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はじめに
はじめに マルチ商法とは?
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この物語では、「マルチ商法」が序盤の鍵となっているが、読者の中にはご存知ない方もいると思うので簡単に説明したい。
○ネズミ講とは?
まず、よく似た仕組みで混同されやすいネズミ講について説明する。ネズミ講とは、孫から子、子から親へと金が分配されていく仕組みで、「無限連鎖講の防止に関する法律」で明確に違法とされている。
例えばここに、会費十万円のネズミ講があったとする。あなたが友人を勧誘すると、あなたは親、友人は子という関係になる。親であるあなたは子から十万円を貰うが、その一部、例えば五万円をあなたの親に払わなければならない。これを繰り返すことで、上へ上へと資金が分配されていく。この時点ではあなたの収支は支払い十万円、収入五万円となりマイナスだが、子を増やすとプラスに転じるため、勧誘に勤しむことになる。勿論、単なる子の場合は十万円が丸損である。
ところが、数学が得意な方ならすぐに気づくことだが、この仕組みはすぐに破綻する。その名の通り組織はネズミ算式に増えるとすると、二人ずつ勧誘したとしても、二十八代目で2の27乗≒1億3400万人と、日本の総人口を超えてしまうためだ。このためネズミ講は法律で禁止されている。
○マルチ商法とは?
では、マルチ商法とはどんな仕組なのだろうか。ネズミ講との違いは、「商品をやり取りしているか」だ。
例えばあなたがマルチ商法に入会すると、その会から商品を仕入れる権利を貰える。これはシャンプーやサプリメントなどの日用品であることが多い。これを仕入れて売れば儲けが出る。ここまでは普通だ。ところが、ここでネズミ講を思わせる仕組みを取り入れているのがマルチ商法なのだ。あなたが友人を勧誘すると、ネズミ講と同じく、あなたと友人は親子関係となる。子が商品を売れば、その利益の一部があなたに入る。あなたの親も同じで、ということは勧誘を大量にすれば、何もしなくても毎月収入を得られることになる。
もちろん、そんな甘い話はない。ほとんどの人は営業の素人だ。せいぜい数人勧誘したところで行き詰まる。運良く勧誘に成功したとしても、多くの人はすぐにやめてしまうため、勧誘活動をし続けなければならない。さらに、販売資格を維持するためには毎月一定量の仕入れをする必要があり、あなたの家には使わないシャンプーや飲まないサプリメントが大量に転がることとなる。そして、マルチ商法をやっていると聞くと多くの友達は離れていき、人間関係は壊滅する。このためマルチ商法は過去に何度も事件を起こしており、消費者生活センターへの相談件数も毎年一万件を超える状態が続いている。催眠商法や利殖商法と並び、悪徳商法として名前が挙がる定番がマルチ商法なのだ。
この仕組みを違法化するかについては過去に議論があったものの、フランチャイズ方式やN次代理店(例えば携帯ショップはほとんどが代理店で、その親となる代理店があることも多い)といったビジネスと区別が難しいため違法化は見送られた。現在は「特定商取引法」という法律で「連鎖販売取引」として規定されており、かなり厳しい制限を課されている。例えば、勧誘する前にマルチ商法であることを明言しなければならない、公的な場所で勧誘しなければならないといった具合だ。従って、勧誘体験談としてよく聞く「知り合いの家に行ったらいきなり勧誘された」、「久しぶりに同級生に会ったらマルチ商法の勧誘だった」というようなケースは違法である。
○カルト宗教との類似
ここまでで、マルチ商法が問題のあるビジネス形態であることが分かってもらえたと思うが、とはいえやる分にはその人の自由である。筆者が真に問題視しているのは、彼らの選民思想と無礼な振る舞いだ。マルチ商法はその独特の精神性から、勧誘時に自己啓発思想と選民思想(簡単に言えば「オレは偉い感」)を押し付けてくるため、非常に不快な思いをする。作中では何人もマルチ商法の会員が登場するが、彼らは実際に筆者を勧誘した人物をベースにしている。マルチ商法の会員達は作中とほぼ同じ言動をし、かなり無礼だったために激怒した経験がこの作品の元となっている。
彼らの選民思想にはカルト宗教を思わせるものがあるが、それには理由がある。マルチ商法の会員が信奉する自己啓発思想の元祖はノーマン・ヴィンセント・ピール著「積極的考え方の力」と言われているが、この著者であるピール氏は牧師なのだ。さらに、「考え方を正しいものに変えるだけで現実を変えられ、全て上手くいく」というマインドは、その源流を辿るとニューソートという宗教思想で、日本には生長の家という宗教団体を通じて持ち込まれた。教祖である谷口雅春氏が書いた「生命の実相」は60年代に出版され、ベストセラーになっている。さらに、強引な勧誘や高額な費用、精神的ショックから90年代に社会問題となった自己啓発セミナーは、もともとマルチ商法のためのセミナーだった。この自己啓発セミナーも、その集団心理テクニックを辿ると、ヒューマンポテンシャルムーブメントという運動を通じて、ニューエイジという宗教潮流に辿り着く。
つまり、マルチ商法団体は「宗教に似ている」どころか、「ほぼ宗教」なのである。しかも、本人達はその考え方の源流が宗教にあることを自覚していない。宗教であることを自覚していれば、あくまで宗教としての次元で話ができるが(筆者だって阿弥陀様への信仰を無理やり他人に押し付けようとは思わない)、彼らはまるで物理法則と同等かのような「真実」として我々に押し付けてくる。その押し付けがましさへの怒りがこの作品の原動力だ。作中で済がマルチ商法信者に激怒し、ボコボコにする様子を楽しんで頂ければと思う。
○ネズミ講とは?
まず、よく似た仕組みで混同されやすいネズミ講について説明する。ネズミ講とは、孫から子、子から親へと金が分配されていく仕組みで、「無限連鎖講の防止に関する法律」で明確に違法とされている。
例えばここに、会費十万円のネズミ講があったとする。あなたが友人を勧誘すると、あなたは親、友人は子という関係になる。親であるあなたは子から十万円を貰うが、その一部、例えば五万円をあなたの親に払わなければならない。これを繰り返すことで、上へ上へと資金が分配されていく。この時点ではあなたの収支は支払い十万円、収入五万円となりマイナスだが、子を増やすとプラスに転じるため、勧誘に勤しむことになる。勿論、単なる子の場合は十万円が丸損である。
ところが、数学が得意な方ならすぐに気づくことだが、この仕組みはすぐに破綻する。その名の通り組織はネズミ算式に増えるとすると、二人ずつ勧誘したとしても、二十八代目で2の27乗≒1億3400万人と、日本の総人口を超えてしまうためだ。このためネズミ講は法律で禁止されている。
○マルチ商法とは?
では、マルチ商法とはどんな仕組なのだろうか。ネズミ講との違いは、「商品をやり取りしているか」だ。
例えばあなたがマルチ商法に入会すると、その会から商品を仕入れる権利を貰える。これはシャンプーやサプリメントなどの日用品であることが多い。これを仕入れて売れば儲けが出る。ここまでは普通だ。ところが、ここでネズミ講を思わせる仕組みを取り入れているのがマルチ商法なのだ。あなたが友人を勧誘すると、ネズミ講と同じく、あなたと友人は親子関係となる。子が商品を売れば、その利益の一部があなたに入る。あなたの親も同じで、ということは勧誘を大量にすれば、何もしなくても毎月収入を得られることになる。
もちろん、そんな甘い話はない。ほとんどの人は営業の素人だ。せいぜい数人勧誘したところで行き詰まる。運良く勧誘に成功したとしても、多くの人はすぐにやめてしまうため、勧誘活動をし続けなければならない。さらに、販売資格を維持するためには毎月一定量の仕入れをする必要があり、あなたの家には使わないシャンプーや飲まないサプリメントが大量に転がることとなる。そして、マルチ商法をやっていると聞くと多くの友達は離れていき、人間関係は壊滅する。このためマルチ商法は過去に何度も事件を起こしており、消費者生活センターへの相談件数も毎年一万件を超える状態が続いている。催眠商法や利殖商法と並び、悪徳商法として名前が挙がる定番がマルチ商法なのだ。
この仕組みを違法化するかについては過去に議論があったものの、フランチャイズ方式やN次代理店(例えば携帯ショップはほとんどが代理店で、その親となる代理店があることも多い)といったビジネスと区別が難しいため違法化は見送られた。現在は「特定商取引法」という法律で「連鎖販売取引」として規定されており、かなり厳しい制限を課されている。例えば、勧誘する前にマルチ商法であることを明言しなければならない、公的な場所で勧誘しなければならないといった具合だ。従って、勧誘体験談としてよく聞く「知り合いの家に行ったらいきなり勧誘された」、「久しぶりに同級生に会ったらマルチ商法の勧誘だった」というようなケースは違法である。
○カルト宗教との類似
ここまでで、マルチ商法が問題のあるビジネス形態であることが分かってもらえたと思うが、とはいえやる分にはその人の自由である。筆者が真に問題視しているのは、彼らの選民思想と無礼な振る舞いだ。マルチ商法はその独特の精神性から、勧誘時に自己啓発思想と選民思想(簡単に言えば「オレは偉い感」)を押し付けてくるため、非常に不快な思いをする。作中では何人もマルチ商法の会員が登場するが、彼らは実際に筆者を勧誘した人物をベースにしている。マルチ商法の会員達は作中とほぼ同じ言動をし、かなり無礼だったために激怒した経験がこの作品の元となっている。
彼らの選民思想にはカルト宗教を思わせるものがあるが、それには理由がある。マルチ商法の会員が信奉する自己啓発思想の元祖はノーマン・ヴィンセント・ピール著「積極的考え方の力」と言われているが、この著者であるピール氏は牧師なのだ。さらに、「考え方を正しいものに変えるだけで現実を変えられ、全て上手くいく」というマインドは、その源流を辿るとニューソートという宗教思想で、日本には生長の家という宗教団体を通じて持ち込まれた。教祖である谷口雅春氏が書いた「生命の実相」は60年代に出版され、ベストセラーになっている。さらに、強引な勧誘や高額な費用、精神的ショックから90年代に社会問題となった自己啓発セミナーは、もともとマルチ商法のためのセミナーだった。この自己啓発セミナーも、その集団心理テクニックを辿ると、ヒューマンポテンシャルムーブメントという運動を通じて、ニューエイジという宗教潮流に辿り着く。
つまり、マルチ商法団体は「宗教に似ている」どころか、「ほぼ宗教」なのである。しかも、本人達はその考え方の源流が宗教にあることを自覚していない。宗教であることを自覚していれば、あくまで宗教としての次元で話ができるが(筆者だって阿弥陀様への信仰を無理やり他人に押し付けようとは思わない)、彼らはまるで物理法則と同等かのような「真実」として我々に押し付けてくる。その押し付けがましさへの怒りがこの作品の原動力だ。作中で済がマルチ商法信者に激怒し、ボコボコにする様子を楽しんで頂ければと思う。
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