サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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第四章 皇太子滝宮の「伝統を継ぐもの」

渦中に飛び込む決意

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*アミ*

 8月の半ばになると、サマー家の本邸の人たちが全員で帰って来た。

月の終わりにアレックスの妹のキャサリンとイギリスの第一王子リチャード殿下の結婚式がある。
その事前準備のために、いつもより早めに別荘から帰って来たらしい。

だんだんとマスコミの報道が過熱してきたので、サマー邸の敷地の周りにも警備の人があちこち配置されて、24時間体制で警戒するようになってきた。
こうなると滝宮さまとの夜のお散歩も難しくなる。毎日の習慣になっていたものがなくなると寂しいものだ。


そんなある日、仕事に出かける前に滝宮様に書斎に呼ばれた。

「朝早くにすみません。今日改めてお話したいのは、今後のことなんです。後1週間もすると私は結婚式の参加者が泊まるホテルに移動することになります。」

そう言われて亜美も気がついた。
亜美と宮様の接点はこのサマー家の別邸しかない。前回ノッコ達の結婚式で会った後も、5年もの間、出会うことはなかったのだ。

「私との結婚を亜美が前向きに考えて下さるのなら…できたら婚約をしておきたいのが私の本音です。」

これは早急な判断を迫られているんだろうな。
宮様が言おうとしていることはわかる。立場上、今後会える回数は極端に減るだろう。その中で双方が満足の行く付き合いが出来るとも限らない。こそこそと人目を忍んで会う仲になるのだろう。

亜美は唇を噛んで決意した。

「私は…私は、宮様とこれからも共にありたいと思っています。結婚の申し込みをお受けしたいと思います。」

亜美がそう言うと、宮様は「ああ…よかった! ありがとう、亜美。」と亜美の両手を取って、しっかりと握ってくれた。
そして「亜美が決心してくださったのなら、守屋を呼んできます。」と部屋を出て行かれた。

え、なぜここで守屋さん?


それから守屋さんが部屋に入って来て説明をしてくれたのだが…。
まとめると4点だった。

⒈ 婚約の公表を明日にでも宮内庁から発表する。

⒉ 皇太子の婚約者としてキャサリンの結婚式に参列する。この場合式の席次などの調整期限がもう過ぎているため、会場への入場のみを2人一緒で行い、席は離れ離れになると思われる。

⒊ 2人が日本に帰国後、宮内庁の研修を受けた後で婚約記者会見を行うことになる。

⒋ 結納の儀や婚姻の儀については、記者会見の後でまた日を改めて家族に説明することになる。

そして、各国の要人からお祝いを言われた場合の受け答えの練習を明日の夜行いたいと言われた。

「ご家族と親しいお友達にはこれからすぐに電話してくださいね。取材記者が行くと思いますので。基本的には『喜んでいます。』以外はノーコメントにしてもかまわないと思います。
そして塾の生徒さんと本屋の方ですが、明日の宮内庁公表の後でご家族からご迷惑をかけるお詫びだけを電話して頂けるとありがたいです。たぶん、ご家族と友達の後にはそちらに記者が向かうと思われます。」


直近の結婚式への参加? もうそんなことを考えないといけないの? 

サマー領でのお披露目パーティーには参加して欲しいと言われていたので、日本からドレスは1枚持って来ていたが…それだけである。

「ドレスがないっ。それに電話!! …でも、公表を遅らせることは出来ないんですか?」

「実は、以前ここの庭園を取材に来ていたMHKの取材記者がたまたまキャサリンさんの家の取材に来て、庭園を散歩されているお2人を見られたらしいんです。リチャード王子の結婚中継にその話を入れ込む予定だと聞きました。宮内庁に話の真偽の問い合わせがあったときに、情報と引き換えにその番組の予定をリークしてくれたんです。スキャンダルとなるかおめでたい話として発表されるかで国民の受け取り方も変わります。今回、亜美さんが前向きな気持ちになってくださって、本当にありがたいと思っています。」

仕事の段取りが格段に楽になりました。と守屋さんに感謝された。

…そういう仕事もあるのね。知らなかった。

亜美が決心できないときはそれはそれで対策を取ってくれる予定だったらしいが、調整のためにいくつかの情報戦が必要だったらしい。

自分が行動することで多くの人を振り回すことになる。それがこの1刻の間に身にしみてわかった。

皇太子妃への道を歩むということは…こういうことなのね。



◇◇◇



 部屋に帰って、亜美はまず自宅に電話をした。日本は深夜近いが、そんなことは言っていられない。

「もしもしぃー? 亜美なの? どうしたのよこんなに遅く。」

のんきなお母さんの声がして、気持ちが緩む。

「お母さん、あのねぇ…急な話なんだけど私、結婚したい人が出来たの。」

「ええっーー?! なによ急に。まさか外人?!」

「違う。日本人なんだけど…えっとね。皇太子さまなのよ。相手の人。」

「なんだ。冗談か。」

「冗談じゃないの。もうっ、ちゃんと聞いてよ。明日、宮内庁から公式発表があるからその前にお父さんとお母さんに報告をしときたかったのよ。」

「…どういうこと?! それ本気で言ってるの?!」

「もう、こんなことで冗談言うわけないじゃない。急な話で悪いんだけど、マスコミにお付き合いの事が知られたらしくて、緊急発表になるんだって。」

「お付き合いって、いつからそんなことになってたのっ?」

「ん…イギリスに来てすぐから。」

「そぉーんな、まだ2、3週間じゃないのー。」

「そうなのよねー。…でもそういうことになっちゃったの。」

「はぁぁ~。」

「とにかくお父さんにそう言っといて。それで、公式発表の後にマスコミが来るかもしれないから…。」

そう言って、守屋さんに言われた対策を頼んでおいた。母は最期まで呆然としていたが、ターチにも連絡をしなければならないので、詳しいことはまた明日ということにした。

なんだか忙しなくて申し訳ない。


ターチに電話口で叫び続けられたので、まだ耳がガンガンする。
それでもノッコにも報告をしとかないといけないので、亜美は下に降りていった。

ノッコは1階の育児室でクレアに授乳しているところだった。

亜美の顔を見ると入ってこいと言う。亜美が背中を丸めておずおずと入っていくと笑われた。

「そんな顔をしなくてもいいのよ。聞いたわよ、滝宮様から。おめでとう、決めたのね。」

「うん。ちょっと早すぎるけどね。」

「ふふっ。うちのお母さんが言ってたの。早い遅いは関係ない。決まるものは決まるし、決まらないものはいくら時間をかけでもダメだって。…でも亜美が皇太子妃殿下ねぇ。学生の頃から考えると想像もつかなかったわね。イギリスで2人してこんなことになってるなんて。」

「本当にそう。まさかねぇ。一旦お断りしたのに…。」

「えっ、なになに。その話は聞いてないわよっ。詳しく話してよ。」

…しまった。
言わなくていいことを言っちゃった。


それからノッコに、ターチに匹敵するような根掘り葉掘りの追及を受けたのだった。

勿論、お店の開店時間には大幅に遅刻した。
「大丈夫。店主がいいって言ってるんだから。」と言われても…。

亜美は、待っていたお客さんに謝ることからその日の仕事を始めたのだった。
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