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ブランシールの魔女
第3節・それは美しき出逢い《ランコントル》
しおりを挟む子山羊を撫でながら、美しい少女は言う。
「貴様は、勇気がある」
「え…?」
子山羊を見つめたまま「実に感心する」と少女は呟いた。
「貴様、名は?」
細くしなやかな指で子山羊の額を軽く擽ぐると、今度は青年の顔を見つめた。
急に目が合った為か、気恥ずかしさからか、青年は少女から視線を逸らしてしまった。
「…ユウキ」
「そうか、貴様の名は〝ユウキ〟か…」
ふっと少女の口許が歪む。
そして、子山羊から手を離すと青年ーユウキの方へ歩み寄る。
「…人間が此処へ来たのは、何年振りだろうか…」
ふふっと軽く笑みを零し、視線を逸らしたままのユウキに言う。
如何にも、楽しい、という感じだ。
「貴様の勇気に免じて、この私が直々に挨拶をしてやろう」
少し緊張しているユウキの前まで来ると、フード付きの黒ローブから、チラリと覗き込む水仙色のレースがあしらわれた純白のスカートを、軽く摘みながら貴族の淑女が挨拶をする様に、ゆっくりと頭を下げた
「ーようこそ
我が森〝ブランシール〟へ…
私は、この森の主人、エルシオールに御座います」
一呼吸、後に
「通称〝ブランシールの魔女〟と、呼ばれております…」
「ーっ?!!」
少女の社交辞令の様な挨拶を聞いて、ユウキは思い出す。
ーそうだ…此処は…〝魔女の森〟だ
俺は、とんでもない人物と遭遇したんだ…
そもそも、此処に人間がいる訳がない…
もし、いたとしたら…
乾いたばかりの額には、汗が滲んで浮かんでいた。
ーもし、人間の姿をした人物が、この森にいたとしたら、それはー…
「ま、じょ…?」
唇が震えてマトモな言葉が出ない
全身の血を抜かれている様に、みるみるユウキの顔が青白くなっていく。
少女ーエルシオールはクスクスと声を上げ細く笑みながら、先程、挨拶をした時に少し乱れてしまった白髪を手際良く手櫛で整えた。
「そうだ、名前の通り、貴様は中々の勇気がある」
理由はどうであれ、この森に足を踏み入れたのだからな、とエルシオールは褒め言葉らしきセリフをユウキに言った。
その言葉に、ユウキは酷い眩暈を感じた。
「安心しろ、貴様と子山羊を取って喰おう等、微塵も思っておらぬ」
エルシオールは深い溜息を吐いた。
ユウキの異常な程の蒼白っぷりに、この魔女は呆れたのだろう。
「じゃあ、帰っても、良いんだな?」
ユウキは、安堵の声を漏らすと子山羊を大事そうに抱き締めた。
そして、帰ろうと踵を返した、その時
「待て」
「…え…」
エルシオールの美しいクリムゾン色の瞳が、森の隙間から射し込む光に反射してギラリと光った。
その余りにも美しい顔に、やっと潤った喉が渇くのを感じた。
ーそう、これが青年の運命を変える〝出逢い〟であるー
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