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ブランシールの魔女
第1節・ブランシールの森
しおりを挟む「いい?決して〝ブランシールの森〟に行っては、ダメ」
「どうして、母さん?」
人差し指を口許に軽く添えると、母親は不思議そうに首を傾げている自分の息子を見つめた。
そして、自分を見上げている息子の鼻の頭を、ちょいと先程口許に添えていた人差し指で弾く様にしながら優しく、だけど、厳しい口調で言った。
「あの森にはね、魔女がいるからよ」
「まじょ?」
きょとんと、息子は更に首を傾げる。
まだ幼い息子には〝魔女〟の事が理解らない様だ。
母親は息子の小さな手を繋ぐと歩き出しながら話を続けた。
「…そう。
魔女は怖いのよ?悪魔と契約しているの…
そして…人間を食べるんですって…」
〝人間を食べる〟
その言葉は理解出来た様で、息子は軽く背筋が震えた。
「…ん…絶対、行かないよ…」
その言葉を母親に告げると、息子は黙り込んでしまった。
*****
あれから幾年もの月日が流れて、幼かった息子は、素朴な容姿こそはしているが、正義感が強く誰にでも優しい人好きのする好青年に成長していた。
母親は、青年が14歳の時に流行病で他界してしまった。
元より青年には父親もいなかったので、今は独りぼっちで生活している。
草原に山羊達を連れて行くのが青年の日課で有り仕事でもある。
青年は、ある程度充実した生活を送っていた。
少なくとも
ーー〝彼女〟に出逢うまでは……。
*****
いつもの様に、草原に山羊達を連れて来た青年は、山羊達を放してやると、大きな岩の上に腰を下ろした。
楽しそうに、美味しそうに草原の草を食べている山羊達を眺めながら青年は、ふっと微笑んだ。
(…こんな生活も悪くない…)
そんな事を思っていると、一頭の子山羊が群れから離れて森の方へ進んで行くのに気付いた。
「バカ!!戻って来い!!そっちは…っ!!」
ーブランシールの森だ…!!
幼い頃、母親に〝決して行くな〟と言われていた、恐ろしい〝魔女の森〟
だが、子山羊は言う事を聞かず、ブランシールの森の中へと入って行ってしまった。
(…どうしたら、子山羊を見捨てる訳にはいかない…
あの子山羊は…っ…だけど!あの森には…っ…)
〝悪魔と契約して、人間を食べるんですって〟
母親の言葉が脳裏をよぎる
ぞわぞわと背筋が寒くなり軽く身震いした。
(怖い)
青年は冷や汗を掻きながら、初めて自分の〝正義感の強さ〟を呪った。
(やっぱり、見捨てられない…!!)
青年は、急いで子山羊の後を追う様にブランシールの森へと足を踏み入れて行った。
そして青年は、自分の運命を変える〝美しい魔女〟
に出逢う事になる。
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