7 / 23
道の先
しおりを挟む
学院での第一日目は、自己紹介や明日からの授業の予習復習の仕方の説明、学院内の各教室の使い方など、オリエンテーションのようなものが多かった。
ドルーは予想通り、上級貴族クラスの学級委員に任命されていた。
トティは留学生なので、知らない人ばかりの中で疎外感を感じるのではないかと思っていたが、ドルーやプリシラが休み時間の度にクラスメイト達を紹介してくれたので、自然にクラスにとけこむことが出来た。
こういう時、寮のルームメイト制度というのはありがたい。
最初の日が無事に済んで部屋に戻ってみると、妖精のリベルも戻ってきていた。
守護しなければならないはずのトティを一日中、放っておいて、どこが守護妖精なんだろう?
「あら、食事は済んだの?」
ちょっとした嫌味も込めてトティが言うと、リベルはツンとあごを上げて言い訳をした。
「仕方がないじゃないか、小包の中には食べられるものがなかったんだから…。 これでも朝が来るまで我慢してたんだよ。」
小包の中に長時間いたことは、どうやらリベルにとってだいぶ負担になっていたようだ。
「そうなの、それは悪かったわね。それで学院には花が咲いていた?」
「それがすっごい所を見つけたんだ! この寮の東の方にものすごく広い花畑があったんだよ!」
それは初耳だ。
へぇ~、ちょっと見てみたいかも。散歩に行ってみようかな。
トティは明日の授業の教科書やノートを鞄に入れて準備を済ませると、帽子を持って部屋を出た。
「あらトティも出かけるの?」
そういうドルーとプリシラも出かける格好をして部屋から出てきていた。
「リベルが花畑があるっていうから、散歩に行こうと思って…」
「ああ、大学の農業試験場ね。ここの東側がとっても広い畑になってるのよ。トティ、これから私たちは婚約者に会いに行ってくるわ。」
「ふぅん…いってらっしゃい。」
婚約者ね…学院に来てからすぐに会いに行くほど親しくしてるんだ。
プリシラなんて、朝にもマイケルと会ってたよね。新入生の教室がある三階の廊下までエスコートしてもらってたし。その上すぐには別れがたかったみたいで、しばらく二人だけで廊下で話をしてたし。
うちの姉様たちの結婚相手とのお付き合いとは、全然違う感じ。
トティはプリシラたちだけが特別なのだと思っていたが、寮の外に出てみると広い学院内のあちこちにたくさんのカップルが歩いていた。木陰に設置されているベンチなどは、どこも満員御礼状態だ。
ひぇ~、オディエ国じゃ考えられないな。
ここの国の人たちって、男女交際に積極的なのねぇ。
手を繋いで話をしているカップルの側を通る時なんかは、目のやり場に困る。
トティが周りを見ずにサッサと歩いて行く後を、リベルはクスクス笑いながら追いかけてきた。
「トティ、こっちだよ! ここの小道の先に花畑があるんだ。」
小さな道と交差していた角を行き過ぎてしまったトティは、リベルの声で戻って来た。
そこはワクワクするような曲がり角だった。道の両側に青い小さな草花が咲いている。小道はゆるやかに曲がりながら、木漏れ日が涼やかな林の影の中に消えていた。
この道の先に何があるのかしらね?
リベルのいう花畑だとわかってはいても、こういう小道の先には何か冒険が待っているという気がする。
こんな感覚を覚える時には、トティも自分はムーンランドの血を引いているなと思うのだった。
母様のポーラはこれから起こることに対する感覚が人並外れて鋭いところがある。トティはその血を半分しか受け継いでいないが、向かっていく先に楽しいことがあるのか、嫌なことがあるのかはなんとなく感じる。
この道はどこに続いてるんだろうな…
気持ちのいい林の中を抜けると、そこには一面のお花畑が広がっていた。
秋の澄んだ空気の中に、様々な花の芳香が混じっている。
「うわぁ……これはすごい。」
遠くの方には花だけではなく、いろんな種類の野菜が区画を分けて植えられている。
昨夜の夕食に出たカボチャなどは、横に広がる植え方と縦に柵にそってツルを伸ばす植え方の違いを研究しているようだった。
トティは空中にぶら下がっているように見えるカボチャが気になったので、風に揺れるコスモスや優しい色合いの麒麟草、真っ赤に燃えるケイトウなどを眺めながらブラブラと畑の方へ歩いて行った。
「ふーん、空中にぶら下がってても、カボチャはカボチャなのね。」
「そうだね。小ぶりな形になるけど美味しいよ。」
独り言にどこからともなく返事が聞こえてきたので、トティはギョッとした。
「あ、ごめんごめん。驚いた?」
声が聞こえてきた上の方を見ると、柵の向こうのツルの隙間からこちらを見ている眼鏡の男の人がいた。金褐色の長い髪が、ボサボサと眼鏡にもかかっている。
あれで前が見えるのだろうか? 髪を切ればいいのにね。
これがトティにとって、これからを左右する大きな出会いとなるのだった。
ドルーは予想通り、上級貴族クラスの学級委員に任命されていた。
トティは留学生なので、知らない人ばかりの中で疎外感を感じるのではないかと思っていたが、ドルーやプリシラが休み時間の度にクラスメイト達を紹介してくれたので、自然にクラスにとけこむことが出来た。
こういう時、寮のルームメイト制度というのはありがたい。
最初の日が無事に済んで部屋に戻ってみると、妖精のリベルも戻ってきていた。
守護しなければならないはずのトティを一日中、放っておいて、どこが守護妖精なんだろう?
「あら、食事は済んだの?」
ちょっとした嫌味も込めてトティが言うと、リベルはツンとあごを上げて言い訳をした。
「仕方がないじゃないか、小包の中には食べられるものがなかったんだから…。 これでも朝が来るまで我慢してたんだよ。」
小包の中に長時間いたことは、どうやらリベルにとってだいぶ負担になっていたようだ。
「そうなの、それは悪かったわね。それで学院には花が咲いていた?」
「それがすっごい所を見つけたんだ! この寮の東の方にものすごく広い花畑があったんだよ!」
それは初耳だ。
へぇ~、ちょっと見てみたいかも。散歩に行ってみようかな。
トティは明日の授業の教科書やノートを鞄に入れて準備を済ませると、帽子を持って部屋を出た。
「あらトティも出かけるの?」
そういうドルーとプリシラも出かける格好をして部屋から出てきていた。
「リベルが花畑があるっていうから、散歩に行こうと思って…」
「ああ、大学の農業試験場ね。ここの東側がとっても広い畑になってるのよ。トティ、これから私たちは婚約者に会いに行ってくるわ。」
「ふぅん…いってらっしゃい。」
婚約者ね…学院に来てからすぐに会いに行くほど親しくしてるんだ。
プリシラなんて、朝にもマイケルと会ってたよね。新入生の教室がある三階の廊下までエスコートしてもらってたし。その上すぐには別れがたかったみたいで、しばらく二人だけで廊下で話をしてたし。
うちの姉様たちの結婚相手とのお付き合いとは、全然違う感じ。
トティはプリシラたちだけが特別なのだと思っていたが、寮の外に出てみると広い学院内のあちこちにたくさんのカップルが歩いていた。木陰に設置されているベンチなどは、どこも満員御礼状態だ。
ひぇ~、オディエ国じゃ考えられないな。
ここの国の人たちって、男女交際に積極的なのねぇ。
手を繋いで話をしているカップルの側を通る時なんかは、目のやり場に困る。
トティが周りを見ずにサッサと歩いて行く後を、リベルはクスクス笑いながら追いかけてきた。
「トティ、こっちだよ! ここの小道の先に花畑があるんだ。」
小さな道と交差していた角を行き過ぎてしまったトティは、リベルの声で戻って来た。
そこはワクワクするような曲がり角だった。道の両側に青い小さな草花が咲いている。小道はゆるやかに曲がりながら、木漏れ日が涼やかな林の影の中に消えていた。
この道の先に何があるのかしらね?
リベルのいう花畑だとわかってはいても、こういう小道の先には何か冒険が待っているという気がする。
こんな感覚を覚える時には、トティも自分はムーンランドの血を引いているなと思うのだった。
母様のポーラはこれから起こることに対する感覚が人並外れて鋭いところがある。トティはその血を半分しか受け継いでいないが、向かっていく先に楽しいことがあるのか、嫌なことがあるのかはなんとなく感じる。
この道はどこに続いてるんだろうな…
気持ちのいい林の中を抜けると、そこには一面のお花畑が広がっていた。
秋の澄んだ空気の中に、様々な花の芳香が混じっている。
「うわぁ……これはすごい。」
遠くの方には花だけではなく、いろんな種類の野菜が区画を分けて植えられている。
昨夜の夕食に出たカボチャなどは、横に広がる植え方と縦に柵にそってツルを伸ばす植え方の違いを研究しているようだった。
トティは空中にぶら下がっているように見えるカボチャが気になったので、風に揺れるコスモスや優しい色合いの麒麟草、真っ赤に燃えるケイトウなどを眺めながらブラブラと畑の方へ歩いて行った。
「ふーん、空中にぶら下がってても、カボチャはカボチャなのね。」
「そうだね。小ぶりな形になるけど美味しいよ。」
独り言にどこからともなく返事が聞こえてきたので、トティはギョッとした。
「あ、ごめんごめん。驚いた?」
声が聞こえてきた上の方を見ると、柵の向こうのツルの隙間からこちらを見ている眼鏡の男の人がいた。金褐色の長い髪が、ボサボサと眼鏡にもかかっている。
あれで前が見えるのだろうか? 髪を切ればいいのにね。
これがトティにとって、これからを左右する大きな出会いとなるのだった。
15
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる