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第二章 マルチ商法の巣窟、新橋
第十話 怪しいパーティー
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タケシにパーティーに行く旨のLINEを返すと、長々としたイベント案内が送られてきた。恐らく定型文なのだろう。いつもの彼のLINEと同じく、古めの顔文字と「☆」が散りばめられ、やや見辛かったが翌週土曜日の一時開始で、男性三千五百円、女性二千五百円という価格設定であることは分かった。
翌週の土曜日、前と同じくタケシに連れられてニューブリッジに行くと、店の前には受付の行列ができていた。三分ほど待ち、受付係の前に立つ。やけにテンションの高い受付係に従ってボールペンを握り、名簿に向かった。
「はーい、それじゃここに紹介者と自分の名前を記入して下さいね!名前はニックネームでいいですよ。皆さん大体ニックネームを書いてます。」
名簿にはタクちゃん、ヤス、モーちゃんといったニックネームが並び、本名の人はほとんどいなかった。
「紹介者?って、タケちゃんでいいんですか?」
「あっ、タケちゃんの紹介なんですね!そうですそうです。はい、男性は三千五百円です☆」
タケシに目をやると、名前を出されて嬉しかったのかニヤニヤしていた。一抹の気持ち悪さと、紹介者システムへの違和感を覚えながら店内に入る。
まずは一通り見て回ることにし、四階まで中を覗きながら上がってみた。厨房が一階と二階、バーカウンターが三階にあり、四階にはテーブルがあるだけだった。このため、四階に居座る場合は下の階から食事と飲み物を取ってくる必要がある。三階と四階はパーティー営業の時のみ開放されるということだった。済はとりあえず酒が飲めれば良いかと思い、まずは三階に陣取った。酒はビールに簡単なカクテル、焼酎と一通り揃っている。店内にはスピーカーが設置されており、時間になると乾杯の合図が流れてきた。
「はい、それでは皆さん一時を過ぎたのでそろそろ乾杯と行きたいと思います!色んな人と話してみて下さいね!それじゃ、乾杯!」
「乾杯ー!!」
誰からともなく乾杯をしてくる。中にはあの街コンで見たことのある顔もいた。確かチバさんという名前だ。済と同じく小柄な男性で、所在なさげにしている。
「あ、もしかしてハロウィン街コンにいませんでした?ほら、女装コスプレしてたワタルです。」
「えっ?あ、メイク落とすとこんな感じなんですね!お久しぶりです。」
「タケちゃんに誘われてきたんですけど、チバさんも同じですか?」
「そうですね、僕も同じ感じです。」
とりあえず見知った顔と会話をしていると、タケシから次々に参加者を紹介される。メガバンクで働いているギンさん、フリーのエンジニアをしているユウさん、何とは教えてもらえなかったが最近起業したというサチさん、顔がエキゾチックなジャスミンさんなど、十人は紹介されただろうか。皆本名は名乗らず、また年収が一千万円を超えているとタケシが自慢げに指摘するのが印象的だった。この店ではこうした形でコミュニティを作り、常連を確保することで売上を安定させているらしい。五杯、六杯とグラスを重ね、ほろ酔いになってきたところでタケシが興奮した様子で、店の奥にいる男性を指差した。
「ほら、あの人がここの共同経営者で俺の師匠のユウスケさん。なかなか話せないから行ってみようよ!」
男性の歳は三十代後半といったところだろうか。ややぽっちゃりしているが肌つやは良い。短髪を固めた髪型で、話したい人が多いのか行列ができていた。タケシが嬉しそうに紹介をする。
「ユウスケさん、こちら最近知り合ったワタルさんです!」
「どうも、始めましてワタルです。」
「ワタルさん、いい大学出てるんですよー。」
「ええ、まあ。」
「へえ、どこなん?」
「一応東西大学です。」
「めっちゃ賢いなあ!俺は西京大学なんやけど、学生の頃は何勉強してたん?」
「学生の頃は生物系ですね、脳の研究をしてました。今はIT系のエンジニアやってるんですけどね。」
「凄いやんか!俺は物理系やったから、まあお互い理系やな。今は飲み屋のオーナーとか色々ビジネスやってて、タケちゃんにも色々教えあげてるんよ。」
男性の名前はユウスケ。大学が関西の西京大学だからか、少し大阪弁の混じった話し方をする。新卒で大手メーカーに入り、八年働いた後に脱サラしてこの店を立ち上げたそうだ。大手企業に勤めながら様々なイベントに出入りし、一見意識高い系に見える済を紹介したくなるのもよく分かった。タケシには、済が起業願望を持っているように見ているのだろう。ところが済にはそんな願望は全くなく、これはその後の論争の原因となる。
「俺も大手企業のエンジニアやってから起業したから、ワタルくんの参考になる話ができるかもしれんな。まあ興味があったらまた声掛けてや。」
「はい、またよろしくお願いします。」
起業願望はないが、話が全く通じないタケシとは違って、ちょっとしたインテリ感はある。話自体は面白いかもしれないなと思いながら済はその場を離れた。酔いもあり、その雰囲気に全く気づかないタケシは
「いやーワタルさん話せて良かったね!ユウスケさんは月収が二百万円を超えてて、最近ベンツ買ったらしいよ。経営者だから時間に余裕もあって、子供の世話もたっぷりできるらしい。俺もあんな風になりたいなー!」
などと言っている。
その日はタケシに言われるまま様々な人と話し、アニメやコスプレ、女装やオウム真理教の話で盛り上がった(オウム真理教の話はウケがイマイチだったが)。
パーティー自体はまずまず楽しいと思いながら、済は新橋を後にした。
翌週の土曜日、前と同じくタケシに連れられてニューブリッジに行くと、店の前には受付の行列ができていた。三分ほど待ち、受付係の前に立つ。やけにテンションの高い受付係に従ってボールペンを握り、名簿に向かった。
「はーい、それじゃここに紹介者と自分の名前を記入して下さいね!名前はニックネームでいいですよ。皆さん大体ニックネームを書いてます。」
名簿にはタクちゃん、ヤス、モーちゃんといったニックネームが並び、本名の人はほとんどいなかった。
「紹介者?って、タケちゃんでいいんですか?」
「あっ、タケちゃんの紹介なんですね!そうですそうです。はい、男性は三千五百円です☆」
タケシに目をやると、名前を出されて嬉しかったのかニヤニヤしていた。一抹の気持ち悪さと、紹介者システムへの違和感を覚えながら店内に入る。
まずは一通り見て回ることにし、四階まで中を覗きながら上がってみた。厨房が一階と二階、バーカウンターが三階にあり、四階にはテーブルがあるだけだった。このため、四階に居座る場合は下の階から食事と飲み物を取ってくる必要がある。三階と四階はパーティー営業の時のみ開放されるということだった。済はとりあえず酒が飲めれば良いかと思い、まずは三階に陣取った。酒はビールに簡単なカクテル、焼酎と一通り揃っている。店内にはスピーカーが設置されており、時間になると乾杯の合図が流れてきた。
「はい、それでは皆さん一時を過ぎたのでそろそろ乾杯と行きたいと思います!色んな人と話してみて下さいね!それじゃ、乾杯!」
「乾杯ー!!」
誰からともなく乾杯をしてくる。中にはあの街コンで見たことのある顔もいた。確かチバさんという名前だ。済と同じく小柄な男性で、所在なさげにしている。
「あ、もしかしてハロウィン街コンにいませんでした?ほら、女装コスプレしてたワタルです。」
「えっ?あ、メイク落とすとこんな感じなんですね!お久しぶりです。」
「タケちゃんに誘われてきたんですけど、チバさんも同じですか?」
「そうですね、僕も同じ感じです。」
とりあえず見知った顔と会話をしていると、タケシから次々に参加者を紹介される。メガバンクで働いているギンさん、フリーのエンジニアをしているユウさん、何とは教えてもらえなかったが最近起業したというサチさん、顔がエキゾチックなジャスミンさんなど、十人は紹介されただろうか。皆本名は名乗らず、また年収が一千万円を超えているとタケシが自慢げに指摘するのが印象的だった。この店ではこうした形でコミュニティを作り、常連を確保することで売上を安定させているらしい。五杯、六杯とグラスを重ね、ほろ酔いになってきたところでタケシが興奮した様子で、店の奥にいる男性を指差した。
「ほら、あの人がここの共同経営者で俺の師匠のユウスケさん。なかなか話せないから行ってみようよ!」
男性の歳は三十代後半といったところだろうか。ややぽっちゃりしているが肌つやは良い。短髪を固めた髪型で、話したい人が多いのか行列ができていた。タケシが嬉しそうに紹介をする。
「ユウスケさん、こちら最近知り合ったワタルさんです!」
「どうも、始めましてワタルです。」
「ワタルさん、いい大学出てるんですよー。」
「ええ、まあ。」
「へえ、どこなん?」
「一応東西大学です。」
「めっちゃ賢いなあ!俺は西京大学なんやけど、学生の頃は何勉強してたん?」
「学生の頃は生物系ですね、脳の研究をしてました。今はIT系のエンジニアやってるんですけどね。」
「凄いやんか!俺は物理系やったから、まあお互い理系やな。今は飲み屋のオーナーとか色々ビジネスやってて、タケちゃんにも色々教えあげてるんよ。」
男性の名前はユウスケ。大学が関西の西京大学だからか、少し大阪弁の混じった話し方をする。新卒で大手メーカーに入り、八年働いた後に脱サラしてこの店を立ち上げたそうだ。大手企業に勤めながら様々なイベントに出入りし、一見意識高い系に見える済を紹介したくなるのもよく分かった。タケシには、済が起業願望を持っているように見ているのだろう。ところが済にはそんな願望は全くなく、これはその後の論争の原因となる。
「俺も大手企業のエンジニアやってから起業したから、ワタルくんの参考になる話ができるかもしれんな。まあ興味があったらまた声掛けてや。」
「はい、またよろしくお願いします。」
起業願望はないが、話が全く通じないタケシとは違って、ちょっとしたインテリ感はある。話自体は面白いかもしれないなと思いながら済はその場を離れた。酔いもあり、その雰囲気に全く気づかないタケシは
「いやーワタルさん話せて良かったね!ユウスケさんは月収が二百万円を超えてて、最近ベンツ買ったらしいよ。経営者だから時間に余裕もあって、子供の世話もたっぷりできるらしい。俺もあんな風になりたいなー!」
などと言っている。
その日はタケシに言われるまま様々な人と話し、アニメやコスプレ、女装やオウム真理教の話で盛り上がった(オウム真理教の話はウケがイマイチだったが)。
パーティー自体はまずまず楽しいと思いながら、済は新橋を後にした。
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