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【小野瀬】
ダマスカス・ロ-ズ、ベルガモット、アニス、カ-ネション、ネロリ、アイリスにそして…バニラ!
まるで魔法の呪文のよう。
暗闇の中を私は彼の香りを一つ一つ辿るようにさ迷い歩く。まるで天国の花の香りに引き寄せられる屍みたいに、歩く。
彼の部屋の前に辿り着いたのはいいけれど。扉が開かない。扉の中から彼と聞いた事もない女の笑う声が聞こえる。
私は鍵を持っている事を思い出して首からそれを外す。
けれど、それは生臭い匂いのする鰯だった。
私は泣きながら扉を叩く。すると扉は苦もなく開いた。部屋に入ると、やっぱりそこは何もない暗闇で。
暗闇の中から白い細い腕が何本も伸びてきて私は掴まれ、ヘッドに倒れこむ。
衣服は自分で脱いだのか引き剥がされたのか分からない。
白い腕は男のも女のもあって。
執拗に私の体をまさぐり続けた。女の体、男の体、私の体が白い蛇みたいに絡み合うけれど。
私が探したものは何一つ見つける事は出来ない。
冷蔵庫に梨が二つ冷えている。
秋の気配は少しの肌寒さで感じる事が出来る。
私は夜明け前に目を覚ました。
ここは、悠斗君の部屋?それとも私の部屋は?
積み上げた本も本棚も何もかも同じで暗いと分からなくなる。
隅田と鍵を捨てに行く約束と栞を作る約束をした。
けど鍵なら複製したのが机の引き出しに沢山有りすぎて、どれが最初に作ってやつか分からない。
どうしよう。
ベッドの枕元の棚にある香水の瓶を見て。
「ああ、私の部屋だ」
と、ようやく分かる。悠斗君のお母さんが「お礼に」って私にゲランの香水をくれたんだ。
夢から覚めた私は自分の下着に指先を忍ばせた。
私の人差し指は私の体の中から染み出た液体で濡れていた。暗闇の中で濡れた指の先を私は見つめた。
着信がある度に光る、乏しい灯りの中で私はその時初めて声をあげて泣いた。
メールや電話の着信は五十件を超えていた。明け方だというのに。どれもこれも隅田澄香の文字ばかり。
「ストーカーはお前の方だ」
私は今届いたばかりのメールを見る。
「窓の外」
とだけ書かれたメールの文字を見て私は部屋のカ-テンを開ける。
まだ薄暗い家の外にサングラスとアロハを着た隅田がこっちを見て手を降っている。ふくらませた浮き輪と変な貴婦人みたいな帽子まで。
もう夏休みも終わる。
私はまだ薄暗い二階の階段を降りながら思った。
「いきなり手なんかつなぐなよな」
本の虫に私もなって鳴けば私も本の虫を引き寄せられると信じてた。
別のが来るとはね。
「もうクラゲいる、つ-の!」
【恋と鍵とFLAYVOR 】
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