ステップガ―ルとワイバ―ンの領主

六葉翼

文字の大きさ
10 / 25

【ある歴史家の回顧録Ⅰ】

しおりを挟む
【アシュリ―  アッシュ  シ―モア卿】


英国出身、19世紀の歴史研究家、著実家、生前に英国歴史に関する著作の他に、幾つかの短編小説、詩編が出版された。

英国ブリテン貴族の侯爵家である、シ―モア家に産まれるが幼少時から病弱であったため、家督は相続せず。侯爵の称号はあくまで儀礼称号である。

シ―モアー家は、ロンドンでも有名なワイバーン領地の領主であったため、地元では屋号のようにワイバーンの名前で呼ばれた。アシュリ―  アッシュ  シ―モアーも歴史愛好家の間では正式名より、アシュリ―卿やワイバーンの領主様と呼ばれる事が多く、むしろ正式名よりも、そちらの方が有名な歴史家である。

当時出版された主な著作に【魔女の世紀】【ワイバーン卿の英国史】【権力に侵された国家は腐敗する!腐敗するのだ!】等がある。

アシュリ―の著書に関する当時の書評や歴史研究家の見解は、歴史書であるにもかかわらず『しばしば夢想家』『石や花にたずねたとしか思えない』『歴史小説として興味深い』『バケツいっぱいの小便』などが残されている。

『シ―モアーのペンは、しばしばあらぬ方角に脱線暴走を繰り返した』

そう言われる所以は、彼は本来非常に理知的な歴史家であるにもかかわらず、突然そのペンは羽根が生えたように歴史を逸脱したからに他ならない。

当時の英国王室の極一部の為政者、国王や女王陛下しか知り得ぬ歴史がそこには書かれていた。文字通り、石や花や死者に尋ねてみなければ解らない。そんな記述が、彼の著作には屡々見受けられた。

『まるで見て来たような嘘を書く』

『ほら吹き侯爵』

彼の著作が現在まで残っているのは、そうした彼の著作が、国内だけでなく、世界中の一部の歴史好事家や書物愛好家に持て囃されたからに他ならない。

近年まで歴史家としての彼の著書には『歴史史料としての有用は認められない』という見解が一般的だった。

その評価が一変するきっかけとなったのは、1957年クリスマスにテレビ中継による、エリザベス女王の国民に向けたメッセ―ジであった。

「英国王室が世界にとって、英国国民にとって、これ以上陸の孤島にならないために」

エリザベス女王の口から発せられた開かれた王室という御言葉。そのメッセ―ジ以降、門外不出と言われていた英国王室の歴史的史料が、数多く一般に公開された。

それまで人々が知り得なかった史料の中身が、アシュリ―卿の著書に書かれていた内容と驚くべき符号一致を見せていたからである。

アシュリ―卿は晩年肺病を病み、36歳の若さで夭折している。家督は継がず、ひたすら邸宅の庭の林に設えたガゼボを改装した一人部屋に隠り、執筆と読書に明け暮れた生涯であったという。

華々しい貴族の宴にも、宮殿で開かれた貴族院にも顔を出す事はなかった。

「しかしそれこそが虚偽の歴史で、実はアシュリ―卿は、王室と親密に秘密を共有するほどに、重要な役職を担っていた人物なのではないか?」

とする研究者の見解と共に、アシュリ―卿は俄に、歴史の表舞台で脚光を浴びる事となった。生前彼が遺した資料や日記や、彼が書いた回顧録が邸宅の書棚から次々発見された。しかしそれを一読した研究者たちは言った。

「これこそ正しく当時の人達が言ったのと同じ『歴史的になんの価値もない』ものだろう」

「おそらくは、アシュリ― アッシュ シ―モア侯爵こと、ワイバーンの領主様の御乱心時代に書かれたものだ」

そう歴史研究家は位置付けをした。事実彼はその当時「病の果てに心を病み阿片窟に出入りしていた」と自ら記述している。

心を病んだ末に、死者の声に怯える毎日を送り、いかがわしい場所で死の恐怖から逃れるように阿片の煙にまかれた。

回顧録はその後で訪れた先の、霊媒の少女との出会いから始まる。卿の回顧録は終始、その少女との会話で内容が占められていた。おそらくその少女は存在しておらず、卿の負の時代に阿片が見せた幻覚であろうと、歴史家の意見は一致した。

生前このワイバーンの領主の生活も興味深いものである。しかし当時から「陰遁者」や「世捨人」と屋敷内でも囁かれていた卿の為人や変人的な暮らしぶりは徹底されていたようだ。それ以外の記録は発見されていない。

但し、かつて英国の貴族の屋敷に勤めていたメイドの中には、当時の記憶をもとに書物を出版する者も少なからずいた。

当時も今も、俗世間からかけ離れた貴族の生活に興味を持つ者は多い。

ワイバーンの領主の御屋敷で、アシュリ―存命中、ハウスメイドとして働いていたアビゲイルは、後にこんな記述を残している。

「私の主であるアシュリ―様は、広い御屋敷の中の木立に囲まれたガゼボに、いつも一人で暮らしておいででした。そこには、出入りを許された特別な使用人しか、普段は立ち入ることは出来ませんでした。ところが…ある日、御屋敷内に突然一人のメイドが雇われて…彼女だけは特別なようでした。なぜって、主の住まいにノックもせずに入るところをしばしば見かけたからです。その女の子はいつも奇妙なドルイドか、魔法使いのようなマントを羽織っていました。あの子は、一体なんだったのでしょうか」

回顧録は閉じられ本棚へと仕舞われた。時よりは、部屋を訪れた人の手で埃が払われ、ペ―ジが捲られもした。それから後は、何年も省みられる事はなかった。

以下はその回顧録の中からの抜粋である。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...