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第三章 次女キャサリンの「王子の夢は誰も知らない」

始まりは決意と共に

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 夏の暑い日の事だった。
イギリス国、第一王子リチャード・グラン・ジェネシス殿下は気鬱きうつを抱えていた。

何日も雨が降らなくて庭の草木が枯れそうなのだ。
高名な園芸家のベス・エヴァンズ方式にのっとって自領地の庭の一部に水をかないエリアをこしらえた矢先の日照りだった。

目はチラチラと庭の隅にあるホースに向かう。木や花が「王子、水をくださいっ。手の先から干からびてしまいそうです。」と弱々しく訴えてくる。それでも心を鬼にして、水の無い世界の国々の民を無理矢理頭の中に思い浮かべて執務室の方向に踵を返した。


革張りのゆったりとした執務椅子に腰を下ろし、右手の指先でコツコツと机の上を叩きながら「何か違うことを考えるんだ。」と自分に言い聞かせる。

こういう時に一番に思い浮かぶのは一人の女性だ。

黒っぽいこげ茶の髪に黒い眼鏡をかけた賢そうな女性である。目は緑がかったブルーをしていてキッとこちらをみる目つきは鋭くて容赦ない。

クスッ、笑ってしまうな。想像の中でも優しくないなんて。

ハイスクール時代は何度振られただろう。
新入生だった彼女に一年間アプローチをし続けて、ことごとく断られてしまった。
二歳年上の自分が卒業した時に、彼女が誰かに「ホッとした。これで平穏な高校生活が送れるわ。」と言っているのを聞いてしまった。
その時はショックだったが、今に見ておれとかえってファイトが湧いてきたのを覚えている。


彼女もこの秋には私と同じ大学に入って来る。今度は逃がしはしない。

キャサリン・サマー、君は私のものだ。

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