記憶喪失だったが、元奴隷獣人少女とイチャイチャしながらも大鎌担いで神を殺す旅に出ました!

梅酒 凪都

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第三章

3-11幕間「正義とは」

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 ―side タラント―

 ギルドへの報告を済ませた私達。さすが、幾多の冒険者を困らせた案件なだけあって報酬は結構な額を頂きました。

 それを元手に山越えのための道具や食料諸々を調達するのが私達の任務。

「次は買い出しですねー張り切っていきましょー」

 私は先頭を進みながら片腕を大きく掲げます。

「……おー」

 しかし、それに乗ってくるのはシグさんだけです。私の味方はシグさんだけなのでしょうか。悲しいシクシク。

 と、言うわけではなく。吸血鬼の一件を済ませカーリーさんを仲間にしてからドロシーさんは元気がないご様子。

「どうしましたか? ドロシーさん。元気がない様子ですが、いつもみたいに、いえーいっ! どっこいしょーっ! みたいなのを期待しているんですがっ!」

「タラントさん……」

 ですが、私の問いかけにも元気がなく私の名を呼ぶだけ。これは重症ですね、いやはや。

「……正義って何なんでしょうか」

 ……。おやおや。

 なるほど、先の戦闘での傷が癒えていない様子ですね。

 傷と言っても、外傷ではない心の傷のようですが。

「吸血鬼は村人を襲う悪だと信じ戦いました。ですが、本当の悪は別にいて、吸血鬼さんは悪ではありませんでした……」

 ドロシーさんは足を止め、私の目を見ることなく、自分の手を見つめています。

 そしてその手を握りしめ自身の心の内を言葉にしようと必死のご様子。

「私は、なにも悪くない吸血鬼さんを勝手に悪に仕立て上げ攻撃をしました。これでは私が悪で……。正義の味方ではなかったのではないでしょうか……」

 なるほど、そういうわけですか。

 彼女は純粋すぎます。その純粋さは時として人を惑わし混乱させる。

 彼女はきっと人の心は善と悪のみ。そう信じ育ってきたのでしょう。

 だからこそ、私は彼女に伝える必要があります。道化師として、なにより私だからこそ。

「ドロシーさん」

 彼女の目線に合わせるように腰を落とし語りかけます。

「先の戦闘で、あなたは誰のために戦いましたか?」

「それは……村の人達を助けるために」

「それだけでしょうか?」

「…………それはどういう意味でしょう」

「吸血鬼との戦闘中、貴方が戦わなかったら誰が傷ついていたでしょうか?」

 私はそうドロシーさんに問いかけます。きっと彼女も気が付いていないだけなのです。

「それは……カズやアオイ。シグにタラントさん」

「そうです。貴方は仲間のために戦っていたのですよ。きっかけは村人のためかもしれませんが、最後には仲間のために戦っていた」

「仲間のため……」

「そうです、仲間です。貴方のその拳は仲間を守るために振るわれていたのです」

 私はドロシーさんの拳を覆うように両手で握ります。

「正義の味方には仲間は付きもの。そう言っていましたよね? であれば、その拳は"正義のため"。そして"仲間のため"に振るわれる。そう考えてみてはどうでしょうか?」

 私はドロシーさんの拳から手を放し、帽子の中から一つの鉱石を取り出します。

「もし、また自分の正義を見失っても、私は貴方の正義を信じます。だからそんな貴方にこれをプレゼントいたします」

 取り出した鉱石をドロシーさんに手渡します。

「これは……?」

 手渡した鉱石は石なのに中で炎がメラメラと燃えています。

「迷ったときや困ったとき、その鉱石見て思い出してください。貴方の正義をこの道化師タラントは信じています。ですので、迷わず仲間のためにその熱い拳を握り続けてください」

 最後にドロシーさんにニッコリ笑いかけます。それは営業スマイルではなく心の底から笑う笑顔です。

「タラントさん」

「……ドロシー」

 その様子を見ていたシグさんがドロシーさんの手を握ります。

「シグさん」

「……ドロシーが元気ないと寂しい」

「……」

 パンッ!

 次の瞬間ドロシーさんが自分の顔を思いっきり両手で叩きました。

「うおおおおぉぉぉぉおおおおおおぉおおおおおおお!!!」

 そして叫んでました。

 いやー、これには村の人々も視線をこちらに向けております。これはさすがに注目の的ですね!

「ドロシー復活ですっ! もう迷いません。迷う正義の味方なんて聞いたことがありませんっ!」

「……その意気」

「いやー、元気になりすぎちゃいましたかね」

「ではタラントさんっ! シグさんっ! 道具の調達に行きましょうっ!」

 そう言うとどんどんと先に進んでいってしまいます。

「あーちょっとお待ちくださいドロシーさん! そっちじゃないですよー! シグさん、追いかけましょう」

「……おー」

 私とシグさんで全力疾走のドロシーさんの後を頑張って追いかけていきました。ですが、元気百倍の彼女に追いつくのには結構な時間を要してしまったのは言うまでもありません。

 めでたしめでたし。
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