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第四章 皇太子滝宮の「伝統を継ぐもの」
結婚式
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「シンデレラみたい…。」
輝く金髪を風になびかせた真っ白い軍服姿の王子様が、シンデレラ…いや違った、キャサリンの手を引いて教会の入り口から出て来た。
一斉に花びらやライスシャワーが舞う。
町のどこかで祝砲が打ち上げられ、沿道の歓声が一段と大きくなった。
お2人が皆の歓声に手を振って応えられている。
「…素敵。物語の中にいるみたいですね。」
亜美がそう言うと、滝宮様は苦笑した。
「何か月後かには、貴方も当事者ですよ。」
「………………。」
そうか。すっかり、失念していた。
そう言えばテレビの皇室特集で滝宮様のお母さま、燈子皇后陛下の結婚式の様子を見たことがある。
ああいうのを自分もすることになるのだ。
改めて責任の重さを感じる。
自分はちゃんと出来るのだろうか…?
「大丈夫です。亜美、貴方ならちゃんとできますとも。保証しますよ。」
亜美の心の声が聞こえたのか、秀次さまが励ましてくれた。
ヒデと呼んでくださいと言われたが、その呼び方は付き合いの短い亜美にはとうてい無理だ。
今は秀次さまで勘弁してもらっている。
いつかはヒデ、ヒデツグと呼べるようになるのだろうか?
キャサリンとリチャード王子がパレードをするために教会を出発すると、結婚式の参列者だった私達は一斉に披露宴会場に移動した。
お城の一番広い舞踏室と庭園を一体化して、披露宴の準備が整えられていた。
滝宮様が各国の首脳陣と皇室外交をしている間、亜美はサマー家の人たちと一緒に会場の片隅を温めていた。
サマー子爵ご夫妻とストランド伯爵は主賓なので挨拶を受けたりして忙しそうだったが、アレックスの兄弟は体調が本調子でないおばあ様とノッコを囲んで部屋の隅で歓談していた。
そこへ6人の子どもを連れたご夫婦がやって来た。
エミリーが一番に気づいて声をかける。
「ブリー! どこに行ったのかと思ったわ。」
アルさんの妹のブリジット・サマー、いえ、ブリジット・キャンベルさんらしい。
「それがね。ブリーが具合が悪くなっちゃって…。」
旦那さんが心配そうにブリーの顔色をうかがっている。
ストランド伯爵夫人がそんな2人を見て、呆れたように首を振った。
「…ガブリエル、あなたは何人作ってもわからないのね。ブリー、七人目なんでしょ。」
「さすがおばあ様ね。実はまたできちゃったみたい。」
ブリーさんはそう言って、舌をぺろりと出した。
旦那さんのガブリエルさんは、目を見開いて驚いている。
「…な、七人め?!」と呟いていたが、その声は歓声を上げたサマー家の兄弟たちには聞こえていなかった。
おめでたいんだけど…なんだか旦那さんが……。
が、頑張ってと言いたくなってしまう。
亜美が旦那様のガブリエルさんのことを気にしていると「ごめんねー。ガビーは私のだから…。」とブリーさんに牽制されてしまった。
それを聞いていたエミリーとデビッドさんが大笑いをする。
「ブリー、滝宮様の婚約者ってこの人よ。ノッコの友達の宗田亜美さん。」
「とうとうブリーの王子様が結婚しちゃうな。」
デビッドさんの言葉には何か含みがある。ブリジットさんと秀次さんの間に何かあったのだろうか?
チクリと胸を刺すものがある。
これが世に言う嫉妬というものなのかしら?
豊満な胸とお尻を持つ菫色の瞳のブリジットさん。6人のお母さんとは思えないくらい色っぽい。
結婚前にはさぞかしモテただろう。秀次さまもその蜜に溺れたのかも…。
亜美は思わず自分の控えめな胸を思い出してしまった。
「ちょっと来てっ。」
急にブリーさんに手を取られて、グイグイと庭園の方へ引っ張っていかれた。
日陰のベンチに座らせられたので、渋々とブリーさんの顔を見る。
「心配しなくても、滝宮さまとは何も無かったの。散々アプローチをしたけど目も向けて下さらなかったわ。」
秀次さま…こんな美人を前にして動じなかったとは。尊敬するかも。
「そうなんですか…。」
「だから貴方がちょっと憎らしいわね。あーんな素敵な人そうそういないわよ。だから貴方にお願いがあるの。私が言うべきことじゃないけど…彼を幸せにしてあげてね。」
ぽつりと言われたブリーさんの言葉に、胸を殴られたような気がした。
皇太子殿下として、滝宮様として見て来た人…でも、一人の男の人なんだ。
私が幸せにするべき、ううん…幸せにしたい人。
「亜美っ、ブリーさん!」
秀次さまが夏の日差しの中で、こちらを見て笑っている。
亜美は立ち上がって、彼に向かって手を振った。
「ヒデっ!」
秀次さまは目をまん丸にして、そしてにっこりと笑った。
輝く金髪を風になびかせた真っ白い軍服姿の王子様が、シンデレラ…いや違った、キャサリンの手を引いて教会の入り口から出て来た。
一斉に花びらやライスシャワーが舞う。
町のどこかで祝砲が打ち上げられ、沿道の歓声が一段と大きくなった。
お2人が皆の歓声に手を振って応えられている。
「…素敵。物語の中にいるみたいですね。」
亜美がそう言うと、滝宮様は苦笑した。
「何か月後かには、貴方も当事者ですよ。」
「………………。」
そうか。すっかり、失念していた。
そう言えばテレビの皇室特集で滝宮様のお母さま、燈子皇后陛下の結婚式の様子を見たことがある。
ああいうのを自分もすることになるのだ。
改めて責任の重さを感じる。
自分はちゃんと出来るのだろうか…?
「大丈夫です。亜美、貴方ならちゃんとできますとも。保証しますよ。」
亜美の心の声が聞こえたのか、秀次さまが励ましてくれた。
ヒデと呼んでくださいと言われたが、その呼び方は付き合いの短い亜美にはとうてい無理だ。
今は秀次さまで勘弁してもらっている。
いつかはヒデ、ヒデツグと呼べるようになるのだろうか?
キャサリンとリチャード王子がパレードをするために教会を出発すると、結婚式の参列者だった私達は一斉に披露宴会場に移動した。
お城の一番広い舞踏室と庭園を一体化して、披露宴の準備が整えられていた。
滝宮様が各国の首脳陣と皇室外交をしている間、亜美はサマー家の人たちと一緒に会場の片隅を温めていた。
サマー子爵ご夫妻とストランド伯爵は主賓なので挨拶を受けたりして忙しそうだったが、アレックスの兄弟は体調が本調子でないおばあ様とノッコを囲んで部屋の隅で歓談していた。
そこへ6人の子どもを連れたご夫婦がやって来た。
エミリーが一番に気づいて声をかける。
「ブリー! どこに行ったのかと思ったわ。」
アルさんの妹のブリジット・サマー、いえ、ブリジット・キャンベルさんらしい。
「それがね。ブリーが具合が悪くなっちゃって…。」
旦那さんが心配そうにブリーの顔色をうかがっている。
ストランド伯爵夫人がそんな2人を見て、呆れたように首を振った。
「…ガブリエル、あなたは何人作ってもわからないのね。ブリー、七人目なんでしょ。」
「さすがおばあ様ね。実はまたできちゃったみたい。」
ブリーさんはそう言って、舌をぺろりと出した。
旦那さんのガブリエルさんは、目を見開いて驚いている。
「…な、七人め?!」と呟いていたが、その声は歓声を上げたサマー家の兄弟たちには聞こえていなかった。
おめでたいんだけど…なんだか旦那さんが……。
が、頑張ってと言いたくなってしまう。
亜美が旦那様のガブリエルさんのことを気にしていると「ごめんねー。ガビーは私のだから…。」とブリーさんに牽制されてしまった。
それを聞いていたエミリーとデビッドさんが大笑いをする。
「ブリー、滝宮様の婚約者ってこの人よ。ノッコの友達の宗田亜美さん。」
「とうとうブリーの王子様が結婚しちゃうな。」
デビッドさんの言葉には何か含みがある。ブリジットさんと秀次さんの間に何かあったのだろうか?
チクリと胸を刺すものがある。
これが世に言う嫉妬というものなのかしら?
豊満な胸とお尻を持つ菫色の瞳のブリジットさん。6人のお母さんとは思えないくらい色っぽい。
結婚前にはさぞかしモテただろう。秀次さまもその蜜に溺れたのかも…。
亜美は思わず自分の控えめな胸を思い出してしまった。
「ちょっと来てっ。」
急にブリーさんに手を取られて、グイグイと庭園の方へ引っ張っていかれた。
日陰のベンチに座らせられたので、渋々とブリーさんの顔を見る。
「心配しなくても、滝宮さまとは何も無かったの。散々アプローチをしたけど目も向けて下さらなかったわ。」
秀次さま…こんな美人を前にして動じなかったとは。尊敬するかも。
「そうなんですか…。」
「だから貴方がちょっと憎らしいわね。あーんな素敵な人そうそういないわよ。だから貴方にお願いがあるの。私が言うべきことじゃないけど…彼を幸せにしてあげてね。」
ぽつりと言われたブリーさんの言葉に、胸を殴られたような気がした。
皇太子殿下として、滝宮様として見て来た人…でも、一人の男の人なんだ。
私が幸せにするべき、ううん…幸せにしたい人。
「亜美っ、ブリーさん!」
秀次さまが夏の日差しの中で、こちらを見て笑っている。
亜美は立ち上がって、彼に向かって手を振った。
「ヒデっ!」
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