魔法力0の騎士

犬威

文字の大きさ
95 / 104
第二章 アルテア大陸

番外編 ~花火3~

しおりを挟む
 
「さ、寒い…」

「調子に乗ってあんなに食べるからだよ」


 屋台から離れることにした私達は、今回の任務の指定地点であるガルディア都市西地区のほうまで来ていた。

 こんなに蒸し暑いというのにカナンの顔は青くガタガタと震えている。
 屋台のおじさんがサービスとして渡したカキ氷は気合が乗りに乗っており、二倍近く高く聳え立ったものをものの数分でカナンはかきこむ様に食べたのであった。


 そりゃあ、あんなに食べれば寒くもなると思うんだが…


「もうそろそろで今日のイベントが始まる時間だ。 私達はこの周辺の警戒をしながら住民の誘導を行う。 メインイベントの時間帯になったらこの場所も人で溢れかえるから不審な人物を見逃さないように警戒してくれ」

「はいっす」

「「はい」」

「……はぃ」


 周囲を見渡すとちらほらと人が中央の場所に集まっていくのが見える。
 メインイベントである【花火】の打ち上げる場所が中央の広場にあり、日も傾き始めた辺りから中央の広場は人で溢れかえるようになった。

 少し外れた場所にあるこの西区はその【花火】が見える一番いい場所なんだとトリシアさんから説明があった。

 もちろんこの【花火】を一番楽しみにしている宝石商のドワール=エドマンも用心棒を複数雇い、この高台の場所に高級そうなソファーを設置し、優雅に飲み物を飲んだりしている。


「おい! しっかり僕の事を守れよ! 僕は君達の命なんかより十分重いんだから怪我でもしようもんなら… わかっているよな?」

「「「はい、わかっております、御主人」」」


 この日の為に多額の金をかけて雇われたのだろうSランクの冒険者3人がびっちり警護に当たっている。まぁこの周辺は私達も予備の戦力として配置されているわけだから問題はなさそうだけど…


 ちなみに西区は私達第1部隊とSランク冒険者3名。

 中央は騎士団長であるトリシアさんとカナリア、アルフレア率いる第6部隊と第5部隊。

 北区はトロン率いる第4部隊で、南区と東区をカルマン率いる第3部隊が配置されている。
 カルマンの部隊は一番人数が多いのでこの配置となっている。


 こうして初めてSランク冒険者の人達を見たけど、装備や武器がまず普通の代物とは格が違うのが伺える。


 一人は屈強なギガントの男性、身長はまさかの4mサイズ、至るとこに傷があり、背中には巨大な二刀を差している。
 この人が一番近くで威圧するかの如く目を光らせているので安心感は段違いだろう。


 うわっ、目が合った。 

 あ、鼻で笑いやがったなコイツ。


 その少し離れた位置にいるのが眠そうな顔の背の高い褐色のエルフの女性だ。
 それはそうと煌びやかな装飾のある布面積の少ない際どい恰好をしている。
 ドワール=エドマンもその姿を時折眺めながらニヤニヤと酒を飲んで楽しんでいるようだ。

 まったくこれだから貴族は……


「いったいさっきからどこ見てるんですか? 兄様」


 ハッとして振り返ると氷点下のような笑みを浮かべたセレスがこちらに向かってくる。


 なにこれ怖いんだけど…


「い、いや3人もSランク冒険者が張り付いているなら私達ももう少し散開しておいたほがいいと思ったんだ」

「ふーん、そうですね、この場所にいてもかえって邪魔になってしまいそうですし、兄様は一番中央寄りをお願いします」

「ああ」


 セレスがジャスティンやカナンとパトラにも散開するように言ってくれてさっきいた場所から離れていく。


 えーと、最後のSランク冒険者はなんかよく見えなかったから割愛する。


 この辺も人が多く中央に押し寄せているな…


「すみませんが、中央は人が満杯ですので東区や南区に向かってください、そちらにも同じように屋台が出ていますので異世界の料理を食べたい方はそちらに回ってください!」


 これで少しでも中央の人が減ってくれるといいんだけど…

 人がぞろぞろと移動し始める。

 どうやらこの列の多さを見て東区や南区に向かってくれたようだ。みんな中央にしかないものだと思っているみたいだ。


「危ないので、あまり走らず移動してください! 東区や南区にも同じように屋台が出ていますのでそちらの方が空いています!」


 こんな感じでいいだろうか…


 呼びかけの効果は絶大で、中央の人が少し移動するようになっていった。
 まだまだ人で溢れかえってはいるが、この調子だとメインイベントの【花火】が始まる時間帯にはいい感じに住民ががばらけてくれるだろう。

 よし、この調子であっちも呼び掛けてみるか。

 ちらりと目をやると一つの屋台の周りにずらりと人が群がっていた。

 その場所に向かって歩き始めた時に人混みの隙間から一人の少女が弾き出された。


「あうっ!!」

「危ないっ」


 とっさに転びそうになっている少女をすくい上げるように抱える。


「あ、ありがとう、騎士のおね… お兄ちゃん」

「怪我はしてないかい?」


 少女はびっくりしたような顔で私を見る。 一瞬どちらの性別なのかきっと迷ったのだろう。


「大丈夫だよ、ありがとう」


 屈託のない笑顔で笑う少女に釣られて私も笑顔になってしまう。

 10歳から12歳くらいの少女にはこの人で溢れかえった場所に一人でいるのはたしかに危険だ。
 だけど、近くを見渡しても親御さんのような人や友達等も近くにいないようだった。


「良かった。今日はもしかしてここに一人で来たのかい?」

「うん、買い物だけして帰ろうと思ってたの、でもこれじゃあ…」


 指を指された場所を見るとまだ列を多く作り、その場所は入れそうな雰囲気ではなくなっていた。

 この子に空いている東区と南区を教えてあげたいけど、一人で来た少女を貧民街が近くにある東区と南区に行かせることも難しいし、私がそこまで付き添ってあげたいけどこの場所を離れるわけにはいかないしなぁ


「しょうがないよね、諦めて帰るね…」


 寂しそうに呟く少女はトボトボと歩き始めた。


「ちょっと待って、私も一緒にならんで待ってあげるよ」

「えっ… 騎士のお兄ちゃん仕事中なんでしょ?」

「大丈夫、ちゃんと仕事もするし、ここが一番混んでるみたいだからねここに居れば問題はないよ」

「あ、ありがとう、どうしても今日欲しかったんだ」

「そうなのか、ちょっと待ってくれないか? 今この入り組んだ列をなんとかするから」

「うん」


 この屋台に並んでる人はどこが最後尾なのかわかっていないらしく集まるだけ集まってしまっている。
 屋台の人も作るので精一杯らしく列のことまで回らないようだ。

 人混みをかき分け、屋台の一番前まで進む。


「おい!あんちゃん!ちゃんと順番は守れよ!!」


 少しガラの悪い男に肩を思いっきり引かれる。


「ちょっと待ってください、こんなに人が密集していれば遅くなるのも当然です!2列に並び、順番に注文してください!」

「はぁ!?そーやって順番をうやむやにしようってんなら…」


 地面に長剣を勢いよく突き刺し、笑顔で答える。


「ちゃんと並んでください」

「…はぃ」


 いまの光景を見た人たちが瞬時に2列になっていく。

 うーん… セレスが言ってた通り効果が絶大なのは恐ろしいな…


「すごいね、あんなにめちゃめちゃだった列が綺麗に2列になっていくね」

「ああ、うまくいったようだ、私達は最後尾に並ぼう。 そんなに時間はかからず買えるはずだよ」


 ちらりと見ると先ほどより随分とスムーズに人が動いていく。
 さっきのは注文が多すぎて店側も処理しきれていなかったため、あんなに時間がかかっていたのだ。

 屋台のいい匂いが辺りにたちこめる。


「そういえばここは何の屋台なんだい?」

「【たこ焼き】だよっ!!」


 嬉しそうに笑顔になる金色の髪の少女は今か今かとこの長い列を楽しんでいた。








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...