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第二章 アルテア大陸
回復力
しおりを挟むテントに打ち付ける雨は激しさを増し、落雷が辺りを明るく照らす。
どうやら本格的に降ってきたようだ。
キルアさんに案内され、今日はここのテントを使ってよいと言われたので、中に入り、濡れたコートを掛ける。
思ったよりも狭く、キルアさんが申し訳なさそうにしていたが、私1人が寝るだけなので気にしないでほしいと言った。
この簡易テントは大きさが色々あり、今回案内されたのは一人用に作られたテントであった。
テントの中には小さなランプと毛布があるだけで、ランプを手に取り眺めるとどうやらこれも魔法で点けるタイプのものらしかった。
寝るだけだし、なくても問題はないな…
大半のこういった器具は魔法を必ず必要とする。
魔力がない私にとってはこういった便利な物もただの置物でしかない。
毛布をひき、横になるとしだいに眠気が襲ってくる。
外は相変わらず激しい雨が降り続いているが、不思議とうるさくはなく、次第に夢の中に落ちていくものだと思っていた。
不意に雨音とは違うテントを開けるガサリという音で意識を取り戻した。
「!?」
暗くてよく見えないが、このテントに誰かが入ってきたようだ。
一気に眠気は吹き飛び、慌てて上体を起こし、入って来た者が誰か確かめるために声を出す。
「誰だ!」
「ひゃう!!」
声の主は慌てて、暗がりの中荷物を抱えていたようで、私の声に驚いてガチャンと持っていた物を落としてしまった。
そしてその声は聞いたことのある声だった。
「シェリア… か?」
「す、すみません、 起こしてしまいましたか?」
暗くてよく見えないがどうやらシェリアで間違いないようだ。
「どうしてこんな夜中に?」
「腕の治療をしようと思って、起こさないようにしようとしていたんですけどね、待ってください、今ランプに明かりを点けますから、えっと… ランプ… ランプ…」
さっきのアクシデントで落としたのはどうやらランプだったようで、シェリアはしゃがみ込み探しているようだった。
「!?」
「ひゃう!! すみません!間違えました!!」
シェリアが掴んだのは私の左腕だったようで、咄嗟に手を放し、わたわたとする様が見えなくても目に浮かぶ。
「あ!ありました。 ファイア!」
「なっ!!?」
「わぁあああ!!!!」
ランプに明かりが灯ると、思った以上に私とシェリアの顔の距離が近くて、お互い勢いよく顔をそむけてしまった。
顔から火が出るほど熱く、かなり恥ずかしい体験をした事がわかる。
それはシェリアの方も同じだったらしく顔をそらし、赤い顔をしていて、胸の辺りを押さえていた。
「す、すまない、一人用らしくて狭いんだ」
「い、いえ、きゅ、急に私が来たのがいけないんです、今のは気にしないでください!」
すくっと立ち上がり、シェリアは濡れているコートを掛ける。
「ち、治療をするので、上を脱いでくれませんか?」
「あ、ああ…」
さっきの出来事で妙な気恥ずかしさは残っているものの、上着を脱ぎ、包帯でぐるぐる巻きとなった部分を露にする。
シェリアはランプを置くと、次元収納から治療薬を取り出し、治療の準備をしている。
包帯をするすると外していくとシェリアから驚きの声があがる。
「え!? 傷口が完全に塞がってる…」
見ると右腕の付け根は綺麗に塞がっていて、昨日までの痛々しさは見えなかった。
「もう治療もしなくても大丈夫そうだな、昔から傷が治りやすい体質なんだ」
昔、修行時代にいろんな怪我をしたことがあったが、自分の肉体の回復力だけは自慢で、結構すぐに治ることが多かったのだ。
「そ、そうなんですか…」
「わざわざ来てもらったのにすまないな」
「い、いえ」
こんな雨の中わざわざ治療しに来てくれたというのに罪悪感がつのる。
テントを打ち付ける雨音は変わらず、今も激しい音を奏でている。
シェリアは少しため息を吐くと、いそいそと掛けてあるコートに手を伸ばした。
私も上着を再び着て、シェリアに向き直る。
「ありがとな、シェリア」
「いえいえ、気にしないでください、それではアリア様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
テントから出て、勢いよく駆けだすシェリアの足音がだんだん遠ざかる。
なんだかシェリアには悪いことをしてしまったな…
左腕で右腕があった場所を触る。
それにしても腫れもなく、こんなに早く治るものなのか…
完全に痛みもなく、それが逆に気味が悪かった。
考えても仕方がないと割り切って、明日の為にアリアは再び眠りにつくのであった。
ーーーーーーーーー
別視点、首都アルタ、アルタの塔5階層。
曇天の空は夜にもかかわらず明るく、降る雨は激しさを増し、落雷が絶えず落ちている。
そんな光景を窓から眺めるのもそろそろ見飽きたというものだ。
「また雨か、この大陸はホントに雨季が長くて嫌になるな」
イライラが募る、この大陸は草木が生い茂っていて、それだけでも煩わしいというのに、この連日の雨だ。
「おい、守備はどうなってる」
口調が荒くなるのも仕方のない事だ。
この雨のおかげで行軍も遅れに遅れている。
「はっ、各隊問題なく配置についております。 今の所、問題はございません」
「そうか、ガルディアンナイトと残った騎鳥軍に伝えろ、明日には王族軍の部隊を追う、一部はここに残り首都の防衛、進行は明日編成して行くぞ」
「わかりました」
ガルディアンナイトの騎士は素直に頷き、それを皆に伝えるために部屋から出ていく。
「なに、疲労している王族軍など容易い、数で押しつぶし、蹂躙してくれよう」
「貴様!!」
「クハハ、随分威勢がいいな、あんなに痛めつけたというのに、さすが騎鳥軍団長であるガイアス=エンドレアだな」
手錠や鎖で雁字搦めになっている哀れな男を眺める。
その虚勢を張る姿は実に滑稽だ。
再び笑いがこみ上げ、口元を自分の青い翼で隠す。
「ダルタニアン、貴様、裏切っただけでは飽き足らず、こんな暴挙を… 許しはしないぞ!!」
よく吠える事だ。
「勘違いしているようだな、ガイアス、私は最初からお前達の仲間ではなかったのだぞ? そんなことも知らず、のうのうと過ごしてきたお前達は実に滑稽だった」
ガイアスの顔が怒りで染まっていくのがわかる。
「クハハ、王も哀れだな、王女や王妃を失っただけでは済まず、国そのものまで失う事になるんだからな、…まぁ手引きしたのは私なんだから当然の結果だ」
「貴様!!殺してやる!!… グッ!!」
「おいおい、立場がわかってないようだなガイアス、アルバラン様のはからいで3日の処刑の猶予があるというのに、それがなかったら今すぐお前を殺してるのはこっちのほうだぞ」
そんなこともわからずこいつはうだうだと…
拳を作り、ガイアスの顔面めがけ振り下ろす。
「ぐっう… ガッ… 」
チッ… 殴るほうも楽じゃないんだがな…
「フン、今までは邪魔でしかなかったガルディアンナイトも私の手の上だ、人形になったテオも戻ってきたようだしな殲滅も時間の問題よ」
「…うぐっ…」
「この大陸もアルバラン様の領土の一つになる、お前は残された時間をただ無意味に過ごせばいい」
もうこの部屋にも用はないな…
足を運びドアの前まで歩く。
「そういえば、お前の妹のキルアは器量もいいからな、私が嫁にもらってやろう、ありがたく思え、クハハハハハ」
「ぎ… ぎざま… 」
その哀れな声を最後まで聞くこともせず、私はドアを閉める。
「クハハハ… 楽しみでしかないなぁ」
目前に迫る野望に笑みを浮かべ、眠るために寝室に行くのであった。
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