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第三章
3-11「カーリーとアオイ」
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廃城での一件が終わり、翌日俺達は二手に分かれ行動をした。
一組目は吸血鬼討伐をギルドへの報告兼、山越えのための道具調達組。
もう一組は宿での荷造り組だ。
道具調達組は道化師、ドロシー、シグの三名。荷造り組は俺、アオイ、カーリーになった。
本来であれば道具調達を全員で行うことが望ましかったが、カーリーを仲間にした以上、外での行動を控えたかったからだ。
村人の中にカーリーの姿を覚えている人がいる可能性があり、もしもその存在がバレてしまえば何が起こるか想像に難くない。
「カーリー、この村を出るまでの間はしばらくこれを着ていてくれ」
俺は自分の荷物の中からオミドさんから貰ったローブをカーリーに手渡す。
「この村を出るまでは、念のため姿が見えない方がいい」
「そうね。賢明な判断だわ」
カーリーはそのローブを受け取る。
「少し面倒かもしれないが我慢してくれ」
「あら、随分と優しいのね。もしかして私に惚れたの?」
「カズナリさん! そんなはずないですよね」
カーリーの冗談にすぐさま反応したのは俺ではなくアオイだった。
その表情は驚きというよりもどこか儚げなものになっていた。
「いや、そういうわけじゃないぞ。俺にはアオイがいるからな」
「カズナリさん……」
アオイの表情は一転し俺のことを恍惚と見つめる。
「あーら、残念振られちゃった。でも……ふーん。なるほどね」
カーリーはそんな俺とアオイを交互に見比べ、なにかに納得をするように自分の口元に片手を当て考えこむ。
「でも、そういうことならカズナリ君を私の魅力に引き込んでみせようかしら……ね?」
カーリーはそういうと俺の顎に手を当てて顔を近づけてくる。
こうやって間近でカーリーの顔を見るとその真紅の瞳とそれを強調させる長い睫毛。なにより、その白銀の長い髪輝いて目に映る。その髪にも負けず劣らずな白い肌によって強調される艶やかな唇。そのすべてが重なり合って一つの芸術作品と言ってもいい過言ではない容姿……。
「だ、だめ! カズナリさんはアタシのものなんですからっ!」
アオイはそう叫ぶと、カーリーと俺の間に無理やり入り込むと俺を引き離し抱きしめる。
無我夢中で抱きしめたからか、俺の顔がアオイの胸元に包み込まれる。
その柔らかい感触が顔全体に伝わってくる。
ああ……、いかん。これはまずいぞ、意識しないようにしていてもどう頑張っても感触が伝わってくる。それになにより、俺はこの感触が大好きだ。アオイの豊満なお尻も大好きだが、女性であることを主張するこのささやかな胸の虜になっている。
「あーら、随分と大胆なのね。自分の胸を押し付けるなんて」
「はい。アタシのすべてはカズナリさんのものですから当然です」
いやアオイ、そんなの当たり前という感じで言わなくてもいいんじゃないか。もう少し恥じらいというか、隠す努力を……。
だけど、それも今は忘れてしまってもいいか……。この感触に包まれるのなら。
そう考えていると意識が徐々に薄れていく。これが幸せに包まれるってやつなのだろうか。
「けど、その当のカズナリ君は貴方の胸の中で窒息死寸前みたいだけど?」
「えっ、カズナリさん! すいません全然気づきませんでした! いま空気をあげますから!」
その声が聞こえるとともに俺の唇にアオイの唇がつけられる。
突然のこと過ぎて頭が追い付かない。なんで俺いまアオイにキスされてるんだ。
「あらあら、お暑いこと」
視界の端に自分の手で扇ぐカーリーの姿が見える。
「けど、これはこれで楽しいわね」
アオイの柔らかな唇を感じる。その触感を感じるのはいつぶりだろう。
このやわらかく弾力のある、それでいて俺の唇と混じりあおうとするこの感触。
そして目の前に広がるアオイの顔。
いまは目を閉じてその女性らしい睫毛が至近距離で見える。
ああ、アオイをこんなに近くで感じれる。幸せだ。
………………。
…………。
……。
いかんいかん、こんなことしている場合じゃない。それにカーリーの目の前だ。
俺はアオイの肩を持ち、引きはがすように腕に力を込める。
「えっ……カズナリさん」
その瞬間、目の前にあるアオイの表情がまたも悲しそうなものになる。
「いや、違うんだ。嫌だったわけじゃない。その……、こういうのは二人きりの時とかにするべきだと思うんだ」
俺はその不安を拭うためためにも、自分の思っていることを素直に口にする。
「だから、こういうのは他の人前では控えてくれ。な?」
そう言いながらも言葉に反し俺はアオイを抱きしめてしまう。あんな表情をされてしまっては、紳士として……いや、男としてそうするべきだろう。
「……はい、わかりました。可能な限り善処します」
そう言うアオイは腕の力を強め俺を抱きしめ返してくれる。
だが、アオイ。可能な限りであって絶対ではないんだな……。俺も人のこと言えないかもしれないが。
「ちょっと、この部屋暑すぎなんですけどー、私のこと忘れてないわよね?」
***
道具の調達を終えた道化師一行が宿に戻ってくる。
こちらの荷造りもすでに完了しており、全員で馬車に積み込み作業をする。
この様子なら昼過ぎにはリュンナの村を出発できそうだな。
「じゃあ、行くか」
俺は荷台に乗っている全員に声をかけると馬車を走らせるのだった。
だが、この村を出るまで気を抜けない。なぜなら吸血鬼として恐れられていたカーリーが万が一にも村の誰かに見つかれば大騒ぎになるはずだ。
そうならないためにも、いまは荷台で大人しくしてもらっている。
村の中心を馬車はガタゴトと音を立て走っていく。
村人や冒険者が次々とすれ違う。だが、その誰かが俺達を見ているのではないかという不安を勝手に覚えてしまう。
そんな不安を覚えながらも村の出入り口にたどり着く。
馬車は何事もなく出入口を通っていく。
「そこの馬車ちょっと止まってくれ」
だが、見張りをしていた兵士に呼び止められてしまう。
……カーリーのことがバレたのか。いや、誰かにバレるようなことはなかったはずだ。
ならなぜ呼び止められる。まさかなにか隠しごとをしているのが顔に出てしまったのか……。
「お前、吸血鬼を退治したって冒険者だよな」
兵士は馬車に近寄り御者席に座る俺を見上げる。
「ああ。そうだが。なにかあったのか?」
俺は何食わぬ顔を心掛け、兵士の言葉に返答をする。
いざというときは、馬車を強引に走らせれば何とかなるだろうか。
だが、それでは今後ほかの村で行動をするとき危険な目に合う可能性を高めてしまう。
兵士は俺を見つめる。
……。
…………。
………………。
すると次の瞬間、兵士は頭を下げる。
「吸血鬼退治をしてくれてありがとう。これでこの村も安心だ」
兵士はそう俺にお礼を言ったのだった。
予想外の言葉に思わず拍子抜けしまい、反応ができなかった。
「シラノバまでの山越えは距離もあって大変だから気を付けてくれよ」
「……ああ、心配してくれてありがとう」
「また、機会があればリュンナの村にも寄ってくれよ。じゃあな」
兵士はそういうと自分の持ち場である村の入り口まで駆けて行ってしまう。
ふぅ……、緊張した。
ただ感謝されただけだったが心臓に悪いぞ。
そうして俺は再び馬車を走らせる。この先はいくつもの山を越えて行く必要があるから長旅になるはずだ。
しかし、そんな心配もよそに馬車はいつものように馬の足と車輪を動かしていく。
シラノバまで何事も無い平和な旅路になることを俺は祈りながら手綱をしっかりと握りしめたのだった。
一組目は吸血鬼討伐をギルドへの報告兼、山越えのための道具調達組。
もう一組は宿での荷造り組だ。
道具調達組は道化師、ドロシー、シグの三名。荷造り組は俺、アオイ、カーリーになった。
本来であれば道具調達を全員で行うことが望ましかったが、カーリーを仲間にした以上、外での行動を控えたかったからだ。
村人の中にカーリーの姿を覚えている人がいる可能性があり、もしもその存在がバレてしまえば何が起こるか想像に難くない。
「カーリー、この村を出るまでの間はしばらくこれを着ていてくれ」
俺は自分の荷物の中からオミドさんから貰ったローブをカーリーに手渡す。
「この村を出るまでは、念のため姿が見えない方がいい」
「そうね。賢明な判断だわ」
カーリーはそのローブを受け取る。
「少し面倒かもしれないが我慢してくれ」
「あら、随分と優しいのね。もしかして私に惚れたの?」
「カズナリさん! そんなはずないですよね」
カーリーの冗談にすぐさま反応したのは俺ではなくアオイだった。
その表情は驚きというよりもどこか儚げなものになっていた。
「いや、そういうわけじゃないぞ。俺にはアオイがいるからな」
「カズナリさん……」
アオイの表情は一転し俺のことを恍惚と見つめる。
「あーら、残念振られちゃった。でも……ふーん。なるほどね」
カーリーはそんな俺とアオイを交互に見比べ、なにかに納得をするように自分の口元に片手を当て考えこむ。
「でも、そういうことならカズナリ君を私の魅力に引き込んでみせようかしら……ね?」
カーリーはそういうと俺の顎に手を当てて顔を近づけてくる。
こうやって間近でカーリーの顔を見るとその真紅の瞳とそれを強調させる長い睫毛。なにより、その白銀の長い髪輝いて目に映る。その髪にも負けず劣らずな白い肌によって強調される艶やかな唇。そのすべてが重なり合って一つの芸術作品と言ってもいい過言ではない容姿……。
「だ、だめ! カズナリさんはアタシのものなんですからっ!」
アオイはそう叫ぶと、カーリーと俺の間に無理やり入り込むと俺を引き離し抱きしめる。
無我夢中で抱きしめたからか、俺の顔がアオイの胸元に包み込まれる。
その柔らかい感触が顔全体に伝わってくる。
ああ……、いかん。これはまずいぞ、意識しないようにしていてもどう頑張っても感触が伝わってくる。それになにより、俺はこの感触が大好きだ。アオイの豊満なお尻も大好きだが、女性であることを主張するこのささやかな胸の虜になっている。
「あーら、随分と大胆なのね。自分の胸を押し付けるなんて」
「はい。アタシのすべてはカズナリさんのものですから当然です」
いやアオイ、そんなの当たり前という感じで言わなくてもいいんじゃないか。もう少し恥じらいというか、隠す努力を……。
だけど、それも今は忘れてしまってもいいか……。この感触に包まれるのなら。
そう考えていると意識が徐々に薄れていく。これが幸せに包まれるってやつなのだろうか。
「けど、その当のカズナリ君は貴方の胸の中で窒息死寸前みたいだけど?」
「えっ、カズナリさん! すいません全然気づきませんでした! いま空気をあげますから!」
その声が聞こえるとともに俺の唇にアオイの唇がつけられる。
突然のこと過ぎて頭が追い付かない。なんで俺いまアオイにキスされてるんだ。
「あらあら、お暑いこと」
視界の端に自分の手で扇ぐカーリーの姿が見える。
「けど、これはこれで楽しいわね」
アオイの柔らかな唇を感じる。その触感を感じるのはいつぶりだろう。
このやわらかく弾力のある、それでいて俺の唇と混じりあおうとするこの感触。
そして目の前に広がるアオイの顔。
いまは目を閉じてその女性らしい睫毛が至近距離で見える。
ああ、アオイをこんなに近くで感じれる。幸せだ。
………………。
…………。
……。
いかんいかん、こんなことしている場合じゃない。それにカーリーの目の前だ。
俺はアオイの肩を持ち、引きはがすように腕に力を込める。
「えっ……カズナリさん」
その瞬間、目の前にあるアオイの表情がまたも悲しそうなものになる。
「いや、違うんだ。嫌だったわけじゃない。その……、こういうのは二人きりの時とかにするべきだと思うんだ」
俺はその不安を拭うためためにも、自分の思っていることを素直に口にする。
「だから、こういうのは他の人前では控えてくれ。な?」
そう言いながらも言葉に反し俺はアオイを抱きしめてしまう。あんな表情をされてしまっては、紳士として……いや、男としてそうするべきだろう。
「……はい、わかりました。可能な限り善処します」
そう言うアオイは腕の力を強め俺を抱きしめ返してくれる。
だが、アオイ。可能な限りであって絶対ではないんだな……。俺も人のこと言えないかもしれないが。
「ちょっと、この部屋暑すぎなんですけどー、私のこと忘れてないわよね?」
***
道具の調達を終えた道化師一行が宿に戻ってくる。
こちらの荷造りもすでに完了しており、全員で馬車に積み込み作業をする。
この様子なら昼過ぎにはリュンナの村を出発できそうだな。
「じゃあ、行くか」
俺は荷台に乗っている全員に声をかけると馬車を走らせるのだった。
だが、この村を出るまで気を抜けない。なぜなら吸血鬼として恐れられていたカーリーが万が一にも村の誰かに見つかれば大騒ぎになるはずだ。
そうならないためにも、いまは荷台で大人しくしてもらっている。
村の中心を馬車はガタゴトと音を立て走っていく。
村人や冒険者が次々とすれ違う。だが、その誰かが俺達を見ているのではないかという不安を勝手に覚えてしまう。
そんな不安を覚えながらも村の出入り口にたどり着く。
馬車は何事もなく出入口を通っていく。
「そこの馬車ちょっと止まってくれ」
だが、見張りをしていた兵士に呼び止められてしまう。
……カーリーのことがバレたのか。いや、誰かにバレるようなことはなかったはずだ。
ならなぜ呼び止められる。まさかなにか隠しごとをしているのが顔に出てしまったのか……。
「お前、吸血鬼を退治したって冒険者だよな」
兵士は馬車に近寄り御者席に座る俺を見上げる。
「ああ。そうだが。なにかあったのか?」
俺は何食わぬ顔を心掛け、兵士の言葉に返答をする。
いざというときは、馬車を強引に走らせれば何とかなるだろうか。
だが、それでは今後ほかの村で行動をするとき危険な目に合う可能性を高めてしまう。
兵士は俺を見つめる。
……。
…………。
………………。
すると次の瞬間、兵士は頭を下げる。
「吸血鬼退治をしてくれてありがとう。これでこの村も安心だ」
兵士はそう俺にお礼を言ったのだった。
予想外の言葉に思わず拍子抜けしまい、反応ができなかった。
「シラノバまでの山越えは距離もあって大変だから気を付けてくれよ」
「……ああ、心配してくれてありがとう」
「また、機会があればリュンナの村にも寄ってくれよ。じゃあな」
兵士はそういうと自分の持ち場である村の入り口まで駆けて行ってしまう。
ふぅ……、緊張した。
ただ感謝されただけだったが心臓に悪いぞ。
そうして俺は再び馬車を走らせる。この先はいくつもの山を越えて行く必要があるから長旅になるはずだ。
しかし、そんな心配もよそに馬車はいつものように馬の足と車輪を動かしていく。
シラノバまで何事も無い平和な旅路になることを俺は祈りながら手綱をしっかりと握りしめたのだった。
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