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プロローグ 秋葉原のベローチェで
第一話 着火
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ピコーン。
「またこいつか。」
青山済は、LINEの通知を見て一人つぶやいた。
LINEの主は市村悠一。オウム真理教や暴力団など危ない本ばかりが並ぶ本棚の隣にはサバイバルゲーム用のエアガン、クローゼットにはコスプレ衣装と、趣味に特化した部屋の一角でカルト宗教と集団自殺に関する記録を読んでいた済は、一旦それを横に置いて中身をチェックした。
メッセージの内容は、近々会わないかというものだった。済の頭の中で、断るための理由が渦を巻き始める。
市村とは、半年ほど前のプレゼンイベントで知り合った。各自が持つ知識を三十分ほどかけて共有するというイベントで、月に一回開催されており、その日は済がプレゼンターとして呼ばれたのだった。発表内容は「ニューエイジ~オカルトと、戦後サブカルチャー~オウム真理教の関連について。」。オウム真理教事件の影響もあり、小学生の頃から新興宗教マニアかつオカルトマニアだった済は、学生時代にはアニメ評論に夢中になった。その知識を活かし、十九世紀に生まれた神智学という宗教思想が、戦後アメリカのニューエイジという宗教潮流に繋がり、そこから超古代文明やUFOといったオカルト、さらにニュータイプや超能力といったアニメの設定、そしてオウム真理教のような修行で超能力を得る志向の新興宗教に至るという流れをプレゼンしたのだった。会場は懐かしのオカルトネタやアニメネタで大いに盛り上がり、打ち上げで接触してきたうちの一人が市村悠一だった。
その時市村は、自身もオカルト好きということと、オタクが集まる飲み会を主催していることを告げ、次回の飲み会に来ないかと誘ってきた。済は、どちらかというと新興宗教や悪徳商法、凶悪犯罪などのサブカル寄りの話を得意としていたが、社会思想と繋がるアニメ評論が好きなことや、趣味でコスプレをやっていることもあって誘いに乗ったのだった。実際に話すとあまりオカルトに詳しいように思えなかったり、プレゼンでオカルトについては全く信じていないと話していたのにも関わらず、「幽霊を信じていない人がいるんですよ、教えてやってくださいよ。」と言って女性を連れてきたりと若干の違和感はあったものの、オタク飲み会にはそれから度々参加していた。また、市村は飲み会以外にも二人での食事に度々誘ってきていた。しかし、それ程オカルトに詳しくはなく、またエンジニアの割には技術の話に全く着いてこれなかったりと、話があまりにもつまらないのでほぼ断っているのだった。
今度も断ろうとしたその時、済の目に追加のメッセージが飛び込んできた。
「ターリーも来ますよ(^o^)」
ターリーは、オタク飲み会の主催の一人で、元声優という話だった。オタク飲み会は、サスケ、ターリー、市村の三人で運営されており、それぞれに知人を連れてきて会を成り立たせていた。市村は界隈で「イッチー」と呼ばれていた。サスケは済と同じくコスプレイヤーで、以前コスプレイベントの運営会社に務めていたと話していた。サシでの食事に誘われるのはウッチーだけだったが、主催が参加している他のイベントの告知がオタク飲み会の最後に行われることがあった。ある時告知されていた「無仁会」という交流会に行ってみたところ、たまたまターリーも来ており、そこで話が盛り上がったことをよく覚えている。済は元ネット右翼で学生時代に政治活動をしており、鹿児島出身のターリーとは知覧の特攻隊の話で盛り上がった。会社に入ってからはあまり政治や歴史の話をする相手もおらず、ターリーと第二次世界大戦の話でもしてみるかと、平日は時間が空いている旨のメッセージを返信した。市村と調整した結果、金曜日の夜、秋葉原のベローチェで会うことになった。
金曜日の夜、秋葉原駅の中央改札で待っていると、二人とも十分ほど遅れる旨のLINEが来た。時間にルーズだなと思いながら待っていると、ややわざとらしく謝りながら、小柄な市村とがっしりした体格のターリーがやってきた。ターリーは鹿児島出身らしく、西郷隆盛を思わせる顔つきをしている。
「いやー、ワタルさんすみません。ちょっと前の予定が押してしまって。」
「いいですよ。それより秋葉のベローチェには行ったことがないのですが。」
「それなら、僕らはよく使ってますので。案内しますよ。」
中央改札からヨドバシカメラを横切ると、すぐにベローチェがあった。コーヒーは苦手なので紅茶を注文する。済は学生時代、試験勉強のためにカフェイン剤を飲みすぎて胃を壊し、それからは専らカフェでも紅茶だ。二階に上がり、階段そばの丸テーブルを三人で囲む。ターリーの体が大きく、テーブルが小さく見える。市村はまた、わざとらしく申し訳なさそうな口調で話し出す。
「今日は遊び人の済さんにとってはとても大事な金曜夜に呼び出してしまってすみません。」
「構いませんよ。この前のターリーさんの話、面白かったですし。」
アングラ好きが高じた済がクラブやフェチイベントに出入りしているのを市村も知っていたための発言だったが、最初からこれに触れるあたり、口調とは違って全く申し訳なさが感じられない。
済はターリーに話を振り、第二次世界大戦の話をしようと思っていたのだが、話はここから思わぬ方向に向かうこととなった。
「ワタルさんどうですか、最近。」
「随分もやっとした質問ですね。そうですね、前に話してたパワハラ上司が飛ばされたこともあり、仕事はやっと落ち着いてきました。キャリアアップに繋がる勉強の時間もようやく確保できそうです。」
「帰ってから勉強するなんてさすがですねー。何か将来成し遂げたいこととかあるんですか?」
「子供の頃から勉強が趣味のようなものだったので、これと言って大層なことをやりたいかというと、そういうわけでもないですね。好きでもないと、忙しいサラリーマンが平日から勉強を続けるのはなかなか大変だとは思います。」
ここでターリーが突然長々と話し始めた。
「勉強されてるのはなかなか偉いと思いますよ。僕も元々は大企業に勤めてれば安泰と思っていたのですが、勉強するうちにそれは幻想だと分かりまして。これからの時代、ただサラリーマンとして働いているのでは危ないと思うんですよね。何か自分の夢に向かって主体的にお金を稼ぐ人生を送らないと、これから人口が減っていく日本では特に危ないと思います。残念ながら、古い考え方のまま生きている人は生活できなくなるんじゃないかな。大昔に空を飛ぼうとか、宇宙に行こうとか言った人は馬鹿にされてましたが、現実に今可能になっていますよね。そういう、皆をあっとさせるような、ポジティブな夢を実現する力が求められていくと思うんです。僕は今、本を沢山読んだり、起業の師匠を見つけて自己投資したり、ヒューマンビートボックスの大会スタッフをやってみたり、とにかく色々やってるんですよ。特に最近はキソコソ西田サロンに入ってまして、そこで西田さんがする突拍子もないアドバイス、例えば自分の生活を全部ユーチューブで流しちゃえば?みたいなアイディアで稼いでる人が出たりしてて、そういう、新しい考え方をしていくのが大事だと思うんです。ワタルさんもきっと皆に望まれるような夢を持っているはずだと思うので、それを実現するために動くのがいいんじゃないですか。そのためにはまず、夢の実現にいくらかかるのか考えることですね。」
済の頭の中で、地雷が爆発する音がした。
ここから、かつて政治活動系学生だった済の逆襲が始まるのだった。
「またこいつか。」
青山済は、LINEの通知を見て一人つぶやいた。
LINEの主は市村悠一。オウム真理教や暴力団など危ない本ばかりが並ぶ本棚の隣にはサバイバルゲーム用のエアガン、クローゼットにはコスプレ衣装と、趣味に特化した部屋の一角でカルト宗教と集団自殺に関する記録を読んでいた済は、一旦それを横に置いて中身をチェックした。
メッセージの内容は、近々会わないかというものだった。済の頭の中で、断るための理由が渦を巻き始める。
市村とは、半年ほど前のプレゼンイベントで知り合った。各自が持つ知識を三十分ほどかけて共有するというイベントで、月に一回開催されており、その日は済がプレゼンターとして呼ばれたのだった。発表内容は「ニューエイジ~オカルトと、戦後サブカルチャー~オウム真理教の関連について。」。オウム真理教事件の影響もあり、小学生の頃から新興宗教マニアかつオカルトマニアだった済は、学生時代にはアニメ評論に夢中になった。その知識を活かし、十九世紀に生まれた神智学という宗教思想が、戦後アメリカのニューエイジという宗教潮流に繋がり、そこから超古代文明やUFOといったオカルト、さらにニュータイプや超能力といったアニメの設定、そしてオウム真理教のような修行で超能力を得る志向の新興宗教に至るという流れをプレゼンしたのだった。会場は懐かしのオカルトネタやアニメネタで大いに盛り上がり、打ち上げで接触してきたうちの一人が市村悠一だった。
その時市村は、自身もオカルト好きということと、オタクが集まる飲み会を主催していることを告げ、次回の飲み会に来ないかと誘ってきた。済は、どちらかというと新興宗教や悪徳商法、凶悪犯罪などのサブカル寄りの話を得意としていたが、社会思想と繋がるアニメ評論が好きなことや、趣味でコスプレをやっていることもあって誘いに乗ったのだった。実際に話すとあまりオカルトに詳しいように思えなかったり、プレゼンでオカルトについては全く信じていないと話していたのにも関わらず、「幽霊を信じていない人がいるんですよ、教えてやってくださいよ。」と言って女性を連れてきたりと若干の違和感はあったものの、オタク飲み会にはそれから度々参加していた。また、市村は飲み会以外にも二人での食事に度々誘ってきていた。しかし、それ程オカルトに詳しくはなく、またエンジニアの割には技術の話に全く着いてこれなかったりと、話があまりにもつまらないのでほぼ断っているのだった。
今度も断ろうとしたその時、済の目に追加のメッセージが飛び込んできた。
「ターリーも来ますよ(^o^)」
ターリーは、オタク飲み会の主催の一人で、元声優という話だった。オタク飲み会は、サスケ、ターリー、市村の三人で運営されており、それぞれに知人を連れてきて会を成り立たせていた。市村は界隈で「イッチー」と呼ばれていた。サスケは済と同じくコスプレイヤーで、以前コスプレイベントの運営会社に務めていたと話していた。サシでの食事に誘われるのはウッチーだけだったが、主催が参加している他のイベントの告知がオタク飲み会の最後に行われることがあった。ある時告知されていた「無仁会」という交流会に行ってみたところ、たまたまターリーも来ており、そこで話が盛り上がったことをよく覚えている。済は元ネット右翼で学生時代に政治活動をしており、鹿児島出身のターリーとは知覧の特攻隊の話で盛り上がった。会社に入ってからはあまり政治や歴史の話をする相手もおらず、ターリーと第二次世界大戦の話でもしてみるかと、平日は時間が空いている旨のメッセージを返信した。市村と調整した結果、金曜日の夜、秋葉原のベローチェで会うことになった。
金曜日の夜、秋葉原駅の中央改札で待っていると、二人とも十分ほど遅れる旨のLINEが来た。時間にルーズだなと思いながら待っていると、ややわざとらしく謝りながら、小柄な市村とがっしりした体格のターリーがやってきた。ターリーは鹿児島出身らしく、西郷隆盛を思わせる顔つきをしている。
「いやー、ワタルさんすみません。ちょっと前の予定が押してしまって。」
「いいですよ。それより秋葉のベローチェには行ったことがないのですが。」
「それなら、僕らはよく使ってますので。案内しますよ。」
中央改札からヨドバシカメラを横切ると、すぐにベローチェがあった。コーヒーは苦手なので紅茶を注文する。済は学生時代、試験勉強のためにカフェイン剤を飲みすぎて胃を壊し、それからは専らカフェでも紅茶だ。二階に上がり、階段そばの丸テーブルを三人で囲む。ターリーの体が大きく、テーブルが小さく見える。市村はまた、わざとらしく申し訳なさそうな口調で話し出す。
「今日は遊び人の済さんにとってはとても大事な金曜夜に呼び出してしまってすみません。」
「構いませんよ。この前のターリーさんの話、面白かったですし。」
アングラ好きが高じた済がクラブやフェチイベントに出入りしているのを市村も知っていたための発言だったが、最初からこれに触れるあたり、口調とは違って全く申し訳なさが感じられない。
済はターリーに話を振り、第二次世界大戦の話をしようと思っていたのだが、話はここから思わぬ方向に向かうこととなった。
「ワタルさんどうですか、最近。」
「随分もやっとした質問ですね。そうですね、前に話してたパワハラ上司が飛ばされたこともあり、仕事はやっと落ち着いてきました。キャリアアップに繋がる勉強の時間もようやく確保できそうです。」
「帰ってから勉強するなんてさすがですねー。何か将来成し遂げたいこととかあるんですか?」
「子供の頃から勉強が趣味のようなものだったので、これと言って大層なことをやりたいかというと、そういうわけでもないですね。好きでもないと、忙しいサラリーマンが平日から勉強を続けるのはなかなか大変だとは思います。」
ここでターリーが突然長々と話し始めた。
「勉強されてるのはなかなか偉いと思いますよ。僕も元々は大企業に勤めてれば安泰と思っていたのですが、勉強するうちにそれは幻想だと分かりまして。これからの時代、ただサラリーマンとして働いているのでは危ないと思うんですよね。何か自分の夢に向かって主体的にお金を稼ぐ人生を送らないと、これから人口が減っていく日本では特に危ないと思います。残念ながら、古い考え方のまま生きている人は生活できなくなるんじゃないかな。大昔に空を飛ぼうとか、宇宙に行こうとか言った人は馬鹿にされてましたが、現実に今可能になっていますよね。そういう、皆をあっとさせるような、ポジティブな夢を実現する力が求められていくと思うんです。僕は今、本を沢山読んだり、起業の師匠を見つけて自己投資したり、ヒューマンビートボックスの大会スタッフをやってみたり、とにかく色々やってるんですよ。特に最近はキソコソ西田サロンに入ってまして、そこで西田さんがする突拍子もないアドバイス、例えば自分の生活を全部ユーチューブで流しちゃえば?みたいなアイディアで稼いでる人が出たりしてて、そういう、新しい考え方をしていくのが大事だと思うんです。ワタルさんもきっと皆に望まれるような夢を持っているはずだと思うので、それを実現するために動くのがいいんじゃないですか。そのためにはまず、夢の実現にいくらかかるのか考えることですね。」
済の頭の中で、地雷が爆発する音がした。
ここから、かつて政治活動系学生だった済の逆襲が始まるのだった。
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