75 / 104
第二章 アルテア大陸
サルク運河
しおりを挟む「おっし、食ったし行くとするか」
マーキスさんの料理を食べ終え、私達はそれぞれの持ち場に着く。
ロズンさんとホーソンさんは今日から建設に取り掛かるらしく、手早く食べ終えた後住人たちと材料を取りに戻って行った。
「今日もよろしくな!お前ら!」
「朝から元気すぎだろ、おっさん…」
「まだ眠い…くぁ…」
ギリギリまで寝ていたカインとアインを起こし、キルアさんとシェリアが合流し、村の入り口に向かう。
「待ってくれないか」
門から出ようとした時、後ろから声を掛けられた。
その声の主はゴートン=バーン=アルテア。
「お父さん…」
「お前達は私達の希望だ。 勝手にこんな役目を申し付けてしまってすまないと思ってる。」
深く頭を下げるゴートンさん。
「王よ…」
「お前たちが帰ってくるのを待っているぞ、それまでここは絶対に攻め落とされたりはしないと誓う」
その顔は王というよりも一人の父親のようにも見えた。
「絶対に生きて帰ってこい」
「「「「「はい!」」」」」」
振り返りはしない、私達の決意を証明しに行く。
必ず、助け出す。
鬱蒼とした森は行く手を何度も遮るが、シェリアの風魔法やカインとアインの索敵能力で迫る魔物を蹴散らしながら進んでいく。
この森も前後左右がわからくなるように細工されており、普通の兵が迷い込んだら出るのは難しかったと思う。
この森には逃げる際にいたるところに幻覚魔法のマジックアイテムを仕込んであるといった。
こういった念の入れ方はさすがアインらしいといったところか。
「俺達は耳がいい、この幻覚魔法にも惑わされず、運河の音を頼りに進めるんだ」
そう誇らしげにカインは話す。
耳がパタパタ動き嬉しいことがわかるな…
カインもアインも銀狼という珍しいタイプの獣人なのだそうだ。
獣人には様々な種類があり、主にアルテアにはシェリアのような猫型タイプの獣人、熊型タイプのロズンさんみたいな獣人、ホーソンさんのような犬型のタイプの獣人と3種類の獣人が目立って多いらしく、銀狼であるカインやアインは珍しいケースなのだそうだ。
他にはアルテアにはキルアさんのような鳥人と呼ばれるタイプの者も多く居て、アルタにあるあの塔は主に鳥人達の居住区だったらしいのだ。
獣人達は円を描くように都市を展開し、同時に上に展開していったのが鳥人達だったと言われる。
昔は争いもあったようなのだが、一致団結し、獣人も鳥人も分け隔てなく住めるようになったのだとか。
そんな強国であった首都アルタが陥落したのは、騎鳥軍であったダルタニアンという者が謀反を起こし、仲間を集め、敵に寝返った事から始まったらしい。
「元はといえば騎鳥軍が侵した失態が事の始まりだった、巻き込んでしまいすまない」
キルアさんは頭を深く下げる、その顔には後悔の色が見受けられた。
「気にしないでください、キルアさんは何も悪くないですよ」
シェリアがキルアさんの手を取り、微笑む。
「王女…」
「あっ、また王女って!戻ってますよキルアさん」
「うっ… しかし…」
「お二人とも、サルク運河が見えたぞ」
マーキスさんが指さす先に広がるのは巨大な運河。
昨日の大雨の影響で水かさは増し、溢れんばかりに囂々と濁った水が勢いよく流れていく。
本当にこの上を飛んでなんて行けるのだろうか…
落ちて流されてしまったらひとたまりもないだろう、そんな自然の勢いがこの場所にはあった。
「対岸に向かって私が一人づつ抱えて飛ぶ、安心してくれ、結構私は力持ちなんだ」
キルアさんが微笑み、まずはシェリアを抱えてその大きな茶色の翼をはためかせ、飛び上がる。
「あまり動かないでくださいね、行きますよ」
「はい」
バサリとはばたき、キルアさんは飛ぶ。
対岸まではどのくらいの距離だろうか、5~600メートルはありそうなほどの距離だ。
マーキスさん、アイン、カインと順番が回っていき、最後に渡るのは私だけとなった。
「はぁ、はぁ、最後はアリア殿ですね…」
「大丈夫ですか?息が上がっている、少し休憩したほうがいい」
やはり飛ぶことも体力を使う、ましてや人を抱えながらだ。
いくら力持ちであってもそれを繰り返されれば疲労も溜まるものだ。
「これで最後ですから大丈夫です、お気遣い感謝する」
「…わかりました」
一抹の不安感が脳裏を過る。
だが、ここで時間をかけてもいけないのは事実だ。
時刻は夜になっており、少し風も出始めている。
まだ雨は降ってはいないものの降られては少し困る事態だ。
キルアさんに体を預け、抱えられる。
私は体が大きいからキルアさんにとって負担になるかもしれないが…
バサリと翼をはためかせ、飛翔する。
「思ったより鎧が軽いんですね、王女も鎧を着ているのに軽かった」
「この鎧も特別性なんですよ」
ターナーさんが手を加えたものは重力軽減の魔法が常にかかっており、軽くて頑丈だ。
こういう物も助けられているんだな…
「その鎧を作った人に私も会って作って貰いたいものです」
「そうですね、いつかまたそんな機会があるといいですけど」
そんな日はもう二度とやってくることはないと知っている。
「突然こんなことを聞くのはおかしいが、アリア殿の妹の名はなんていうんだ?」
「…セレスって言います。 私とは違う種族で血も繋がってはいませんが、それでも家族の一員で大切な妹なんです」
「私の兄もアリア殿のようにそうやって笑う優しい兄です。 いい名前ですね… アリア殿には感謝しています、必ず私もこの戦いが終わったら手助けいたします」
「ありがとう、キルアさん」
「私も誰かを救いたいのは同じ気持ちですか… うっ!!」
突然突風が吹き、大きくバランスを崩したキルアさんの手が外れ、滑り落ちる。
まずい!!!落ちたらあの濁流に飲み込まれる!!
必死で左手を伸ばし落ちまいとキルアさんにしがみつく。
「はぁっ、はぁっ」
なんとか落ちずに済んだ…
汗がだらだらと流れる、あの濁流に飲まれれば生き残るのは難しいだろう。
「あ、あの」
その言葉に我に返る。
私は今何を掴んでいる?
柔らかい手の感触がそれをあるものだと結論付ける。
「んんっ… もういいだろうか、手を放してもらえないか?」
私の腕はしっかりとキルアさんの胸を掴んでいた…
「す、すまない!!!」
慌てて手を放す、どうやら元の抱える体制に戻っていても私が掴んだままだったらしい…
「これは事故だ、お互い忘れよう」
「すまない…」
キルアさんは顔を赤く染め、顔をそらして答える。
なんてことをしてしまったんだ…
気まずい空気が流れ、その後も終始無言のまま無事に対岸に着いた。
「大丈夫でしたか!?」
シェリアが慌てて駆け寄る。
遠目から見ていても危ない事は伝わっていたみたいだ。
なんとも気まずい。
事故であったとはいえキルアさんの胸を揉んでしまうとは…
「ああ、大丈夫だった、問題はない!」
キルアさんが何故か裏声で早口で答える。
なんでそんな口調に!!
いかにも何かあったみたいな口調に皆が不審の目を私に向ける。
シェリアの目が何故か怖いんだが…
「アリア様、大丈夫でしたか?」
シェリアが私の目をじぃーっとジト目で見ながら聞いてくる。
「落ちたら危ないところだった、キルアさんには感謝している」
落ち着け、これは真実だ。
「ラッキースケベって言うんだよなこれ」
「こ、こら、カイン、そうだが今は不味いぞ」
慌ててマーキスさんはカインの口を塞ぐが遅い、遅すぎる!!
空気を読もうとしないカインはさすがだなー…
あはは…
「アリア様」
「はい」
「話していただけますね」
「…はい」
その夜、私は頬が痛くて、満足に食事ができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる