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自宅への突入
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結局、由紀恵はまたおばあちゃんちの台所に戻っていた。
出かけなかったので、なにか食べられる物を探さなくてはならない。
由紀恵が「岡田の自宅まで帰りたい」と言ったら、これから雪が降っている中を歩いて行くのは無謀だ、と山岡君に言われたのだ。
「午後には雪がやむと思うから、それからにしよう。昼飯もまだだし」
なにもかも、ごもっとも。
自分が焦っていたことがよくわかる。
午後の一時頃にはこの家に迎えに来てくれるというので、それまでご飯を食べて、もう一度落ち着いてよく考えてみよう。
まずは、食糧のチェックだ。
醤油などの調味料はある。乾物のある棚をよく見ると、奥の方にそばとソーメンの袋があった。
それに嬉しいことに、インスタントラーメンが二袋もある!
助かった。昼はこれを食べよう。
袋の裏の作り方を見ながらラーメンを作る。
そしてそれを食べながら思った。
東京に出て一人暮らしをするっていうのは、こういう事なんだな。
朝・昼・晩と自分でご飯を作るんだ。頼れる人は誰もいない。
わずかなお金をやりくりして、なんとか独りで生きていかなくてはならない。
「野菜を食べなさいよ」「栄養バランス!」
おばあちゃんやお母さんがよく言っていたことを思い出す。
鼻水をすすりながら、泣き笑いの顔になった。
野菜を買ってこよう。
でも野菜って、いくらなんだろう?
野菜の値段も知らないや。
ご飯を食べたら頭が回り始めた。
そういえば、おばあちゃんの自転車が物置にあったよね。
昼食の後片付けをした後で、裏の物置に行ってみると、やっぱり小豆色のママチャリがそこに止めてあった。
タイヤに触ってみたら空気が少なかったので、空気入れを出してきて入れておく。
自転車の鍵は、家の鍵を入れてある引き出しに入っていた。
ガタガタいわせて自転車を外に出していたら、玄関のほうから声が聞こえてきた。
山岡君だ。
「はーい! 今、行きまーす!」
「……自転車、あったんだ」
「おばあちゃんのだけどね。今、入院してるから、借りることにした」
山岡君も自転車に乗ってきていた。
サドルに布が巻いてある。
もしかしたら後ろに乗せてくれるつもりだったのかもしれない。
「雪、やんだね。でも滑るから気を付けて。僕は後からついて行くから。」
「うん、ゆっくり行くね」
普段は15分の道のりを、20分ぐらいかけてゆっくりと帰る。
時折振り返って見たが、山岡君は余裕でついて来てくれているようだ。
駅前の大通りに出るとすっかり雪も解けていたので、スピードを出すことが出来た。
新興住宅が建ち並ぶ岡田のニュータウンに入り、一番奥の区画まで行く。
由紀恵が公園の側に自転車を止めると、山岡君が不思議そうな顔をしながら、後ろにやってきて自転車を止めた。
「家に帰るんじゃなかったの?」
「実はね……ちょっと事情があるのよね」
「家出?」
「違う! えっと……タイムトラベルって知ってる? ……そんな顔をしないでよ。私はおかしくなんかないんだから。こんな状況になっちゃって困ってるのは、私なのよ。夏休みにおばあちゃんの家を片付けに行ったら、知らないうちに5年前に飛ばされてたんだから! くっ……もういい。とにかく家から取って来るものがあるから、見張りだけしといて。誰か帰ってきたら、大声を出して教えて欲しいの」
「……泥棒の片棒を担いでるわけじゃない証拠が欲しい」
「証拠? んー……これは?」
由紀恵はポケットに入れていたケータイを山岡君に見せた。
「iPhoneか? へー、もう手に入れたんだ」
「私、中一の時にはガラケーも持ってなかった。周りでもアイフォンを持ってる人は少なかったからよく覚えてないけど、五年前ってiPhone5ぐらいじゃなかった? 今は……5年後は、iPhoneSEなの。私のはまだ、6Sだけど」
山岡君にケータイを渡すと、手に取ってじっくり見ていた。
「確かに……あんまり見たことのない形状かも。でも、ガラケーって、なに?」
「ガラパゴスケイタイ。アイフォン以前の携帯のこと」
「へぇー」
「それから……私は中学の時、赤い自転車に乗ってた。弟の達樹は……げっ、5年前っていったら小学生じゃない。小4? ということは家にいるかも……どうしよう」
由紀恵がうろたえていると、山岡君は呆れた顔をして頭を振った。
「遠坂さんは、計画性がなさすぎるよ。わかった、一応、君の言い分を信じたことにする。悪いことはできそうにないタイプだし、朝の格好は……もしかしてとも思えるし」
「……あり……がとう。ありがとう、山岡くん!」
由紀恵は携帯ごと、山岡君の手をギュッと握り締めた。
手袋をはめた山岡君の手は大きくて、とても頼もしい感じがした。
「そ、それはいいけどさ。もしかして君の家って、公園の隣の青い壁の家?」
「うん。どうしてわかったの?」
「今、男の子が出て来た。振り返らないで! まだこっちを見てる。……いいよ、行ったみたいだ」
由紀恵がそうっと振り返って見ると、小学生の達樹が見えた。
達樹って、こんなに小さかったんだ。
「達樹……小さい。今は私より背が高いのに」
達樹は五軒先にある友達のフミくんの家に入っていった。
「今のうちだね、行ってくる」
「うん、気を付けて。必要なもの以外は、あんまり触らないほうがいいと思うよ」
「そう?……わかった」
家に入ると、自分の家なのに何か違う。
玄関の飾りや、出してある靴など、少しずつ違うところがあって違和感を感じる。
家に……拒絶されているような気がする。
「余計なことを考えないで、目的を達成させなきゃ」
由紀恵は自分の部屋に入ると、机の引き出しから通帳と印鑑を取り出した。ここにはお年玉などを貯めている。
服も着替えようかと思っていたが、さっきの山岡君の言葉を聞いて、手を付けないことにした。
その時「おーい!」という声が外から聞こえたので、2階の窓から覗いて見ると、「私」が自転車で帰ってきているのが遠くに見えた。
「ヤバい!」
慌てて下まで駆け下りて、玄関の靴を引っ掴むと裏口から外に飛び出る。
しばらく庭の木の影に潜み、「私」が家に入った音を聞いてから、こっそりと道に出て行った。
「あー、びっくりした。心臓に悪い~」
「こっちも驚いたよ。自転車の色を聞いてなかったら、わからないとこだった。まるで別人じゃん。」
「そう?」
「髪も長いし、大人しそうだし」
「悪かったわね」
「……それで、必要なものは持ってこれたの?」
「うん、これ」
「通帳?! それってやばくない?」
「え? 自分のお金だよ」
「でもさ、それは5年前の君のものであって、今の君のものじゃない……だろ?」
「だって、すぐに元の世界へ帰れなかったら飢え死にするじゃん。こういう時に使わないで、いつ使うのよ」
「………………。でも、タイムパラドックスが起きないかな?」
「知らない。そんなものが起きるぐらいなら、私はここにいないと思う。いいの、どうなっても。訳のわからない理論より、目先のご飯よ!」
「……女って逞しいな。それで、これからどうする?」
「おばあちゃんの顔が見たいな……三年前に、死んじゃったから」
「そっか。じゃあ病院に付き合うよ」
「いいの? タイムパラドーとかなんとか」
「タイムパラドックス。これだってSF作家か科学者が作った言葉だし、本当に起こることだと実証されたわけじゃないからね。君の言う、いまさらかもしれない」
「ありがと」
それから二人でまた町へ戻った。
郵便局によって当座のお金を手にすると、やっと気持ちに余裕が出て来た。
でも病院に行ってまた驚かされることになろうとは、その時の由紀恵はまったく思ってもみなかった。
出かけなかったので、なにか食べられる物を探さなくてはならない。
由紀恵が「岡田の自宅まで帰りたい」と言ったら、これから雪が降っている中を歩いて行くのは無謀だ、と山岡君に言われたのだ。
「午後には雪がやむと思うから、それからにしよう。昼飯もまだだし」
なにもかも、ごもっとも。
自分が焦っていたことがよくわかる。
午後の一時頃にはこの家に迎えに来てくれるというので、それまでご飯を食べて、もう一度落ち着いてよく考えてみよう。
まずは、食糧のチェックだ。
醤油などの調味料はある。乾物のある棚をよく見ると、奥の方にそばとソーメンの袋があった。
それに嬉しいことに、インスタントラーメンが二袋もある!
助かった。昼はこれを食べよう。
袋の裏の作り方を見ながらラーメンを作る。
そしてそれを食べながら思った。
東京に出て一人暮らしをするっていうのは、こういう事なんだな。
朝・昼・晩と自分でご飯を作るんだ。頼れる人は誰もいない。
わずかなお金をやりくりして、なんとか独りで生きていかなくてはならない。
「野菜を食べなさいよ」「栄養バランス!」
おばあちゃんやお母さんがよく言っていたことを思い出す。
鼻水をすすりながら、泣き笑いの顔になった。
野菜を買ってこよう。
でも野菜って、いくらなんだろう?
野菜の値段も知らないや。
ご飯を食べたら頭が回り始めた。
そういえば、おばあちゃんの自転車が物置にあったよね。
昼食の後片付けをした後で、裏の物置に行ってみると、やっぱり小豆色のママチャリがそこに止めてあった。
タイヤに触ってみたら空気が少なかったので、空気入れを出してきて入れておく。
自転車の鍵は、家の鍵を入れてある引き出しに入っていた。
ガタガタいわせて自転車を外に出していたら、玄関のほうから声が聞こえてきた。
山岡君だ。
「はーい! 今、行きまーす!」
「……自転車、あったんだ」
「おばあちゃんのだけどね。今、入院してるから、借りることにした」
山岡君も自転車に乗ってきていた。
サドルに布が巻いてある。
もしかしたら後ろに乗せてくれるつもりだったのかもしれない。
「雪、やんだね。でも滑るから気を付けて。僕は後からついて行くから。」
「うん、ゆっくり行くね」
普段は15分の道のりを、20分ぐらいかけてゆっくりと帰る。
時折振り返って見たが、山岡君は余裕でついて来てくれているようだ。
駅前の大通りに出るとすっかり雪も解けていたので、スピードを出すことが出来た。
新興住宅が建ち並ぶ岡田のニュータウンに入り、一番奥の区画まで行く。
由紀恵が公園の側に自転車を止めると、山岡君が不思議そうな顔をしながら、後ろにやってきて自転車を止めた。
「家に帰るんじゃなかったの?」
「実はね……ちょっと事情があるのよね」
「家出?」
「違う! えっと……タイムトラベルって知ってる? ……そんな顔をしないでよ。私はおかしくなんかないんだから。こんな状況になっちゃって困ってるのは、私なのよ。夏休みにおばあちゃんの家を片付けに行ったら、知らないうちに5年前に飛ばされてたんだから! くっ……もういい。とにかく家から取って来るものがあるから、見張りだけしといて。誰か帰ってきたら、大声を出して教えて欲しいの」
「……泥棒の片棒を担いでるわけじゃない証拠が欲しい」
「証拠? んー……これは?」
由紀恵はポケットに入れていたケータイを山岡君に見せた。
「iPhoneか? へー、もう手に入れたんだ」
「私、中一の時にはガラケーも持ってなかった。周りでもアイフォンを持ってる人は少なかったからよく覚えてないけど、五年前ってiPhone5ぐらいじゃなかった? 今は……5年後は、iPhoneSEなの。私のはまだ、6Sだけど」
山岡君にケータイを渡すと、手に取ってじっくり見ていた。
「確かに……あんまり見たことのない形状かも。でも、ガラケーって、なに?」
「ガラパゴスケイタイ。アイフォン以前の携帯のこと」
「へぇー」
「それから……私は中学の時、赤い自転車に乗ってた。弟の達樹は……げっ、5年前っていったら小学生じゃない。小4? ということは家にいるかも……どうしよう」
由紀恵がうろたえていると、山岡君は呆れた顔をして頭を振った。
「遠坂さんは、計画性がなさすぎるよ。わかった、一応、君の言い分を信じたことにする。悪いことはできそうにないタイプだし、朝の格好は……もしかしてとも思えるし」
「……あり……がとう。ありがとう、山岡くん!」
由紀恵は携帯ごと、山岡君の手をギュッと握り締めた。
手袋をはめた山岡君の手は大きくて、とても頼もしい感じがした。
「そ、それはいいけどさ。もしかして君の家って、公園の隣の青い壁の家?」
「うん。どうしてわかったの?」
「今、男の子が出て来た。振り返らないで! まだこっちを見てる。……いいよ、行ったみたいだ」
由紀恵がそうっと振り返って見ると、小学生の達樹が見えた。
達樹って、こんなに小さかったんだ。
「達樹……小さい。今は私より背が高いのに」
達樹は五軒先にある友達のフミくんの家に入っていった。
「今のうちだね、行ってくる」
「うん、気を付けて。必要なもの以外は、あんまり触らないほうがいいと思うよ」
「そう?……わかった」
家に入ると、自分の家なのに何か違う。
玄関の飾りや、出してある靴など、少しずつ違うところがあって違和感を感じる。
家に……拒絶されているような気がする。
「余計なことを考えないで、目的を達成させなきゃ」
由紀恵は自分の部屋に入ると、机の引き出しから通帳と印鑑を取り出した。ここにはお年玉などを貯めている。
服も着替えようかと思っていたが、さっきの山岡君の言葉を聞いて、手を付けないことにした。
その時「おーい!」という声が外から聞こえたので、2階の窓から覗いて見ると、「私」が自転車で帰ってきているのが遠くに見えた。
「ヤバい!」
慌てて下まで駆け下りて、玄関の靴を引っ掴むと裏口から外に飛び出る。
しばらく庭の木の影に潜み、「私」が家に入った音を聞いてから、こっそりと道に出て行った。
「あー、びっくりした。心臓に悪い~」
「こっちも驚いたよ。自転車の色を聞いてなかったら、わからないとこだった。まるで別人じゃん。」
「そう?」
「髪も長いし、大人しそうだし」
「悪かったわね」
「……それで、必要なものは持ってこれたの?」
「うん、これ」
「通帳?! それってやばくない?」
「え? 自分のお金だよ」
「でもさ、それは5年前の君のものであって、今の君のものじゃない……だろ?」
「だって、すぐに元の世界へ帰れなかったら飢え死にするじゃん。こういう時に使わないで、いつ使うのよ」
「………………。でも、タイムパラドックスが起きないかな?」
「知らない。そんなものが起きるぐらいなら、私はここにいないと思う。いいの、どうなっても。訳のわからない理論より、目先のご飯よ!」
「……女って逞しいな。それで、これからどうする?」
「おばあちゃんの顔が見たいな……三年前に、死んじゃったから」
「そっか。じゃあ病院に付き合うよ」
「いいの? タイムパラドーとかなんとか」
「タイムパラドックス。これだってSF作家か科学者が作った言葉だし、本当に起こることだと実証されたわけじゃないからね。君の言う、いまさらかもしれない」
「ありがと」
それから二人でまた町へ戻った。
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