ステップガ―ルとワイバ―ンの領主

六葉翼

文字の大きさ
19 / 25
【エルフィン ナイトの章】

【Inviitation】

しおりを挟む



 ~ようこそ魔女のクリスマスへ~




「まだだ!まだ手をつけるなよ…モート、まだ、よしよし、待てだ!」

蜂蜜と溶かしバターで仕上げた、ターキーとローストチキンは皮までぱりっとして、きつね色に焼けていた。

ターキにつけて食べるための、グレービー、ブレッド、クランベリーの3種のソース。トリミングには市場で買ったスプラウトのローストを添え。

塩漬けした豚肉を巻いて、こんがり焼いた腸詰めと、ローストしたポテトとパースパニッブ。

彩りよく散らした花びらと一緒に盛りつけられたスモークサーモン。

武骨な塊の骨付きハムは、今夜だけ特別にめかしたパイ生地にくるまれて、ナイフで切り分けされるのを待っている。

ラム酒と砂糖に漬け込んで、熟成させたドライフルーツとナッツを詰めた星型のミンスパイに、ジンジャーブレッド。
   
テーブルの中央の皿に置かれた、大きな白いキャンドルのまわりには、花と果物が飾付けされていた。

湯気を立てて次々台所から運ばれて来るクリスマスのごちそうたち。モートの腹はさっきから鳴りっぱなしだった。

テーブルを拳で叩いて、一刻も早くごちそうにありつきたい意思表示を彼女にしても、彼女は犬をしつけるようにひたすら待てを繰り返した。

英国のクリスマスディナーには、ローストした鳥の他にも、焼いた肉料理が多く食卓を飾る。その理由は、長い冬の間は、家畜を飼っておくための飼料を確保することが難しいからだ。

飼料節約のために家畜をしめて、肉にして食べたていたことが、クリスマス料理として習慣化したと言われている。

モートには初めて見るクリスマス料理はどれも、ごちそうの山だった。

「キル…俺はもう我慢の限界だ!」

「待てモート!クリスマスの流儀だ!」

「だからなんで、魔女のお前がクリスマスの流儀にこだわるんだ!こっちに来い!魔女なら魔女らしく、共にこれらを貪り喰うのが魔女の宴だろ!?早く!早く!酒池肉林のサバトの儀式だ!!」

モートは腹が空きすぎて何を言ってるのか自分でもよくわからなくなっていた。

「お…これは…思ったよりも重い」

台所の奥から彼女が引き摺って来たのは、うっすらと埃を被った硝子の大瓶だった。硝子の器を彼女が布巾で丁寧に拭う。中身は美しい金色の液体だった。

「酒だ」

モートが訊ねる前に彼女が言った。

「奥に黒いのがもう一つある。悪いがテーブルまで運んでくれ」

その液体は瓶の中で春の陽射しを閉じ込めたように黄金色に澄んで輝いていた。

デミジョンと呼ばれる貯蔵酒専用の瓶。しゃがみ込んだ二人は、その中身をうっとりと覗き込んでいた。

「こんな綺麗な色した酒見たことないぞ」

「ダンデライオン ワインだ」

「ダンデライオンって…春先に道端に生えてるあれか?」

ダンデライオンワインは、春に摘んだタンポポの花びらを煮出した液体に、砂糖とレモンやオレンジなどの柑橘類のジュースを混ぜて、自然発酵させた酒のことだ。

アイルランドやウェールズ地方で昔からよく作られ、味や風味の良さからイングランド全般で飲まれるようになった。

「隣の黒いのは葡萄酒か?」

「これはブラックべリーのワインだ」

ブラックべリーは夏の終わり頃から秋にイギリスの郊外で大量に実をつける。

煮出したブラックべリーにこちらはジンを入れて発酵させて作る酒だ。

「綺麗な色だな」

「仕込んで半年は濁っていたんだ。駄目かなと思ってたら、その後澄んでこの色になった…もう飲み頃だろう」

「こっちの黒いのが俺で、そっちがあんたみたいだ」

「ブラックべリーの方が濃いから、涌水かソーダ水で割れば綺麗な色になる」

「これ仕込んでから飲めるまでどのくらいかかるんだ?」

「大体1年ほどだ」

「なら、よかった」

「そうだな、もう1年前の春と秋だ」

モートは彼女がその間に、一人で森や野原に出かけて、花や木の実を摘んだとはとても思えなかった。クリスマスのごちそうだって、多分作らない。

この酒は自分が彼女に出会う前から仕込まれた物だ。その間彼女は一人ではなかった。

だからよかった。

モートはそう思った。

ダンデライオンワインの栓を開けると、瓶口から春の花の香りが溢れた。

「酒も上々。料理が冷めては台無しだ」

「もう始めていいのか?」

「ああ遠慮なくやってくれ」

彼女は右手をあげて、その日の客をテーブルに案内した。



「モート準備はいいか?」

彼女にそう言われて、モートは山高帽にしまってあった、細長い紙の筒の先を持たされた。彼女が市場で貰ったおまけの一つだが、何に使う物かわからない。

クリスマスの包装紙のような絵が書かれた筒は、三つに切れ目が入っていて、大きなキャンデイの包みにも見えた。

「モート、端を掴んでけして離すな!」

「わ、わかった!ク、クリスマス初心者だがよ、頑張るぜ!」

「私が123と言うから一緒に声を合わせて筒を引っ張るんだ!さあ123!」

「ま・・」

なぜ彼女は片方の耳に指を入れているのだろうか。なぜ目を瞑っている。

モートが聞く間もなく、目の前でクラッカーが弾けた。

クラッカーの中から出て来たのは小さい木の兵隊の玩具と、すごくつまらないクイズの書かれた紙きれが一枚。

それから紙で作られた王冠が二つ。

彼女は紙の王冠を広げて、モートの頭に被せた。

「真中の筒はお前の方に残ったから、これは全部お前の物だぞ、モート!」

モートはクラッカーの中身を大事そうに集めて、逆さまにした山高帽の中に入れた。


【クイズ】

『イギリス人のディナーにはマナーはつきものです!では、イギリス人のディナーには、けしてないものはなに?』

答え   美味しい料理


モートはその夜、おまけの紙に書かれたそのクイズの答えは嘘だとすぐに思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...