魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

サルク運河

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「おっし、食ったし行くとするか」


 マーキスさんの料理を食べ終え、私達はそれぞれの持ち場に着く。

 ロズンさんとホーソンさんは今日から建設に取り掛かるらしく、手早く食べ終えた後住人たちと材料を取りに戻って行った。


「今日もよろしくな!お前ら!」

「朝から元気すぎだろ、おっさん…」

「まだ眠い…くぁ…」


 ギリギリまで寝ていたカインとアインを起こし、キルアさんとシェリアが合流し、村の入り口に向かう。


「待ってくれないか」


 門から出ようとした時、後ろから声を掛けられた。
 その声の主はゴートン=バーン=アルテア。


「お父さん…」

「お前達は私達の希望だ。 勝手にこんな役目を申し付けてしまってすまないと思ってる。」


 深く頭を下げるゴートンさん。


「王よ…」

「お前たちが帰ってくるのを待っているぞ、それまでここは絶対に攻め落とされたりはしないと誓う」


 その顔は王というよりも一人の父親のようにも見えた。


「絶対に生きて帰ってこい」

「「「「「はい!」」」」」」


 振り返りはしない、私達の決意を証明しに行く。
 必ず、助け出す。

 鬱蒼うっそうとした森は行く手を何度もさえぎるが、シェリアの風魔法やカインとアインの索敵能力で迫る魔物を蹴散らしながら進んでいく。

 この森も前後左右がわからくなるように細工されており、普通の兵が迷い込んだら出るのは難しかったと思う。

 この森には逃げる際にいたるところに幻覚魔法のマジックアイテムを仕込んであるといった。

 こういった念の入れ方はさすがアインらしいといったところか。


「俺達は耳がいい、この幻覚魔法にも惑わされず、運河の音を頼りに進めるんだ」


 そう誇らしげにカインは話す。
 耳がパタパタ動き嬉しいことがわかるな…

 カインもアインも銀狼という珍しいタイプの獣人ケモッテなのだそうだ。
 獣人には様々な種類があり、主にアルテアにはシェリアのような猫型タイプの獣人、熊型タイプのロズンさんみたいな獣人、ホーソンさんのような犬型のタイプの獣人と3種類の獣人が目立って多いらしく、銀狼であるカインやアインは珍しいケースなのだそうだ。

 他にはアルテアにはキルアさんのような鳥人アンバーと呼ばれるタイプの者も多く居て、アルタにあるあの塔は主に鳥人達の居住区だったらしいのだ。

 獣人達は円を描くように都市を展開し、同時に上に展開していったのが鳥人達だったと言われる。

 昔は争いもあったようなのだが、一致団結し、獣人も鳥人も分け隔てなく住めるようになったのだとか。

 そんな強国であった首都アルタが陥落したのは、騎鳥軍であったダルタニアンという者が謀反を起こし、仲間を集め、敵に寝返った事から始まったらしい。


「元はといえば騎鳥軍が侵した失態が事の始まりだった、巻き込んでしまいすまない」


 キルアさんは頭を深く下げる、その顔には後悔の色が見受けられた。


「気にしないでください、キルアさんは何も悪くないですよ」


 シェリアがキルアさんの手を取り、微笑む。


「王女…」

「あっ、また王女って!戻ってますよキルアさん」

「うっ… しかし…」

「お二人とも、サルク運河が見えたぞ」


 マーキスさんが指さす先に広がるのは巨大な運河。

 昨日の大雨の影響で水かさは増し、溢れんばかりに囂々と濁った水が勢いよく流れていく。

 本当にこの上を飛んでなんて行けるのだろうか…

 落ちて流されてしまったらひとたまりもないだろう、そんな自然の勢いがこの場所にはあった。


「対岸に向かって私が一人づつ抱えて飛ぶ、安心してくれ、結構私は力持ちなんだ」


 キルアさんが微笑み、まずはシェリアを抱えてその大きな茶色の翼をはためかせ、飛び上がる。


「あまり動かないでくださいね、行きますよ」

「はい」


 バサリとはばたき、キルアさんは飛ぶ。

 対岸まではどのくらいの距離だろうか、5~600メートルはありそうなほどの距離だ。

 マーキスさん、アイン、カインと順番が回っていき、最後に渡るのは私だけとなった。


「はぁ、はぁ、最後はアリア殿ですね…」

「大丈夫ですか?息が上がっている、少し休憩したほうがいい」


 やはり飛ぶことも体力を使う、ましてや人を抱えながらだ。
 いくら力持ちであってもそれを繰り返されれば疲労も溜まるものだ。


「これで最後ですから大丈夫です、お気遣い感謝する」

「…わかりました」


 一抹の不安感が脳裏をよぎる。
 だが、ここで時間をかけてもいけないのは事実だ。

 時刻は夜になっており、少し風も出始めている。
 まだ雨は降ってはいないものの降られては少し困る事態だ。

 キルアさんに体を預け、抱えられる。
 私は体が大きいからキルアさんにとって負担になるかもしれないが…

 バサリと翼をはためかせ、飛翔する。


「思ったより鎧が軽いんですね、王女も鎧を着ているのに軽かった」

「この鎧も特別性なんですよ」


 ターナーさんが手を加えたものは重力軽減の魔法が常にかかっており、軽くて頑丈だ。

 こういう物も助けられているんだな…


「その鎧を作った人に私も会って作って貰いたいものです」

「そうですね、いつかまたそんな機会があるといいですけど」


 そんな日はもう二度とやってくることはないと知っている。


「突然こんなことを聞くのはおかしいが、アリア殿の妹の名はなんていうんだ?」

「…セレスって言います。 私とは違う種族で血も繋がってはいませんが、それでも家族の一員で大切な妹なんです」

「私の兄もアリア殿のようにそうやって笑う優しい兄です。 いい名前ですね… アリア殿には感謝しています、必ず私もこの戦いが終わったら手助けいたします」

「ありがとう、キルアさん」

「私も誰かを救いたいのは同じ気持ちですか… うっ!!」


 突然突風が吹き、大きくバランスを崩したキルアさんの手が外れ、滑り落ちる。



 まずい!!!落ちたらあの濁流だくりゅうに飲み込まれる!!



 必死で左手を伸ばし落ちまいとキルアさんにしがみつく。



「はぁっ、はぁっ」



 なんとか落ちずに済んだ…

 汗がだらだらと流れる、あの濁流だくりゅうに飲まれれば生き残るのは難しいだろう。


「あ、あの」


 その言葉に我に返る。


 私は今何をつかんでいる?


 柔らかい手の感触がそれをあるものだと結論付ける。


「んんっ… もういいだろうか、手を放してもらえないか?」


 私の腕はしっかりとキルアさんの胸を掴んでいた…


「す、すまない!!!」


 慌てて手を放す、どうやら元の抱える体制に戻っていても私が掴んだままだったらしい…


「これは事故だ、お互い忘れよう」

「すまない…」


 キルアさんは顔を赤く染め、顔をそらして答える。


 なんてことをしてしまったんだ…


 気まずい空気が流れ、その後も終始無言のまま無事に対岸に着いた。


「大丈夫でしたか!?」


 シェリアが慌てて駆け寄る。
 遠目から見ていても危ない事は伝わっていたみたいだ。

 なんとも気まずい。

 事故であったとはいえキルアさんの胸を揉んでしまうとは…


「ああ、大丈夫だった、問題はない!」


 キルアさんが何故か裏声で早口で答える。

 なんでそんな口調に!!

 いかにも何かあったみたいな口調に皆が不審の目を私に向ける。

 シェリアの目が何故か怖いんだが…


「アリア様、大丈夫でしたか?」


 シェリアが私の目をじぃーっとジト目で見ながら聞いてくる。


「落ちたら危ないところだった、キルアさんには感謝している」


 落ち着け、これは真実だ。


「ラッキースケベって言うんだよなこれ」

「こ、こら、カイン、そうだが今は不味いぞ」


 慌ててマーキスさんはカインの口を塞ぐが遅い、遅すぎる!!


 空気を読もうとしないカインはさすがだなー…

 あはは…


「アリア様」

「はい」

「話していただけますね」

「…はい」


 その夜、私は頬が痛くて、満足に食事ができなかった。






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