森の中が見える。
アレックスは馬に跨って頬に風を受けながら走っている。
鎖帷子を着ている。
腰には大きな剣を携えているが、兜は被っていない。
これはさっきの船乗りの前世とは違うようだ。
髪の色が違う。
船乗りの時は黒色だったが、この騎士のような格好をした男は金髪だ。
森の木立が途切れた所に小さな家がある。
赤ちゃんの泣き声がしている。
アレックスは顔をほころばせると、勢いよく馬から降りた。
奥さんの名前を呼ぶ。
「セ〇!」なにか「セ」で始まる名前のようだ。
奥さん…が赤ちゃんを抱いて家から飛び出してきた。
アレックスが帰って来るのを待っていたのだろう。
2人でしっかと抱き合っている。
赤ちゃんが2人に挟まれて泣きだしたので、アレックスは抱擁をときながら奥さんの髪を撫でて2人で笑い合っている。
老婆が庭の椅子に座っている。
なんと日本庭園のように見える。
ここではアレックスは女性のようだ。
着ている物の様子からすると明正時代の頃のようだ。
裾の長いドレスなので良家のご婦人なのだろう。
背の高い白髪の紳士…がやって来てアレックスのことを後ろから抱きしめる。
アレックスは嬉しそうに紳士の手を握って皺だらけの顔を歪ませたかと思うと、ほろほろと涙を流して泣き始めた。
その紳士にまた抱きしめられて嬉しいとアレックスが思っているのがわかる。
船乗りのアレックスが壮年になって国に帰って来た。
恋人を探しに行くが、恋人は何年も前に流行り病でなくなったと言われる。
嘆き悲しむアレックス。
しかし、その恋人が若い時に産んだ息子の存在を知る。
その息子はアレックスの若い時にそっくりだった。
衝撃を受けるアレックス。
着物姿に編み上げブーツを履いた女学生姿のアレックスが何冊かの本を抱きしめて、知り合いのお兄さんの家に急いでいる。
髪はゆるいおさげに編んであって、三つ編み髪が背中でポンポン跳ねている。
アレックスの心はそのお兄さんに会うことで嬉しさにはち切れそうに膨らんでいる。
幾つもの旗や幟がたなびく軍隊の行進の中に馬に跨ったアレックスもいた。
その軍隊の行く末を、丘の上から青白い顔をしている…少女が祈りを捧げるように手を握り締めて見ていた。
アレックスはその事に気付いているのに手を挙げることも大声で恋人の名前を呼ぶことも出来ない。
身を切られるような悲しみがアレックスから伝わってくる。
どうも今回見えるアレックスの前世はこの3人のものらしい。
同じ人物の映像が何回も繰り返し目の前を流れて行っていたかと思うと、段々とに間遠になってきて映像がぼやけて来て徐々に収束していった。
ノッコが息苦しく感じていたのには訳がある。
最初に映像が流れ始めてからすぐに気づいた。
背景や出て来る人物を小さい頃から見ていたからだ。
微妙に違うのは、船乗りの映像では女性の見た視点であり、また森の中で夫の帰りを待つ妻であり、幼馴染みの女性を愛おしく思う事業家であったのだ。
…まさか私の前世はアレックスと繋がっていたのだろうか?
「ねえノッコ、さっきからまた黙っているけど息が荒いよ。どうかした? 体調が悪いのかい?」
心配そうなアレックスの声がする。
「…だ、大丈夫です。すみません、疲れたので少し眠ります。」
まさか…まさか……アレックスと会ったのは運命だったの?
いや考えては駄目だ。
今は動揺している。
冷静になって判断しなくちゃ…。
ノッコは息を整え、無理矢理に目を閉じて、自分の疑問を締め出した。
◇◇◇
「ノッコ、大賀に着くよっ。」
アレックスに揺り起こされて、目を開けると新幹線が大賀の町に入ろうとしていた。
車内放送では乗り継ぎの案内が流れている。
中備に向かう列車の出発時刻とホームの案内を聞きそこねてしまった。
大賀駅の案内板で確認しないといけない。
ノッコが慌てて身の回りの物をまとめて手提げ鞄に入れていると、アレックスが自分のスーツケースとノッコのスポーツバッグを網棚から降ろしてくれていた。
「ありがとうございます。」
「ドウイタシマシテ。目が覚めた?」
「はい。すみません、本格的に寝てしまってました。」
2人は新幹線を降りて、人の波に続いてエスカレーターで下の階に降りた。
ノッコが在来線乗り場の電光掲示板を見ると、3番線の電車が一番乗り継ぎ時間が短いことがわかった。
アレックスを案内して3番線のエスカレーターに乗り、もう一つ下の階に降りる。
在来線の電車はもうホームに止まっていた。
慌てて乗り込んで空いている席を探したのだが、4両編成の為、もうほとんど席が埋まっていた。
仕方がないのでドア付近の学生が2人座っている辺りの吊革につかまることにする。
学生は岸蔵で降りる人が多いので、半分の距離は座れるだろう。
ノッコとアレックスの2人がすぐ前のつり革につかまると、座っていた学生はギョッとしたようだ。
大きな人間が2人並ぶと圧迫感があるのだろう。
ごめんね。
申し訳ないけれど小さく縮むわけにはいかないし我慢してもらうしかない。
「何分ぐらいかかるの? 乗り継ぎはある?」
「いいえ、乗り継ぎはありません。40分ぐらいかな。途中から多分座れると思います。」
私達が英語を喋りだしたことで、学生たちは小声で「英語じゃ。」「なにいよんかなー。」と大賀弁で喋りだした。
方言…懐かしい。
半年聞かなかっただけだが、すっと耳に馴染んで肩の力が抜けていくのがわかる。
やっぱり地元はいいなぁ。
予想通り、学生たちが岸蔵で「ソーリー。」と言って降りて行ったので、座ることが出来た。
「別に謝らなくてもいいのにねぇ。なんか悪いことをしたわけでもないのに…。」
アレックスは戸惑っていたが、学生たちは「エクスキューズミー。」と言ったつもりだったのだろう。
君達、英語頑張ってねっ。
ノッコは心の中で2人の学生にエールを送った。
中備の駅からうちの家は近い。
タクシーに乗ろうとしたアレックスを引っ張って、「歩いて行けますから。」と懐かしい道を歩いて行った。
この道をアレックスと歩いているのは不思議な感じがする。
「ここが、ノッコの家? 本当に近いね。振り向くと駅が見える。」
アレックスが感心している。
そう、高校の時は駅が近くて助かった。
ギリギリまで寝ていられたからね。
「ただいまー。帰ったよーっ。」
ノッコが玄関でアレックスにスリッパを用意していると奥の台所の方からバタバタと大勢の足音がしてきて、なんと狭い廊下に家族全員が出迎えに出て来てくれた。
「お帰りーっ。ハロー、ナイストゥミーチュー。アイム ノッコズマザー。ハウドゥユードゥ。」
…お母さん張り切ってる。
伸也にでもレクチャーされたのかしら?
お父さんは、後ろの方でハローハロー言ってるし…。
伸也はその横でニヤニヤ笑っている。
アレックスは、ワオッと言ったかと思うと「歓迎してくれて嬉しい。コンニチワ、あれっくすデス。」と言いながらお母さんに抱きつき。
お父さんをハグして肩を叩くと、伸也と固い握手をしていた。
…未来の伯爵さまじゃなくてタダのアルさんだね、これは。
どーするよこれ。
なんだか馴染んでるんですけど…。
京都にいた時とは違い、地元に帰るとなんだかノッコの気持ちものんびりしてきたようだ。
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