魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

番外編 ~花火5~

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 20分ほど並んでいるとこの子の順番がようやく回ってきたようだ。


「ふぃーらっしゃい! 可愛い嬢ちゃん注文は何にするんだい?」


 店主の人は額の汗をぬぐいながら見事な手さばきで【たこ焼き】なるものをひっくり返していく。


 不思議な光景だ。 まん丸の食べ物が大量生産されていく…

 香ばしい香りが辺り一面に漂い、なんとも美味しそうだ。


「これを6個ください」

「はいよっ」


 少女が指をさし、出来上がったばかりの【たこ焼き】を紙の入れ物に敷き詰めていく。

 ほほう、不思議な香りはあの黒い液体からしてるのか。

 おじさんは慣れた手つきで【たこ焼き】に黒い液体を塗り、パラパラと緑色の粉を降りかけていく。

 異世界の食材とはまた不思議なもので、遥か昔に訪れた異世界人が品種改良を重ねに重ね、それに近しい食材が作り出せるようになったらしい。

 こういった今、目の前の食材は住民達でも買えるほどの安価なものにまでなっているのは、先人たちの努力の甲斐があってからだろう。


 見ているとやはり気になってしまうものでつい注文をしてしまった。


「はいよっ、あんちゃんも同じのでいいかい?」

「ああ、よろしく頼む」


 これはセレス達のお土産にしておこう、なんだかんだいって皆このイベントを楽しみにしていたからな。

 出来上がった【たこ焼き】を二人で受け取り、ちょうどの額のお金を渡す。


「良かった、ちゃんと買えました」


 袋に入った【たこ焼き】を眺め、えへへと朗らかな笑顔で笑う少女。


「良かったね、買い物はこれで終わりかい?」

「はいっ、わわっ… 人が増えてきちゃいました」


 イベントも後半に入った頃なのだろう、中央付近には人が再び多くなり始めていた。

 少女がこの混雑した場所を歩くのは相当大変に見える。 また押しつぶされたりしたら大変だ。


「私が進むから帰り道を教えておくれ、私が居れば多少は人除けになるはずだから」

「あ、ありがとう、それじゃあ… こっち」


 くいっと手を引かれ、少女は指を指す。


「あのお店の隣まで」


 指を指す方を目を凝らしてみると小さな雑貨屋があり、そこは比較的人も少なかった。


「あそこでいいんだね」

「うん」


 人混みをかき分け、かき分け進んでいく。


「すみません、ちょっと通ります」


 おそらくもうメインイベントが始まる時間なのだろう、中央の方では拡声器のマジックアイテムのノイズ交じりの声が聞こえてくる。

 ここからではさすがに聞き取れないが、人だかりも中央の方へ集まっていき始めてる。

 私達はその中央から少し外れるように、小さな雑貨屋を目指して人混みをかき分けていく。


「大丈夫かい?」

「わわっ、だ、大丈夫です」


 よろけそうになりながらもなんとか離れずに少女はついてくることができた。

 雑貨屋の方までたどり着くと少女は深々とお辞儀をした。


「本当に色々とありがとうございました!優しい騎士のお兄ちゃん!」

「ああ、本当にここで大丈夫なのかい?」


 周囲を見渡すが、この小さな雑貨屋がここにあるだけで他には家らしきものの姿は見られないが…


「はい、ここで大丈夫です!それじゃあ!」


 ぶんぶんと手を振り少女は笑う。

 私も小さく手を振って、その場を後にした。

 あっちは何事もなければいいんだけどな。
 あったかいうちに【たこ焼き】は食べれるといいんだけど…


 ――――――
 ――――――

 ――――――――――


 私は小さな雑貨屋に入るといつもの顔なじみのお婆さんに挨拶をする。


「ただいまっ、ちゃんと買うことができたよ」


 袋をがさりとお婆さんに見せると、お婆さんも笑顔でこちらを見る。


「おや、おかえり、良かったねぇ… 婆がもう少し若けりゃ一緒に行けたんだけどねぇ…」

「いいの、いいの、こうして内緒に通路を開けてくれるだけでも感謝してるのっ」

「こうして笑うとほんとにお母さんにそっくりだねぇ」

「ほんとにっ!!それは嬉しいなぁ、あっ!!冷めないうちに行かないと」

「ほらほら、走って転ぶんじゃないよ」

「はーい、ありがとうお婆ちゃん」


 ここは秘密の抜け道。

 昔はパパもよく使ってたみたいだけど今はあんなに大きくなっているしここは通れなさそう。


「よいしょっと」


 奥にある暖炉のようなところを潜り抜けるとあとは真っすぐだ。

 ほの暗い道はもう慣れっこで怖くはない。
 最初のころは怖くて通ることもできなかったけど、もう私だって11歳になったんだもん。

 奥に見える明かりを頼りに長い道を突き進む。

 喜んでくれるかなぁ。

 初めてちゃんと自分で買えたんだもん。

 で、でも、抜け出したのがバレてたら…

 そんな期待と不安を交互に繰り返しながらガサガサと手に持った袋は揺れる。

 ようやく狭くほの暗い道から出ると、月明かりが優しく照らすいつもの中庭へと出る。


 良かった、まだバレてないみたい…

 きょろきょろと周囲を見渡し、人がいないことを確認し、なるべく音を立てないようにそっと抜け道から出る。


「お嬢様、また外におられたんですね」

「ひぃうっあっ!!あ、アンナ、いつからそこにいたの!?」


 家政婦であるアンナが抜け道のすぐ後ろでため息を吐きながら答える。
 誰もいないと思って安心していたから思わず変な声がでてしまった。 恥ずかしい…


「あれほど外は危険だと申しましたのに…」

「そ、その、今日はどうしても欲しいものがあって…」

「欲しいものなら言って下されれば私が用意しましたのに…」

「それじゃあダメなの」

「えっ!?どうしてです?」


 もう、もう、本当に今日が何の日かわからないのかなっ!

 困った顔で考えるアンナにしびれを切らし答える。


「はいっ!アンナっ誕生日おめでとう!!」


 後ろに隠していた【たこ焼き】をアンナに手渡す。


「お、お嬢様… 」

「私が初めて買った物をアンナに食べてもらいたかったのっ」

「ううっ、お嬢様ぁ、ありがどうございますぅ~」


 涙交じりに受け取るアンナのはにかむ笑顔をしっかりと目に焼き付ける。
 そうだ大事なことを言わないと。


「あったかいうちに食べて、アンナ」


 目元をぬぐったアンナが照れたような顔で言う。


「お嬢様も、一緒に食べましょう」

「いいの?」

「ふふっ、さっきからお腹がなっていますよ」

「はうっ!」


 そんなっ!バレてないと思ってたのに…


「それに私はサーシャお嬢様と一緒に話をしたり、一緒にご飯を食べたりすることが幸せですから」


 中庭にあるテーブルにことりと袋をアンナが置くとパンという音が鳴り響く。

 驚き、音のなった方の空を振り向く。


「綺麗…」

「すごいですね…」


 あれだけ月明かりの灯る夜空に、満開に花が咲いたように火花が散る。

 それは幾重にも打ちあがり夜空を彩っていく。

 周囲からの歓声がこちらにまで響いてくるようで中庭からこの光景を見ていると景色を独り占めした気分になれる。


「これもお嬢様が?」

「えっ!?いや、ち、違うけど… 」

「ふふっ、冗談ですよ、お嬢様にプレゼントを頂き、こんな素敵な景色を見れるなんて私は幸せ者ですね、ささっ、冷めてしまう前に食べましょう、サーシャお嬢様」

「うん」


 夜空を彩る【花火】は人々の心をほどき、笑顔に変えてしまう魔法なのかもしれない。


 ――――――――

 ――――――――

 ――――――――――



「あれ?ジャスティンとカナンはどこに行ったんだ?」


 再び元の場所に戻るとセレスとパトラがいるだけでジャスティンとカナンの姿が見当たらない。


「パンチちゃんのお店に1時間ほどいるみたいです」

「えっ!?」


 その名前にはとても心当たりがある。

 たしか、ノイトラさんの発注した食料を毎回運んできてくれるのが、夜はお店を経営しているフルーツ=パンチさんだったか。
 実際にあったことはないんだが、セレスは顔見知りらしく、なんでも話し上手な方なんだそうだ。
 そっか、まぁ、宝石商の警護の方もなんともなかったみたいだしな。


「そうか、これ、頑張ってる二人にお土産だ、ほんとはジャスティンやカナンとも食べたかったんだが居ないなら仕方ないな」

「やったー!さっすがたいちょー! この暑さと人混みでとろけそうだったんだから」

「この丸くて美味しそうな匂いはなんですか?」


 かさりと袋から【たこ焼き】を取り出し、セレスに渡す。


「なんでも【たこ焼き】という異世界の料理らしい」

「これは絶対美味しい奴だよ!一個いただきまーす、んむっ、んんー!なにこれ美味しい!!」


 ひょいっととって食べたパトラはほっぺを押さえながら舌鼓を打っている。

「おいひぃ」


 セレスも一口食べるとそのおいしさに驚いてるようだ。

「たいちょーも美味しいから食べてみなよ」

「頂くよ」


 一口でぽいっと口に入れ噛むと、トロトロの中とカリカリの外側の触感に驚かされ、香ばしい味と香りが口いっぱいに広がる。
 初めて食べるものでこんなに次が欲しくなるのは初めてだった。


「たしかに美味しいな」

「もう一個もーらい」

「パトラ、ジャスティン達の分も残しておきなよ」

「いーの、いーの、きっとあっちもあっちで美味しいの食べてるはずだよ」


 そんなことをいいながらパトラがもう一つ口にした時だった。

 ドンという音とともに夜空に大きな花が咲き、周囲から歓声の声があがる。


「わっ!落とすとこだった! それにしても綺麗だね!」

「これが【花火】なんですね、綺麗です」

「ほんとに花とはよく言ったものだ… 」


 私達は見惚れるように、夜空に次々と打ちあがる満開の花をしばらく眺めていた。


 カラフルな色で打ちあがる花火は宝石商であるドワール=エドマンも大変気に入ったらしく、後日その花火をモチーフにした宝石が飛ぶように売れたらしい。

 また、ジャスティンとカナンはしばらくしたら戻ってきたのだが、なぜか服はボロボロになっていて、顔は青白く、うわごとのようにモヒカン怖いと言っていた。








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