指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星

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道の先

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 学院での第一日目は、自己紹介や明日からの授業の予習復習の仕方の説明、学院内の各教室の使い方など、オリエンテーションのようなものが多かった。

ドルーは予想通り、上級貴族クラスの学級委員に任命されていた。
トティは留学生なので、知らない人ばかりの中で疎外感を感じるのではないかと思っていたが、ドルーやプリシラが休み時間の度にクラスメイト達を紹介してくれたので、自然にクラスにとけこむことが出来た。
こういう時、寮のルームメイト制度というのはありがたい。


最初の日が無事に済んで部屋に戻ってみると、妖精のリベルも戻ってきていた。
守護しなければならないはずのトティを一日中、放っておいて、どこが守護妖精なんだろう?

「あら、食事は済んだの?」

ちょっとした嫌味も込めてトティが言うと、リベルはツンとあごを上げて言い訳をした。

「仕方がないじゃないか、小包の中には食べられるものがなかったんだから…。 これでも朝が来るまで我慢してたんだよ。」

小包の中に長時間いたことは、どうやらリベルにとってだいぶ負担になっていたようだ。

「そうなの、それは悪かったわね。それで学院には花が咲いていた?」

「それがすっごい所を見つけたんだ! この寮の東の方にものすごく広い花畑があったんだよ!」

それは初耳だ。
へぇ~、ちょっと見てみたいかも。散歩に行ってみようかな。

トティは明日の授業の教科書やノートを鞄に入れて準備を済ませると、帽子を持って部屋を出た。

「あらトティも出かけるの?」

そういうドルーとプリシラも出かける格好をして部屋から出てきていた。

「リベルが花畑があるっていうから、散歩に行こうと思って…」

「ああ、大学の農業試験場ね。ここの東側がとっても広い畑になってるのよ。トティ、これから私たちは婚約者に会いに行ってくるわ。」

「ふぅん…いってらっしゃい。」

婚約者ね…学院に来てからすぐに会いに行くほど親しくしてるんだ。
プリシラなんて、朝にもマイケルと会ってたよね。新入生の教室がある三階の廊下までエスコートしてもらってたし。その上すぐには別れがたかったみたいで、しばらく二人だけで廊下で話をしてたし。
うちの姉様たちの結婚相手とのお付き合いとは、全然違う感じ。

トティはプリシラたちだけが特別なのだと思っていたが、寮の外に出てみると広い学院内のあちこちにたくさんのカップルが歩いていた。木陰に設置されているベンチなどは、どこも満員御礼状態だ。

ひぇ~、オディエ国じゃ考えられないな。
ここの国の人たちって、男女交際に積極的なのねぇ。

手を繋いで話をしているカップルの側を通る時なんかは、目のやり場に困る。
トティが周りを見ずにサッサと歩いて行く後を、リベルはクスクス笑いながら追いかけてきた。

「トティ、こっちだよ! ここの小道の先に花畑があるんだ。」


小さな道と交差していた角を行き過ぎてしまったトティは、リベルの声で戻って来た。
そこはワクワクするような曲がり角だった。道の両側に青い小さな草花が咲いている。小道はゆるやかに曲がりながら、木漏れ日が涼やかな林の影の中に消えていた。

この道の先に何があるのかしらね?

リベルのいう花畑だとわかってはいても、こういう小道の先には何か冒険が待っているという気がする。
こんな感覚を覚える時には、トティも自分はムーンランドの血を引いているなと思うのだった。
母様のポーラはこれから起こることに対する感覚が人並外れて鋭いところがある。トティはその血を半分しか受け継いでいないが、向かっていく先に楽しいことがあるのか、嫌なことがあるのかはなんとなく感じる。

この道はどこに続いてるんだろうな…

気持ちのいい林の中を抜けると、そこには一面のお花畑が広がっていた。
秋の澄んだ空気の中に、様々な花の芳香が混じっている。

「うわぁ……これはすごい。」

遠くの方には花だけではなく、いろんな種類の野菜が区画を分けて植えられている。
昨夜の夕食に出たカボチャなどは、横に広がる植え方と縦に柵にそってツルを伸ばす植え方の違いを研究しているようだった。

トティは空中にぶら下がっているように見えるカボチャが気になったので、風に揺れるコスモスや優しい色合いの麒麟キリン草、真っ赤に燃えるケイトウなどを眺めながらブラブラと畑の方へ歩いて行った。

「ふーん、空中にぶら下がってても、カボチャはカボチャなのね。」

「そうだね。小ぶりな形になるけど美味しいよ。」

独り言にどこからともなく返事が聞こえてきたので、トティはギョッとした。

「あ、ごめんごめん。驚いた?」

声が聞こえてきた上の方を見ると、柵の向こうのツルの隙間からこちらを見ている眼鏡の男の人がいた。金褐色の長い髪が、ボサボサと眼鏡にもかかっている。

あれで前が見えるのだろうか? 髪を切ればいいのにね。

これがトティにとって、これからを左右する大きな出会いとなるのだった。
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